入札調整であれ、ターゲティングであれ、自動化と機械学習は運用型広告においてとても身近なテーマだと言えます。一方、かつて手動で行わなければならなかった多くのタスクの効率化に貢献できた自動化が普及した状況について、一つの疑問が浮かんでいます。結局、みんなが同じ技術を使っていたら、競合とどうやって差をつけることができるのか、と。
オンラインマーケティングの最適化サービスOptmyzrの創業者であり、Googleの最初の500人の従業員の一人でもあるFrederick Vallaeys氏は、新著『Unleveling the playing field』(訳:公平な競争条件下でも差を付ける方法)の中で、この問題について答えを提供しようとしています。
今回はこの中で一つの焦点となるトピックの「自動化のレイヤリング」について詳しく見ていきたいと思います。
参考: Unlevel the Playing Field: Frederick Vallaeys - Author Hour
自動化のレイヤリングとは?
自動化のレイヤリングは、2019年に出版された前著『Digital Marketing in an AI World: Futureproofing Your PPC Agency』で、Vallaeys氏が初めて普及させたコンセプトです。
参考:Automation layering: How PPC pros retain control when automation takes over
同氏は、自動化されたプロセス(Google 広告のスマート自動入札など)は一般的になりつつありますが、それだけではビジネスモデルに適合しないと指摘しています。そのためにはスクリプトやマクロ、サードパーティのツールなど、もう一段階の自動化(レイヤリング)を加えることで、広告運用者が再度コントロールできる要素が増えるだけでなく、広告プラットフォームの自動化されたシステムが、ビジネスの目標に合わせてより正確に機能するための情報を与えることが可能になります。
例えば、商品グループを自動的にマージン別に分類し、異なるROAS目標に合わせて入札を行ったり、またリードの成約率をCRMからインポートすることで、本当に増やしたいリードについてより正確にシステムに学習させたりすることができます。
上記のような、人と自動化の相互作用を伴うプロセスこそが、競合他社との差別化の鍵となる、とVallaeys氏は述べています。
自動化レイヤリングのメリット
スマート自動入札のような広告プラットフォーム内の自動化は、すでに広告運用者の負担を軽減するポテンシャルがあります。しかしながら、もしこれが唯一の自動化の手段であれば、担当している業種にとって最良のデータをシステムが常に持っているとは限りません。したがって、競合に差をつけたいのであれば手作業で頻繁に多くの修正をしなければならないでしょう。
そのため、スマート入札などの効果を最大化するために、さらなる自動化を追加することをVallaeys氏は推奨しています。しかも、複雑な自動化である必要はなく、個々の状況に合わせたシンプルなスクリプトだけでも大きな効果が発揮できることが多いようです。
ここまで自動化してしまうと、人間が重要な役割を果たさなくなることを懸念する広告運用者もいるかと思いますが、逆にこの自動化があってこそ創造性、戦略的思考、コミュニケーションなどの人間の得意分野を存分に発揮すると述べています。
Vallaeys氏はこの相互作用を次の式で表しています。
これはまた、広告運用者の「アカウントのあらゆる領域を手動で管理する」従来のイメージとは異なる役割に今後シフトしていく時代になる、と示唆しています。
広告運用者の4つの役割
Vallaeys氏は、自動化の時代に成功し続けるために、広告運用者の今後果たさなければならない4つの役割について述べています。これらの役割はどれも「自動化のレイヤリング」ありきのイメージがはっきりとしています。
※2019年に同氏がすでに定義した3つの役割
1. 教師
簡単に言えば、どのデータがビジネスにとって重要で、どのデータがそうでないかを自動化に「教える」役割です。例えば、SaaSの集客の場合、CRMデータのインポートをリード質の向上に利用し、その結果、ビジネスとの関連性が高いユーザーに注力するようにスマート自動入札を学習させることができます。
2. 医師
システムのどこが問題なのかを「診断」し、言葉にして伝える役割で、特にプラットフォームがブラックボックス化しつつある現在においては、非常に重要です。広告管理画面のデータに追加のコンテキストを与える自動化されたレポートは、この役割における自動化レイヤリングの応用例の一つになりそうです。
3. パイロット
飛行機のパイロットが複数の操作を「オートパイロット」に任せているのと同じように、広告実績をつねにモニタリングし、必要なときだけ介入するイメージです。数字の異常が何を意味するか区別することは人間が得意なので、例えば、自動化された監視スクリプトを走らせ、見やすいダッシュボードを作っていく活用方法があります。
4. 戦略家
広告訴求やテストシナリオの作成など、広告運用者の「クリエイティブ」な部分を担当します。この役割は、自動化のレイヤリングによって初めてクリエイティブや戦略的活動に割けるリソースが増えてその可能性を最大限に発揮できる、とも言えます。
進化し続ける自動化とともに
Vallaeys氏は新著の冒頭で、コンピュータチップのトランジスタ数が2年ごとに2倍になり、それに伴って計算能力も2倍になっていく「ムーアの法則」を述べていました。
このことは、自動化やAIを利用するプロダクトに当てはめてみると、昨日の自動化は、今日の(あるいは明日の)自動化とは大きく異なるものであることが想像しやすいかと思います。つまり、数年前にスマート自動入札を試してみたけどうまくいかなかったきり、再調整していなかった広告運用者も、将来的に自動化と再び向き合う価値が大いにありそうです。
また、仮に広告プラットフォーム内の自動化のパフォーマンスが良くない場合においても、敢えて「手動作業」という従来のアンチテーゼに走らず、「自動化を更なる自動化で正す」考え方こそが、今後の広告運用の重要なパラダイムシフトかもしれません。