自社の行動指針に「前提を疑うこと」「現状を疑うこと」があります。
行動指針
前提とは、分かりやすく言い換えると、答えが成り立つための元になる条件です。明日が来る前提があるから一週間後の予定を立てられますし、飛行機が空を飛ぶ前提があるから旅行のために航空券の予約を取れます。
現状とは、今そのままのことを指しますね。
筆者は、運用型広告コンサルタントと兼務で3年間人事部の立上げと運営を行い、この度4月から事業部に戻ってきた身です。違う性質の業務を並行して行い、「前提」「現状」を常に疑う日々から、自分の中の偏見に気づいていきました。
前提や現状は、一見、揺らぎようがない絶対的なものに見えてしまい、ときには、前提や現状が敷いたレール上に立っていることさえ、気づかないかもしれません。いわゆる「常識」は、人知れず、あなた自身の思考を狭めてしまっている可能性が大いにあります。
目次
ひとの常識は「偏見」に満ちている
常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことだ。
by アルベルト・アインシュタイン
わたしたちが常識と思い込んでいたものは、相対性理論を発見した彼が遺した言葉をなぞると、なるほど偏見だらけかもしれません。
- 「今日中」と依頼された仕事は終業時間まで?23時59分まで?
- あなたのエスカレーターの立ち位置は右?左?
依頼主にとっての今日は仕事が終業する時間までで、依頼された人にとっての今日は23時59分だとしたら、お互いの常識に基づいてもズレが起きてしまいます。エスカレーターの右側に立つことが多い文化圏で生まれ育った人は、左側に立つ文化圏で、とっさに戸惑う経験はありませんでしたか。これらは、自分の「常識」と他人の「常識」がズレると、いつでも起こります。
情報は「どう伝えたか」よりも「どう伝わったか」の比重が重いと筆者は考えます。「こう伝わるだろう」が意図しない伝わり方をしたのは、自分と他人の常識がズレていた証拠です。人事時代、言葉の解釈の揺れに何度も驚いた経験から、たまたま気付くことができました。
そう、誰しもが、自分の偏見(思考の癖)を持つのです。だからこそ、自分に思考の癖があることを知り、自分の癖を言語化し、他人の癖を俯瞰して見れるようになると、視野がぱっと拓けます。
偏見が起こる仕組みとは
人間の脳は、正確に物事を判断するための認識機能を持ちます。
一見、わたしたちは、類推し、たくさん考え、意識的に何かしらの答えを毎回選んでいそうですが、実のところ、無意識が決定した選択肢に、後付けで意識的に肉付けしていることも少なくありません。
例えば、がやがやしたカフェで、目の前の友人の話だけが不思議と耳に入りますよね。一歩踏み込んで表現するならば、「目の前の友人の話以外の情報を無意識がシャットダウンしている」状態です。
横に座ってスマホ片手にコーヒーを飲む人は、また違う情報に集中しているかもしれません。(コーヒーの香り、30分前の商談の振り返り、SNSで話題のニュース etc.)
同じ時間・同じ空間にいても入手する情報が違うのも、偏見のひとつでしょう。全員が同じ情報を入れられるならば、多様性は言葉の意味をなしません。
また、答えのない問いでは、より顕著に偏見が起こりやすいです。きのこたけのこ戦争然り。
わたしたちコンサルタントはビジネスの現場で「この課題をどう分析するか?」よりも「そもそも、この課題はイエス/ノーどちらを答えにするべきか?その事実をどう創るのか?」にしばしば遭遇します。仮に揺るぎない事実だと認識して疑わない物事も、見方ひとつで全く違う意見に変わることもあります。
例えば「過去に〇〇広告を試したが、CPAが見合わず撤退した。だから〇〇広告は試さない」。
CPAが許容値を超えたから〇〇広告が合わない、は一見正しそうですが、女性向けの商材にもかかわらず、誤って男性に広告を配信していたとしたら?
100%のパフォーマンスをもって挑戦し撤退したとはいい難い。商材を必要とする人に向けたターゲティングとクリエイティブで再挑戦する余地はありそうです。
だからこそ、プロダクトとプロダクトを利用したい人を繋げることを企業のミッションと掲げているわたしたちは前提や現状を疑うために人間の思考の癖に敏感になるべきです。
自分や相手の「常識」を見つめよう
といっても、自分の思考の癖について真剣に向き合った経験がある人は多くないかもしれません。あまりに身近すぎると見えないものですよね。自分の鼻は、普段からわたしたちの視界に入っているはずですが、片目をつぶったり、鏡で俯瞰的に見ないとどうしても見えてこない。いわゆる盲点です。
物事の多くには前提が隠れている
たとえば、ビジネスでふたつの選択肢(AかB)が提示されたとき、あなたはどう考えるでしょうか。
- データや根拠(ファクト)を探してどちらか選択する
- 実現可能性を無視して理想的なほうを選択する
- AでもBでもない新しい選択肢を見つける
etc.
どれもが正解で、どれもが不正解かもしれません。時と場合による?まさにその通り。にもかかわらず、瞬間を静止画で切り取って、正解を過信してしまった経験はありませんか。
二者択一、黒か白、0か100。けっして否定するわけではありませんが、物事の多くが隠された前提や長い時間軸の渦中にあります。そんな中で、一瞬を切り取ったものの正誤を論じるのは、中々難しいではありませんか。
だから、まずは一歩引いてみてください。
あるタイミングではAだったことが、将来Bになることも多い。なぜなら判断は一度きりではないからです。毎回判断し直せる。リモートワーク非推奨だった自社がこの1年間を経てリモートワーク推奨へと変わったように、常に状況は変わり、最善手も変わります。鳥の目、虫の目、魚の目を使い分けましょう。
ここで気をつけたいのは不必要な恐怖に駆られ、目が曇ってしまうこと。いま判断し間違えたらとんでもないことがあるかもしれないと気負いすぎず、囲碁や将棋の盤面を見渡すような余裕を持ちたいですね。
瞬間ではなく時間軸を考えよう
日々の業務に没頭するあまり、つい目の前の課題に目が行きがちがもしれません。「これしかない!」「手詰まりだ」と思うときもあるでしょう。そんなときほど、盲点に活路があるものです。
瞬間を切り取り静止画的に分析するにとどまらず、動画的な時間軸の概念を取り入れてみませんか。
「今はAが最善手かもしれないが、未来はBになるかもしれない。だからこそ、今のうちにBの仕込みもしておいたほうがいい。ではAでもBでもないCはどうだろう?」
最後はハッピーエンドの映画も、ワンシーンを切り取れば登場人物たちの悩ましい局面があるように、一部分だけに焦点を当ててしまうと全体の評価がしづらくなってしまいます。
自分では全体像を把握しきった!と思っても、どこかに盲点は潜むもの。フラットに「いま自分はこう考えたが、他の人はどう考えるだろうか?」と他人の思考の癖と掛け合わせることで、自分が思いついたアイデアや着想が、何倍、何十倍とより良いものになっていくかもしれません。
物の見方を書き換え、支援することもまたコンサルティング
仮にあなたの考える案が理想として、伝えたい相手に提案がうまく通らない経験はありませんか。
答えはシンプルで、相手がそれを正しいと思えていないから。非合理か合理的かはここでは関係ありません。相手の「常識」では、あなたの考える案が、何かしらの理由で受け入れられ難いのです。
ポイントは、非合理か合理的かは問わず、相手の「常識」が論点になっているということ。
もし、あなたの考える案が通ることで、ポジティブなことが起こるのだとしたら、相手ではなく相手の「常識」に伝わるようにしてみませんか。
理想論を理想論だから、とぶつけてしまうのではなくて、物の見方を変える、思考のロジックエラーを伝えてあげることも、わたしたちコンサルタントに求められる能力のひとつです。
最後に
常識を疑い続けるのは、その渦中にあっては難しいものです。コンサルタントの思考の癖でクライアントのビジネスを止めないための取り組みのひとつとして、アナグラムでは、複数人の目で問題の本当の原因をさぐり、より良いアイデアを実行し、更なる成果を出す社内勉強会(通称:グロースハック)を毎週50名以上のコンサルタントで集い、実践しています。
サービスやプロダクトが合理的に選ばれるとは限らないと言われ久しいですが、それもそのはず、人それぞれの偏見に基づいて意思決定が行われるのですから。
だからこそ、人間には誰しも偏見があることを知った上で、フレームワークを武器として使える人が商売において強いのでしょう。
面白いもので、ひとつのお題に対して、アウトプットに全く同じものはありません。集合知と呼ぶは易し、これこそ他人の思考の癖を俯瞰して見ることができる願ってもない機会だなと筆者は考えています。
人間の習性(偏見)が起こるからくりを知り、自分の当たり前・世間の当たり前を疑うように思考をアップデートすることで、現状に留まらないビジネスのアイデア・着想が浮かびやすくなるかもしれません。