
スマートデバイスの普及や通信速度の高速化などに伴いいつでもどこでもすぐに動画を見ることができるようになりましたが、とくに最近ではスマートフォンで縦型動画を見る機会が増えていますよね。
筆者はInstagramのリールで気になったファッションブランドの服の質感や着た時の形をチェックしたり、バーティカルシアターアプリ(縦型のショート映像作品が観れるアプリ)で好きな俳優さんの作品を楽しむなど、自分の興味をそそる縦型動画コンテンツが増えたことで、視聴する機会が増えました。
以前からTikTokやInstagramのストーリーズで広告を見かける機会は多かったと思いますが、横型動画が主流だったYouTube広告でも2018年に縦型の動画広告を発表するなど、スマートフォン向けの動画広告においても、縦型動画の存在感は強まっています。
一方で「縦型動画広告ってやったほうがいいの?」「どの広告媒体で縦型動画が使えるの?」という声も増えてきています。
今回は、そんな縦型動画広告の特徴やメリット、活用するときに意識すべきポイントを紹介していきます。


目次
縦型動画広告とは?
縦型動画広告とは、スマートフォンの向きを変えずにフルスクリーンで再生できる動画広告のことです。横型動画は、フルスクリーンで見るにはスマートフォンの向きを変える必要があったり、縦のまま見ようとすると画面が小さく細部が見れないというデメリットがありました。しかし、縦型動画はそういった横型動画のデメリットを払拭することができます。
縦型動画広告のメリット
ユーザーにとって視聴がしやすいこと以外に、広告主にとっても縦型動画を広告で活用するメリットは大きく3つあります。
専有面積が多くて視認性が高い
縦型動画を視聴しているときに、横型の動画広告が流れると、小さく見づらいこともあり十分に視聴されない可能性が高まります。
一方、縦型動画はスマートフォンの画面いっぱいに表示が可能なので、テキストや元の動画の細部などが見やすく、伝えたいメッセージや商品の魅力をより明確に認識させることができます。
視聴率・完全視聴率が高まる
視認性の高い縦型動画で広告が流れることにより、視界に入ったときのインパクトが大きく没入感も高まり、動画を最後まで視聴してもらえることも期待できます。
実際、縦型動画広告を採用している広告媒体では、次のように視聴率に対してプラスの効果が出ています。
動画の投稿・視聴に縦型のフォーマットを採用しているSnapchatでは、タテ型の動画広告は従来の横長の動画に対して約9倍も完全視聴率がアップしたという調査結果が出ています。
また、TikTokインフィード広告では、横型動画と同じ横型動画から縦型に切り出した縦型動画とを比較した結果、6秒視聴率が391%になった事例も紹介されています。
縦型のメディアではリーチの伸びも期待できる
運用型広告では基本的に同じ入札価格であれば、視聴やクリックなどのエンゲージメント率が高い広告のほうが広告の品質が高く評価される傾向があります。つまりユーザーの反応が良い広告クリエイティブのほうがリーチ数が伸びやすい傾向となっています。
そのため、TikTokのように縦型を前提とするメディアでは、横型やスクエア型よりも縦型動画の広告の方が多くのユーザーにリーチすることが期待できます。これまで横型広告のみを実施していた広告主であれば、併用することでさらにリーチを伸ばせる可能性もあるでしょう。
縦型動画が活用できる主な運用型広告の媒体
縦型動画が利用できる広告媒体ってそんなにあるの?という方もいらっしゃるかもしれませんが、現在では多くの運用型広告の媒体で縦型動画を広告クリエイティブに利用できるようになっています。
ここでは縦型動画が活用できる主な広告媒体を紹介していきましょう。
TikTok広告
縦型のショート動画といえば、TikTokを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
TikTokはBGM付きの短尺動画の作成、投稿ができるアプリです。日本の2018年第四半期のMAU(月間アクティブユーザー)は950万人を突破するなど、近年ユーザー数が拡大しています。
投稿のほとんどは縦型動画のため、縦型以外のサイズも入稿はできるものの、クリエイティブの内容や運用方法以外の要因でパフォーマンスを落とさないようにするには、縦型動画の準備が必要になります。
Instagram広告
Instagramは、写真や動画など視覚的に楽しむコンテンツが投稿されているSNSです。
短尺の動画や静止画をシェアできるInstagramのストーリーズは、24時間経つと自動で投稿が消えるので、その手軽さから一度は投稿したことがある方も多いのではないでしょうか。
Instagram広告では、フィード、発見タブ、ストーリーズ、リールで縦型動画を利用できます。ストーリーズ、リールでは9:16のフルスクリーンの縦型動画、フィード、発見タブでは4:5の縦型動画を入稿できます。
YouTube広告
YouTubeは、オンライン上で動画を共有できるプラットフォームです。
作業用BGMからゲーム実況、筋トレのフォーム、投資の情報など、日頃からジャンルを問わず多様なコンテンツを視聴している方も多いと思います。
通常の横型動画のほかに、YouTube ショートという最大60秒までの縦型の動画を投稿・閲覧できるサービスが2021年から日本でも始まり、縦型動画の投稿が増えています。
YouTube広告では、「スキップ可能なインストリーム広告」「スキップ不可のインストリーム広告」「アウトストリーム広告」「バンパー広告」で縦型動画が利用可能で、通常の動画再生の前後、途中とYouTubeショート面に広告が配信されます。
YouTube アプリの動画プレーヤーは自動的に動画のサイズに合わせて調整され、モバイル端末の場合は、縦型動画は横型動画やスクエア動画よりも大きく表示されます。
縦型動画を活用するときに意識するべきポイント
上記で縦型動画のメリットを説明しましたが、ただ動画を縦型にするだけでは縦型動画のメリットを十分に発揮することができません。縦型動画を活用するときは以下のような点を抑える必要があります。
他のサイズと比較した時の制作の優先順位を考える
TikTokのように縦型動画が主体となっている媒体では、縦型動画を準備する優先度は高いといえます。しかし、Instagramのフィードなど縦型動画でなくてもユーザー体験を大きく損ねない配信面へ配信する場合は、既にある横型やスクエアサイズの動画で配信し、成果が良かった動画のみ縦型化を検討するなど、出稿状況に合わせた優先順位で制作を進めましょう。
また、入稿するクリエイティブのサイズのバリエーションにも注意が必要です。例えばYouTube広告で長い尺の動画を見ているユーザーはスマートフォンを横に持って広告を視聴することが多いと考えられますが、縦型動画しか入稿していなかった場合、横型動画よりもパフォーマンスが落ちてしまう可能性があります。
ゼロから制作が難しい場合は横型動画のリサイズを検討する
縦型動画をゼロから作るコストや時間が掛けられない場合は、横型動画のリサイズを検討しましょう。TikTok For Businessが紹介しているテクニックのように、上下のスペースをうまく活用することが重要になります。
TikTok For Businessの調査によると、縦型に切り出した動画がもっとも6秒視聴率、エンゲージメント率が高いという結果が出ています。おそらく縦型動画特有の没入感によって視聴が促進され、メッセージをしっかり伝えきれたことが要因かと思います。
最も効果的な横型から縦型への編集パターンは「縦型に切り出し」、次に効果的な編集パターンは「横型(上下に別素材)」、最後に「横型の段積み」となっています。
ただサイズを変えるだけでなく、縦型動画のメリットを活用することを意識して編集しましょう。
配信面の特徴に合わせた内容にする
縦型動画に限りませんが、配信面ごとにユーザーが求めている長さや内容は異なるため、実際の投稿と同様に配信面にあったクリエイティブにすることは非常に重要です。
特徴的な例として、媒体ごとの推奨内容とそれを踏まえた効果的なクリエイティブのポイントを紹介します。
TikTok
TikTokでは、商品の効果を実感できるような映像を撮る、人物がカメラに向かってストーリーを話す、コメントやヒントの共有を促すことなどを推奨しています。
最近のTikTokはダンスだけではなく、ライフハックや雑学、メイクの知識などを顔を出しながらテンポよく視聴者に語りかける形式の動画が増えており需要も高まっています。
そのため、クリエイティブでも、冒頭では得られるメリットを伝えたり、悩みに共感するような訴求で注意を引き、あまり堅くないシンプルな言葉で商材の魅力を語るように伝えるのがポイントです。
TikTok For Businessでも、UGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)のようなオーガニック投稿に即したテキストがある動画は、テキストが入っていなかったり、デフォルトではないフォントを使っている動画(文字が動くなど)に比べて、CVRが約141%、6秒視聴率が約129%になったという調査結果を発表しており、TikTokのフィードに合ったクリエイティブを作ることの重要性を強調しています。
画像引用元:TikTok運用型広告で効果的なクリエイター活用方法を公開
以下の事例では、人気のインフルエンサーが語りかけるような形式のクリエイティブが紹介されています。
Instagramでは、速いテンポで利用者の注意をそらさない、動画は短く、製品やブランドに関するメッセージは、動画の冒頭に取り入れるなどを推奨しています。
Instagramを閲覧するユーザーは動画コンテンツのみを目的にしているわけではないため、音声がない状態でも内容が伝わるようにしたり、実際の投稿のように冒頭から商品やサービスをテンポよく紹介して、短い時間で興味を持ってもらえるようにすることがポイントです。
参考:
Best Practices for Mobile Video Ads | Facebook Business Help Center
Creative Best Practices For Stories | Facebook Business Help Center
以下の事例では、商品にフォーカスしたテンポのよい短尺動画が活用されています。
YouTube
YouTubeでは、「ABCDフレームワーク」という効果的な広告クリエイティブに求められる要素が含まれているか分析するためのフレームワークがあります。
利用しているユーザー層や投稿されている動画の内容が多様なため、長尺の動画と相性が良く伝えられる情報量が多いです。また、上記のプラットフォームとは違い、動画広告は最低5秒間は視聴されるため、視聴のモチベーションと集中力をどのように向上・維持しながら、伝えたい情報を伝えるか?が重要になります。
要素や構成以外では、YouTubeの動画の95% は、音声をオンにした状態で再生されているため、BGMやナレーションの必要性が高いのも特徴です。
以下の事例では、冒頭でユーザーの自分事化を促したり、視聴者に問いかけをすることで視聴のモチベーションを維持、ナレーションやBGMで聴覚にも訴えるような内容になっています。
より多くのユーザーに効果的にアプローチするためには、各媒体のオーガニック投稿やベストプラクティスを参考にしながら企画・制作するのが大切です。
表示のされ方やセーフゾーンを確認する
縦型動画は従来の横型動画とは表示のされ方が異なるため、制作する前にセーフゾーン(視聴者の画面上に確実に表示される領域)を確認し、重要なメッセージが隠れないようにしましょう。また、配信前には念のために各媒体のプレビュー機能を使って表示のされ方を確認しておくとベターです。
TikTok
TikTok広告では、右にプロフィール画像とリアクションアイコン、下に表示名やテキスト、CTAなどが表示されます。
テキストの長さによってセーフゾーンの幅が変わるため、テキストが4段でも重要な要素が被らないように調整しましょう。
Instagram広告では、ストーリーズとリールに縦型動画を配信する場合、プロフィールアイコンやCTA(Call To Action)、テキスト、リアクションアイコンなどが動画に被さって表示されます。
ストーリーズ広告では、動画の上下約14% (250ピクセル)の範囲には重要なクリエイティブ要素を入れないことが推奨されています。
画像引用元:配置にInstagramリールを、広告の目的にブランドの認知度アップを使用した場合の、Facebook動画広告の仕様 | Facebook広告ガイド (アナグラムで一部加工)
YouTube
YouTube広告では、縦型動画は、ユーザーが全画面モードで視聴していない場合、インプレッション時に動画の一部がトリミングされます。
そのため、縦型の動画を使用する場合は広告文やキャプション(字幕)などの重要なテキストを動画の上部10%と下部25%に表示しないことが推奨されています。
状況に合わせて縦型動画を活用しよう
スマートフォンを使うユーザーが増えてきたことを踏まえると、従来の横型・スクエア型の広告よりも縦型動画の方が没入感があり、スマートフォンを横に向ける手間が省けるためより高い視聴率やエンゲージメント率が見込めます。
ただし、他のクリエイティブと同様に、ユーザーや配信面ごとのモチベーションに合わせた内容でなければ、縦型動画のポテンシャルを十分に発揮することはできません。
縦型動画はあくまで見せ方の一つなので、目標に適した動画内容になっているかが最も重要です。TikTok広告を出稿するなど縦型である必要性が高い場合以外は、すぐに制作する必要はありません。
まずは主要な媒体で活用できるスクエア動画から制作したり、横型化を検討している既存の横型動画を使って配信するなど、最小限のリソースで内容の効果検証を優先しましょう。そして、現状の予算や目標、配信媒体、リソースを踏まえて、縦型動画が必要かどうか十分に検討してから活用しましょう。
