
前回の運用型広告の大規模なアンケート調査「The State of PCC」が発表されてから2年ほど経ちました。
そして、今年の4月に2024年版のデータが公開され、運用型広告の業務にまつわる課題やトレンドが数多く含まれています。ここで今回は回答からいくつかの注目トピックをピックアップし、ご紹介していきます。
※レポートのダウンロードはこちら:
The State of PPC Global Report 2024


目次
大規模な調査だけに示唆的な内容が豊富
今回の調査対象は1,135人(前回の2倍以上)で、PPC分野の専門家を対象とした調査としては最大規模になっています。

詳細を見ると、代理店をはじめ、フリーランスからインハウスまで様々な形で運用型広告に携わっているスペシャリストだけでなく、(他者に広告の運用代行を委託している)広告主側の担当者の回答者も参加しました。
ただし、回答者にインハウスの広告運用者は20%しかおらず、運用代行という立場の回答者(代理店とフリーランス)が75%を占めていることを加味すると、回答の方向性に偏りがあるかもしれませんので、注意が必要です。

今回対象になっている業種は多岐にわたっていますが、「eコマース(オンラインのみ)」と「eコマース(オンライン+オフライン)」が合計で全体の38%という高いシェアを占めています。
また、地域分布では回答者の84.5%がヨーロッパ、英国、アイルランド、北米の出身者で、調査自体は英語で行われたため、英語が広く使用されている地域に焦点を当てた結果となっていることも特徴的でした。 そのため、日本(およびロシア、中国)は今回の回答には含まれていません。
とはいえ、仮に運用型広告の全体を表していないにせよ、このような世界レベルでのデジタルマーケティング担当者の生の声のサンプルとして非常に価値がある取り組みだと思います。
従って、日本においても同じ広告媒体を使っている以上、重要なトピックや課題はかなり類似しているはずだと思われており、調査結果は国内でも十分に参考になるでしょう。
Googleは依然よく使われているが満足度はいまいち
詳細の配分を見ると地域別に差があるものの、広告ポートフォリオの中で圧倒的に使用率が多いチャネルがGoogle広告であることは一目瞭然です。

本調査によると、全体ではGoogle広告を回答者の98%が利用しており、非常に高い結果になっています。2位のフェイスブック(76%)との差も比較的大きいことに注目です。

また、この高い導入率ゆえに「予算が今後伸びると予想されるプロダクト」に関する質問への回答の中にも、Google広告のプロダクトが多数含まれていたことはほぼ予想通りの結果と言えます。「P-MAX」や 「デマンド ジェネレーション キャンペーン」のような自動化を利用しているプロダクトは大きく伸びると予測されていますが、中でもP-MAX(※商品データフィード利用)の比率が高く、アンケート対象者の63%が2024年の予算を「少し増やす予定」または「大きく増やす予定」と回答しました。

しかし、上記の結果をGoogleのプロダクトに関する満足度とあわせて読むと興味深いです。今後はより多くの予算を投資したいとの回答が多かったにも関わらず、満足しているかどうかの質問に対し、P-MAXで商品データフィードを使っているか否かによって満足度に比較的多きな乖離が確認できています。
商品データフィードを利用した場合は64%の回答者が満足しているのに対し、商品データフィードを利用しないケースでは47%と半数以下の値に落ちています。前者が従来のショッピングキャンペーン(Standard Shopping)を数パーセントポイント超えていることも興味深い結果でしょう。
また、「デマンド ジェネレーション キャンペーン」も、49%がより多くの予算を投じる予定だと回答しているものの、満足度は31%と比較的低いことも注目に値する結果です。
運用型広告の難易度は逆に上がっている?
上述の結果をポジティブに捉えれば、新しいプロジェクトを積極的にテストしたいという強い意志はうかがわれる一方で、やはりキャンペーンの利便性などにはまだ改善点が残っていることも示唆しています。

この状況は、49%の回答者が「2年前と比べて広告の運用が難しくなっている」と回答していることとも一部関連しているかもしれません。

本調査で「難易度が高まった」と感じる理由について尋ねたところ、参加者の多くが「とれるデータが少ない」(Decreased Insights)「コントロールできる要素が減った」(Decreased Control)ことが決定的な要因であると回答しています。P-MAXのようなプロダクトは(特にリテールの分野で)幅広く導入されていますが、多くの運用型広告のエキスパートが、パフォーマンスデータに関するより詳細なインサイトと、キャンペーン管理のためのより多くの選択肢を望んでいることを示しているように捉えられます。
こうした難易度の向上は、新たな「人材をどうやって見つけるか」という別の課題を生み出していることもあるでしょう。興味深いことに、代理店・インハウス関係なく、この点で意見が回答者の中で一致しており、それぞれ60%以上の回答者は、特に「新しい人材を見つけること」が現在解決困難な課題であると答えていました。
生成AIは思ったよりまだ使われていない
Chat GPTをはじめ、Google Gemini(旧Bard)や同様の生成AIのツールは、今や割と一般的なものとなっていると言えます。しかし、これが運用型広告の仕事にどの程度影響を及ぼしているかに関する結果を見ていきましょう。

結果を見ると、Chat GPTのような生成AIが使われている分野はまだ比較的限られている模様です。回答の中で最も利用頻度が高いのは「広告文の作成」。このタスクで生成AIツールを「よく使う」「いつも使う」と回答した人は合計で42%に上りました。その次に多かったのは「キーワード調査」と「メール作成」で、それぞれ合計27%の回答を占めています。
しかし、これ以外の活動分野での利用は、まだあまり広まっていないようなのは、「生成AI」の話題性や注目頻度からして少し意外な結果でした。中でも「予算管理」での利用は稀で、83%の回答者がAIを「ほとんど使わない」または「まったく使わない」と回答していました。

また、生成AIを活用したタスクに対する満足度は、前述の利用頻度とほぼ相関しているようです。例えば、業務の中で生成AIを「時々使う」「よく使う」「いつも使う」と回答した参加者のうち、最も満足度が高かったのは「メールの作成」(71%)と「広告文の作成」(69%)でした。
人間とAIの強みの融合が成果を左右する
今回の「The State of PPC」のレポートを通じて、とにかく自動化や計測から生成AIの活用などに至るまで、今後はどのように付き合っていけばよいのか、ベストプラクティスは決して定まってはいないため、学ぶことは相変わらず多いと感じました。
本調査の中で、Optmyzr社の共同設立者・兼CEOであるFrederick Vallaeys氏はこう述べていました。
機械の能力と人間の監視をうまく融合できるデジタルマーケターこそ今後最も成功しやすく、どちらか一方だけでは、可能性を十分に発揮できないでしょう。
時間のかかる反復作業をソフトウェアが助けてくれる間に、私たちは自分の好きなことに集中でき、常にキャンペーンパフォーマンスを見張らなくてもブランドにより有意義な貢献をできそうです。
引用元:PPC Survey |The State of PPC 2024
※翻訳は筆者による
Vallaeys氏の言葉は多少理想論に聞こえる部分はありますが、AIと自動化の時代にフィットする未来図としては分かりやすいイメージだと思います。
