「ホラクラシー」と「オルフェウス」でうまくいく!アナグラム流、組織育成の仕組み

「ホラクラシー」と「オルフェウス」でうまくいく!アナグラム流、組織育成の仕組み
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AirbnbやZapposが採用していることで脚光を浴びているホラクラシー(Holacracy)という取り組みは、最早説明不要なほどに広がっていますよね。日本ではIT/Web業界の求人・採用に特化したGreenを運営するアトラエさん、「納品のない受託開発」で有名になったソニックガーデンさんあたりが有名じゃないかと思います。(ほかは知らないです。あれば教えて下さい。いろいろお話したいので)

ホラクラシーは、従来から当たり前のように組織に採用されていた階層社会、つまり、トップダウンのヒエラルキーによって意思決定がなされるのとは対照的に、組織全体に権限を分散させ意思決定させることで、自走する組織を保つための社会技術または組織のガバナンス・マネジメント方法を指します。

参考:組織の新しいカタチ「Holacracy(ホラクラシー)」
※こちらの記事がホラクラシー型組織について詳しく書いてあります。

ヒエラルキー型の組織が20世紀の一般的な組織のあり方だとするのであれば、ホラクラシー型の組織は21世紀型の組織形態だ!、というにはまだ時期早々かもしれませんが、真新しい取り組みであることは疑う余地がありません。前者側から見ると、同じ視点に立たなければ理解できないことも非常に多くあります。

アナグラムではこれまでにさまざまな組織形態に取り組み、失敗を繰り返し、決して小さくない代償を支払い、傷つき、今の形、つまり、「オルフェウス型」組織にたどり着きます。その工程をアナグラムの辿った軌跡から書き出していきます。

ヒエラルキー型の組織からの脱却

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※旧体制のアナグラムは戦略家中心のヒエラルキー(Hierarchy)型組織でした。

以前のアナグラムは、良くも悪くも絶対的な戦略家(ストラテジスト)が全てのクライアントの戦略立案を行い、戦術の指南まで行っていました。これにより、営業から運用、分析までのフォローを一気通貫で行うことができ、成果のゆらぎを無くし、高い成果を出し続けることができました。

ところが、運用型広告のテクノロジーは私たちの想像を超えるレベルで進化し続けています。次々にリリースされる新機能に付け加え、時代とともに増え続けるデバイス。これら全てをたった一人の担当者が全てをフォローするのはほぼ不可能になってきました。そこで、私たちは2014年に大きな体制変更を行いました。

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※現在のアナグラム。チームで成果を上げ続ける仕組み。一般的にはホラクラシー(Holacracy)型組織とも呼ばれますが、私たちはオルフェウス型組織と呼んでいます。

権限委譲により、スピーディーな意志決定を

月並みではありますが、リスティング広告を筆頭とする運用型広告には、数多くの意思決定を、絶えず、スピーディーに行わなければなりません。場合によっては対応のスピードが成果を大きく分けてしまうこともあるため、現場での判断が必要不可欠になります。

少し話がそれると、私は軍事的な読み物や歴史を探るのを好むのですが、これは第二次世界大戦を境に、テクノロジーや組織のあり方そのものが局地的な勝敗を分けだした傾向と非常に酷似しているのではないかと気付いたことを発端としています。その中で代表的な例がベトナム戦争です。圧倒的な軍事力をもった米軍がゲリラ戦主体の戦で苦戦を強いられます。これ自体が大局的な勝敗を決めるわけではありませんでしたが、要素としては決して小さくなかったはずです。(軍事関連に関しては専門家ではないのでこれ以上の言及はしません)

話を戻します。これらを踏まえ、最低限のポリシーやミッションを組織全体で共有した上で、現場に直接係るチームごとに権限を分散・委譲し、意思決定を現場で迅速に行うこと(※1)を目的とし、組織形態を再編しました。

勘の良い方はお気づきでしょうが、これまでのヒエラルキー型の組織形態が性悪説で運営されていることを前提とすると、私たちの組織形態は性善説で運営(※2)されているということになります。

(※1)権限委譲について:アナグラムでは一定の金額以下であれば誰の承認を得ずとも現場で決断して構わないというような、決済の権限が全てのコンサルタントにあります。更に言えば、契約の締結、解消、そういった権限ですら、基本的にはコンサルタントが持っています。

(※2)性善説で組織形態を構築するにはデメリットも数多くありますが、ここでは言及をさけ、次回以降でそちらもご紹介していきます。

"分業"とは異なる、チームのあり方

現在のアナグラムは、1つのクライアントに対し、ゴールを共有した上で2名~4名のチームを組み、役割を明確に分担します。顧客・競合分析、ポジショニング分析、過去データの解析、KPI設計、アカウント構築、運用など、多くのタスクを得意不得意であったり、現在抱えるそれぞれのタスクボリュームを元に適切に割り振っていきます。(※3)

更に、このチームは1つのクライアントに対するチームであり、固定化されるものではありません。クライアントごとに柔軟なチームを組み、それぞれが成果を上げるために真剣に取り組みます。例えば、不動産ビジネスを手がけるAチームの3名は、他のビジネスではバラバラのチームを組むこともあります。これが、アナグラムの現在の体制です。

(※3)役割を明確化することと、分業は全く異なる概念です。アナグラムでは分業は20世紀最大の発明であると同時に、21世紀では最大の足かせになると考えています。

二つの仕組みで、組織を活性化

ホラクラシー型の組織には致命的な弱点が幾つかあります。その中の代表的な1つは"小さくまとまってしまう"ということです。それを打破するために重要なのは、現状で満足しないこと、つまり、更によい方法があるはずだと常に意識を持つことです。その為、組織を活性化させる仕組みは非常に重要です。私たちが活性化の為に取り入れている手法が以下の2点になります。

  1. 毎週木曜日の午後に実務から強制的に切り離されるグロースハック
  2. チームでの役割の明確化

毎週木曜日の午後に実務から強制的に切り離されるグロースハック

グロースハックについてはグロースハックとはでも紹介しましたが、毎週木曜日午後13時-16時までの時間を半強制的に実務から切り離し、それぞれのクルー(※4)自身が関わっていないビジネスのアカウントを、実際の運用者とは異なる視点で分析を行い、皆の前で改善案をプレゼンテーションする取り組みです。

参考:アナグラムの文化、グロースハック(Growthhack)とは?

これらを行うことにより、他のチームでの最新の取り組みを目の当たりにすることが出来るメリットに付け加え、ヒヤリハットなどの細かなミスなどを発見することに大きく役立ちます。更には分析力、プレゼンテーション力も身につきます。グロースハックでは毎回成果を上げるために"建設的な批判"(※5)が行われています。

(※4)アナグラムではメンバーは乗船員であるということからクルーと呼びます。
(※5)"建設的な批判"は、指摘をする側も、指摘をされる側にも準備が必要です。重箱の角を突くような無意味な指摘には何の価値もありません。

チームでの役割の明確化

また、チームでの役割を明確にすることが非常に重要です。ここで言う役割とは、肩書きや職種のことではなく、1人が決まったことだけを行うような分業型の仕組みではなく、複数の役割を担うことも可能になるということです。

クルーの中には「テクノロジーに長けているが、コミュニケーションはそこまで得意ではない人」や、「戦略立案は得意だけれど、実装が苦手な人」など、さまざまな人がいます。人には人それぞれの得意不得意があるのを当然であるかの如く、それらを前提とした上で、可能な限りストレスのない状態をチーム内で実現させます。このように、案件ごとのチーム内での役割を明確化することで、最高のチーム作りを行っています。

アナグラムが目指す組織の形は、完全な「ホラクラシー型」組織ではない、指揮者のいないオーケストラ「オルフェウス型」の組織

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※アナグラムが目指すチームは、指揮者のいないオーケストラ。

本来のオーケストラは、指揮者のテンポに合わせ、指示通りに動き、初めて統率が取られます。これによって初めて素晴らしい音楽を奏でることが出来ていました。ところが、昔のアナグラムがそうだったように、この体制では成果を高レベルで均一化することは出来ても、指揮者の発想を超えたようなイノベーティブな発想、自由な発想、もっともっと良くなるはずという、運用型広告において非常に大事である渇望感を生み出すことは出来ません。また、スピード感にも欠けてしまいます。

それを解決するために参考にしたのが、指揮者のいないオーケストラ、オルフェウス室内管弦楽団(1972年に創設された。ニューヨーク州を拠点活動する楽団)の組織のあり方(オルフェウス・プロセス)でした。

オルフェウス・プロセスにおいて重要な事は以下の10個の約束をチーム間で共有することです。

  1. チームメンバーの役割を明確にする
  2. 目標・目的を決める
  3. スケジュールを決める
  4. 相手を尊重する双方向のコミュニケーションを心がける(意見を聞く、取り入れる)
  5. 全チームメンバーと情報・ルールを共有する
  6. 誤りを犯した場合、自分でそれを認め、報告する
  7. プロジェクトに関わる全員が責任を負う
  8. クライアントが不満を口にしたら、聞いたものが責任をもつ
  9. 最高の成果を上げる為に邁進する
  10. 個々のチームは、他のチームと相互に依存しあっていることを理解し、他のチームを支援するためにできることはなんでもする

当たり前のことばかりが書いてあると思われた方も多いかと思います。しかしながら、その"当たり前"が自身にとっての"当たり前"である反面、相手側の"当たり前"が必ずしもあなたの"当たり前"とは限らない、といった可能性に目をつぶることは決してよい判断ではありませんよね。だからこそ、明文化すべきなのです。

プロジェクト毎にチームを組み、チーム全員が目的に向かって自発的に動き、時に真剣に議論して協力し合いながらより最高の成果を出すことに真剣に向き合う。そんな取り組みが「オルフェウス・プロセス」です。

まとめ

「ホラクラシー型の組織」×「組織を活性化させる二つの仕組み」×「オルフェウス・プロセス」=「オルフェウス型組織」

名前は正直どのようなものでもいいのですが、私たちは今の組織形態を「オルフェウス型組織」と呼ぶことにしています。

チームでのコミットメント、グロースハックの導入により、組織のクルーたちが、責任感を持ち、常にポジティブに関わり合い、考えながら仕事をし、互いにリスクを取り、協力し合い、個人的な成長をも志し、組織のビジョンに共感し、システム思考を会得するとき、クライアントサイドにとって必須の存在として機能するようになると私たちは確信しています。

組織論だけでも、形だけでもチームは活性化しませんし、組織自体が生き物であるかのごとく、まわりを取り巻く環境や時代、成熟度(フェーズ)によって最適解は異なります。それらを理解した上で、マネジメント層は高い場所から目線を下ろすだけではなく、現場を知り、今何が起きているのかを明確に理解し、判断する必要があります。

私たちの組織論、オルフェウス型組織は21名の時点で非常にうまく行っている仕組みです。勿論、この取組がすべての組織にフィットするとは思っていませんし、現時点でも私たちは多くの問題を抱えているのも事実です。これからもまだまだクルーは増え続ける予定なので、数年後にはより新しい組織論に取り組んでいる可能性も高いです(※6)。そのためにも、常に考え続けなければなりませんね。

私たちの組織論が少しでもみなさんの組織の参考になれば幸いです。

(※6)既に連邦型組織の取り組みを一部に導入していたりします。その話はまた次の機会に。
The organization

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