ChatGPTは検索エンジンの脅威か?

ChatGPTは検索エンジンの脅威か?
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テクノロジー分野で、昨年末にChatGPTほど脚光を浴びたトピックはほとんどなかったのではないでしょうか。2022年11月30日に一般公開されてからわずか5日間で100万人以上のユーザーを生み出し、今後はGoogleのような従来の検索エンジンの地位に取って代わるかもしれないという声も大きくなるほど、かなりの反響を呼びました。

参考:‘Google is done’: World’s most powerful AI chatbot ChatGPT offers human-like alternative to search engines | The Independent

しかし、生成型AIに基づくチャットボット技術は、実際にGoogleなどの検索エンジンにとって脅威となるのだろうか。


ChatGPTとは?

まず、ChatGPTそのものについてです。ChatGPTは、米国のOpenAI社が開発したチャットボットのプロトタイプです。人間の会話の大規模なデータセットを基に学習させ、与えられたプロンプトに応答して人間らしいテキストを生成することができます。

自動テキスト生成をはじめ、言語翻訳、テキスト要約、質問応答などに至るまで、さまざまな自然言語処理に利用することが可能ですが、中でも「質問応答」に関しては、検索エンジンの文脈では興味深いものです。ある意味、将来のオンライン検索がどのようなものになるかを示唆するものがあると考えられます。

果たして「WEB検索」の概念を覆すのか

しかも、このチャットボットが検索エンジンの世界へ衝撃を与えたと言われているもう一つの要因は、自社の検索エンジンが最大の資産とも言えるグーグル社が、ChatGPTが巻き起こしたブームに明快に反応したことでしょう。

米New York Times誌の報道によると、グーグルはこの技術の台頭にあたって今後の方針を明確にするために、「非常事態」を宣言し、同社の共同創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏に相談した模様です。

参考:Google called on cofounders Larry Page and Sergey Brin in ChatGPT fightback after issuing a 'code red', report says

しかし、1月16日のグーグルの「Why we focus on AI (and to what end)」(訳:我々がAIに注目する理由とその目的)の発表によって、危機的なムードは幾分か収束したのか、冷静な論調で、自社のAI開発へのスタンスを語りつつ、少なくとも当面は慌てて競合プロダクトを世に送り出そうとしている様子を見せていませんでした。

AIは基礎的、かつ変革的な技術であると思っています

同時にAIはまだ生まれたばかりの技術であり、今後も予測不可能なことやリスクを伴うことを認識しています。私たちが行うAIの開発・活用は、こうしたリスクを考慮したものでなければなりません。そのため、企業として責任を持ってAIを利用することが必須だと考えています。

引用元:Why we focus on AI (and to what end) - Google(訳は引用者による)

もちろん、グーグルが眠っているというわけではありません。自社のAI研究所「DeepMind」からの新たな知見が、今年のI/Oで発表されることが期待されるでしょう。

とはいえ、短期的には検索の在り方が根本的に変わることはないと思われます。

検索手段と意図について

そもそもChatGPTとGoogleとで、どのような結果をどう提供するか(自動生成されたテキストVS関連するウェブリンク)が異なるだけでなく、ユーザー自身もそれぞれのツールを選んでいる意図も違うことは想像に難くないと思います。

仮に同じ文字列を異なるプラットフォームに入力してみても、読んで字のごとく処理することはなく返ってくる結果がそれぞれ変わるはずです。その特徴によってこそ、ユーザーは検索の手段を使い分けていると言えます。

Googleの場合

例えば、Googleの検索窓に「コーヒー豆」と入力すると、トランザクショナルクエリにも、インフォーメーショナルクエリにも解釈されることが明らかで、ユーザーの異なる検索意図に適合し得る結果が表示されます。

ChatGPTの場合

一方、ChatGPTで同じ入力をすると「コーヒー豆とは何か」という簡単な定義の文章が生成されます。チャットボットは人間の言語にできるだけ自然に反応するように機能しているため、単純な用語に複数の可能な意図を同時に割り当てることが逆に困難になっている可能性があります。特に、1つのクエリに対して1つの回答しか出さない(ちょっと強引に例えるならGoogleの「I’m feeling lucky」ボタンに近い)ことから、得意分野と位置づけが違うことは割と明確ですね。

※「I’m feeling lucky」とは、Googleのトップページの検索ボタンの隣にあるボタンで、押すと検索結果画面が表示されず、入力した検索ワードに対しトップの検索結果にあたるリンクが直接開く機能です。

当然、これはGoogleやChatGPTだけの話でなく、AmazonやYouTubeなどのプラットフォームも同様で、「コーヒー豆」という検索クエリは「コーヒー豆を買いたい」「コーヒー豆に関する動画を見たい」などと解釈されることになります。ツールそのものが検索語句の一部であるかのように検索した文字列に文脈を与えています

また、単純な例に過ぎず、長い目で見れば上記のような違いはなくなるかもしれませんが、現状ではChatGPTとGoogleなどの検索エンジンが直接競争すると言えるほど適用領域が重なっているわけではありません。

代替よりも共存の可能性が高い

言い換えれば取って代わるよりむしろ、比較的近い将来、これらの技術が相互に補完し合うシナリオの方が現実味を帯びていると考えられます。

Googleに関して言えば、自社の(長年にわたる)人工知能の研究や、既存のアプリケーションへの機械学習の統合からすでに明らかですが、OpenAIに投資しているマイクロソフト社が提供している検索エンジンBingにChatGPTの統合を計画しているというニュースも、検索エンジンと生成AI(generative AI)が今後共存する未来を示唆していると言えるでしょう。

参考:Microsoft to add ChatGPT features to Bing Search

ChatGPTのような技術は最終的に、見慣れた検索窓が徐々にチャットボットに似てくるようにフロントエンドとして活躍するのか、または生成AIが裏で動作し、文脈に応じて広告や画像、オーガニックなリンクなどに加えてAIによって生成された結果を掲載しバックエンドとして落ち着くのか、今後明らかになっていくことでしょう。

とにかく、検索エンジンへの脅威ではなく、進化のチャンスを与えた技術という捉え方がふさわしいと思います。

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