今回は2016年6月20日~21日(米国時間)にアメリカ・ワシントン州シアトルで開催された「SocialPro 2016」の参加レポートをお送りします。
目次
SocialPro 2016について
6月20日~21日(米国時間)の2日間で、アメリカ・ワシントン州シアトルにて「SocialPro 2016」が開催されました。「SocialPro」はオーガニック・ペイド問わずソーシャルメディアマーケティングの先進的なトピックが扱われ、今回が2回目の開催であり、スピーカーが30名以上、参加者が300名以上の規模。今回の会場はシアトルのダウンタウンからも近い、港沿いのBell Harbor International Conference Centerにて開催され、弊社からも3名で参加してきました。
参考:Social Pro 2016
(主催は、米デジタルメディア「Marketing Land」や「Search Engine Land」を運営するThird Door Media社であり、同社主催の「SMX Advanced」も続く6月22日~23日にて同会場で開催。)
ランチ時には、景色が美しいピュージェット湾を見渡せるセンター内レストランの中、ソーシャルマーケティングのトピック毎にテーブルが用意され、自由にディスカッションできる場も提供されていました。
テーブル毎に参加者の熱やレベルの差はあれど、1日目に筆者が参加した「Table 9:Generating Social Conversions & Leads(ソーシャルでのコンバージョンとリード生成)」においては、事業主・エージェンシー・ベンダー混合の9人全員が時間一杯まで議論を交わすほどの白熱ぶりでした。また、カンファレンスのテーマがソーシャルであるためか、目測ですが参加者は女性が半数以上を占めており、スピーカーも男性と比べ力強く情熱的な女性が多く、2日間を通して女性が大きな存在感を示していたのが印象的でした。
アジェンダについて
カンファレンスはDay1・Day2共に、アジェンダテーマごとにホールを分け2トラックにて開催。
全てのアジェンダを通しての感想として、多くのビジネスが直面しているであろうソーシャルマーケティングのビジネス課題に関するもの、ペイドを絡めたソーシャル施策など実践的な内容が大部分を占めていました。
Day1
Day2
※スピーカーにはFacebook、Twitter、Snapchat、Pinterestの各ソーシャルメディア側からも
例えば、海外では日本の2歩3歩先を進んでいる動画コンテンツについても多くが語られていましたが、単なる成功事例の紹介には留まりません。ターゲットのインサイトをどのように捉え、どのようなアプローチによって動画コンテンツを活用しビジネス目標を目指していくか、といった踏み込んだ内容が語られていました。また、ソーシャルメディアの特定チャネルからの流入ユーザーに対してのGoogle アドワーズのRLSAを用いた施策など、他広告と絡めたテクニカルな手法も紹介されており、広告運用者として惹きつけられる内容も盛り込まれていました。
海外のソーシャルメディアマーケティングに蔓延する3つのビジネス課題
Day2 Keynote – Blands Talk Social Media より
海外(英語圏)におけるソーシャルメディアマーケティングは、ソーシャルメディアのユーザー数が大規模であることもあり、そのビジネスインパクトも日本とは段違いです。そのため、今回のカンファレンスでもそのプライオリティの高さがうかがえたり、先進的な内容で溢れていましたが、変化が早いソーシャルは海外でもビジネス課題が蔓延しているようでした。今回のカンファレンスとしての全体テーマは定められてはいないものの、それぞれが密接に関わり合う以下の3つのトピックが一貫して見受けられていましたので紹介します。
- カスタマージャーニーを見据えたソーシャル運用設計
- ソーシャルコンテンツ(モバイルファーストからビデオファーストへ)
- 計測とアトリビューションマネジメント
カスタマージャーニーを見据えたソーシャル運用設計
今回のカンファレンスで最も目立って扱われていたトピックがカスタマージャーニーであり、どのセッションでも関連付けて論じられていました。ソーシャルのプロダクトメニューやコンテンツの種類の多様化、オフラインも含めた包括的なマーケティング施策の重要性の高まりが背景にあるのではないかと考えられます。
まず前提として、複数のソーシャルメディアでオーガニック・ペイド問わず、ユーザーはそれぞれのソーシャルチャネルを異なるコンテクストで利用しているため、そのコンテクストやカスタマーライフサイクルにあったコンテンツを届けることが大切です。例えばInstagram広告ならば、一部を除き多くの場合でその目的は「商品・サービス」ではなく「体験」を売ることであり、エンゲージメント内容をメイン指標とし、オーディエンスのポジティブなアウェアネス獲得を目指していくものであるべきです。このように、ソーシャルチャネル毎にビジネス目的や指標もそれぞれ異なるべきですが、海外でもこれが重視されずに運用されるケースが多いことが現状としてあります。
さらに、チャネルを超えて、徹底的にターゲットのカスタマージャーニーを見据え、キャンペーンごとに役割と指標を明確にした設計と運用が重要であると多くのスピーカーが説きます。そのためには、変化も踏まえた各ソーシャルプラットフォームやチャネルの性質も理解した上で、カスタマーのプロセスごとに適切な手段で相応しいコンテンツを届けることが求められます。もちろん、カスタマージャーニーを考えるならばソーシャルだけを切り離して考えることはできず、ソーシャル以外の全てのチャネルを横断した包括的なマーケティング戦略設計も重要となる訳です。
これに関連して、Day2のキーノートにおいて、クラウド型電子署名のBtoBサービスを提供する米DocuSign社のCaitlin Angeloff氏は、「カスタマージャーニー(ライフサイクル)において、ソーシャルはどのプロセスでも役割があり、貢献できる」とし、いかなるビジネスにおいても、カスタマージャーニーにおけるソーシャルのポテンシャルは想定されているよりも大きいと力説していました。
ソーシャルコンテンツ(モバイルファーストからビデオファーストへ)
ソーシャルメディアマーケティングそのものでもあるといっても過言ではないコンテンツですが、やはりこれに関する課題は海外でも尽きません。
中でも多かったのが、今後はその質の高さがより求められていくということと、動画コンテンツに関するものでした。この背景として、モバイルデバイス、中でもアプリの利用時間がますます伸びていることがあります。ソーシャルのチャネル毎に、オーディエンスのインサイトを捉えたそれなりのコンテンツを届けないと、現代の情報過多もありアウェアネスを獲得することがさらに難しくなっています。ソーシャルのいかなるチャネルにおいても、アルゴリズムに頼ることは忘れ、オーディエンスの関心を得られる良質なコンテンツを実直に生み出すことが求められています。
これを踏まえ、特にペイドソーシャルにおいて、海外でもまだまだ「売る」ことのみにフォーカスしているケースが多いとのことでした。あからさまに「売る」だけが目的のソーシャルコンテンツはファンを生み出しにくく、むしろ多くの場合でファンから遠ざけられてしまいます。短期的に売上が向上していても、ブランド毀損に繋がっているものではないか、常に問い続けていく姿勢も大切です。
そして、Day1に「Streaming Success With Social Video」というセッションがあったように、コンテンツの中でも動画はホットなトピックでした。やはり短時間で効果的にオーディエンスを注目させられる動画のポテンシャルは大きく、Emergent Digital社のDave Roth氏は「ソーシャルにおいて、モバイルファーストに加えてビデオファーストでもある」とまで断言していました。しかし動画コンテンツはどんなオーディエンス、目的にもマッチするような万能なものではなく、海外では動画フォーマットに頼った粗雑なクォリティなものも増えてきているのも実情としてあるようです。
360度動画、LIVE動画、VR・AR動画といった先進的で新しい価値を提供できる動画コンテンツはやはり強いものの、やはり障壁となるのが撮影機材や製作環境です。これに関しても、動画のビジネスインパクトへのポテンシャルや利用頻度などに合わせ、購入orレンタルを検討していくべきである、といった海外での実用具合がうかがえる内容もありました。
また、オーディエンスへの段階的なストーリーテリングと態度変容を促すため、動画は単発ではなく、(静止画コンテンツとも組み合わせて)連続での構想で活用していくべきものである、という内容も多くありました。PopShorts社のPeyton Dougherty氏のセッションのQ&Aにて、「ソーシャル動画コンテンツのアトリビューション分析に、おすすめのサードパーティのトラッキングツールは?」という質問に対し、Peyton氏が、「恐らくその手の質問は、動画でどうやってコンバージョンさせられるか、といった考え方から生まれるのでしょう。しかし、そもそも動画は基本的には単独でコンバージョンさせられるものではなく、アウェアネスやインタレストを得てオーディエンスを作るためのコンテンツであると考えましょう。その動画視聴オーディエンスからコンバージョンを獲得できるようアプローチをしていきましょう。」(※)と答え、続いて「コンバージョンの観点からも、動画コンテンツのアトリビューション分析は大きなテーマです。動画がいかにコンバージョンに貢献したかを評価するには、コンバージョンに至ったオーディエンスを識別し、そのオーディエンスを生めたことにどのようなストーリーテリングが貢献したかを明確にしていくアプローチが大切です。」と示唆していました。このように、動画コンテンツへの認識についても大きく考えさせられる内容でした。
※Facebook広告のカスタムオーディエンス作成画面にて、「Facebookでのエンゲージメント」を選択することにより、Facebook・Instagramにて動画を一定以上視聴したオーディエンスリスト作成も可能です。
計測とアトリビューションマネジメント
Atlasのようなクロスデバイスも加味した計測ソリューションが出現してきてはいるものの、前述の動画コンテンツのように、特にソーシャルが絡むアトリビューション分析は確かな答えを得ることが難しく、特に課題が多いようです。デバイスやチャネルも跨いだアトリビューション分析と向き合い、各キャンペーンやコンテンツの評価と分析へのひたむきなアプローチが強く提唱されていました。
アトリビューション分析の具体的な対策アクションとして多く提示されていたのは、マイクロコンバージョンの計測設定と(マルチチャネルでの)評価でした。これは、アクションがされやすくデータボリュームがより大きい複数のマイクロコンバージョンデータを積極的に利用し、ビジネス目標とするコンバージョンへのアトリビューション分析に繋げていくものです。
そのために、Google アナリティクスを代表とするサードパーティの計測ツールによるアトリビューション分析で、意思決定に活用できる細かい粒度で、ソーシャルデータをセグメントし評価していくメソッドが提示されていました。
さらに、Google アナリティクスのUSER ID機能を活用したクロスデバイスでのログインセッションの捕捉や、Facebook広告アカウントにて確認できるクロスデバイスのコンバージョンデータ取得についても紹介がされていました。
広告アカウントの単独データや、ツールでのラストクリックのみでの評価ではなく、データを複合的に活用したアトリビューション分析の上、適切な評価と次なるアクションへの早い意思決定に繋げていけることが理想ですね。
さいごに
日本のビジネスにおいて、カスタマージャーニーやブランディングも見据えてのソーシャル運用は、マーケティング施策の1つとして注力すべきケースであったとしても、運用するスキルのある人員や企業理解の問題もあり簡単ではないかと思います。それでも、経産省発表の「企業のソーシャルメディア活用に関する調査報告書」などの事例浸透による参加ビジネスの増加、Facebookプラットフォームのインフラ化もあり、活用の必要性は今後日本でも増していくものと考えられます。
まずは個々のソーシャルチャネルごとにビジネスのベストプラクティス醸成に取り組み、その生み出される価値とファンの声に喜びを感じられるといいですね。
海外の最前線ソーシャル事情や戦術を学べ、熱意のある参加者だけでなくLarry Kim氏などの実力者ともコミュニケーションを取ることができ、非常に良い刺激をもらえた実りのあるカンファレンス参加でした。