AppleのiOS14.5が2021年4月末にリリースされ、App Tracking Transparency(以下、ATT)の適用が開始されました。
施行から1年後にはATTポップアップを実装したアプリは全体の80%に到達したという調査結果もあり、アプリ起動時に表示されるデータ収集のパーミッション画面については、もう馴染みのある方が殆どではないでしょうか。
自社アプリの集客で広告を利用している企業にとって特に注目度の高いATT。それがマーケティング施策にどのような影響を与えるのか、今回はCriteoアプリ広告にフォーカスし解説します。
目次
Criteoアプリ広告とATTのおさらい
まず、Criteoアプリ広告とATTについて、簡単におさらいしましょう。
Criteoアプリ広告について
WEB広告で広く利用されているCriteoですが、アプリのインストールやアプリ内コンバージョンの促進など、目的に応じた3種のアプリ広告ソリューションが存在しています。
- インストールキャンペーン
- リエンゲージメントキャンペーン
- ダイナミックリターゲティングキャンペーン
インストールキャンペーン
アプリをインストールしていない人へ、アプリをインストールしてもらうための広告
リエンゲージメントキャンペーン
アプリをインストールしているが長期間利用がないユーザーへ、アプリを再度使ってもらうための広告
ダイナミックリターゲティングキャンペーン
アプリをインストール済みのユーザーへ、アプリで閲覧した商品や関連商品をダイナミックバナーで表示し、コンバージョンを促進するための広告
Criteoアプリ広告については、詳細に解説しておりますこちらの記事もあわせてご参照ください。
App Tracking Transparency(ATT) について
ATTはiOS14.5から導入され、アプリがIDFA(iOS端末に振り当てられる広告識別子)を取得するには事前にユーザーの許可が必要になりました。そのため、IDFAを取得するには、アプリにATTダイアログの実装が必須です。
SDKツールのAppsFlyerによる2021年7月13日に発表された調査レポートでは、トラッキング(IDFAの取得)を許可したユーザーはグローバル全体で約45% といった記載があります。半分以上のユーザーがオプトアウトしているという状況で、ATTによりIDFAの取得がかなり困難になっている状況が伺えます。
参考:
ATT施行から1年 [レポート] | AppsFlyer (無料登録が必要)
ATTはCriteoアプリ広告へどのような影響を及ぼすのか?
それでは、ATTがCriteoアプリ広告へどのような影響を及ぼすのか、具体的に解説していきます。インストールキャンペーンと、リエンゲージメント・リターゲティングキャンペーンとでは、影響範囲が異なります。それぞれ解説します。
アプリインストールキャンペーンの場合
アプリのインストールを促すアプリインストールキャンペーンにおいては、「インストール済みユーザーリスト」「配信枠」「計測」の3点に影響が生じます。
インストール済みユーザーリストへの影響
インストールキャンペーンの場合、すでにアプリをインストールしているユーザーのIDFAを広告配信開始前にCriteoへ共有し、そのIDFAをオーディエンスから除外する形で、インストールしていないユーザーへの配信を行います。
しかしながら、アプリをインストールしていてもATTでオプトアウトしているユーザーのIDFAは取得できず、インストール済みユーザーのリスト数が減少します。
結果として、「アプリをインストールしていないオーディエンス」としての質が低下してしまう(インストール済みユーザーも含まれてしまう)、具体的にはクリック率やコンバージョン率の低下が想定されます。
配信面への影響
Criteoアプリ広告の配信面はWebとアプリがありますが、アプリ面へインストール広告を配信するには、広告を配信するアプリでユーザーがオプトインしている必要があります。ユーザーがアプリを利用しても、オプトアウトしている場合はIDFAを取得できないため、インストール広告を配信できません。
そのため、ATT施行以前と比較し広告の配信ボリュームが減少します。
計測への影響
インストール広告を通じてインストールしたアプリを初めて起動した際は、ATTのパーミッション画面がポップアップ表示されます。そこでオプトインするとIDFAをCriteo側でも取得できるのですが、オプトアウトした場合はIDFAを取得できません。
Criteoが広告成果としてインストールを計測できるのはIDFAを取得できた場合に限られるため、広告経由でインストールしたとしても、そのアプリでオプトアウトされた分のインストールはCriteo管理画面上で計測されません。
正確なコンバージョンを計測できないため、機械学習の精度やスピードにもマイナス面で影響が生じることが考えられます。
対して、AppsFlyerやAdjustなどのモバイル計測ツールは、独自の方法(Device Matching や Probabilistic 計測など)で計測が可能なため、Criteo管理画面上の数値と、モバイル計測ツール側の数値とで乖離が生じる可能性があります。
リエンゲージメント / リターゲティングキャンペーンの場合
すでにアプリをインストールしたユーザーへ再利用を促すリエンゲージメント広告や、購入などアプリ内でのコンバージョンを促進するリターゲティング広告は、自社のアプリだけでなく、配信面としての他社アプリ、両方でユーザーがATTをオプトインしていないと広告を配信できません。
自社アプリを利用しているユーザーのIDFAと、特定の広告枠としてのアプリを利用しているユーザーのIDFAがマッチしていることをCriteoが確認できた場合に、広告が配信される仕組みであることが背景です。
自社アプリでオプトアウトされてしまうと、Criteoが配信ターゲットとしてユーザーを認識できないため、対象オーディエンスが減少します。また、配信面としてのアプリも同様にオプトアウトされると広告を配信できないため、二重で影響が生じます。結果として、インプレッション数やクリック数、コンバージョン数といった数値の減少が想定されます。
ただし、インストール広告とは異なり、リエンゲージメント / リターゲティングキャンペーンの場合、配信されているユーザーは上記の通り自社アプリ、配信面アプリ、共にATTをオプトインしておりIDFAを取得できる状態にあるため、計測は欠損無しで配信が可能です。
まとめ
これまでの内容をまとめます。
- iOS14.5 以降では、IDFAの取得にATTをオプトインする必要がある
- トラッキング(IDFAの取得)を許可したユーザーはグローバル全体で約45%
- Criteoアプリインストール広告では、配信を除外するインストール済みユーザーのリストの減少・配信面の減少・計測の欠損が発生する
- Criteoアプリリエンゲージメント広告 / ダイナミック広告では、オーディエンスは減少するが計測は欠損しない
以上、ATTがCriteoアプリ広告に及ぼす影響をまとめました。
アップル社は21年4月に公開した「あなたのデータの一日」という報告書で説明しているように、これまで大量の個人情報やそれに紐づく行動データが、利用者の同意なく収集・活用され続けていたことを問題提起すると同時に、今後はデータ利用の透明性を高め、ユーザー自身が自らのデータを細かくコントロールできる世界を提唱し、実際に作り始めています。
ITP※やATTはその流れの中で必然的に生まれた仕組みで、行動データを第3者が利用できる状態にするか否かの選択肢をユーザー自身が持つこと自体は、当然のことであり非常に素晴らしいことと筆者は考えています。
※ITPについてはこちらの記事もご参考ください。
また広告主側の視点で言えば、ATTによりiOSにおける既存の広告施策の成果が低下する一方で、「App Store」広告枠、年内大幅拡大という記事もあるように、今後大きなゲームチェンジが起こることが予想されます。現状では未だ様々な憶測が飛び交っている状況ですが、アップル社が独自に保有するユーザー情報を活用した広告ネットワークであれば、高い成果が期待できるのではないでしょうか。