数十年前からオンラインの世界ではほぼ不可欠と言っても過言ではないサードパーティCookieは、幕を閉じる時間が刻一刻と近づいています。
現在、GoogleはすでにChromeブラウザ経由のウェブトラフィックの1%からサードパーティCookieを削除しており、今年の第3四半期からChromeブラウザでサードパーティCookieが完全にサポートされなくなる予定です。
このことはもちろんデジタルマーケティング担当者にとって大きな挑戦を意味しています。
リターゲティングなどというCookieを活用している従来の手法が利用できなくなり、こうして生じるであろうギャップをどのように埋めるかという課題に直面しています。
ChromeのサードパーティCookie廃止の影響に対処するべく、Googleが展開した「Privacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)」と呼ばれるAPIセットは、計測から広告のターゲティングなどまで、これでCookieが担ってきたあらゆる種類の機能とユースケースをカバーできるように取り組んでいますが、その中でCookieを基にしたターゲティングに置き換わると期待されている「Topics API」が特に注目されるテーマの一つです。
Topics APIとは?
Googleがデータ保護の懸念から2022年初めにFLoC(Federated Learning of Cohorts)という取り組みを終了した後、後継プロジェクトとしてTopics APIが発表されました。
Topics APIでは、サードパーティCookieを使用することなく、プライバシー保護された環境でユーザーに関連性の高い広告を表示できるツールを広告主やパブリッシャーに提供できると期待されています。
簡単に言うとTopics APIでは、ユーザーの閲覧情報をサードパーティーCookieのように第三者がアクセスすることなく、ユーザーのブラウザ(とデバイス)にのみに保存される形になります。そして上図の右側に示されているように、ユーザーの閲覧行動に応じて、そのブラウザを特定の既存のトピックに分類し、これを例えばターゲティング・シグナルとして利用できるアプローチです。
現時点では数百のカテゴリーが存在しますが、今後は増える可能性があると考えられます。
トピックのカテゴリーは、「アート&エンターテインメント」のようなトップレベルのカテゴリーで階層的に配置され、その配下に例えば「ミュージック&オーディオ」があり、さらに「ロックミュージック」などのより詳細な分類が存在しています。
このようなトピックは、ユーザーが閲覧したものから週次に最大5つまで割り当てられているようで、そのうちに広告掲載のシグナルなどに利用されるのは同時に3つのカテゴリです。
ユーザーがご自身のChromeブラウザでも現在どのようなカテゴリに分類されているかを簡単に確認できます。まず、Chromeで「chrome://flags/#privacy-sandbox-ads-apis」でPrivacy Sandbox APIが「Enabled」になっているか確認し「chrome://topics-internals/」から「Calculate Now」のボタンをクリックすると割り当てられたカテゴリが表示されます。
ポストCookie時代の有望なソリューションか?
時間が経つにつれて、カテゴリの粒度・精度とデータ保護の適切なバランスをいかに見つけることができるかが重要なポイントになるでしょう。ターゲティングセグメントが粗すぎると精度が落ちますが、細かすぎると理論上ユーザーを特定できてしまい、データ保護のガイドラインに違反して本末転倒になる可能性がありますね。
こうした課題は確かにありますが、Topics APIに対する広告主から寄せられている期待が大きいのも事実です。
デジタルメディア専門の分析プラットフォームのDoubleVerifyが昨年実施した調査(eMarketerにより発表)は、少なくともこの傾向を示唆しています。調査された広告主の37.9%は、サードパーティCookieに依存する従来技術に代わる有望なソリューションとしてトピックAPIを挙げており、「ファーストパーティデータの活用」(49.0%)の次に回答数が多かった施策でした。
Googleの取り組みに批判の声も
Googleのアプローチは、ChromeブラウザのサードパーティーCookie廃止後の困難を克服する可能性を秘めていることは間違いないのですが、トピックスAPI(あるいはプライバシーサンドボックスプロジェクト全般)に対する批判的な声もあります。
比較的広範な批判は、45のユースケースを含む詳細なレポートでプライバシーサンドボックスを精査したオンライン広告業界の団体のIAB(Interactive Advertising Bureau)から発表されました。
参考:Privacy Sandbox Fit Gap Analysis PUBLIC COMMENT DRAFT
IABからの批判の中心点は、Privacy Sandboxがそれ自体ではまだサードパーティCookieの機能を置き換えることができないということでした。
しかしGoogleは、Privacy SandboxはサードパーティCookieのすべてのユースケースに対する直接的で完全な代替ソリューションであることを意図して作成されたのではなく、単に他のツールと合わせて使用できる基本的なビルディングブロックを提供するための技術だ、と答えています。
また、The Trade DeskのCEOのJeff Green氏はTopics APIのような技術をテストすることに対し積極的な姿勢を見せつつ、ユーザーをカテゴリに分類するアプローチが時代と逆行しているとして批判の意見も述べました。
Topics APIは、我々が20年近く前にInteractive Advertising Bureauで定義したオーディエンスカテゴリーを概ね採用しています。それ以来、多くの進歩を遂げたはずなのに、それよりも原始的なアプローチにまで時計の針を巻き戻すことは、広告主にとって大きな格下げを意味しているのではないでしょうか。
引用元:A new year and a new Google: A perspective on Privacy Sandbox | The Current
※翻訳は筆者による
サードパーティーCookie廃止前に取り組む価値
GoogleがサードパーティCookieの終了をさらに延期する可能性はないわけではありませんが、もはやかなり低いと考えられます。
とにかく、遅かれ早かれサードパーティCookieをベースとしたテクノロジーが使えなくなることは、避けられないシナリオだと言えますので、Googleが数多くのビジネスのデジタルマーケティングのポートフォリオで中心的な役割を果たしている限り、少なくともGoogleが提供するテクノロジーを使いこなすことようにする価値は大いにありそうですね。
もちろん、これらは万能薬のように既存のテクノロジーを100%置き換えるものでもないと思いますが、Topics APIなどのプライバシーサンドボックスのツールを事前に熟知しているマーケターは近い将来、明らかに優位に立てるのではないでしょうか。