
広告運用に携わる方であれば、広告管理画面上に表示される「ビュースルーコンバージョン(以下、ビュースルーCV)」に対して、以下のような疑問を抱いた経験があるのではないでしょうか。
「クリックしていないのにカウントされているのは、本当に広告の成果と言えるのか?」
「管理画面の数値と、GA4やCRMでの数値が大きく乖離している」
「実際どのくらい事業成果に貢献しているのか、経営層や他部署に説明ができない」
こうした違和感から「ビュースルーCVは指標として信頼できないので、とりあえず最適化対象からは除外しておこう」と判断するケースも多いかもしれません。しかし、場合によってはビュースルーCVを活用することでビジネスの成果を拡大できることもあります。
この記事では、ビュースルーCVの意味と役割を広告効果の測定の観点から整理し、「結局、ビュースルーCVは信頼すべき指標なのか?」という疑問を解消できることを目指します。


目次
ビュースルーコンバージョンとは?
ビュースルーCVは、表示された広告をクリックはしなかったものの、視認はしたと思われるユーザーによるコンバージョンを指します。これに対して、クリック経由で発生したコンバージョンは「クリックスルーコンバージョン(以下、クリックCV)」と呼ばれます。
例えば、ユーザーがInstagramで広告を見た後に検索し、オーガニック経由でサイトに訪問してコンバージョンするケースなどが該当します。詳しくはこちらの記事で紹介しています。
また、同じ「ビュースルーCV」でも定義が媒体やキャンペーンによって微妙に異なることがあるため、広告の効果をより正しく評価できるようにそれぞれの違いを確認しましょう。
※その他にも「エンゲージビュー」という指標がありますが、今回では割愛します。エンゲージビューについて詳細を確認したい場合、以下の記事をご参考ください
媒体 | 広告の種類 | 広告の効果と判断される条件(広告をクリックした場合は除く) |
---|---|---|
Google広告 | 動画広告 | 面積の 50% 以上が画面に表示された状態で 2 秒以上再生された場合 |
ディスプレイ広告 | 画面内に広告の 50% 以上が 1 秒以上表示された場合 | |
Yahoo!ディスプレイ広告 | 広告の50%以上の範囲が1秒以上連続して表示された場合 | |
Meta広告 | 広告が一部でも利用者の画面に表示された時点(ピクセル数と秒数が0を超えた時点) | |
X広告 | ユーザーに広告が表示された場合 | |
TikTok広告 | ユーザーが広告を閲覧した場合 |
参考:
Google広告ヘルプ 視認性とアクティブ ビュー レポートの指標について ,YouTube 広告と視聴に関する指標について
Yahoo!広告ヘルプ ビューアブルインプレッションとは
Metaビジネスヘルプセンター Facebookの手法の解説
Xビジネス モバイルアプリの測定とアトリビューション
TikTokビジネスヘルプセンター アプリのアトリビューションについて,TikTok広告マネージャーの基本的な指標と定義について
ビュースルーコンバージョンに対して抱かれやすい3つの懸念
「ビュースルーCVは信頼できない」と言われがちな理由のうち、特に大きいと考えられるのは以下の3つです。
1.広告がコンバージョンに直接貢献したとは言い切れない
ビュースルーCVはクリック経由のコンバージョンと違い、ユーザーが広告に対して明確なアクションを起こしていないため、クリックCVと比べると、広告が最終的なコンバージョンにどの程度貢献したのかを正確に測定することはどうしても難しい傾向にあります。
2.広告が実際に視認されたかどうかも不明な媒体がある
特に「ユーザーに広告が表示された場合」でビューをカウントするMeta広告やX広告では、ユーザーが広告を実際に視認したかどうかまでは測ることができません。そのため、「ビュースルーCVが多い」=「その媒体・広告がその分コンバージョンに貢献している」と断定するのは難しいことがあります。
3.広告成果が過剰に良く見えてしまう
ビュースルーCVは文字通り広告を視聴しただけのユーザーによるCVのため、クリックCVと比べるとCVRは大幅に高く、見かけ上の成果が良くなりやすい傾向があります。
しかし、ビュースルーCVは他の広告媒体との重複もクリックCV以上に多いことは珍しくありません。そのため、ビュースルーCVをアトリビューション設定に含む管理画面のコンバージョン数だけでは、実際の成果よりも高い値が表示されることがあり、本当に発生したコンバージョン数が把握しづらくなってしまいます。
ビュースルーCVを評価する意味がある3つのケース
懸念もあるビュースルーCVですが、はなから「信頼できない指標なので外す」と判断してしまうのは早計です。とはいえ、どんな商材・広告でも必ずビュースルーCVを評価する意味があるとも言えません。
ダイナミック広告などのように、(商品などの)リンクをクリック後にコンバージョンするように設計した広告の場合は、ビュースルーCVで最適化することで「すでに他の広告に接触していて、CV寸前のユーザー」に配信が偏ってしまうこともあり、安易な活用にはリスクも伴います。
一方、特定条件下では、ビュースルーCVを含めて評価することが合理的なケースもあります。例えば、次の3つの要素のいずれかを満たしているのであれば、一度検討してみても良いでしょう。
1. クリックが発生しづらい環境下での認知接触を評価したい
YouTubeやTikTokなどの媒体を利用するときのことを想像してみても、ユーザーは基本的に「広告をクリックするため」ではなく「動画を視聴するため」にサービスを利用していると言えますよね。そのため、仮に流れてきた広告に興味を持っても、その場で動画視聴を中断してまで広告をクリックはせず、後でブランド名などを検索してサイトを訪問するケースも多いでしょう。
このように、動画広告などはそもそもアプローチしているユーザーの視聴環境の特性上クリック自体が発生しづらいため、クリックCVのみでの評価が難しいことがあります。したがって、ビュースルーCVを計測することで、広告がどの程度CVに貢献しているかを判断しやすくなります。
2. 学習最適化に必要なCV件数を確保したい
自動入札を効果的にワークさせるために、各媒体で推奨のCV件数が公開されています。つまり、一定数のCVが確保できなければ機械学習が正しく機能せず、広告のパフォーマンスも上がらなくなるおそれがあります。
媒体 | 推奨CV件数 |
---|---|
Google広告 | 1 か月以上の長い期間に 30 回以上(目標広告費用対効果の場合は 50 回以上) |
Yahoo!ディスプレイ広告 | コンバージョン数の最大化(目標値なし)の場合、直近7日間に20件以上コンバージョン数の最大化(目標値あり)の場合、直近30日間に40件以上 |
Meta広告 | コンバージョン数を最大化する際は、1週間に50件 |
X広告 | 目標CPAを利用する場合、10件以上 |
TikTok広告 | 自動キャンペーンの場合、学習期間の7日間の間に50件 |
ただし、広告予算や目標CVアクションによっては、クリックCVのみだと媒体推奨のCV件数を満たせない場合もあるでしょう。
例えば、商品の購入を目的とした広告で、Meta広告の月予算が5万円に対して平均的な購入CPAが1万円の場合、CVは月に5件しか発生せず、媒体の推奨CV件数には全く足りません。
これでは機械学習のデータが足りず、広告配信がうまく最適化されない可能性が非常に高くなります。このとき、ビュースルーCVを含めて最適化すれば媒体のCVデータが増えることで、機械学習がより安定して機能する可能性が高まります。
非常にニッチな商材で初めて広告を配信する場合など、購入や問い合わせなどのコンバージョン自体が発生しづらく、クリックCVだけではCVデータがなかなか溜まらず広告の最適化もかかりにくいことがありますよね。その場合はビュースルーCVも含めて最適化し、まずは広告媒体上のCVデータを媒体の推奨件数以上確保することを優先してみてもよいでしょう。
3. 間接的な貢献を可視化したい
ビュースルーCVは、クリックが発生しなかった広告接触の効果を可視化する手段として有効です。例えば、Instagramで広告を見たユーザーが、当日は何も行動しなかったものの、翌日にブランド名を検索してオーガニック経由でサイトに訪れ、コンバージョンしたとします。この場合、広告は直接クリックされていないため、クリックCVは0件ですが、Meta広告の管理画面上ではビュースルーCVとして1件カウントされることになります。
このように、クリックされなかった広告でも、間接的にコンバージョンに貢献している広告を評価できるのがビュースルーCVの大きな利点と言えるでしょう。
また、ビュースルーCVは通常、1日以内などの比較的短いアトリビューション期間が設定されるため、そこで計測されるユーザーは「広告を見たその日にはクリックしなかったが、比較的短期間で行動した層」と考えられます。これは、いわば「限りなく顕在層に近い準顕在層」であり、この層を含めて最適化することで、CV数の最大化や配信規模の拡大にもつながる可能性が高まります。
ビュースルーコンバージョンの評価判断を誤らないための基準と視点
ビュースルーCVの特性や懸念を踏まえると、以下のような観点を複合的に用いて、最適化対象に含めるかどうかの判断を行う必要があります。
観点 | 評価のポイント |
---|---|
媒体特性 | 動画・SNSなど、視聴が主体で、多くのクリックが見込めない媒体か |
学習状況 | 各媒体での最適化に必要なCV件数に達しているか |
CV経路の複雑性 | ブランド名の検索数や直接流入が増えているか |
GA4との相関 | 指名検索・オーガニック流入経由のCVが広告と同期して増加しているか |
レポートの透明性 | 広告管理画面/GA4/実売上との三点比較が可能な状態か |
ビュースルーコンバージョンを最適化対象に含めるかどうかのセルフチェック
ここまでの内容を踏まえて、ご自身の担当する商材ビュースルーCVを最適化対象に含めるかどうかのセルフチェックをしてみましょう。

ビュースルーコンバージョンの活用における注意点
場合によっては、ビュースルーCVを最適化対象に含めてみても良いこともあることをご紹介しました。しかし、ビュースルーCVを含めて広告を最適化したり評価する場合、いくつか注意すべき点があります。
1.広告パフォーマンスを過大に評価しない
ビュースルーCVはどうしても管理画面上のCPA・CV数はクリックCVよりも良く見えてしまう性質があります。そのため、媒体管理画面でのCPA・CV数の評価をそのまま鵜呑みにしないことが鉄則です。クリックCVとビュースルーCVは別々に管理と報告を行う設計にするのがよいでしょう。
2.ビュースルーコンバージョンに偏っていないか注視する
一般的に、ビュースルーCVはクリックCVよりもCVRが高く、獲得単価も低くなる傾向があります。
そのため、ビュースルーCVとクリックCVの両方を最適化対象にすると、成果が出やすいビュースルーCVに配信が偏ってしまうのが一つの懸念点です。結果として、クリックによって積極的にサイトへ誘導できていた層への配信が減り、CV数全体が伸び悩むリスクもあります。
このような事態を避けるためには、配信結果の内訳(クリックCV/ビュースルーCVの比率)を定期的に確認し、偏りが過度になっていないかを監視することが重要です。最適化の指標がどのユーザー層を中心にしているのかを意識しながら判断しましょう。
3.レポーティングで誤解されないように配慮する
「ビュースルーCVによって広告の成果が急に改善した」と誤解されないよう、数字の見せ方は工夫しましょう。
例えば、レポート作成時は以下を意識すると良いでしょう。
- レポート上で「CV全体」「クリックCVのみ」「ビュースルーCVのみ」をそれぞれ明示する
- GA4や基幹データベースのデータを広告レポートと組み合わせ、管理画面数値だけでなく実際のビジネス貢献度が分かりやすく説明できる状態にする
いずれのケースでも「広告管理画面の数字だけで評価しない」は原則
ビュースルーCVの広告効果を判断する際は、各広告媒体の管理画面だけに頼らず、GA4などのアクセス解析ツールで媒体横断的にCV・CPAを計測して判断することが重要です。こうすると、ビュースルーCVと実際のCV数の相関を示しやすくなります。
例えば、広告媒体の管理画面でビュースルーCVを含む最適化を利用している場合、GA4でオーガニック検索や直接流入のCVが増えているかをチェックしましょう。両者に相関が見られれば、ビュースルーCVは実際にサイト全体のCV増加にある程度貢献していると判断できます。
一方、管理画面上のビュースルーCVは増加しているのにアクセス解析ツール上でのCVは全く増えない場合は、ビュースルーCVの貢献度は低い可能性が高いです。この場合は、ビュースルーCVを最適化対象から除外するなど最適化の方針の見直しを検討すべきです。
また、アドエビスなど、一部の計測ツールにはビュースルーCVの貢献度を可視化できるものもあります。もし、それらのツールを導入している場合、ビュースルーCVの貢献度をより正確に測ることが可能です。
ビュースルーコンバージョンの信頼性を担保するには「使い方」と「可視化」が鍵
広告の効果をどこまで計測し、どこまで評価すべきかという問いには、唯一の正解はありません。特に今回紹介したビュースルーCVのように、明確な因果を証明することが難しい指標であれば尚更です。
ただし、適切な計測の設計と配信結果の評価、管理画面数値と実態の切り分けができていれば、間接効果を補完する指標としてビュースルーCVを活用できる場合もあります。
「広告を見てすぐには動かないが、後から別経路でCVするユーザー」も多く存在するはずなので、もし、広告媒体単体の成果だけではなく、サイト全体での売り上げの最大化を目指すのであれば、ビュースルーCVの軽視は見えない機会損失かもしれませんよね。
一方で、その特性を誤解したまま最適化に用いれば、成果の過大評価や判断の原因にもなり得ます。
だからこそ、指標を「使う/使わない」で単純に分けるのではなく、状況や目的に応じてどのように向き合うべきかを冷静にジャッジすることが重要です。
広告配信の目的はCV数を増やすことではなく、あくまで事業の成果を増やすことです。そのためには、計測できる数字をどこまで信頼すべきか見極める力が問われます。
