ウェブ広告代理店がクライアントと行う定期的な打ち合わせは、ここ1年くらいはオンラインミーティングに移行していることも多いと思います。個人的な観測範囲内でいうと、ほとんどがオンライン化し、打ち合わせ場所への移動時間がまるまるなくなったことで、より事前準備や資料作成に時間をかけられるようになった気がしています。
ちなみに、実はアナグラムには、定例会や定例会資料のテンプレートのようなものは存在しません。「誰に」「いつ」「何のために」という点を熟慮し、状況に即した方法およびフォーマットを選択およびカスタマイズすることが、一見回り道のようで結局は成果とお客様の満足に最もコミットできると考えているからです。
本記事では運用型広告の定例会とは「何のため・誰のため」の営みなのかを確認しつつ、定例会で用いる資料の型をクライアントのレイヤーに応じて調節する方法の一例を紹介します。
目次
そもそも定例会と資料って何のためにあるの?
定例会=成果の進捗共有と、目線合わせを定期的に行う場
リスティング広告を始めとする運用型広告をビジネスとしてお引き受けする際、広告主であるクライアントから大切なお金やブランドといった資産を預かり、文字通り運用することになります。ですから何らかのかたちで、広告運用の成果共有が必須なのは異論はないでしょう。
筆者は定例会を「成果共有をある程度まとまったボリュームで行い、今後の方針策定のための目線合わせを定期的に行う場」だと定義しています。
より具体的に書いてみます。
成果が順調ならばその要因を解明し、再現できる形のナレッジとして蓄積及び共有したり、さらに伸ばすためにはどうすればよいかの議論の場となればよいでしょう。不振ならばどの要因がクリティカルだったのかを突き止め、適切な方向付けをし、どうやって立て直すのが見えればよいと思います。
プラスアルファで、今後さらに配信の成果、ひいてはクライアントのビジネス自体を伸ばしていく糸口となる議論をする場にできればベターですね。
定例会の資料=定例会の議論を活性化するための「たたき台」
アナグラムには決まったフォーマットがない、と冒頭で述べたのはこれが主な理由です。資料の型がガチっときまっていたら、資料に記載する内容も、定例会の進め方もガチッと固まってしまって、いわゆる不確実性のないものになってしまいます。不確実性があると、話の発展する方向によっては思わぬ発見があったり、さらに成果を伸ばすための糸口がみえることもあったりします。
もちろん、予定通り・型どおりに進む定例会も悪くはないのですが、端的に言って「面白くない定例会」になってしまいがちです。それなら資料だけ作成してお渡しするのと大差ないので、あえて時間をとってまでやることではないと筆者は考えます。
ある程度時間や思考の余白がないと議論は活性化しづらいので、準備する資料もこのあたりを意識して準備をすると、定例会がより実りの多いものになるのではないでしょうか。
定例会と資料って誰のためのものなの?
第一義的にはクライアントのためのもの。しかし実はクライアントを担当する自身のためにもなる。
当然クライアントでしょう!と心の中で答えたかもしれません。もちろんその通りで、それは大前提です。しかし実はそのクライアントと向き合うご自身のためにもなる、というのはここで明言しておきたいです。
というのも、普段のご自身の思考や投じた施策の振り返りをクライアントにうまく伝わる形にまで整えて再構築し、アウトプットするのは、自身の思考過程や履歴の整理に他ならないからです。整理・記録されていない思考はただの断片ですから、改めてまとめ直すことで自身の思考過程をメタ的に認識でき、よりよい次の一手につながり得ます。
余談ですが、僕はクライアントとの打ち合わせが大好きです。そのビジネスについて自分よりも圧倒的に詳しいプロと、そのビジネスをクライアント以上に理解しようとしていて、かつ運用型広告のプロである筆者が、自身の知見や配信結果から得られた見解を提供し、さらにそのビジネスを伸ばすために頭を絞る場ですから、楽しくないはずがありません。本気の人同士が話すから楽しいんですよね、と思っています。
もしかしたらこの記事の読者の方にも、定例会は大変だしできることなら避けたい・あまりやりたくないと思っている方がいらっしゃるかもしれません。そんな方は、情けは人のためにならず、ではないですが、結局定例会のためにビシッと準備をすると、クライアントのみならずご自身のためにもなる、ということを忘れないでください。
どんな資料を準備すればいいの?
冒頭に触れたとおり唯一の万能解はありません。しかし定例会に出席するクライアントの役職や社内での役割に応じて、ある程度の類型化は可能です。以下では出席する方のレイヤーに応じて、その資料がどういう役割を果たすのか、どういった要素を盛り込めばより活発なディスカッションの叩き台となるのかをまとめます。
もちろん定例会に出席されるクライアントは複数いることも多いと思いますが、大は小を兼ねる理論に基づき、最も高いレイヤーの方を想定するとよいでしょう。
以下に紹介するのは具体的な事例、というよりは記載すべき資料のコンテンツの軸や粒度をまとめていますので、具体的な中身はみなさまのクライアントに応じて適宜選択し、採用するしないを判断することを推奨します。
ケース1:事業責任者・企業の代表
意思決定にフォーカスし、余分な情報と時間を極力そぎ落とし、内容を絞り込む
いわゆる決裁者に直接相対するケースです。一般的にこのレイヤーの方は、クライアント社内のどなたよりも忙しいことが多いです。それにも関わらず、敢えてウェブ広告代理店の定例会に参加されるからには、重要な意味があると推し量るべきでしょう。例えば以下のような理由が想定されます。
- 事業の収益ポートフォリオの中でも、運用型広告領域の占めるウエイトが大きい。よって運用型広告の成否が事業の成否に直結し、その成果を定点観測し、直接確認する重要度と緊急性が高いため
- 忙しすぎて報告資料など見る時間がなかなか確保できない。だから強制的にスケジュールを押さえて、広告成果の進捗を同期コミュニケーションで定点観測し、スピーディな意思決定をしやすくするため
- 社外の運用型広告のプロの視点からの知見や見解を取り入れ、今後の自社ビジネス成長のヒントとなる何かをつかむため
すなわち、限られた時間を有効活用し、何らかの具体的なアクションをとったりインスピレーションを得たりなど、高度な意思決定に役立てられる場として定例会を捉えているといえそうです。この点に配慮し、資料の構成を考えてみるとよいでしょう。ポイントをまとめると下記になります。
- 事業や成果へのインパクトが大きいポイントだけを、具体的に資料に落とし込む(エグゼクティブサマリ)
- 相談事やお願い事項を資料に盛り込む際は、前提条件をすべて整えた上で「GO」か「no GO」が即断できるようにする
- 市場の大トレンドがつかめるデータを適宜添付し、今後の数ヶ月単位・年単位での見通しを、暫定でいいのでポジションをとって見解を示しておく
なんでもかんでもてんこ盛りの資料は、作る側からすれば言ってないことがないわけですから、ある意味で安心できるモノかもしれません。とはいえ、その資料は誰のためのものなのか、今一度思いを馳せてみてください。
クライアントの意思決定に寄与しない情報は、1ページたりとも必要ありません。一旦全部盛りの資料を作ったとしても、このレイヤーの方に見せるものは、削り込んで削り込んで、本当に重要な部分だけを載せるようにし、先方の脳のメモリを無駄遣いしないようにする配慮が肝要です。
資料を絞り込んで生まれた時間で、重要な事項の議論や運用型広告の隣接領域の相談にのったり、決断のための時間を多く確保できるように進行することを心がけましょう。
ケース2:マーケティング部門の責任者
マーケティングチャネルや社内リソースの全体最適を意識した内容を盛り込む
次はマーケティング部門を統括される方に相対する場合です。マーケティング活動の中の1チャネルとしての運用型広告を見ている、という位置づけだと考えられます。もちろん定例会に出席されるということは、その方にとって臨場する程度には運用型広告チャネルの重要度は高いと認識されていると思われます。
基本的な資料の方向性はケース1に準じます。ある程度までは決裁権がある方が多いので、成果や資料も含めたコミュニケーションの取り方で信頼貯金を積むことができれば、「やるべきだけど、ハードルが高いこと」の実現のためにもご協力いただける可能性が高まるでしょう。
1点注意が必要なことがあります。結局のところ企業のマーケティング責任者は、マーケティング活動に利用可能な「ヒト」「モノ」「カネ」をいかにうまく配分して全体最適を図るかに執心しているはずです。
ですから何らかの提案やお願いをする際には、運用型広告領域の部分最適に陥らないように配慮した上で打診することは絶対条件。現状のクライアントの「ヒト」「モノ」「カネ」のリソース状況からして現実的なのか否か、その配分を敢えて変えてまで実行する価値があることなのか否かを考え抜いた上で、資料に落とし込み、明示することが肝要です。
ケース3:マーケティング部門の実務担当者
資料が一人歩きに耐えられ、かつ先方担当者が社内説明に使いやすい資料に。
クライアントが大きな企業体で、部門が細かく分割されている場合を考えてみます。もしかしたら定例会に出てくる先方の担当者は、いわゆるほとんど決裁権のない実務担当者の場合もあるかと思います。
定例会資料の準備においては、実はこのケースが一番難しいと筆者は感じています。それは下記の理由からです。
定例会後に資料が「一人歩き」する可能性が極めて高い
おそらく定例会が終わった後、担当者の方は社内で報告を求められることが多いです。その際、資料作成者が口頭で補足したことなどは、必ずしも伝わるとは限りません。
現場担当者は、ともすれば自身の担当領域の部分最適(つまり広告の配信成果)で満足、という状況に陥りがち
もちろん広告の成果(コンバージョン数やコンバージョン単価など)が良いにこしたことはありません。が、広告経由が良好でも、例えばほかチャネルが大きく凹み、企業全体としては目標未達の状況ならば、それで満足していてはビジネス全体が伸びていきません。ほかチャネルの凹みをリカバーするために広告にさらに投資することを提言したり、強力な外部要因によって広告投資を増しても効果が見込めないような状況なら広告チャネルへの投資を減らすことを提言することもありえます。とにかく、広告に閉じた話の資料にしておかないことが肝要です。
ですからこのタイプの担当者との打ち合わせの資料には、可能な限り多くのデータを載せ、かつ記載したデータの解釈まで資料に含めるのがおすすめです。「誰が見ても同じ解釈になる資料」となることを殊更に強く意識する必要があるので、資料内に伝えるべき内容を100%載せるように心がけます。
もちろん、内容が盛りだくさんになりすぎたのをそのままにしておくと、定例会の時間はいくらあっても足りません。ですから、細かいテクニックにはなるのですが、本編の論旨を補強するような細かいデータは資料の巻末にappendixとして追加資料として載せておくのがおすすめです。あなたの作った定例会資料をそのまま社内説明に使ってもらって、先方の担当者が社内で信頼を勝ち取れるように整えるところまで持っていけると最高です。
余談ですが、アナグラムには、クライアントの窓口担当者が昇進すると、ものすごくうれしがる文化があったりします。僕たちが広告運用を引き受けさせていただいて、お客様のビジネスが伸びて、そして窓口の方のクライアント社内評価があがる。なかなか素敵なスパイラルだと思いませんか?
まとめ
もしかしたら、義務感や惰性でやっている仕事になっているかもしれないクライアントとの定例会。でも実は、定例会はお客様に自身の仕事の成果を直接お伝えし、良くも悪くも手触り感のあるフィードバックをいただける場でもあります。そしてなにより、自身の頭の整理に役に立ちます。
もちろん、丸腰で報告会に臨む方はいないと思いますが、相手に応じた資料をしっかりと作り込んで準備をしておくことで、お客様の満足度は高められます。あなたの新たなクライアントの担当者がどのタイプの方かをあらかじめ知っておけば、よりお客様に寄り添った資料や定例会を準備することもできます。
定例会やその資料に悩んだら、この記事のことを思い出して再度読んでみてください。きっとそのときのあなたの状況に応じて、新たな発見があるはずです。