ドイツから日本へ来て気づいた、運用型広告ビジネス上の3つの異文化

ドイツから日本へ来て気づいた、運用型広告ビジネス上の3つの異文化
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最初にお断わりの一言を申し上げたいと思います。

私は「日本は…」、あるいは「海外は…」などという語り口で始まることが多いような「異文化論」や「異文化体験談」というものが大の苦手です。その背景によく文化を一枚岩的なものにしか捉えようとしない姿勢と、仮にその違う文化に触れた時点で自分が何かのカルチャーショックを受けなければならないという謎の前提があるからです。

高さの感覚に関しては個人差があるとしても、乗り越えられない文化の壁などというものが存在しないと確信しています。

しかしです。だからといって、すべてが同じだとか、海外から日本へ渡ってきた私はたった一度も「あ、これはやっぱり違うな」と思ったことがないのかというと、いや、そうでもないと答えざるを得ないです。カルチャーショックの領域ではないにせよ、例えば仕事上、つまり運用型広告に携わることによって文化の違いやそれに起因するものに出合うことがよくありました。その中から、3つに絞って書いていきたいと思います。

1. 日本のリスティング広告は海外よりもコピーライティングの要素が強い

周知のごとく、リスティング広告では限られた文字数で広告文を書かなければいけません。それは日本も海外もまったく一緒です。しかも一番いいと感じたコピーに大体1つ字余りがあるのも世界共通でしょう。しかしながら、それでも日本と海外は同じ文字数の制限以内でできることが明確に違うと主張します。さて、それはどういう意味でしょうか?

例えば、「オラオラ系ファッションのECサイトに夏コレクションが入荷したので、広告を書きなさい」という課題を振られたら、どのような広告文を書けるのでしょうか?

20160607-01

はい。あくまでも例である上に、恐らくお世辞にもイケているコピーとは言えまいが、それはさておき、ここで一番申し上げたいことは、日本語では広告文にそこまでアレンジの振り幅があるということです。つまり、英語やドイツ語などの横文字系の言語になると、例えば全く同じアプローチを再現しようとしたら、不可能ではないものの、非常に難しくなっていると言えます。それを説明するのにまた日本語の方を見ていきましょう。書体・文字・記号などの使い分けも勿論影響していますが、もっとシンプルな理由があります。

日本語は文字単位で情報の密度が高い言語だということです。ほとんどそれに尽きます。広告文に実際の出番があるかはかなり疑わしいが、先ほど申し上げた「情報の密度」はちなみに5文字です。(※半角で数えた場合10文字相当)それに対してアルファベット表記の Jouhou no Mitsudo も英語訳の Depth of Information も辛うじて広告の見出しに収まるレベルです。しかも両方ともに2つの空白があるせいで2文字分も更に使われるので、コピーライターの心にまで空白がポッカリと開いてしまうのではありませんか。商材などによって例外が確かにあっても、海外には「何を」「どこで」「いくら」という情報の羅列に終始する広告が多いというのも事実であって、文字数制限以前の言語特有の要因によるものだと考えられます。

ただし、幸か不幸かコピーにはこれといった正解もまた存在しないわけです。自分が悪戦苦闘して書いたお気に入りのコピーが必ずしも一番優秀なわけではないこともよくある話です。そして、リスティング広告はすぐ結果が数字という形で表れ、いやでも運用結果を知らせてくれるのですね。

でも何回もテストした挙句、無機質で箇条書きに近い広告文が結局一番いい成果を出してくれる時だってざらにあります。しかし、広告文の最適化という観点から、日本語は表現と表記に関する許容範囲がより広いことがかなりのプラス要因になっていると思います。言い換えれば、その特徴を活かしていないと、もったいないことをしているとさえ言えます。

※言うまでもないことですが、どこまで活かせるかは、扱っている商材やブランドイメージ、ターゲット層などによって表現のレパートリーが大きく左右されますので、要注意です。

2. 自動化ツールへの志向が控えめ

国内外を問わず、リスティング広告を語る上で「自動化」という言葉がよく登場してくるものです。いや、場合によってはむしろ切っても切れない関係として語られることも少なからずあると思います。その中に自動入札管理は言うまでもなく、アカウント構築、広告文・キーワード作成、除外キーワードの追加に至るまで、運用上に手間のかかるタスクを代わりにしてくれる(と主張する)ツールもあるので、注目を浴びているのも無理のないことです。

しかし、日本へ来てからというもの、上記の「自動化」という概念の存在感が比較的薄くなったと気がするのはなぜでしょう。それは元からWebマーケティングにおけるツール志向が強いドイツから来たことによるものかもしれないです。

例えば、ドイツにも日本と同じく米国の大手自動入札ツールの普及率が高いにもかかわらず、その分野だけ見てもまたドイツには国産ツールがたくさん存在していて、日本と比べて2倍近くあります。国が違えば自動化ツールの比重だけではなく、使う側のコンプライアンスもやはり違いますね。

しかし、根本的な問題は自動化ツールを利用するか否かではなく、運用上のタスクのどこを自動化できるかを理解することであると、来日してから改めて認識しました。リスティング広告にも文化の風潮があるのは仕方のないことかもしれないが、それにとらわれすぎずにいて、例えば自動化ツールに関しても常に必要性を考えることが大事かと思います。

既に機械学習もAIの技術が凄まじい速さで進歩を遂げて、自動化が今後さらに進歩することはほぼ間違いないでしょう。ただ、それを「自動化ツール=万能薬」という方程式に読み違えてしまうことは危険です。ちなみに、自動化を無反省に拒否することも同じです。同じツールでも利用している人が違えば効果が違うように、やはり機械だけでは賄いきれない部分が多く、広告を見るのが人間だから、作る人間の判断が直接問われる要素が依然として残るでしょう。

3. EC市場における食品などの存在感が違う

ここでまた質問の登場です。例えば、ビール(それも入手困難な地ビールではなく、普通のビールの場合)を1ケース買うとして、どこで買いますか?

このような問に対して、おそらく国によって一番よく出てくる答えが違うと思います。ドイツ人の多くはきっと「近くのスーパーで」と答えるでしょう。しかし、日本人ならどうでしょうか?ドイツ人と同様にスーパーやコンビニで買う人は間違いなくいるが、ネットで注文する人も結構多いのではないでしょうか。この傾向も検索結果画面に現れます。

ビール関連で一通り日本語・英語・ドイツ語でそれぞれ検索してみたところ、日本語の場合だけはそれがB2C向けのECサイトの色に染まったのに対して、英語とドイツ語はというと、クラフトビール業者、知恵袋系のページ、運送用包装グッズのB2B向けサイト、などECサイトが混在していた、少しまとまらない印象が残りました。特にあれほどビールを飲んでいるイメージがあるドイツでさえ、ウェブ上ではややニッチ市場の部類に入ります。

いや、それは別にビールに限った話ではありません。数年前にネットでペットボトルの水を箱買いする習慣が定着して以来、様々な食品・飲料をネットで購入することが今や日本では当たり前のようになっています。海外にも同じ購買行動があるが、やはり日本とは勢いが違います。お魚やお肉、フルーツなど、新鮮で痛みやすいものまでネット通販が一般化しているのも、日本ほど物流が進歩している国はないからこそ可能になったでしょう。と言いながら、方向が逆であって、そういったニーズがあって物流が発達したと考えられなくもないです。いずれにせよ、ECの生態系の一部に当たるリスティング広告の施策にも反映していて、必要不可欠になるわけです。リピート率の高い日用品ならばどう売るか、お中元など贈り物の時期にどう訴求するか、期間限定品から訳あり品に至るまで、食品へのリスティング広告の施策が日本ほど多様化している国もそうはないと言っても過言ではないでしょう。

まとめ

以上、日本へ来てビジネス上に気づいた「違い」でしたが、「日本のリスティング広告にこういう傾向が強いかな」という風に読んでいただきたいです。

違いが確実に存在していても、外国に行って現地で新しいものに出合った時に、ついそれこそが「その文化」だと捉えてしまう錯覚が働くのはよくあるので、全部が全部そうではないのは忘れてはならないことです。

同じ国でも社風によって国境を越える以上の異文化体験をすることがありますし、ビールやフルーツをネット通販で買うドイツ人もこの世にいます。よく「文化の壁」があると言いますが、その一番硬くてしぶとい素材が固定観念にすぎないのですから。

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