LTV(ライフタイムバリュー)を活用した目標CPAの設定方法

LTV(ライフタイムバリュー)を活用した目標CPAの設定方法
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広告配信で最重要視されるのは多くの場合費用対効果であり、CPA(コンバージョン単価)を広告配信上のKPIとして設定することが多いのはご存知のとおりです。

上限CPA=平均購買単価×利益率

一般的にCPAをいくらまで許容できるのかは、上記の式で算出できます。しかしながら、顧客との取引きは1回だけとは限りませんよね。

たとえば近年よく目にするサブスクリプション型のサービスのような、継続的な課金が前提になったビジネス。単発の利益ベースでCPA目標を設定すると、必要以上に低いCPAを目標に配信せざるをえず、機会損失が大きくなってしまい望ましくありません

このようなビジネスで目標CPAを設定する際に有用なのが、LTV(ライフタイムバリュー)という指標です。LTVを基準にすることで、より柔軟な目標CPAの設定が可能となり、打てる施策の幅が広がるので、ぜひ抑えておきましょう。

本記事では運用型広告の立場から、LTVの定義や算出方法、そしてLTVを活用して目標設定をするメリットと具体例、注意点を紹介します。


LTV(ライフタイムバリュー)とは?

Life-Time Value(ライフタイムバリュー)のことで、日本語では(顧客)生涯価値と訳されます。端的に言うと「顧客ひとりあたりが通算でもたらす収益」です。

顧客「生涯」価値と銘打っていますが、実際には、目標とする利益回収期間(例:2年・1年・6ヶ月など)内での1顧客由来の総収益をLTVと定義したり、解約率から既存ユーザーが将来もたらすであろう収益を予測して定義したりして、マーケティング施策に用いるのが通例です。

LTVを決める4つの要素

LTVは「顧客ひとりあたりが通算でもたらす収益」です。しかしこれだと大雑把すぎて、どんな要素が作用してLTVが定まるのかサッパリわかりません。まずは、取得しやすい4つの指標をもとにした、LTVの計算方法を紹介します。

LTVを加味しない場合とくらべ、「平均購買頻度」と「平均継続期間」を加味しているため、より正確に顧客がもたらす利益を把握できます。 

たとえばつぎのように上限CPAを考えることが可能です。

平均購買単価 10,000円
平均購買頻度 2回/年
平均継続期間 2年
平均利益率  20%

LTVを加味しない場合

上限CPA=平均購買単価×平均利益率
=10,000円×20%
=2,000円

LTVを加味した場合

上限CPA=平均購買単価×平均購買頻度×平均継続期間×平均利益率
=10,000円×2回×2年×20%
=8,000円

LTVを加味した場合、単発の購入での上限CPA設計にくらべ4倍のCPAまで許容できる計算です。LTVを意識して上限CPAを設定すると、どこまで広告配信のアクセルを踏むべきか判断できます。

たとえば検索広告とディスプレイ広告、媒体の違いなど獲得チャネルによってもLTVは異なってきますので、LTVの傾向を掴むことで媒体ごとの特性を理解するのもおすすめです。

LTVを最大化するために広告配信で出来ること

LTVを最大化させるためには下記の4点に留意する必要があります。

  • 購買単価の向上
  • 購買頻度の向上
  • 平均継続期間の伸長(=解約率の低下)
  • 利益率の向上

広告配信の文脈で寄与できるのは、購買単価の向上ですね。より価格の高い商品やサービスを広告経由で購入してもらえるように工夫することで、LTV伸長に貢献できます。

その他の部分に関しては、商品開発やサービス改善など、広告以外の影響が大です。広告運用者という立場からすると、介入できない指標とみなして問題ありませんが、適宜ウォッチしておくと、施策へのフィードバックが可能になります。例えばあるサービス改善が行われたことで解約率が下がったとしたら、その改善点を広告の訴求に転用する、などといった活用方法が考えられます。

LTVベースで上限CPAを決める実践例

現実のビジネスに即した例をみてみましょう。前提条件として提示している各要素が、LTVを決める4要素のどれにあてはまるのかを考えながら読んでいただけると、より理解が深まると思います。なお数値はある程度現実味があるものですが、すべて架空値です。

※上限CPAとは、超えると広告配信により赤字が出るライン、という意味合いです。現実的には目標CPAは、上限CPAよりも低いところに設定するケースがほとんどです。

【例1】月謝制学習塾への集客

平均月謝:30,000円
平均継続期間:6ヶ月
利益率:15%
広告配信のCVポイント:資料請求完了
資料請求完了からの入塾率:40%
(1)初月月謝をベースに設定した上限CPA

30,000×1×0.15×0.4=1,800円

(2)LTVベースで設定した上限CPA

30,000×6×1×0.15×0.4=10,800円

平均購買頻度は、月謝制なので1回/月と考えます。継続期間も、単位を揃えて○ヶ月という軸で考えましょう。また学習塾ビジネスにおいては、資料請求完了自体で課金が発生するわけではありません。そのため資料請求から実際に入塾する割合を考慮し、利益率に組み込む必要があります。

(1)はかなり厳しい目標設定になります。クリック単価の相場観(非ブランド指名キーワードは300~600円程度)からしても、恐らくブランド指名検索配信以外は全くCPAが合わないことが予想されます。静止画のリマーケティングですら厳しいでしょう。

一方(2)だとかなり余裕が出ます。指名検索のボリュームにもよるのですが、静止画のリマーケティングはもちろん、非指名キーワードでの検索広告配信や、所有アセットの状況によってはTrueView for Action(YouTube広告)や、SNS広告にもチャレンジできる可能性がありそうです。

【例2】月額課金制の動画配信サブスクリプション加入促進

月額利用料:1,000円
月次解約率:5%
利益率:25%
(3)初月利用料をベースに設定した上限CPA

1,000×1×0.25=250円

(4)LTVベースで設定した上限CPA

1,000×1÷0.05×0.25=5,000円

月次課金なので、購買頻度は1回/月ですね。継続期間=1/解約率ですから、月次解約率の5%の逆数を取ると平均継続期間が20ヶ月とわかります。

LTVを考慮した上限CPAが5,000円というのは、月額1,000円のサービスの上限CPAとしては一見大博打に見えるかもしれません。しかし逆の観方をすると、新規顧客獲得を最大限に行いたいタイミングであれば、CPA5,000円までは踏み込んでも赤字にならないとも言えます。LTVを意識した上限CPA設定メリットが見えやすい事例ですね。

また解約率の低いサービスは、別の言い方をすればユーザー満足度が高いサービスとも言えます。ユーザーを満足させられるサービスならばより新規顧客獲得に投じる資金のウエイトを高めても投資対効果が見合いやすく、成長の良いスパイラルに乗ることができます。これも直観と整合する結論と言えそうです。

LTVを活用した目標設定でさらに成果を伸ばすために

ここまでは具体例と合わせて、LTVを用いたCPA目標の設定について見てきました。大枠は上記で十分なのですが、さらに成果に深くコミットしたい人なら抑えておくべき観点を3つ紹介します。

1. どういった粒度のLTVを参考にするかを検討し、媒体やターゲティングごとのLTVを施策継続や予算配分の判断材料にする

上記の実践例では説明をシンプルにするために、全ての広告チャネルを一挙に捉えて上限CPAを考えました。大枠を捉えるにはこれでも良いのですが、どの程度まで細かくLTVを見ていくべきかは、状況により異なります。掛けられる手数とのバランスを考慮して決めましょう。

現実問題としては、予算規模が大きくなったり配信媒体数が増えたりといった状況になると、チャネルごとの投資可否判断や予算アロケーションを検討する必要が出て来ることが多いです。

その際には、全体としてのLTVだけでなく、流入チャネルごとのLTVを目標設定に活用するのがおすすめです。予算の使い方に合理性や説得力が伴ってきますし、より広告配信の成果と実際のビジネス成果が直結しやすくなります。

2. LTVは固定値でなく変動値なので、定期的に目標の見直しを行う

LTVを決める4つの要素の項で説明したとおり、LTVは各指標を入力して得られる出力値です。入力が変われば出力もかわります。ですから例えば、CRM施策が上手くいったりサービスの質が改善したりして解約率がさがったら、LTVは向上しますよね。

そのため、LTVが向上した場合には広告配信予算を増やしたり上限CPAをゆるめに設定し直し、新規顧客獲得数を最大化させるという判断も有りえます。こういった判断を迅速に行うためにも、獲得状況や広告とは直接関係のなさそうな指標に関しても把握しておくことが重要です。

3. 何ヶ月後に獲得ユーザー由来の利益で黒字化するか事前に試算しておく

LTV基準で目標CPAを設定した場合には、獲得して数ヶ月は赤字の状態が続くことになります。【例2】の設定で、仮にCPA4,000円で新規顧客を獲得したとすれば、5ヶ月目でやっと黒字転換する計算です。このあたりを織り込んで、許容幅や広告費の投下額を検討したほうが良いでしょう。

まとめ

LTVが広告配信の目標設定に強く関連する指標ということがわかっていただけたかと思います。また目標数値はどのような背景で設定されているのかを意識することで、投入できる配信メディアやターゲティングの選定精度を高めたり、配信強化や弱化の判断基準の補強にも繋げられたりするので、ぜひご活用ください。

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