ここ数週間から数か月の間に、分散型ソーシャルメディアネットワーク「Bluesky」に関するニュースを耳にする機会がますます増えました。比較的短期間でユーザー数は2,400万を超え、世界中で大きな注目を集めています。
このプラットフォームの驚異的な成長の背後に何があるのか、このアプリがユーザーやブランド、そして将来的なソーシャルネットワークとの関わり方にどのような意味を持つのかについて、詳しく見ていきたいと思います。
Bluesky(ブルースカイ)とは?
Blueskyは、マイクロブログに特化したソーシャルネットワークです。X(旧Twitter)やMetaが運営するThreadsと同様に、ユーザーはテキスト(Blueskyでは最大300文字)、画像、動画を投稿することができ、他のユーザーが「いいね」やコメント、引用といった形でインタラクションできます。
見た目では既存のサービスと似ているのですが、Blueskyの大きな特徴の一つとしてはユーザーにデータに関する高い自主性を提供している点が挙げられます。
高い自主性と聞くと少し分かりづらいかもしれませんが、Blueskyは、代表的なSNSであるXやMetaのようにデータが一つの閉じたプラットフォームで一括管理される仕組みとは異なります。Blueskyは「分散型」のネットワークを採用しており、簡単に言えば、複数の小規模な接続されたサーバーが協力してネットワークを構築する仕組みです。そのため、一つの企業がすべてを管理するわけではありません。
Blueskyでは、ユーザーがフィードのコンテンツ配信や検索に使用されるアルゴリズムを自分で選べる機能が提供されています。これにより、閲覧体験を自分の好みに合わせてカスタマイズが可能です。
参考:Algorithmic choice - Bluesky
ユーザー数増加の背景はXの変化?
Blueskyはここ数週間でユーザー数が急増しており、2024年12月時点では2,400万人を超えています。
Blueskyの日次アクセス数は、競合であるThreadsと比較して、ほぼ肩を並べる水準に達しています。特に、2024年10月から11月にかけて急激な増加が見られ、この成長は最近のいくつかの出来事が影響していると考えられます。
まず、2024年10月にX(旧Twitter)で行われた仕様変更が挙げられます。ブロック機能の改定により、ブロックされたユーザーがブロックしたアカウントの投稿を閲覧できるようになりました(ただし、投稿への反応は不可)。以前はブロックされると相手の投稿が一切見られない仕様だったため、この変更は潜在的なセキュリティリスクへの懸念を引き起こし、議論を呼びました。この動きが、一部のユーザーをBlueskyへ移行させた可能性があります。
参考:X Will Soon Let Users See Tweets From People Who Block Them—The Controversial Change, Explained
さらに、2024年11月15日にXが導入した新しい利用規約も注目されました。この規約では、ユーザーが作成したコンテンツがXの生成AI「Grok」の学習に使用されることが明示され、多くのコンテンツクリエイターの間で懸念が広がりました。この影響で、Blueskyへの移行を決断したユーザーも少なくないと考えられます。
参考:X Updates Terms of Service to More Explicitly Cover AI Training Permissions | Social Media Today
加えて、アメリカでは大統領選挙に関連したX上での激しい議論も、Blueskyへの移行を促した要因の一つと見られます。これらの出来事がほぼ同時期に起こったことは、多くのユーザー、特にXユーザーにとってBlueskyが迅速に代替手段として認識される大きな要因となったことは間違いないと考えています。
マーケティングチャネルとしての活用の現状と課題
増加し続けるBlueskyのユーザー数は企業にとって魅力的であり、新たなマーケティングチャネルとしての活用が検討されているでしょう。
一部の企業、例えばNetflixやHuluは公式アカウントを開設していますが、積極的な活動は限定的で、ブランドのなりすまし防止のためにアカウント名を確保するにとどまっているケースが多いと報告されています。Blueskyにはブランド認証の仕組みがないため、単にアカウントを作成するだけでも戦略的な意味を持つとも言えそうです。
参考:Bluesky Is Having a Moment, But Most Brands Aren't Ready to Jump In Yet
また、現時点でBlueskyが広告モデルを採用していないことも慎重な姿勢を取らせるひとつの要因となっているのではないでしょうか。
一方、ウェブマーケティング代理店のCollective Measures社のソーシャルメディア部門アソシエイトディレクターであるクリストファー・スポング氏は、Digidayに掲載された記事の中で、大きなユーザー数の成長には、文化やスポーツなどの影響力のある著名なアカウントの流入が不可欠になる、と指摘しています。
参考:Bluesky uncovered: separating myth from reality in its post-election surge
ユーザー数がさらに増加し、より幅広い層がこのネットワークを利用しはじめれば、ブランド側の慎重な姿勢も自然と解消される可能性がありますね。
ニッチだからこそ強みもある
他のSNSにくらべBlueskyはまだニッチな存在ですが、必ずしも大きなデメリットになるわけではありません。
Blueskyには、パーソナライズ性に魅力を感じるアーリーアダプターや、Xから移行してきたコンテンツクリエイターなど、特徴的なユーザー層が集まっています。このことは、Blueskyユーザーの嗜好や興味の傾向を把握するための重要な手がかりになると言えます。
自社の(潜在的な)顧客をよく理解している企業であれば、Blueskyのユーザー層に共通する特徴を的確に言語化することで、新たな接点を生み出すチャンスがあるかもしれません。実際に、こうしたアプローチを活用してユーザーから非常に好意的な反応を得ている企業の事例もいくつか見られています。
例えば、大手新聞「ボストン・グローブ」の公式アカウントの投稿では、インタラクション率が競合のThreadsと比較して数倍高いだけではなく、オンライン有料購読のコンバージョン率も明らかに高かったそうです。
参考:The Engagement Is Better on Bluesky
もちろん、Bluesky運営側がピックアップした事例であることを考慮する必要があります。それでもこうした結果は、アカウントの種類や提供されるコンテンツの方向性次第で、企業がユーザーとの重要なつながりを築くチャンスがすでにあることを示唆しています。
一時的なトレンドか、それともパラダイムシフトの前兆か
マーケティングの観点からすると、すべてのブランドが今すぐBlueskyに進出すべきかと言えば、それはまだ早いと思います。しかし、多くの企業がまだ慎重であることを、このプラットフォームと深く関わる必要がないというサインとして解釈するのも間違いでしょう。
現在のリーチが限定的でも、Blueskyには他のSNSと同様に独自の文化があり、それはユーザーや投稿されるコンテンツにも表れています。マーケティング担当者は、こうした文化の中に潜む企業やサービスとの接点を見つけ出し、それを基にプラットフォームへの参加やコミュニケーションの方向性を検討する価値がありそうです。
また、Blueskyの台頭自体も、今後のSNSのあり方について考えさせるものがあります。
Blueskyがデータの透明性を尊重したネットワークとして位置づけられているのは決して偶然ではなく、インターネット上でのプライバシー問題がこれまで以上に議論されている時代背景があるからこそ、その姿勢は注目されているのではないでしょうか。
そして、ユーザーの自主性を重視することが話題になる裏には、従来のSNSのアルゴリズムによる最適化されたフィードが、ユーザーに与え得る悪影響についての批判的な報道が増えていることとも関連していると言えます。
参考:EU、TikTokなどに情報提出要請 違法コンテンツ対策巡り | ロイター
Blueskyが急成長を遂げた後の中長期的な展開はまだ予測できないにせよ、こうした事例は、私たちが今後ソーシャルネットワークとどう向き合うべきかを考え直すきっかけを提供しているのではないでしょうか。そのため、今後も引き続き動向に目を向けていく価値があるでしょう。