運用型広告において機械学習に基づく機能の導入が当たり前となった今、成果を出すためには自動入札戦略の仕組みの理解と選び方が重要です。
そこで今回は、これからリスティング広告をはじめる方や自動入札戦略の基礎を理解したい方に向けてGoogle広告とYahoo!広告で利用できる「自動入札戦略」の仕組みと選び方、注意点を紹介します。
自動入札戦略とは?
自動入札戦略とは、クリックやコンバージョン、視認性など広告で達成したい目標に対して自動で入札価格を調整する機能です。
たとえば、クリック数を予算内で最大限に多く獲得したいであったり、希望のコンバージョン単価を目標に広告を配信をしたいという目的にあった自動入札戦略が用意されています。
自動入札戦略のメリット
入札には大きく手動入札と今回ご紹介する自動入札とがありますが、自動入札戦略にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
入札調整に費やす時間を削減できる
手動入札はキーワードやオーディエンスリストなど、個別に入札単価の調整ができる一方で、日々の入札調整にそれなりの時間を費やしてしまいます。たとえば、登録キーワードや広告グループ数が多い場合、手動で入札単価を調整しようとすると、やはりそれなりの時間がかかります。
一方、自動入札戦略を活用すれば、入札価格の調整は基本的に自動で行われます。そのため入札価格の調整に費やす時間を大幅に削減できます。
手動ではできない、オークションごとの調整が可能
自動入札は単に人の手による作業の代替というわけではなく、時間の節約のほかにも大きなメリットがあります。
掲載される広告が決定される際には都度オークションが行われます。手動入札では基本的にあらかじめ設定した入札価格でオークションへの参加となりますが、自動入札では目標達成の可能性に応じてオークションごとの入札価格を調整してくれます。
たとえばコンバージョンの見込みが高い場合には予測されるコンバージョン率をもとに、目標とするコンバージョン単価に見合うように入札価格を引き上げる、あるいは見込みが低い場合には入札価格を引き下げるといった調整を、オークションごとに自動で行えます。
これにより、手動では実現できない頻度での入札調整が可能になっており、パフォーマンスの向上を見込めます。
ユーザーのさまざまなシグナルを踏まえて調整できる
さらには、オークションごとの入札調整にはユーザーの「シグナル」が加味されています。シグナルとは、ユーザーが広告に接するときのそれぞれの状況が把握できる情報です。
たとえば、どのデバイスでどの地域からアクセスしているのか、どんな検索キーワードを使って検索しているのか広告主のサイトに過去に来たことはあるのか、などなどさまざまななシグナルを読み取って機械学習がなされ、ユーザーの状況に応じた入札価格が反映できるのです。
Google広告、Yahoo!広告ともに以下が代表的なシグナルとして紹介されています。
- デバイス
- 所在地
- インターネットユーザーの所在地
- 地域への関心
- 地域
- 曜日・時間帯
- ターゲットリスト
- 広告主様が作成したターゲットリスト
- 広告の特性
- ブラウザー
- インターネットユーザーが利用しているブラウザー
- OS
- インターネットユーザーが利用しているOS
- 実際に検索されたキーワード
なお、Googleではさらにキャンペーンのタイプによって、これら以外のシグナルも利用されるケースがあるため、どんなシグナルが利用されているのか、以下の情報も確認してみるのがおすすめです。
参考:「自動入札で使用されるシグナル」スマート自動入札について - Google 広告 ヘルプ
参考:「自動入札で使われるシグナル」自動入札とは - ヘルプ - Yahoo!広告
なお、Google広告ではよく使われるシグナルを広告管理画面から確認が可能ですので、ユーザー動向を把握するのにも役立ちます。
自動入札戦略の気をつけたいポイント
このようにメリットの多い自動入札戦略ですが、必ずしもすべての広告主に取って有効な手段とは限りません。次のような気をつけたいポイントを踏まえて、自動入札戦略の導入を検討することをおすすめします。
利用しないほうが良いケースもある
メリットも多く万能にみえる自動入札戦略ですが、すべてのケースでベストというわけではありません。たとえば次のようなケースでは自動入札ではなく手動入札のほうがパフォーマンスを高められる可能性もあります。
- コンバージョンデータが極端に少ない
- オンラインで完結しない
- コンバージョン獲得状況が短期間で頻繁に変動する
たとえば成果に繫がる検索語句の幅も限られていてキーワードの数も少ないような場合には、常に検索結果の上位に広告を表示させておきたい緊急性の高いビジネス(水道修理など)などでは自動入札の恩恵を受けにくい場合があります。
また、身近な例では社名やサービス名など、こちらも検索語句の幅が限られているにもかかわらず、自動入札により本来広げなくても良い範囲まで入札してしまうことにより、必要以上にCPCが引き上がってしまい、本来必要ではない費用がかかってしまっていることもあります。
本当に自動入札が有効なのかは、導入前でも導入後でも考えておきたいところです。
一定のデータ量や学習期間が必要
機械学習の特性上、学習データが多ければ多いほど広告配信の精度向上に寄与しやすいでしょう。Google広告では、目標コンバージョン単価による自動入札では1か月以上の期間で30回以上のコンバージョンの獲得が推奨されています。
データが多いに越したことはありませんが、データが少ないからといってハナから自動入札戦略の利用を断念する必要もありません。
広告プラットフォーム側でも学習に必要な実績が十分にたまっていないために機械学習による予測が困難となる問題(コールドスタート問題)に対しても対策を講じて、より広く機械学習を活用できるように取り組んでいます。
広告グループにデータが足りなければキャンペーン、キャンペーンに足りなければアカウント全体、それでも少なければ同カテゴリの広告主のデータを参考にと、データ不足を補う仕組みがあります。
参考:機械学習の階層モデルの適用でコールドスタート問題に対処する 〜 広告コンバージョン予測の事例 - Yahoo! JAPAN Tech Blog
学習期間中のパフォーマンスが不安定なことも
また、学習期間中は広くデータを集めようとするため、パフォーマンスが安定しないことも少なくありません。どうしても機械学習には時間がかかるため、1~2週間は様子をみることでパフォーマンスの安定が図られるケースも多いですが、限られた予算ですぐに成果を出すことを期待している場合には、学習期間中であっても目標設定を見直したり、自動入札の導入をいったん取りやめるという手段も考えておくべきでしょう。
パフォーマンスが安定していたり、不安定になってもリカバリーできる範囲でテスト導入するなど、リスクを加味して導入するのがおすすめです。
自動入札戦略の種類
Google広告とYahoo!広告の自動入札戦略は全部で6種類あり、それぞれ最適化する対象や効果が異なります。期待するような効果を得るためには、キャンペーンの目的にあった自動入札戦略を選ぶことが重要です。
広告の目的 | 自動入札戦略 |
---|---|
予算内でコンバージョン数を最大限に増やしたい | コンバージョン数の最大化 |
目標コンバージョン単価の範囲内でコンバージョン数を増やしたい | コンバージョン数の最大化(目標コンバージョン単価の指定あり) |
予算内で費用対効果(ROAS)を最大化したい | コンバージョン値の最大化 |
目標広告費用対効果の達成を目指しながら売上増加を図りたい | コンバージョン値の最大化(目標広告費用対効果の指定あり) |
サイトへの集客数を増やしたい | クリック数の最大化 |
検索結果の任意の場所への表示率をコントロールしたい | 目標インプレッションシェア |
平均クリック単価をコントロールしながら自動入札を行いたい | 拡張クリック単価(eCPC) |
※このほか、Yahoo!検索広告では「ページ最上部掲載」など固有の自動入札も用意されています
なお、コンバージョンデータに基づく自動入札戦略においてはコンバージョン計測ができている必要がありますので、ご注意ください。
ここからは各自動入札戦略の仕組みを紹介していきます。
コンバージョン数の最大化
「コンバージョン数の最大化」は、キャンペーンに設定した予算を最大限使いながら最も低いコンバージョン単価でコンバージョン数を最大限獲得できるように入札単価を調整します。
積極的にコンバージョンの数を伸ばしていきたい場合に向いている自動入札戦略です。
コンバージョン数の最大化(目標コンバージョン単価の指定あり)
「コンバージョン数の最大化」で目標コンバージョン単価を設定すると、平均コンバージョン単価が目標コンバージョン単価内になるようにしながら、コンバージョン数を最大限獲得できるように入札単価を調整します。
コンバージョン値の最大化
「コンバージョン値の最大化」はキャンペーンに設定した予算をなるべく使いながら、売上(コンバージョン値)を最大化していくように調整する入札戦略です。
たとえば、同じ広告費で獲得できるのであれば、コンバージョン値が大きいほうがコンバージョン値が最大化できますよね。
多品目通販など、最適化対象のコンバージョンの価値がそれぞれ異なる場合に活用できます。
コンバージョン値の最大化(目標広告費用対効果の指定あり)
売上は伸ばしたいけれど、目標とする費用対効果(ROAS)は達成したいという場合に向いている自動入札戦略です。
ROASを用いた広告運用はECでよく見られますが、EC以外でも活用できますので、ぜひ以下の記事も確認してみてくださいね。
クリック数の最大化
設定した予算内でクリック数を最大化できるように自動で入札単価が調整されます。集客数自体が目標となっている場合やオンライン上にコンバージョンポイントが設けられていない場合など、サイトへのアクセス数を増やしたい場合に有効です。
上限クリック単価の設定もできる
とはいえ、クリック単価が高くなりすぎると困るという場合には、任意で上限クリック単価を設定できます。
ただし、設定した上限クリック単価が低すぎると表示が抑制されて、費用が1日の予算を下回る可能性があるため注意が必要です。
参考:「クリック数の最大化」入札戦略について - Google 広告 ヘルプ
目標インプレッション シェア
検索結果ページの最上位や上部、任意の位置に広告が表示されるように、自動で入札単価が設定されます。
たとえば、検索結果ページの最上位でインプレッションシェアを80%に設定した場合、検索結果ページの最上位に表示される可能性が100回あったら80回の広告表示を目指します。
まずは検索結果での表示機会を増やしたいという場合に有効です。また、たとえば水漏れ修理などの緊急性が高いサービスやブランドや会社名など、検索結果の最上部あるいは上部に広告を常に表示させておきたい場合にも活用できます。
拡張クリック単価(eCPC)
拡張クリック単価はクリック単価の上限価格を手動で設定する「個別クリック単価」のオプション機能です。拡張クリック単価を利用することで、コンバージョン達成の見込みに応じて手動で設定した入札単価を自動的に調整できます。ある程度、入札単価をコントールしながら自動入札の恩恵を受けたい場合に向いています。
一方で、目標コンバージョン単価や目標広告費用対効果などのコンバージョンに基づく自動入札(「スマート自動入札」と呼ばれています)に比べると、コンテキスト(オークションにおけるシグナルから分かるユーザーの状況)が適用される範囲は限定的となる点は注意です。
このように同じ自動入札といえども、さまざまな違いがあるため目的に応じた使い分けが大切です。
自動入札戦略の設定方法
ここでは簡単にGoogle広告とYahoo!広告での自動入札戦略の設定方法をご紹介します。
Google広告
キャンペーンの「設定」より「単価設定」を選択して、対象となる入札戦略を選択します。
「重視している要素」をコンバージョンやクリックなどから選択し、目標とする数値があれば、オプションとして入力します。
Yahoo!広告
「キャンペーン設定」を選択して「編集」ボタンをクリックします。
あとはGoogleと同様に重視する指標を選択して、必要に応じて目標とする数値を入力して完了です。
なお、Google広告とYahoo!広告ともにポートフォリオ入札戦略という、複数のキャンペーンをまたいで同じ入札戦略を適用する方法もありますので、詳しくは以下の記事もチェックしてみてください。
自動入札戦略を使う際に注意したいこと
多くのメリットがある自動入札戦略ですが、利用にあたっていくつか注意したいことがあります。
コンバージョントラッキングを設定しよう
コンバージョンをもとにした自動入札戦略を使用する場合は、あらかじめコンバージョントラッキングの設定を行っている必要があります。
- コンバージョン数の最大化:コンバージョン数
- コンバージョン数の最大化(目標コンバージョン単価の指定あり):コンバージョン数
- コンバージョン値の最大化:コンバージョン値
- コンバージョン値の最大化(目標広告費用対効果の指定あり):コンバージョン数(※)、コンバージョン値
※新しいディスプレイ キャンペーンでは、過去のコンバージョン数の実績は必須ではありません。
なお、コンバージョンデータは次のような活用ができます。
- 成果につながった広告やキーワード、ターゲティングを把握できるコンバージョンにつながった広告から、商材やサービスの強みやターゲットとなる顧客の年齢などのデモグラフィック情報を知ることができます。
- 広告費用対効果が把握できるコンバージョン値の取得をしておくと広告費用対効果を算出できるため、広告費に対して見合った成果をあげているか否かを確認できます。
- 次の戦略に活かすコンバージョンデータはアカウント内に蓄積されます。自動入札戦略の実施を検討する際に参考データとして活用できます。
予算の設定に注意
目標値を設定しない「コンバージョン数の最大化」や「コンバージョン値の最大化」は、予算を最大限使いながらコンバージョン数やコンバージョン値の最大化を図ります。そのため、入札戦略を「コンバージョン数の最大化」や「コンバージョン値の最大化」に切り替える前の広告費が1日の予算を大幅に下回っていた場合は、変更後に広告費が大幅に増える可能性があります。
入札戦略を「コンバージョン数の最大化」や「コンバージョン値の最大化」に切り替える際は、配信前に予算を見直すことをおすすめします。
なるべく推奨値に近い目標値を設定する
目標値を設定する「コンバージョン数の最大化」や「コンバージョン値の最大化」は、設定した目標コンバージョン単価が低過ぎたり、目標広告投資対効果が高すぎたりすると、配信が抑制されてコンバージョン数やコンバージョン値が減少する可能性があります。成果を得るためには、推奨値に近い目標値を設定することをおすすめします。
推奨値は、過去にキャンペーンの配信実績があってコンバージョンデータがある場合、キャンペーンの設定画面の[単価設定]から確認できます。
また、推奨値が許容値を超える場合は、無理に推奨値に合わせる必要はありません。獲得単価や投資収益率に見合った配信先に絞るなど、他にできることを検討することも大切です。
利用できる入札単価調整は限られる
自動入札戦略はリアルタイムのデータに基づいて入札単価が調整されるため、入札単価調整が加味されないケースがあります。なぜなら、自動入札戦略は、入札単価調整に使用されるシグナルを含む、ユーザーの検索履歴・利用デバイス・所在地などさまざまな情報を加味した上で、自動で入札単価を調整する仕組みだからです。
適用可能な入札単価調整は、自動入札戦略によって違います。表にまとめましたので、ご活用ください。
Google広告の場合
入札戦略 | 端末 | 地域 | スケジュール | 上位のコンテンツ | ターゲティング方法 | RLSA | ユーザー属性 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
目標コンバージョン単価 |
単価調整× 目標CPA調整〇 |
不可 |
不可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
目標費用対効果 |
-100% のみ可 |
不可 |
不可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
クリック数の最大化 |
可 |
可 |
可 |
可 |
不可 |
可 |
可 |
コンバージョン数の最大化 |
-100%のみ可 |
不可 |
不可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
目標掲載位置 |
可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
可 |
可 |
目標優位表示シェア |
可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
可 |
可 |
拡張CPC |
可 |
可 |
可 |
可 |
不可 |
可 |
可 |
目標インプレッションシェア |
-100%のみ可 |
不可 |
不可 |
不可 |
不可 |
不可 |
不可 |
Yahoo!広告の場合
入札戦略 | 端末 | 地域 | スケジュール | ターゲットリスト |
---|---|---|---|---|
クリック数の最大化 |
可 |
可 |
可 |
可 |
ページ最上部掲載(検索のみ) |
-100%のみ可 |
不可 |
不可 |
不可 |
目標コンバージョン単価 |
単価調整× 目標CPA調整〇 |
不可 |
不可 |
不可 |
目標費用対効果 |
-100%のみ可 |
不可 |
不可 |
不可 |
コンバージョン価値の最大化 |
-100%のみ可 |
不可 |
不可 |
不可 |
突発的なコンバージョン率の変化に注意する
目標コンバージョン単価や目標広告費用対効果は、過去のコンバージョン率の傾向を学習して算出した推定コンバージョン率にもとづいて入札がなされます。
そのため急激なコンバージョン率の変化があった場合、コンバージョン率が上がった、下がったと学習し直されて調整されるまでにはタイムラグが生じ、コンバージョン単価の上昇や配信機会の損失など一時的にパフォーマンスが乱れてしまうケースも少なくありません。
そんなときに活用したいのが次の2つの機能です。
- 季節性の調整
- データ除外
「季節性の調整」は、7日以内の短いイベントで見込まれるコンバージョン率の変化で利用したい機能です。 たとえば、セール期間中はコンバージョン率が50%引き上がることを設定すると、セール期間中はコンバージョン率が50%引き上がることを踏まえて目標に応じた入札価格の調整が行われます。
「季節性の調整」について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
「データ除外」機能は、サイト改修などによるコンバージョン計測の不具合で、一時的に正確なコンバージョンデータが取得できない期間が発生した場合に使用したい機能です。コンバージョン計測の不具合があった期間のデータを自動入札では利用しないように除外設定ができます。
「データ除外」機能については、こちらの記事を参考にしてください。
まとめ
いまや広告運用において自動入札の活用は欠かせない機能のひとつですよね。
ただし、自動入札は、データから得られる特定のパターンや特徴による予測は得意ですが、予期せぬ突発的で大きな変化にはいまのところ完全には対応しきれません。機械学習ではカバーしきれない部分を人の手で補完していく必要もあります。
以下の記事では自動化における広告運用者の果たすべき役割についてまとめています。
自動入札が上手く動くように導くのは広告運用者の役割です。各自動入札戦略の仕組みをしっかり理解して、キャンペーンの目的にあった自動入札戦略を選んだうえで、自動入札戦略のメリットを最大限に活かした運用を目指していきたいですね。