ウェブ検索は、インターネットの黎明期からユーザーにとって「知りたい情報」や「欲しいもの」などを見つけるためのほぼ不可欠なツールと言えるのではないでしょうか。
このこと自体は近い将来大きく変わることはないものの、テクノロジーの進歩に伴い、ウェブ検索の状況は大きく変わりつつあることも事実です。近年のAI技術の革新とインターネットユーザーの嗜好の変化により、検索のあり方が着実に進化しています。そしてこの進化はウェブ検索をビジネスのドライバーにしているブランドや広告主にとっても戦略的な重要性を持っています。
ということで、以下では今後のウェブ検索に影響を与えそうな動向についてを探っていきます。
ウェブ検索がAIによって対話型に?
グーグルが「生成 AI による検索体験」(SGE)という生成AIを活用して提供される検索結果を去年発表したのは記憶に比較的新しいですが、ユーザーの検索に対してウェブリンクの他に対話型に答えていることは検索分野における非常に興味深いイノベーションの一つです。
この機能自体は現在まだテスト段階であり(Google Search Labsを通じて利用可能)、どのような形で今後のGoogle検索に取り入れられていくかも明らかではありません。しかしながら、競合の検索エンジンのBingもGPT-4の導入で似ている方向性を示していることを加味すれば、近い将来、検索結果ページにウェブリンクと並んでAIが生成したコンテンツが含まれることが増える可能性は非常に高いと考えられます。
このような現実に、広告がどう影響され広告主がどう対応するかもまた興味深いでしょう。検索連動型広告とSEOの情報サイトのSearch Engine Landによる記事では、同社が主催するSMX Nextイベントでのパネルディスカッションに基づき、SGEが検索マーケティングに与える可能性のある影響をこうまとめていました。
まず、SGEではユーザーが求めた答えにたどり着くために必ずしもGoogleを離れる必要がないため、ウェブサイトに誘導するために特定の検索キーワードに焦点を当てる、従来の「キーワード志向」から考え直さなければならないだろうと強調しました。また、対話型のデザインを考慮すると、コピーライティングの分野でも新たな課題が生じる可能性があり、既存のCTA重視の広告がやや不自然に見える場面も発生すると予測されています。
参考:How will Google's Search Generative Experience impact PPC marketing?
検索行動がさらに直感的に
そして、検索方法の変化は他のかたちでも起こっています。
近年、グーグルはすでにビジュアル検索の分野で、グーグル・レンズやマルチ検索機能によって、ユーザーがまだテキスト入力できるほど言語化できていないことについて、非常に直感的に検索できることを示してきましたが、1月にこのコンセプトを拡張したとも言える「Circle to Search」(なぞって検索)という機能を発表した。
参考:Circle (or highlight or scribble) to Search
この機能は当初、一部のAndroid端末でのみ利用可能なようですが、ユーザーは簡単なジェスチャーを使って画面上の気になる要素を指でマークするだけで、アプリを切り替えることなく、選択した領域の検索結果を直接得ることができます。例えば、テキストや画像要素などを丸で囲んだり、単純に指でなぞったりすることが検索のトリガーとなる模様です。
検索結果もさまざまな形で提供されます。検索コンテキストに応じて、上述のAIが生成した検索結果が表示されることもあれば、画像やショッピングの検索結果の表示も可能のようです。
公式サイトのデモ動画を見る限り、広告出稿にもつながることがあります。どのようなプロダクトを通じて配信可能かはまだ明らかではないのですが、例えばP-MAXのようなAIを活用したプロダクトであれば、検索された画像要素と商品データフィードのアイテムとのマッチングによってショッピング広告を配信する仕組みになる可能性は比較的高いかもしれません。
また、この機能をYouTubeのショート動画に活用できることも大きなポイントになりそうです。グーグルの機能紹介ページによると、動画内に表示された要素も指でマークするだけで検索可能なようなので、動画が新たなウェブ検索(はては新たなカスタマージャーニー)の起点となることもあり得ます。
ソーシャル検索もますます重要に
また「ウェブ検索」というトピックに関して動画プラットフォームの関連性が高まっており、中でもショート動画は特に重要なトピックになりそうです。
もちろん検索の文脈にもよりますが、何かの情報を求めて検索する際に、Googleのような「古典的な」検索エンジンが第一想起ではなくなるケースが増える傾向さえあります。
デジタル広告を専門とする市場調査会社eMarketerの予測によると、TikTokなどのSNSはウェブ検索でますます一般的な選択肢になりつつあるようです。特に、Z世代のユーザーが商品を探す際にソーシャル検索を利用する頻度が著しく高くなっているという傾向が確認されています。
例えば、Z世代の43%がTikTokで商品検索を始めており、グーグルやビングといった従来の検索エンジン(38%)をすでに上回っています。Instagramも36%とグーグルに引けを取らないレベルです。
しかも、この傾向は商品検索に限ったことではありません。カフェやショップなどのローカル検索も、若いユーザーの間ではグーグルマップからインスタグラムやTikTokなどのソーシャルメディア・プラットフォームにシフトしている現象も確認されています。例えば、約40%の若者は、レストランを探す際に、これらのアプリを頻繁に利用する傾向にあるようです。
このシフトは、この年齢層の購買力が上昇し続けていることを考えると、非常に興味深い発見です。つまり、ブランドが今後この世代に接点を持つためには、オンライン・オフラインを問わずこうしたプラットフォームでより存在感を示す必要があるとも捉えられるデータです。
検索の変容でマーケターに必要なスキルも変わる
検索の分野で依然としてグーグルの存在が絶大なのは変わりないのですが、同じグーグルの様々なプロパティやツールの中でも「検索」が細分化しており、昔ながらの「10本の青いリンク」のようなウェブサイトインデックスからさらに遠ざかっています。
こうして検索方法やプラットフォームが多様化すると、検索行動に関するデータも分散し
蓄積も複雑になっていく可能性が高いのはマーケティングの観点からの課題です。
テキスト入力による検索データは今まで通りに取得が可能だとしても、今後Google AIによって生成された検索結果からのインサイトは果たしてどうなるか未知数ですし、動画プラットフォームやSNSアプリでの検索や、その他のマルチサーチ機能などに関しても同様のことが言えると思います。
つまり、マーケティング担当者がユーザーの検索行動を理解するための具体的な情報はますます少なくなっていく可能性が高そうです。
したがって、ユーザーが「どこで」「どのように」「何を」検索しているのか、そしてその検索に対して適切な答えまで予測するには、マーケターにより一層必要になりそうなのは想像力だと思います。クリエイティビティと並んでマーケターのスキルとして近年ますます重要視されていると思いますが、こうした検索における技術革新の過程でこの傾向はさらに顕著になるでしょう。