広告運用の業務には、気を付けなければいけないことが多くあります。その中でも特に重要になってくるのが「予算管理」です。
予算は事業計画の根幹になってくる非常に重要な指標ですので、予算を超過してしまったり、逆に予算を十分に使えず機会損失が生じるといったことは極力避ける必要があります。
本記事では、そんな「予算管理」をする上で押さえておきたいことと、予算の効果的な管理手法についてご紹介します。
目次
予算管理のために押さえておきたい前提
前提が間違っていると、どんなに気を付けても予算管理をミスしてしまうリスクが高まります。予算管理の方法の前に、まずは前提を押さえておきましょう。
「予算」の定義を明確にする
まず、予算管理で最も重要なことは、そもそもの予算の定義を広告主(インハウスで広告運用をしている方にとっての広告主とは自社を指します)と統一しておくことです。
そもそもの定義がずれていたことで結果的に超過、もしくは予算を十分に使えなかった...というケースは少なくありません。事前に広告主と下記の項目をチェックしておくと良いです。
- 予算には、手数料(広告代理店の場合)を含んでいるのか
- 手数料(広告代理店の場合)は内掛け外掛けのどちらか
- 手数料率は何%か・予算には消費税を含んでいるのか
- 総額なのか月額なのか
確実な予算管理を行うためには、事前に十分なすり合わせが必要です。お互いに認識が違っていたというケースは少なくありませんので、口頭だけの確認ではなくしっかりと文面に残しておくのが大切です。
2月予算:100万円(手数料抜き・税別)
1月予算:追加 +50万円 ※合計 150万円(手数料込み・税別)
設定した予算を超える場合、利用できない場合がある
予算管理をする上で、広告管理画面上で設定できるキャンペーン予算を正しく設定するのは大前提です。しかしながら、運用型広告では成果にあわせて柔軟な広告配信ができることもあり、必ずしも設定した予算通りに広告予算が利用できないケースがほとんどです。
予算を設定する場合に多く利用されているのが、Google広告では「1日の平均予算」Yahoo!広告やMeta広告では「1日の予算」という機能です。設定した金額で上限がかかるものではなく、1日に利用できる金額の目安を定めるものです。
そのため、この設定予算を1日あたりでは超えるケースもあれば、予算に届かないケースもあります。
媒体によって仕様が異なるのですが、ここでは例としてGoogle広告の1日の平均予算の概念、Yahoo!広告やMeta広告の1日の予算の概念について解説します。
Google広告(とYahoo!広告)
Google広告の1日の平均予算とは、1 か月を通して 1 日ごとに費やしても問題のない金額を指します。
Google広告の公式ヘルプには、1日の費用の上限は1 日の平均予算の 2 倍、1カ月の費用の上限は 1 日の平均予算の 30.4 倍と記載されており、それぞれの費用上限を超えた分の請求はされない、と記載されています。従って、日予算(1日の平均予算)を設定したり、または途中で調整したりする際は、こちらを加味する必要があります。
設定した予算を超えて配信・請求される可能性があるため、特に月末の調整などを行うときに注意をしましょう。
Yahoo!広告の1日の予算の概念も、Googleとほぼ同様です。
参考:費用の上限について - Google 広告 ヘルプ
参考:検索広告の1日の予算を超過した場合の請求について|Yahoo!広告ヘルプ
Meta広告
Meta広告の1日の予算は少し違っており、1週間の中で1日あたりに消化する平均の金額を指します。
公式ヘルプには、1日の費用の上限は1日の予算の175%であり、1週間の費用はそれぞれ1日の予算の7倍を上回る金額を消化することはない、と記載されています。
このように各媒体で予算設定の概念が異なりますので、配信前にその違いを確認し予算設定や変更の際に常に意識することが重要です。
また、予算設定に余裕があっても、入札によるオークションによって掲載状況が変わるという特性上、十分な掲載ができず予算が余るということもあります。
予算の柔軟なコントロールは運用型広告の大きなメリットでもあるため、パフォーマンスや状況に応じて増減額や運用方針の調整などのコミュニケーションが取れるようあらかじめ説明ができているのが望ましいですね。
予算管理のミスはほとんど人的なもの
媒体の不具合など一部の事故的なものを除けば、予算管理のミスはほとんど人的なものです。基本的には、広告運用者が人的なミスをしなければ予算管理に失敗することはありません。
しかし、経験が豊富な広告運用者でさえ、うっかり「0」を多く打ちすぎて1桁多い予算を設定してしまっているケースもあります。また、日予算設定の表示が異なるため、桁を間違えた日予算で配信してしまうことも起こりえます。
例えば、X(旧:Twitter)広告では予算の表示が「10,000.00円」と小数点までとなっており、注意しないと意図せず少ない予算を設定していた、ということも起こり得ます。入札価格を一桁間違えてしまった、という話もよく聞くのではないでしょうか。
もちろんミスをしないほうがいいのですが、人間が行うことに絶対はありません。しかしながら極力ゼロに近づける工夫や仕組みは必要です。
効果的な予算管理の3つのポイント
上記の点を押さえていただいた上で、以下で紹介する「効果的な予算管理の3つのポイント」を参考にしていただければ予算管理のミスを極限まで防ぐことができるようになると思います。
既に実行しているものもあると思いますが、役立つポイントが多いと思いますので是非全て目を通してみてください!
①進捗状況を確認する仕組みを用意する
予算の進捗状況をチェックしていなかったというのは論外として、まずは予算進捗を正しく確認できる仕組みを作ることが重要です。
- エクセルやGoogleスプレッドシートを利用する
- 有料のレポートツールを利用する
- 自社でシステムを構築する
上記のようにいくつかの方法がありますが、ここでは予算進捗を適切に管理する方法の一つとして、エクセル、またはGoogleスプレッドシートで作った管理シートでの進捗管理を下記でご紹介します。
比較的簡単に作成できたり、ニーズに応じて自由にカスタマイズできたりするため、媒体数が限られていたり、まずは小規模から配信したいといった場合には有効です。
以下では、月単位で予算が決まっている場合での予算管理方法の一例をご紹介します。
1.日次のデータをインポートする
まずは配信している媒体の配信金額、コンバージョン数、インプレッション数、クリック数などのデータを広告管理画面上からエクスポートし、管理シートにインポートします。
エクスポートの方法もレポートをダウンロードしたり、Google Ads ScriptsやYahoo!広告 スクリプトを利用したりとさまざまな方法がありますので、広告運用の環境に応じた方法を検討しましょう。もし有料のレポートツールを利用している場合は、ほとんどの場合にエクセルファイルの自動作成やスプレッドシートへの定期エクスポートなどに対応しており、より数値更新の手間を減らせます。
2.予算進捗をモニタリングするのに必要な数字を計算する
広告媒体から配信実績がインポートできたら、次はモニタリングに使う計算項目を追加します。
具体的には下記の数値を日次で算出できれば、予算進捗を日次でモニタリングできていると考えているため、上記①の数値を元に下記の数値を算出し、個別の集計シートで管理できるようにします。
(a)月予算に対する今月現時点(月初から昨日まで)の配信金額の進捗率
(b)月予算に対する今月現時点(月初から昨日まで)の残予算
(c)月予算に対する今月現時点(月初から昨日まで)の適切な日予算
※基本的に運用型広告は予算の使い切りはできないため、95%程度(総予算によっても変動)で予算目安を算出しておくと、より超過のリスクを回避できます
(d)今月現時点(月初から昨日まで)における今月の配信金額の着地見込み
運用する際は特に(c)を日次で確認しながら配信ペースを調整することで、予算管理がしやすくなります。
完成したら、上図のようなイメージになります。
さらにミスを防ぐためにも日付、残日数なども関数で自動化すると良いと思います。
項目 | 関数と計算式 | 例 |
---|---|---|
今日の日付 | =TODAY() | 2024/01/18 |
今月の日数 | =DAY(EOMONTH(C2,0)) | 31 |
今月の昨日までの日数 | =DAY(TODAY())-1 | 17 |
今月の残日数 | =C3-C4 | 14 |
ただし、商材によっては平日と祝日休日、曜日ごとで配信ボリュームの変動が大きいものもあるので、その傾向に合わせて傾斜をつけることで今日時点の適切な日予算を算出することをオススメします。
上記は残日数で残予算を均等に割っていますが、例えば平日と休日で配信ボリュームが異なるtoB商材などでは、残予算を平日と土日に傾斜をかけて割り振ることで傾斜をかけた適切な1日の配信金額が算出できます。
②複数の方法でチェックを行う
進捗状況を確認できる集計シートが出来たからと言って、その数値だけを正として予算を管理するのは危険です。
数値を手動でインポート・集計する場合は、人的なミスが起こりやすくなってきます。極限までそのミスを防ぐために、必ず定期的に集計シートと広告管理画面の数値を照らし合わせて、数値がズレていないか確認するようにしましょう。可能な限りインポートする度にズレていないか確認することをオススメします。
エクスポートせずともダッシュボードやBIツール上で確認するというケースもありますが、その場合もツール側の不具合やAPIでの数字取得の遅延などで、本来の数字とのズレ生じることもあるため、ツールを使う場合も定期的に広告管理画面の数値と照らし合わせて、不備がないか確認するようにしましょう。
上記(a)~(d)などの関数周りにも誤りがないかなど定期的に振り返るようにしましょう。
また非常に基本的なことですが、集計シートの配信金額には手数料や消費税が含まれているかについても一度は確認しておくと良いと思います。
③リスクを回避する仕組みの導入も検討する
①②を実行した上で、さらにリスクを最小限にする仕組みの導入も検討していただくのがおすすめです。
例えば、想定よりも配信が出すぎてしまった、あるいは何らかの理由で配信金額が大きく現象したといった場合に、集計シート上のその日の数値のセルが自動で赤くなるようにして、すぐに異変に気付ける仕組みを作るのも良いと思います。
他にも、セールやキャンペーンなど期間限定の広告配信をしたい場合は、手動だと期間終了後に広告を停止するのを忘れてしまい予算を超過して配信してしまった...ということも起こりやすいので、Google広告の自動化ルールを用いて自動で停止するのがオススメです。
Google広告の詳しい自動化ルールについては、アナグラムの下記ブログをご覧いただくと、理解がより深まると思います。
なお、アナグラムでは「何かを変更したら当日、その翌日に必ずチェックを行う」というのをルールとしています。そのため、休日などで翌日に広告管理画面をチェックできない場合は、大きな変更や新しいキャンペーンの開始などは事前に調整を行います。
これは一つの例ですが、機会損失を極力なくすために予算設定に余裕を持たせたり、予算設定を超える媒体の仕様があったりと、100%の保証はありません。重要なのはリスクを限りなくゼロにできるよう準備をしておくことと、同じミスを繰り返さないよう仕組み化することです。
広告主のモノサシで予算を考えよう
広告代理店であれば、広告管理は予算超過の回避にスポットが当たることが多いと思いますが、「予算の大幅な未達」こそ広告主に与える損失が大きいことは知っておくべきだと考えます。
- 翌期のマーケティング予算の減額
- 法人税の増大
- 収益予測のズレによる計画変更や意思決定の遅れ
もちろん予算超過も広告主の信頼を失うミスであることに変わりはありません。しかしながら、それ以上に予算が予定通りに使えないことはビジネスへの影響が大きい場合があります。
広告主(インハウスだと経営サイド)と広告運用者ではモノサシが違っていることがよくあるため、広告主がどういったモノサシで、いま物事を測っているかは把握しておきたいところですね。