マーケティングに必要なのは"柔軟な一貫性"なのかもしれない

マーケティングに必要なのは"柔軟な一貫性"なのかもしれない

さまざまな文脈で広く見聞きする“マーケティング”という言葉。ですが、いざ改めて定義を訊かれると、どう言い表したものか少し迷うのではないでしょうか。

先日、実に34年ぶりに日本マーケティング協会がこのように定義を刷新しています。

マーケティングとは「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」

注1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。

注2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。

注3)構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

これをふまえると、マーケティングとは組織や個人が長期的な応援や愛着を引き出す営みといえそうです。少し情緒的な言い回しではありますが「旗の元に末永く同じ方向を見られる仲間を増やしていくアプローチ」と捉えるとよりイメージしやすいのではないでしょうか。

筆者はこの鍵を握るのが「一貫性」と「柔軟性」だと考えています。変わらないことは安心感や説得力につながり、信頼は長期的な関係を築く礎になりますよね。一方で組織も人も、時間の経過に伴って形を変えていくのはとても自然なことです。

ポリシーを貫きながらも変化に対応するなら、それは柔軟な姿勢として表れるかもしれません。反対に特に脈絡なくベターを選んできただけのつもりが、あとから振り返ってみたら点と点を結ぶ一本の線になって浮かび上がってくることもありますよね。

本当に目指すべきは「柔軟な一貫性」あるいは「一貫した柔軟性」とも呼べる姿勢なのかもしれません。

この記事では一貫性と柔軟性を交えつつ、社内外のマーケティングを振り返る4つの視点を紹介します。


一貫したメッセージを発信できているか?

イソップ物語の『オオカミ少年』をご存じでしょうか。何度も嘘をついて羊飼いを騙し困らせてきた少年は、ある日本当にオオカミが来たからと必死に真実を訴えますが、いまさら信じてもらえません。

この寓話の本来の教訓は「嘘をつくと信用を失う」です。しかし裏を返せば「継続が相手に与える印象がいかに強烈か」も学べますよね。一度固定されたイメージを覆すのは困難です。失った信頼はなかなか取り戻せないからこそ、一つ一つに気を配りながら積み重ねていく大切さを思い出させてくれます。

これはマーケティングにおいても同じです。芯のブレない一貫したメッセージは、企業の在り方や目指す境地を明確にします。やがて「らしさ」として認識されるようになれば、発信が蓄積するほどに説得力が増し、社内外問わず目線の合った仲間が根付いていきます。

一方で、同じ商品であってもどんなコピーが響くかは人それぞれ異なりますよね。ターゲットや場面に応じて手を変え品を変えることも、そのなかで核となる価値観を維持することも、発信し続けるうえでどちらも等しく大切です。

アナグラムでは、ブログ運営やメディア運営、セミナー登壇、書籍の執筆などが発信の中核を担います。なかでもブログは10年以上絶えず更新を続けてきました。

アナグラムのブログは、知見のシェア、社員のスキル向上、ブランディングなど多方面で効果を発揮しており、ブログなくして今のアナグラムはないといっても過言ではないでしょう。お問い合わせや口コミを通じた案件が常に9割ほどを占めるだけでなく、採用にも大いに寄与しています。

困りごとをいますぐ解決する記事から、長期的に役立つ内容まで。「マーケティングを通してより豊かな未来を創造する」という理念のもと、バラエティ豊かなテーマを発信できるよう努めています。包囲網を組むように、Web上の至るところで貢献の機会に備えているのです。

会社の”核”が伝わるコンテンツは、ときに名刺代わりになり、積もるほどに大きな資産となります。アナグラムは継続的な発信が誰かの問題解決に寄与することを願いながら、自社の目指す方向性も示し続けてきました。

評価制度は変わらない信念を反映するか?

一貫性と柔軟性を備えた発信は、社内に対しても同じく大きな意味を持ちます。冒頭でマーケティングを「旗の元に末永く同じ方向を見る仲間を増やしていくアプローチ」としました。社内のメンバーとはつまり、最も身近な仲間であり、実行の担い手です。

会社の仕組みや制度は、そこで働く人々にとって行動の指針になるどころか、ときに振る舞いを規定します。なぜなら方針はそのままメッセージとして伝わり、価値観が浸透した環境であればなおさら、それを日常的に浴びることになるからです。評価制度とはその最たるものでしょう。

全く同じ仕事をしている人は二人としていませんし、そもそも人が違えば成長スピードも、得意不得意も、ゆえに同じ結果を出すのに感じるハードルの高さも異なります。もともと一律の基準で完璧に評価など出来るはずがありません。

その不完全さを真摯に認めたうえで、便宜上設けられるのが評価制度ですから、そこには従業員に対する願いが表れます。どの項目を切り取っても揺らがないメッセージがあれば、それは強力な信念としても伝わりますよね。

アナグラムでは情報発信、新規案件の受注、顧客満足度などを主な評価項目としています。決まった売り上げ額のノルマをあえて設けないのは、もちろん利益を考慮していないからではありません。むしろクライアントに利益をもたらすことがわたしたちの介在価値だと強く感じるからこそ、そのための選択を恣意的な指標で妨げたくないのです。自社の売り上げは、その結果として自ずと伴ってくると確信しています。

目の前の人の期待を超え続けることは、きっと社会への大きな貢献にもつながります。評価制度は、このような価値ある働きをただ測るものさしではなく、それを引き出して支えるツールでありたいと考えています。

組織のフェーズや市況に応じて項目が変化しても、わたしたちの信念は変わりません。クライアント/自社/社会の三方良しを根底におき、一石数鳥の方法はないだろうか?と常にベターな選択肢を探します。どちらも圧倒的な成果を上げるための姿勢であり、三方良しとは、形を変えた一石三鳥ともいえるのではないでしょうか。一貫性があれば、どこを切り取っても同じ印象が伝わるはずです。

評価制度は常に暫定的なものであり、ベターの余地はいつも残ります。よりよく評価する方法はないだろうか?としなやかなマインドを持ち、変わらず模索し続けることに意味があると感じます。

採用の過程で未来へのスタンスが鮮明に伝わるか?

優先順位を見極めるために、しばしば「重要度と緊急度のマトリクス」が用いられますよね。このマトリクスによって本来直視したいのはどの領域でしょうか?

それは「重要だが緊急でない」第二領域です。「重要かつ緊急」なのは第一領域ですが、その事実はマトリクスで整理するまでもなく可視化されていて、早く手をつけるべきだと気づいていますよね。本当に向き合いたいのは、長期的な目標達成に寄与するとわかっているけれど、どうしても腰が重くなりがちな第二領域なのです。

特定の仕事に空いた穴を急遽埋めなければならない、といった場合はその限りではないですが、採用活動はまさしく第二領域に該当します。採用は未来への投資です。採用活動への姿勢は、企業がどんな未来を思い描くのかをダイレクトに伝えます。コストのかかる取り組みだからこそ、どこを効率化し、しないのかに企業のスタンスが滲み出ますよね。

アナグラムは折に触れて採用の戦略や選考のフローを再検討し、変更を加えてきましたが、そのなかでも採用方針は変わりません。互いに不幸なミスマッチを防ぐため、スキルよりもカルチャーマッチを重視しています。スキルは後天的に獲得できますが、カルチャーに合うか/合わないかはその人が現在持つ考え方や個性により異なるからです。そこには上下も正誤もありません。

例えば同じ仕事を経験したことがあっても、企業が違えば”未経験”です。そればかりか従来のやり方をアンラーニングするのに意外なコストがかかることもありますよね。それぞれの立場に等しくハードルがあると考えているため、アナグラムで”即戦力”という言葉はほぼ耳にしません。加えてカルチャーマッチを重視するからこそ、8割以上が未経験から入社しています。

質とスピードの改善を目指し、2022-23年にかけて選考フローを変更しましたが、一方で創業以来使い続けている独自に作成した「適性検査」は維持しています。計算・読解や思考力を問う設問を通してその方の考え方を知り、反対にわたしたちのそれを知ってもらうためのものです。

これは応募者にも相応の負担をかけ、競争力を下げるかもしれませんし、コストを考えれば一見非効率に感じられるかもしれません。ですが限られた時間で相互に理解を深めるため、効率化すべきでないと考えているのです。

採用には組織の枠を超えて多くの人が関わり、その向き合い方は意図するしないに関わらずたくさんのことを物語ります。自社が最後まで効率化すべきでないことは何か?を問い続ける姿勢は、採用の在り方を見直すヒントをもたらすのではないでしょうか。

業務設計や配置は成果と文化を育むか?

マインドの差がもたらす結果の開きを象徴する例に『3人のレンガ職人』があります。

1人目の職人は自分の仕事を単に「レンガを積むこと」と考え、数年後も同じ仕事を続けています。対照的に「壁を作ること」と捉えた2人目は昇進し、さらに「偉大な大聖堂を作ること」を目指した3人目に至っては、その大聖堂に自分の名がつくほどの成功を遂げました。

彼らは同じ仕事をしていたにもかかわらず、視座が大きく異なったのです。では組織において、多くの人が高い視座を持ち、成果を出しやすくするためには何ができるでしょうか?

その一つの助けとなるのが、業務設計や配置だと筆者は考えます。何に責任を持ち、どんな目標のために、どう働くことを願うのか。意図が反映された環境は、取り組み方や意識に影響を与えるだけでなく、時間をかけて文化を創ります。

ゆえに配置の決定や変更も、個性を尊重しつつ、あくまでチームが前進し成果を出すための手段でなければなりません。このような選択の積み重ねによって、変化のなかにあっても変わらないメッセージが信念として、そこに集う人々へ自ずと伝わっていきます。

アナグラムでは「1人で食べていける力」を養いながらクライアントに貢献することを目指し、それを複数の方法を組み合わせながら実現しようとしています。一つで完璧に表現できずとも、いくつかで補いあえばよいのだと柔軟に考えているからです。

まずは1社1担当者の一気通貫制にくわえ、逆ピラミッドや挙手制をベースとすることで、的確かつスピード感のある意思決定をしやすくしています。と同時にチーム制も採用し、グロースハックという勉強会も含め、担当者以外の知恵もクライアントに還元できる体制を整えているのです。

ヒアリングから契約書の作成に始まり、戦略の立案と実行、請求書の送付まで。独立すればすべてを担うのが当たり前です。しかし企業にいながらそれを疑似体験し、顧客ビジネスを育てる経験は、代表が抱く「粋な商売人を輩出する」というテーマにもつながり、何よりそれぞれの糧になります。

これらの仕組みはマネジメントコストや効率の観点からすると、ともすれば非合理的に感じられるかもしれません。ですが長期的な三方良しのためにはこの上なく”合理的”なのです。

成果を生むには相応のコストがかかり、文化の醸成や浸透にも一定以上の時間が必要です。いかに業務を設計するかは、その両方に効果を発揮します。違う切り口や角度から同じメッセージを発信できれば、伝わる信念はより立体的になり、アクションを促すからです。

“柔軟な一貫性”はリスペクトと密なコミュニケーションのうえに成り立つ

この記事では、社内外へのマーケティングを振り返る視点を紹介してきました。アナグラムの事例も交えましたが、今の状態がベストだと考えているわけではありません。常にもっとよい方法があるはずですし、必要があればスピーディーに軌道修正を続けています。

わたしたちが大切にする一貫性とは「そうと決めたら変更しない」頑なさではなく、「常に”ベター”を模索しつつ、機動力高くチューニングし続ける」しなやかさのほうなのです。

”ベター”とは常に相対的な状態に過ぎません。事業のフェーズや各人の視点、抽象度によっては正反対の方針が正解になったり、以前の方法を改めて選んだりすることもあるでしょう。

たとえ元に戻っても、経験値は上がっていますよね。とはいえその変更は、ある人から見れば敏捷性の高い方向転換としてポジティブに映り、ある人からはネガティブな二転三転に見えるかもしれません。

朝令暮改に映るか、それとも臨機応変として受け取られるかを決めるのは、互いへのリスペクトとコミュニケーション量です。なぜその選択をとるのか、それについてどう考えるのかをすり合わせる努力を怠ってはいけないのだと自戒を込めて感じます。

『オオカミ少年』で少年を信じず居眠りを続けた羊飼いは、オオカミの被害に遭い羊を失います。いつも嘘をつかれていたのですから、誰がこの羊飼いを責められるでしょう。ですがもし二人の間にリスペクトやコミュニケーションがあったら、この行き違いも、というよりはじめから少年が嘘で交流を図ろうとすることも、防げたかもしれないと思えてきませんか?

どんな未来を思い描き、いま何を見ているのか。そばで同じ仕事をしていても、思いのほか共有できていないケースは少なくありません。

冒頭ではマーケティングを「旗の元に末永く同じ方向を見られる仲間を増やすアプローチ」としました。けれどチームで新たな未来を想像し創造するためにはきっと、同じ方向を見ているだけでは足りないのです。リスペクトを持ってコミュニケーションを重ね、各々が見ている景色や風景まで共有できて初めて、”柔軟な一貫性”は成り立つのではないでしょうか。

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