Netflix、Hulu、Amazon Prime Videoなど、定期額の動画配信サービス(VOD※)は遅くともコロナの時代から大きく普及しており、大勢の人の日常にとって欠かせない存在になったのではないでしょうか。
しかし最近では、多くの動画配信プラットフォームが通常のサブスクリプションの月額プランに加え、より安価な広告付きプランを提供するようになったので、広告媒体としても注目され始めました。
この背景を踏まえて、動画配信サービスの広告フォーマットについて動向を見ていきましょう。
※VOD=Video On Demandの略
広告付きVODとは?
広告付きVOD(AVOD)とは、ユーザーが支払う利用料金を安くする代わりに動画配信プラットフォーム上に広告が掲載される、という料金プランの動画配信サービスを指しています。かつては広告なしのプラットフォームだった動画配信大手のNetflixは昨年10月に、今後は低価格の広告付きオプションを提供すると発表し、大きな話題を呼びました。
参考:Netflix Starting From $6.99 a Month - Netflix
同年に同様のプランを開始した競合のDisney+と並んで、アマゾンも自社のVODサービスのAmazon Prime Videoに広告付きプランを来年早々に展開すると発表し、次から次へとメジャーな動画配信サービスが広告付きプランを導入している動向があります。
参考:Amazon Prime Video will start showing ads early next year | TechCrunch
そのため、かつては広告の掲載がなかった動画配信サービスも、広告主にとって非常に興味深いものとなっています。
広告付きプランが増える背景
もちろん、広告付きプランが偶然に増えてきているわけではない、と考えるのが自然でしょう。
この傾向の背景の一つとして、まず動画配信サービス分野の成長の停滞があると思われます。
画像引用元:Streaming slowdown making players rethink offerings to prevent subscription churn
新型コロナウイルスが大流行した2年間は、多くの人々が自宅で自由な時間を過ごしたため、NetflixやDisney+といったVODサービスは膨大なユーザー数を記録することができました。しかし、多くの国ではコロナ後もコンテンツの視聴習慣は劇的に変化していないものの、ドイツの経営コンサルティング会社Simon Kucher社の分析によれば、視聴時間のわずかな減少傾向は確かに見て取れます。インドを除き、調査対象となったすべての国で、「前年よりも多くのストリーミング・コンテンツを視聴した」と回答したユーザーが明らかに減少しています。
この事実だけでもVODプラットフォーム間の競争は激化し、新しいユーザーの獲得も今までのやり方では埒が明かないことは想像に難くないでしょう。さらに、昨今のインフレの影響で、多くの国で生活費も上昇しており、ユーザーがサブスクリプションを解約したり、より安いプランに乗り換えたりしていることも少なくありません。
例えば、Yahoo経由で発表されたTechRadar社の調査によると、米国と英国で解約されたVOD契約の約半分は費用が原因だったことが明らかになりました。
参考:Cancel my subscription – cost of living crisis is the biggest reason for those logging off
このような状況こそが、以前は広告なしのサービスから広告収入モデルへの転換を後押ししている可能性が高いと思われます。
広告付きVODは成長市場か
デジタルマーケティングを専門とする市場調査会社eMarketerも、広告付きの動画配信サービスの利用の増加を予測している。
画像引用:The age of AVOD is coming - Insider Intelligence Trends, Forecasts & Statistics
eMarketerによると、広告付きVODコンテンツの視聴は、2026年までに、最低月に1回動画ストリーミングコンテンツを視聴する全ユーザーの50.5%に達すると見込まれています。
また、Netflixのような従来広告なしのプラットフォームが提供する広告付きプランの利用者は、現在まだやや少ないとしても、中長期的には変わる可能性がありそうです。
参考:Netflix CEO: “We’re Only Just Getting Started” With AVOD | AdExchanger
そもそも広告付きプラン自体がまだ比較的新しい場合は、ユーザー数がそれほど多くないことも当然ですが、動画配信サービスへの広告掲載に対して、一般的にはユーザーに比較的好意的に受け入れられていることも興味深く、今後のポテンシャルに期待できる手掛かりにもなります。
顧客データ分析プロバイダーのquantilope社の調査によると、米国では回答者の21%が動画ストリーミング・プラットフォームの広告に「非常に肯定的」で、23%も「肯定的」でした。
また、Netflixに関して言えば、アカウント(やパスワード)の共有を防止する一環として、以前からパスワードを共有していた人々に対し、より安価な広告付きプランを魅力的な選択肢として位置づける動きもありますし、それなりに反応が良いようです。
参考:The Netflix Password Sharing Crackdown Is Officially Working - Forbes
広告付きプランの利用者デモグラに偏りが?
確かに、コスト面で決定的な優位性がある広告付きプランでは徐々にリーチできるユーザー数も多くなると予測できますが、こうして利用者層のデモグラの特徴が気になる広告主もいるかと思われます。
例えば、あえてより安い広告付きプランを選ぶユーザーは、購買力が比較的低い傾向があるからであって、高価格帯の商品の広告なら逆に広告との相性が悪いなど、と懸念するケースも理論上あり得ます。
しかし、サブスクリプション関連の分析サービスのAntenna社が2021年に行った調査によると、その心配は特にないようです。
画像引用元:Are Consumers of Ad-Free and Ad-Supported Plans Demographically Different? - Antenna Blog
同調査によると、VODプラットフォームのDiscovery+、HBO Max、Hulu、Paramount+、Peacockのユーザーは、広告付き・広告なしのどちらのプランを選んだかにかかわらず、それぞれの属性には人口統計学的にほとんど差がなかったという結果が出ました。このことから、おそらくNetflixやDisney+などでも同じような傾向があると推測できます。
動画広告がますますフォーカスになる兆し
近年、大手のVODサービスから、徐々に広告付きモデルが登場していることは、動画広告の市場が全体に拡大し、細分化している文脈もあることが考えられます。
例えば、マイクロソフトは最近、独自の動画広告プロダクト「Video and Connected TV (CTV) Ads」を発表し、YouTubeも今年からCTVへの30秒スキップ不可のフォーマットを発表するなど、上述の広告付きVODを展開する数々の最近の取り組みに加え、動画広告の他の分野でも新しいアプローチが登場しています。
参考:Microsoft Advertising launches new video ad product - SearchEngineLand
参考:The world watches YouTube: Highlights from Brandcast 2023
これらのトレンドやイノベーションは、大小を問わず、動画広告が潜在顧客とのコミュニケーションにおいて今後ますます中心的な役割を果たす可能性が高いことを示しているのではないでしょうか。