ゲームのルールを知ることが大事だ。そしてルールを学んだあとは、誰よりも上手にプレイするだけだ。
アルバート・アインシュタイン
あらゆるゲームは、ルールを知らなければ勝てません。それは広告運用でも同じです。(広告運用がゲームだという意味ではありません、あくまで比喩です)
広告運用におけるルールはたくさんありますが、その中でも重要かつ根本を司るものの一つに、「広告オークション」があります。
私たちが普段運用しているYahoo!、Google、Facebookなどプラットフォームでは、広告の配信にオークションの仕組みが採用されています。オークションの結果として、広告が出たり出なかったり、順位が決まったり、価格が決まったりします。
オークション結果で表示回数や費用が決まるのであれば、そのルールを理解することが実績の改善につながるはずです。私たちの費用はプラットフォームにとっての売上なので、言い換えれば、プラットフォームがどのように利益を出しているのかを理解できれば、それは運用型広告のルールの理解、ひいては広告運用自体の理解につながるのではないかと考えています。
以前「媒体理解ってなんだろう」というブログを書いた際には、あまり深く掘り下げることができなかった「媒体の立場になって考える」ということを今回改めて深掘りたいと思います。
目次
RPMからはじめよう
いきなり「媒体の立場になって考えよう」と言われても多くの人が「何から考えれば良いのだろう?」と思うことでしょう。そこで、大事な指標が「RPM」です。
RPMとは「Revenue per Mill」の略で、「1,000ページインプレッションあたりの売上」を意味します。普段、広告を運用する側にいる人にとってはCPM「Cost Per Mille」(広告が1,000回表示されるごとに発生する費用)と言われた方がわかりやすいかもしれません。
RPMとCPM、言葉としては広告枠を「売る」側(Revenue)と「買う」側(Cost)の違いでしかないのですが、対象を変えることで見える景色は変わります。
次章から順を追って、RPMの理解を一緒に深めていきましょう。
RPMを因数分解してみよう
Google AdSenseのヘルプに、RPMについて以下のような記載があります。
見積もり収益額をページビュー数、表示回数、またはクエリ数で割り、1,000 を掛けた値です。
インプレッション収益(RPM) - Google AdSense ヘルプ
収益額を(広告の)表示回数で割っているので、これは1インプレッションあたりの見積もり収益額を算出しています。インプレッション単価が通貨の最低単位(日本であれば1円)に常にぴったり収まることは考えにくいので、1,000倍することで現実のビジネスとして取引できる状態にまで単位を引き上げています。
インプレッション収益を1,000倍したRPMは、下記の図のように因数分解することで、どの要素が組み合わさって構成されたものなのかを明らかにできます。
検索広告のRPMを因数分解しよう
まずは検索(検索連動型広告)の場合です。
上記の図は、unyoo.jp掲載の「 RPM、そのビジネスの中心 」にある有園 雄一氏の図を元に作成しました。
Revenue/Clicks
「Revenue(収益)」を「Clicks(クリック数)」で割っているので、意味的には「クリックあたりの収益」になります。収益というとピンとこないかもしれませんが、プラットフォーム側の収益は広告主側では「Cost(費用)」ですので、クリックあたりの費用、つまりCPC(クリック単価)になります。
Queries with Ads/Queries
検索エンジン全体のQueries(検索クエリ数)を分母に、実際に広告が表示されたクエリ数(Queries with Ads)を分子にします。この割合をCoverage(カバレッジ)と言い、検索結果にどのくらい広告が表示されているかの指標になります。プラットフォーム側はなるべく多くの検索結果ページに広告を表示したほうが売上機会が増やせますね。
Ads/Queries with Ads
Depth(デプス)は、Ads(実際に掲載された広告の表示回数)をQueries with Ads(広告のある検索結果ページ表示回数)で割った数です。つまり検索結果ページあたりの広告の平均本数を指します。Depthが多い(1ページあたりの広告本数が多い)方が、広告をクリックしてもらう機会が増えることになります。
Clicks/Ads
Clicks(クリック数)をAds(広告の表示回数)で割った数なので、つまりCTR(クリック率)を指します。なお、ここでのCTRは、広告主側で使っている指標とは異なり、検索結果に表示されたすべての広告主の広告に対してクリックされた割合を示しています。検索結果に掲載されている広告がクリックされる割合が高まれば売上は増加しますね。
ディスプレイ広告のRPMを因数分解しよう
上記は、検索連動型広告の場合ですが、ディスプレイ広告の場合も同様です。
ディスプレイ広告の場合、広告が掲載される箇所が検索結果ではなく、Queries(検索クエリ)だった要素がPV(ページビュー)に置き換えられます。(アプリなどは厳密にはページビューではありませんが、便宜上このように表記します)
広告が表示される場所の性質が違うだけで、基本的な要素は検索連動型広告と同一です。
まとめると、媒体側は下記3つの要素を高めることで媒体収益の最大化を図っていることがわかります。
- Price(クリック単価)
- Quantity(広告の配信量)
- Quality(広告の質)
RPMを最大化するために
因数分解を経た結果、RPMは「Price(クリック単価)」「Quantity(広告の配信量)」「Quality(広告の質)」の3つの要素で構成されていることがわかりました。
この章では、3つの要素をもとに、プラットフォームがRPMを最大化させる際にどのような手段を採ることがあるのか、どういうやり方だと健全に伸びて、どういうやり方だとうまくいかないのかを探っていきたいと思います。
まずは各要素におけるNG項目の例から考えていきましょう。
クリック単価だけが引き上げられている状況
RPMを手っ取り早く引き上げるにはPrice(クリック単価)を引き上げればいいはずです。クリック課金のプラットフォームの場合、最低入札単価を引き上げれば自動的にクリック単価の平均は上がります。
一方で、それは広告主にとっては費用対効果が悪化する直接の要因になります。費用対効果が合わなければオークションに参加できる広告主は減ってしまうので、広告が出る業種やジャンルなどは偏るかもしれませんし、オークションそのものが活発化しないため、結果的に全体のクリック単価は停滞してしまう危険性すらあります。
Depthだけが引き上げられている状態
単価が急に上げられないのであれば量を増やせばいいので、1ページあたりの広告本数(Depth)を増やすのがてっとり早いですね。
でも、ちょっと待って。閲覧したページが上から下まで広告で埋め尽くされていると想像してみてください。本来探している情報が広告に邪魔されて見つけられないページは良いユーザー体験とは言えません。この結果、いくら広告を掲載しても、広告自体のクリック率が下がってしまう(広告が邪魔と思われ、スルーされてしまう)のは、RPMの最大化にはつながりにくいです。加えて、広告を配信している媒体(記事やアプリ)のイメージまでも下げかねません。
CTRを強引に引き上げている状況
クリック率は、ユーザーが広告をクリックした結果なので、広告に興味を持った(≒広告に関連性がある)という指標になりえます。クリック課金型の広告ではクリックすれば収益が上がり(つまりRPMが上がり)ますので、つまり関連性を高めてクリック率を引き上げればいいわけです。
一方で、どんな方法でもいいから「クリック率を高めればいい」と判断してしまえば、アプリのボタン付近に広告を設置して間違いクリックを誘発したり、メニューに偽装するようなUIで広告をクリエイティブを設置するなど、短期的にはCTRは上げることができます。
しかし、これも品質担保とは真逆の方法で、広告の体験価値を損ねるため、中長期的にRPM最大化は難しくなってきます。そもそも間違いクリックでは広告主の費用対効果を満たすことができないため、そういった広告が利用される機会は減っていってしまうでしょう。
RPMを最大化するためには?
ここまで、NG項目の例を基に説明してきましたが、逆の場合でも考えてみます。例えば、クリック率の高い広告があったとします。クリック率が高いにもかかわらず、CPC(クリック単価)、Depth(1ページ当たりの広告枠)が少ないプラットフォームはRPM最大化において、とてももったいない状況と言えます。
そのため、媒体側は広告枠を増やし、目につきやすい場所に広告枠を設置したりしますが、上記の例の通り、1つの要素だけを引き上げてもプラットフォーム自体の品質を下げかねません。
つまり、RPMを最大化するためには、CPC(クリック単価)、Depth(1ページ当たりの広告数)、Coverage(ページビューに対して、実際に広告が表示される割合)、CTR(広告のクリック率)の要素をそれぞれトレードオフにならずに引き上げていくことが大切です。
この記事を読んでいる方は、「広告主」(代理店)に属する方が多いと思います。「媒体」「広告主」に加えて「ユーザー」を含む、三方良しのマーケット構造を理解することができればプラットフォームの提供する機能の意図や、アップデートの狙いがわかりやすくなります。
そうすることで、媒体側の意図に乗るか乗らないかの判断も行いやすくなるのではないでしょうか。
RPMを知ることはゲームのルールを知ること
プラットフォームのRPM最大化のためのロジックが理解できたら、最後に普段の運用にどのように活かせるかを考えていきたいと思います。
RPM最大化の大前提として、参加者がいなければ競争が成り立たないように、広告主側がオークションに参加している必要があります。
「なに、当たり前のことを。」と思うかもしれませんが、多くの人にオークションに参加してもらうからこそ結果としてCPCに上昇圧力がかかりますし、多くの参加者がいるからこそ広告の多様性と関連性が上がり、カバレッジやDepthも増えます。RPMが上がればプラットフォームの収益が上がり、検索エンジンや媒体の利便性を上げるための投資が行われたり、広告のマッチング機会も増えてCTRが上がり、無料で利用できるツールやシステムも維持されていくことでユーザーが増えていきます。そういった円環的な投資の結果、広告の表示機会も連動して増えていくでしょう。
プラットフォームからは日々新たな機能やサービスがリリースされていますが、それらのほとんどはRPMの構成要素であるCPCかカバレッジかDepthかCTRを高めるために世の中に出てきています。
「この機能はなんのために、どういう狙いで出ているのだろう?」
それを想像することで、自社の目的に合った機能なのか、そうではないのか、判断することができると思うのです。
ルールを理解しているか否かが結果の分かれ目になる
例を交えて、もう少し詳しく説明していきましょう。
媒体は収益を高めるために、カバレッジ(全表示機会に対し、実際に広告が表示される割合)を増やしたい意図があります。そのために、「インプレッションシェア損失率」という指標で管理画面でアラートをかけるなどして入札価格の強化や予算の増額、キーワードのマッチタイプの拡張やクリック率の改善などを広告主に促します。「まだ伸びしろがあるよ」という情報を提示することで、費用対効果を見出している広告主に最大化のアクションを促すための項目ということですね。
同様に、動的検索広告(Dynamic Search Ads)のように、キーワードを入力する手間を省き、ウェブサイトの情報からオークションに参加するトリガー(この場合はキーワード)をシステム側で自動的に判断する機能も、カバレッジ対策だと言えます。自社サイトの情報が充実していればしているほどオークションの参加機会が増えることになるので、広告主側にウェブサイトの情報の充実というカスタマー向けの活動をするインセンティブを与え、その情報が良いものであれば結果的にマッチングの幅や精度が上がり、広告の費用対効果にもつながる、という一石二鳥の機能だと言えます。
このように、プラットフォーム側の意図を理解していれば、システムが推奨する機能や設定が広告主それぞれの状況や目的に沿っているかの判断がしやすくなります。複数のジャンルがありページが細かく分かれていれば動的検索広告は機能するでしょうし、SPA(Single Page Application) であれば別の方法を採用すべきかもしれません。予算がそもそも決まっていればインプレッションシェア損失率を使う機会は少ないですし、費用対効果が見合っていて配信量が足らなければ、とても重要な項目になります。
広告主によって目的や状況は異なります。目的が異なれば手段も替えなければならないように、選ぶソリューションや採用する機能も異なるはずです。
同じプラットフォームを使っているにもかかわらず、運用する人、委託した広告代理店によって広告の成果が異なるということは珍しいことではありません。ゲームを攻略する上でルールを読まない人はいないのと同様に、一重に「ルールを理解しているか否かが結果の分かれ目になる」と考えています。つまり、RPMを知ることはゲームのルールを知ることなのです。
媒体側の思想を理解することで広告主とユーザー双方にとってWin-winの関係を見つけるために
RPMの仕組みが分かれば、プラットフォーム側のアップデートの意図や、狙いが分かるようになります。そうすることで、その機能の活用法がわかるだけでなく、日々流れる大量のアップデート情報を闇雲に追うのではなく、必要な機能だけを迎え入れる姿勢にもつながると考えています。
媒体はプラットフォームのRPMを最大化するように動くのがミッションです。一方、日々広告運用を行う私たちのミッションはあくまでもお客さま(広告主)の売り上げの最大化であるべきと考えています。
そのため、媒体の推奨する機能に惑わされず、私たち(お客さま)のミッションを達成するための運用でのベストプラクティスの判断を下すための手段として、日々向き合っているプラットフォームの収益構造であるRPMを理解することが大切なのです。
プラットフォームが何を考え、どのような意図で動いているのかを理解することで、運用者である私たちは広告主とユーザー双方にメリットをもたらすため、日々の運用調整や新機能の活用を進めていける判断がしやすくなるのではないでしょうか。このブログが、そのきっかけとなり、少しでも役に立ったのであれば嬉しいです。