今年の7月にMetaの新しくリリースしたソーシャルメディアアプリ「Threads」(スレッズ)は、多くの話題を呼びました。リリースされてまもなく膨大な数のユーザーが殺到したのに、急に話題性が失速したことは、記憶にまだ新しいのではないでしょうか。
しかし、このThreadsには一体何が期待できそうか、今後ユーザーやブランドにとってどのような役割を果たすことができるのか、それらのテーマについて深堀していきましょう。
目次
Threadsとは?
Threads(スレッズ)は、Meta社が2023年7月5日にリリースしたソーシャルメディア兼マイクロブログサービスです。Twitter (最近は「X」とリブランディング中) や Mastodon などのプラットフォームと同様に、テキスト・画像・動画のコンテンツを投稿でき、投稿に対して「いいね!」、共有するなどのエンゲージメントができます。Threads内のテキストに関しては最大500文字(Twitter※は140文字)、画像は最大10枚(Twitterは4枚)、動画は最大5分(Twitterは2分20秒)という制限が設定されています。
※Twitterを無料で利用する場合の数字となります
好調な滑り出しからユーザー離れへ?
Threadsは、短い間隔で2度、ネットの世界で話題になりました。まず、アプリはローンチから記録的な数にインストールされ、大きなセンセーションを巻き起こしました。
ドイツのオンライン統計プラットフォームStatistaの調査によると、Threadsが100万人のユーザーを獲得するのに要した時間はわずか1時間(厳密には2時間で200万人のユーザー)でした。そしてその後、わずか5日で1億人のユーザーを獲得できました。
この結果、Threadsは瞬く間に「Twitterのライバル」として謳われるようになり、ほぼ同時期にTwitterが1日に表示できるツイート数を制限するというニュースも、Threadsをさらに後押ししました。
参考:What does Twitter 'rate limit exceeded' mean for users? | Reuters
しかし、絶賛されて数日間後に、米国だけでなく世界規模で見ても、1日の平均利用時間が半減する報道があり、早くもThreadsの「ユーザー離れ」のニュースが話題になりました。
データの基になっているイスラエルのウェブ解析会社Similar Webによる調査は、現在のところAndroid端末のみを対象としていますが、iOSユーザーについても同様の傾向が予想されます。
機能面はまだ限定的か
ユーザーが急速に興味を失った背景を見ると、アプリの機能がまだ限られていることが決定的な要因の一つと考えられます。いくつか例を挙げましょう。
トピックの検索ができない
Threadsには検索機能がありますが、現在のところユーザー名に限定されています。Twitterのように、今のトレンドトピックを調べたり、過去の投稿を検索したりできるテーマ別検索は(まだ)利用できません。また、ハッシュタグを使用することにも現在のところ対応していないようです。
メッセンジャー機能なし
Twitterとは異なり、Threadsには現在、他のユーザーにダイレクトメッセージを送る機能はありません。もちろん、今後はアプリ内のメッセンジャー機能が導入される可能性は決して低くないと考えられますが、現時点ではユーザー間で直接、非公開のコミュニケーションをとる手段がないのは、ユーザーにとって大きな欠点でしょう。
ウェブブラウザ版がない
Threads投稿のリンクがあれば、ウェブブラウザからでもコンテンツを見ることができますが、ブラウザを通してThreadsアカウントを管理したり、コンテンツを投稿したりする方法はまだありません。特に業務的な利用を想定すると、デスクトップPC経由でも操作可能になることは望ましいでしょう。
ブランドにとってのポテンシャル
しかし、上記を踏まえて、Threadsを完全にあきらめるのは、現時点からは非常に時期尚早と思われます。このアプリは約1ヶ月前にローンチされたばかりで、おそらく今後数週間のうちにアップデートや追加機能が施され、ユーザーとってより魅力的なサービスになることでしょう。
そしてユーザー数とエンゲージメントが安定したレベルで確保されれば、Threadsはブランドやマーケターにとってもますます興味深いものになると期待できます。特に、広告出稿の可能性を考えれば尚更です。
既に確立されているネットワークの一部である
Threadsのアプリにはまだ広告を掲載するオプションはありませんが、Facebook、Instagramなどを筆頭にメタ広告内の選択可能なネットワークになるのは時間の問題でしょう。とにかく、エンターテインメントとメディアのニュースメディアであるThe Wrapによる取材によると、さまざまなデジタル広告の代理店が、Threadsに広告が掲載可能になり次第、挑戦したいという高い意欲をすでに示しているようです。
参考:Advertisers Are Eager to Spend on Meta's Threads
しかも広告掲載が可能になれば、精度の高いターゲティングや機械学習などのFacebookやInstagramなどと同じ技術が使えるという利点がかなり大きいと思われます。
ブランドセーフティー面にも期待
去年のTwitterの買収に伴い、プラットフォームの安全性や投稿内容に関する取り締まりを懸念している広告主が数多くTwitterから撤退しています。今年の1月にTwitterに広告掲載していたトップの1000社のうち、625社と3分の2近くの広告主がTwitterへの広告出稿を休止している模様です。
一方、ニュースや政治的な議論の投稿が多いTwitterとは対照的に、Threadsはスポーツ、ファッション、音楽、エンターテインメントといったライフスタイルのトピックに焦点を当てる方針をとっているようです。
参考:Threads isn’t for news and politics, says Instagram’s boss - The Verge
Threadsには広告掲載がまだ可能ではないので憶測ではありますが、こうした方向性は、上述のコンテンツの安全性を懸念しTwitter離れした広告主たちへの反応とも捉えられるかもしれませんし、今後Threadsの方に広告費を投資する動機付けとなる要因とも考えられます。
Twitterのライバルよりも新たなニッチか
純粋に理論的に言えば、Threadsは最近のつまづきにもかかわらず、まだTwitterを追い越す可能性があります。
Webマーケティングを専門とする市場調査会社のeMarketerによると、Instagramのユーザーの4人に1人がThreadsも利用すればTwitterと同等なユーザー数に上るという計算になります。
ただし、Instagramの最高責任者であるAdam Mosseri氏が公式Threadsアカウントからの投稿をみますと、そもそもTwitterを王座から引きずり降ろそうとは考えていないようです。
”The goal isn't to replace Twitter. The goal is to create a public square for communities on Instagram that never really embraced Twitter and for communities on Twitter (and other platforms) that are interested in a less angry place for conversations, but not all of Twitter.”
「Twitterに取って代わることが目的ではない。これまでTwitterをあまり受け入れてこなかったInstagramのコミュニティや、怒りの少ない会話の場を求めているTwitter(やその他のプラットフォーム)のコミュニティのための、公共の広場を作ることが目的だ」
※翻訳は筆者による
Mosseri氏の投稿が示す通り、当初Twitterのライバルとして注目されてきたThreadsはおそらく、Twitterおよび他のSNSのアプリになじめなかったユーザーにとって独自のニッチを占めることになる可能性がかなり高いと考えられます。
またこうなるとマーケティングやブランドの観点からも「どうしてユーザーがあえてThreadsを利用しているのか」「ThreadsのユーザーはTwitterやPinterestなどのユーザーとどう違うのか」など、各種SNSの異なる文化によって、異なるコミュニケーションのアプローチが求められることもまた重要なポイントになりそうです。
とにかく、Threadsは既存のMetaのプロパティとの連携の可能性まで想像すると、ニッチでありながらもユーザーとブランドにとってもポテンシャルはそれなりに期待できるのではないでしょうか。