ホラクラシー型組織の3つの弱点とその解決法

ホラクラシー型組織の3つの弱点とその解決法
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「ホラクラシー」と「オルフェウス」でうまくいく!アナグラム流、組織育成の仕組みでは現在のアナグラムの組織のあり方をご紹介しました。本当に多くの方々から反響を頂き、よくも悪くも組織のあり方というのは注目を集めるのだなと改めて感じたのでした。

その中でも「キレイ事だ!」とか、「性善説で出来た組織がうまく行った事例がない」ですとか、中には「階層化組織構造は責任所在や調整に時間を要するのは体感してますが、フラットな文鎮型がどの規模でも機能するとも思えない」といったかなり具体的なコメントも頂きました。

勿論、ホラクラシー型の組織(私たちは自身の組織形態をオルフェウス型組織と定義してますが、一般的にはホラクラシー型の組織ということなので、ここではホラクラシー型の組織として進めます)はさまざまな記事などで言及されている通り、完璧な組織ではありません。そこで、僕らが体感したホラクラシー型組織の3つの弱点を紹介するとともに、その解決策をご紹介し、如何にして強い組織へと変貌して行ったのかをご紹介したいと思います。


採用フィルター

ホラクラシー型組織の致命的な弱点としてあげられるのが、新たに組織へ参加したいと願うメンバーを承認するために与えるハードルの高さ、つまり採用フィルターの厳しさです。承認には大きく分けて2つあり、それは思考レベルと人間性(倫理レベル)です。

思考レベルについて

思考レベルで大事なことは複数あります。例えば論理的思考です。僕らの仕事の大多数の時間は数字を扱う仕事ですから、物事を論理的に考える癖がついていなければいけませんし、分業がなく、クライアントと直接接する仕事ですから、それらをしっかりとアウトプットできるスキルが必要不可欠です。かと言って特に細かいことは正直どうでもいいのですが、基本は筋が通っているか、他の視点からみても矛盾はしていないかなどを常に疑ってかかれるかどうかが重要と言えるでしょう。それらを応募や面接の段階で確認するにはフェルミ推定などの問題が適しており、採用試験ではさまざまな問題を導入しています。

また、思考レベルの確認において最も大事だと言えるのが、常に原理から考えることが出来るかどうかです。目の前で起こったことには複数の要素が絡み合っていることは間違いありませんが、その問題を本当の意味で解決するには常に原理から考える必要があります。極端なたとえですが、目の前にお腹を空かせた子供がいたとして、パンを与えることは根本的な問題の解決にはなりませんよね。本当の意味で救うのであれば、継続的にパンを自身で買えるレベルのお金を自分で稼ぎだす術を教えることこそが、常に原理から考えるということだと思います。これはリスティング広告で言えば、「CPAが高騰してしまった時に反射的に入札単価を引き下げる」のと同じで、もっともやってはいけないことであり、自身にも無意識レベルで仕事をした達成感があるという意味で、非常に罪の重い行為です。

つまり、安易な答えに飛びつかずに常に自身の思考を疑ってかかる思考があるか、癖づいているか、訓練すれば身につけられるレベルか、などを見極めることが非常に重要といえます。

人間性(倫理レベル)について

最も重要な要素は『相手を尊重できる』人の集まりであるということです。そのために文化への理解と人間性は譲れない要素となります。人間性は話した時のフィーリングなどが一番大きな判断となりますが、それだけでは判断できない時に面接者にこのような質問を投げかけてます。

「2人きりで2泊3日の合宿に出かけられるか?」

ちょっとうちの文化にフィットするかどうかわかりにくいな、という方の場合、「1泊はできるけど2泊は無理」などの回答が返ってきます。この回答は今後一緒に働けるかどうかを絶妙に表現している事例です。

過去のGoogleではエアポートテストというものがあったそうです。エアポートテストは「空港で飛行機が飛ばなくなってしまった場合、一晩を一緒にいる相手と過ごさなくてはいけないという場面を想定し、この人とそれができますか?」と聞くテストだそうで、これに近しい問いかけでもありますね。

参考:Googleの面接試験、一体どのような質問をされるのか?

こんなことを繰り返していくと急激に人数を増やすことは出来ません。実際に応募から採用まではおおよそ10%あるかないかです。しかしながら多様性は保ちつつも考え方や文化への理解はホラクラシー型組織においては絶対に侵されてはいけない領域で有るため、非常に慎重になる必要があります。

少し長くなりましたが、採用フィルターは論理と倫理を兼ね備えているか?が重要といえます。

直属の上司不在

2015年に初めての新卒が入社するまで、経験者の中途採用中心の採用を続けてきました。その為、中途入社組はこれまでに経験した組織での"当たり前"が通用しないことをまざまざと感じるのが直属の上司不在であるということです。

案件ごとにチームはあったとしても、直属の上司はいない。これによる弊害はコミュニケーションによるものが大多数です。はじめのうちは体制になれず、「新しいプロダクトについて」といった本業についてだったり、「福利厚生について」といった実務以外でのことについて、何気ない質問を誰に投げかければよいのかわからない、といったシチュエーションが多発しました。そのため、さまざまな悩み事についての相談窓口を明確にする必要がありました。

リスティング広告についての相談事、Facebook広告についての相談事、Instagram広告は?テクノロジーについては?コミュニケーションは?福利厚生や有休の取得、体制などについての相談事など、さまざまな専門性をもった窓口を設け、これを回避しました。

Organization chart_0
※連邦型組織のメソッドを取り入れた、少し前の組織図

ピーター・ドラッカーが提唱した連邦型組織とは、できるだけ多くの事業を独立した事業として組織しようとする原理のことです。そのメソッドの一部のみを抽出して従来の組織に活用した形になります。(アナグラムでは案件ごとに独立したチームが編成されます)

連邦型組織には適用上の5つの原則があります。

(1)連邦型組織では、中央と分権化された単位組織の双方が強力である必要がある。
(2)連邦型組織における単位組織は、自らのマネジメントを維持出来るだけの規模をもたなければならない。
(3)連邦型組織における単位組織は、それ自体が成長の可能性をもたなければならない。安定した事業を一つの単位組織にまとめ、将来性のある事業を別の単位組織にまとめるなどという組織の仕方は稚拙である。
(4)連邦型組織における単位組織の経営管理者には、広い活動領域と挑戦の機会を与えなければならない。
(5)連邦型組織では、あらゆる単位組織が、自らの事業、市場、製品をもち、対等の立場に立つ必要がある。

上記のことを原則として理解し、編成していくことが必要不可欠です。現状では良い状態でも、気づいた時には更に組織が膨れ上がり「自らのマネジメントを維持出来るだけの規模」を超えてしまう可能性もあります。それらは売上・利益率・稼働率・残業時間・余剰時間・満足度など、何かしらの"歪"として明確に現れてきますので、細かな異変に注意を払い続け、都度柔軟に対応していかなければなりません。

当たり前のことかもしれませんが、「なんでも聞いてね」「なんでも言ってね」ではダメなんですよね。気軽に聞ける環境、聞ける文化、フィードバックを自然に汲み上げる仕組みをマネジメント側がしっかりと用意し、無意識レベルでストレスを与えない環境を用意しなければいけません

ただし、11月に2名、12月に2名と徐々にクルーが増えている昨今では、承認が出れば経験の浅いメンバーや未経験のメンバーも積極的に採用しています。そのため、これまでの体制が少し窮屈になってきているのを感じているため、新しい体制をとっています。

Organization chart_1
※連邦型組織のメソッドを取り入れ、未経験者も踏まえた現在の組織図

現在はインターンや中途採用での未経験者においては親方と弟子のような1on1の関係を取り入れています。未経験の領域においては一貫性のある指示やコミュニケーションが必要不可欠だからです。

この中から案件ごとにチームを編成するので、中で稼働しているとこの形をイメージをしにくいのは事実ですが、実際にはこのような形で構成されており、明確な相談窓口やフォローアップ体制が敷いてあります。
Organization chart_2
図のように、実際には案件ごとにチーム編成は入り乱れます。案件Bで組んだチームのメンバーと案件Cで組んだチームのメンバーで案件Dを請け負うなど、メンバーの適正やタスク状況などを加味して都度編成されるイメージです。固定したチームでばかり活動せず、流動的に人員配備をすることにより、さまざまな成功パターンや失敗パターンなどを共有することで、更に強力な体制になっていきます。アナグラムの特徴的な取り組みである"グロースハック"も同じ思想で導入されています。

※参考:アナグラムの文化、グロースハック(Growthhack)とは?

名義上、各エキスパートはコンサルタントの上位クラスタでありながら、必ず何かしらの専門性を有していながら、いちクルーとして実践を繰り返し、同時にさまざまなメンバーのメンター的な役割を果たしています。

小さくまとまることの弊害

自身が行っていることや自身の組織が行っている革新的な事柄に対し自信を持つ、誇りを持つのは非常によいことであると同時に、小さなコミュニティーの中が全てと思いがちな環境を産んでしまいかねません。そのためには絶えず外の環境からの情報を入れる必要があります。そのために社外との接点は必要不可欠です。外部の講師を呼び勉強会を行ったり、外部のセミナーに自由に参加してもらったり、全国で行っているセミナーにメンバーを引き連れたりなど、自身のコミュニティー外の情報と接する機会を意図的に設けることで外部の視点を手に入れることができます。

自社だけではなく、外にもすごい人はいる。つまり、上には上がいる。もっといい方法は他にもあるんだ。それを感じることが重要といえます。

まとめ

  1. 採用フィルター
  2. 直属の上司不在
  3. 小さくまとまることの弊害

いずれも決して小さな問題ではありませんし、これに気づくまで、打破するまでに多くの時間や小さくない代償があったのはいうまでもありませんね。

更に言えば、身も蓋もない話ではありますが、完全な組織は存在しません。組織のあり方は業種、規模、時代、フェーズや目的など、さまざまなものが絡みあいます。組織論は組織そのものの目的を達成させる手段の1つに過ぎません。未来は常に違うし、物事は予想したとおりには起こりません。そして既存のものは必ず古くなります。試行錯誤の末に行き着いたあらゆる意思決定も、それを行った瞬間から古くなり始めます。

それでも、私たちは今よりも更に良い環境で働きたいし、更に良い待遇で働きたい。もっともっと成果を上げ続けたいし、最高のメンバーたちと一緒に働き、大きなイノベーションを起こしたいと常々思ってます。そのために、一人ひとりがプロ意識を持ち、プロフェッショナルとして絶えず学び続け、チームを尊重し、常に謙虚でいる。そして、サステナブルな組織であり続けるために従来の固定概念に縛られない柔軟な姿勢や発想で、絶えず組織を進化させていかなければなりません。

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