みなさんは、オンラインショッピングをしている時に「全然買うつもりがなかったのになぜか買ってしまった」「知らないうちに定期購入していた」と思ったことはありませんか?
それは、もしかしたらユーザーを騙すデザイン「ダークパターン」によるものかもしれません。
ダークパターンは一時的に売り手の目標達成に繋がったとしても、長期的に見ればサービスの信用低下や法律違反に該当する可能性など多くのリスクがあります。
本記事では、ユーザーの信用を失うダークパターンの特徴とその防止策について解説していきます。「自社サイトの仕様がダークパターンに該当していないか?」「これからダークパターンを生み出さないようにどんな対策ができるか」を見直すきっかけになれば幸いです。
目次
ユーザーの信用を失う「ダークパターン」とは
ダークパターンとは、2010年にUXデザイナーのハリー・ブリヌル氏が生み出した言葉で、ユーザーを騙して意図しない行動へと誘導するユーザーインターフェースのことです。
※2022年4月頃から、ブリヌル氏は「ディセプティブデザイン(人を騙すデザイン)」と表現するようになりました。
とくに欧米では、このダークパターンが問題視されていて、2021年に消費者プライバシー法でサービス解約手続きにおけるダークパターンの利用が禁止されました。
参考:「ダークパターン」に騙されてない?…カリフォルニア州、消費者を混乱させるようなウェブサイトを禁止
日本では、ダークパターンが問題視されはじめたばかりで、2021年6月に特定商取引法を改正する法律が成立し、2022年6月から施行されています。
しかし、いまだにダークパターンが使われているWebサイトや広告が多いように思います。
日本経済新聞が明治大学とプリンストン大学から助言を受けて行った調査では、国内主要サイト100のうち6割にあたる62のサイトでダークパターンが確認されたそうです。
参考:消費者操る「ダークパターン」 国内サイト6割該当 - 日本経済新聞
日本の法律的に問題ないケースもまだ多いですが、日本企業のサイトであってもEUやアメリカのユーザーが利用する場合もあります。もしこれらのユーザーに不利益があった場合、GDPRやCCPAの規制が適用されれば、巨額の罰金が科される可能性もあるため、決して他人事ではありませんよね。
そもそも、ダークパターンとはどのようなユーザーインターフェースなのかご存じでしょうか。
ダークパターンの具体例
どのようなものをダークパターンと呼ぶのか、具体例を見ていきましょう。
なお、具体例の分類は、仲野佑希氏著『ザ・ダークパターン』を参考にしています。
参考:ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン
1. スニーキング(こっそり)
ユーザーにとって重要な情報をこっそり隠したり偽装したりする手法のことです。
- 購入カートに、勝手に別の商品を追加する
- 購入する段階の途中で、いつの間にか手数料や送料などを追加する
- おとり商法(何か特定のアクションを行ったとき、ユーザーが期待していることと違うことを実行する)
購入したい商品をカートに入れて購入段階をいくつか踏み、あとは決算確定ボタンを押すだけというタイミングで、今まで表示されていなかった手数料が追加されていたということはありませんか?
最終ページで予期せぬ手数料が追加されたことに困惑しながらも、ユーザーは、「ようやく最終ページまで来たんだから買うか」と諦めの気持ちで購入してしまうケースがあります。
これにより、売り手は一時的に儲けることができますが、ユーザーの信用は失われ、継続サービスでなければもう一度このサイトから購入することは無いでしょう。
2. アージェンシー(緊急性)
偽りの期間をユーザーに示して、決断を急がせる手法のことです。
- カウントダウンタイマー
- 期間限定のメッセージ
カウントダウンタイマーがCTA(Call to Action)の近くに設置されているのを、一度は見たことがあるのではないでしょうか?このとき、実際には期限が無いにも関わらず、タイマーを表示してユーザーに購入を焦らせる行為はダークパターンにあたります。このような手法の多くは、タイマーが期限切れになったらループして、もう一度タイマーのカウントダウンが始まるケースが多いです。
このケースでユーザーの信用が失われる場面は、一度サイトを訪問し購入したユーザーが、再度同じサイトに訪問したときです。前に訪問したときと同じようにタイマーが表示されていることに、「あのとき急いで買ったのに、またタイマーが表示されている……本当は期限なんてないんじゃないか?」ということに気づき、信用を失うことにつながります。
3. ミスディレクション(誘導)
ユーザーの感情を故意に操作し、正常な判断をさせないように誘導すること。また、ユーザーに選ばせたい選択肢を選ばせたり、逆に選択させないようにしたりする手法のことです。
- ユーザーが選ぼうとする選択肢に対して感情的に選びづらくするようにし、売り手が選ばせたい選択肢に誘導する
- ユーザーに選ばせたくない選択肢は目立たないようにして、選ばせたい選択肢を視覚的に目立つようにする
- 二重否定言葉などの紛らわしい言葉を使うことで意味をわかりづらくし、ユーザーに選ばせたい選択肢に誘導する
- 実際の内容とは違う魅力的な見出しを表示し、ユーザーが興味を持ってクリックするよう誘導する
例えば、ある商品のオプション機能として、セキュリティサービスに申し込むかどうか「はい」「いいえ」のどちらかを選択する際、「いいえ、プライバシーが漏洩しても構いません」という一文にすることで、ユーザーに不安感や後ろめたさを感じさせて「はい」を選択するように誘導する手法が挙げられます。
この手法によって一時的に収益は増えるものの、ブランドロイヤリティを犠牲にしてしまい、長期的な結果としては損失のほうが大きくなってしまうということが実際の事例でも起こっています。
4. ソーシャルプルーフ(社会的証明)
自分よりも周囲の判断が正しいと思い込む人間の心理を悪用した手法のことです。
- 実際にはその商品ページを誰も閲覧していないにも関わらず、「現在5名のお客様が閲覧しています」などと表示する
- 実際には存在しないユーザーの高評価レビューをサイトや広告に載せる、いわゆる”サクラ”を使って、偽りの評価でユーザーを騙す
実際には存在しないユーザー”サクラ”によって高評価レビューを載せても、実際の商品の品質のほうが劣っていたら、結果的にネガティブレビューのほうが多くなってしまう恐れがあります。また、偽りのレビューを載せることは、不当表示による景品表示法違反となりうる可能性があり、注意が必要です。
5. スケアシティ(希少性)
希少性があるものや人気があるものほど手に入れたくなる人間の心理を悪用し、偽りの情報でユーザーの興味をひく手法です。
- 「こちらは人気商品のため、いつ売り切れるかわかりません!」などと、不確かな希少性をアピールする
- 在庫があるにも関わらず、残りが少ないと表示する
実際にはまだ在庫に余裕があるにも関わらず、具体的な在庫情報を明示せず「在庫残りわずか!」とだけ表示することで、ユーザーを過剰にあおって急いで買わせようとするやり方があります。
急いで買わされたユーザーは、購入後に冷静になり、本当に必要か疑問を持ちはじめ、返品やキャンセルをしてしまうというケースにつながる恐れがあります。
6. オブストラクション(妨害)
キャンセルや解約などのアクションを取りたいユーザーに対し、期待のページへたどり着くまでの導線を過剰にわかりづらくする手法のことです。
例えば、解約するためのボタンが小さく設置されていて中々見つけられなかったり、何十ページもの確認事項を通過しないと解約ができなかったりしたことはありませんか?そうしてわかりづらくすることでユーザーを疲れさせ、解約を諦めさせる手法はよく見かけると思います。
結果的に解約ができなかったユーザーがいる一方で、いくつものハードルを乗り越えて無事に解約できたユーザーは、「一度入ったら出られないサービス」という印象を抱いてしまい、もう一度このサービス戻ってきて入会することが難しくなってしまう恐れがあります。解約したユーザーがもう一度戻ってくる可能性もあるので、退会時はユーザーの決断を尊重してスムーズに解約してもらい、ブランドやサービスの印象を下げないことが大切です。
7. フォースドアクション(強制)
ユーザーが望んでいないアクションを強制させたり、無許可で実行させたり継続させる手法のことです。
例としては、「無料トライアル期間が終了したら、自動的に有料モードに切り替わる」ということを明記せずに入会させ、ユーザーがいつのまにか課金してしまうというケースなどが挙げられます。
この手法により、クレームが増加したりトラブルへと発展してしまう恐れがあります。
ダークパターンを採用することによるリスク
では、ダークパターンを使用することで、どういったリスクが生まれるのでしょうか?前の章でも少し触れましたが、まとめると下記のようなリスクがあります。
- ブランドの信用低下
- 悪評やネガティブレビューの増加
- 法的違反・罰金のリスク
- クレーム増加や消費者トラブルへの発展
- 社員の離職率の増加
上記の中でもとくに見落としがちなリスクとして「社員の離職率の増加」が挙げられます。
ダークパターンによりユーザーを騙すという行為は、社員全員が望んで行っている訳ではないということ、そして、ユーザーを騙すことに苦痛を感じ、退職を決断する可能性があることを忘れてはいけません。
ダークパターンを生み出さないために意識すべきこと
ダークパターンは一時的に売り手にとって有利に働く手法かもしれませんが、長期的に見ると、様々な損失を生み出してしまうきっかけにもなっていることがおわかりいただけたかと思います。
では、こういったダークパターンを生み出さないようにするために、普段から意識すべきこととは何でしょうか?以下のことを意識してみると、「いつの間にかダークパターンを使っていた……!」ということも防げるかもしれません。
ユーザーがわかりやすいインターフェースにすることを忘れない
例えば、以下のことを意識すると、わかりやすくユーザーに優しいインターフェースになるかと思います。
- 直感的なデザイン(別の場所に遷移する場合はボタンと認識しやすくするなど)
- 画面遷移や購入までのプロセスが少ない構成
- 実績や効能・効果はエビデンスとともに掲載
- 流し読みしても内容がわかるような構成・デザイン・情報量
- 同一の意味を持つ言葉は、同じ表記で記載
とにかくここで意識することは、「いかにユーザーに負担をかけず、理解してもらうようにするか」です。ユーザーに負担がないインターフェースというのは、ユーザーにとって心地が良いものです。心地が良いものを追求すれば、ユーザーの信頼を欠くようなダークパターンは生まれづらくなります。
ただ、流し読みしても内容がわかるか?とるべき操作を認識しやすいか?というのは、制作者視点からはどうしてもわかりづらくなってくると思います。その場合は、ユーザーテストを行ったり、まだ制作したサイト(またはLP)を見たことのない同僚に見てもらうなどして、「初見のユーザーがどのように受け取ったか」をチェックすることが有効です。第三者による客観的な意見は、良いユーザーインターフェースを作る上でとても役に立ちます。
組織としてダークパターンを生み出さない取り組みを行う
そもそもダークパターンは、なぜ生まれてしまうのでしょうか?それは、ユーザーの使いやすさよりも、売り手の利益を優先してしまうからです。
売り手目線で考えていると、以下のことに気を取られがちです。
- コンバージョン数や売上など、目先の目標達成
- 社内外からの自身に対する昇進や評価
もちろん、これらの目的自体が悪いわけではありません。問題なのは、「目的が達成できるのであれば、ユーザーの不利益につながっても構わない」という判断をしてしまう組織の倫理観にあります。
では、どうしたら組織としてダークパターンを生み出さないようにすることができるのでしょうか。その一つの解決策として、ユーザーの満足度を意識したKPIを設定することが挙げられます。たとえばサービスの継続率やNPS(ネットプロモータースコア)、定性的な顧客アンケートなどが顧客体験の可視化には効果的です。
ダークパターンが生まれる根本的な原因は、売上を伸ばす戦略を考える段階で、ユーザーの存在がないがしろになってしまっていることにあります。そのため、ビジネスの意思決定の際に「本当にこれでユーザーのためになっているのか?」を問いながら設計していくことが大切です。ただ、それだけだと曖昧な基準だと感じる場合があるかと思います。そのときは、今回取り上げた「ダークパターン」にその戦略が該当していないか?を見直すと、明確に判断することができると思います。
もし、上司やクライアントなどからダークパターンに該当するような施策をやってほしいと言われたときは、ダークパターンを使用することによるリスクを説明してみてください。もしかしたら、あなたに指示したその上司やクライアントなども、それがダークパターンだと知らない可能性があります。ダークパターンの存在を知るだけでも使わないよう回避する手助けになりますし、組織としての考え方も少しずつ変わってくるかと思います。
まとめ
「ダークパターンというものを初めて知った」「サイトやLPを制作する上で、何に気をつければ良いかが明確に理解できていなかった」という方も多いのではないでしょうか。
ビジネスの成功を求めるのは当然ですが、ユーザーに不利益がある手法を用いると信用を失い、いつか崩壊します。持続可能なサイト・LPにしていくために重要なのは、ユーザーにとって心地が良いデザイン設計にしていくことです。
今回取り上げたユーザーの信用を失うダークパターンの存在を理解し、そうならないような対策を行うことで、顧客体験を高める戦略やデザインを作り出しやすくなり、結果的に長期的なビジネスの成功へとつながっていくと思います。