
運用型広告のレポーティングでは、以下を述べるのが大切です。
「① 客観的事実」と「② 数値の変化」を正確に述べ、認識を合わせるのはとても重要なことです。 しかし、いずれも解釈の余地はなく、レポートをきちんと見ればみんなが分かります。読み手の介在価値が本当に出るのは「③ 要因・分析・対処」の部分ではないでしょうか。
いい考察ができると、具体的なアクションに繋げられ、広告の成果改善が期待できます。さらに、今後のマーケティングの方針を立てるうえで様々な示唆をもたらすことができます。
私もこれまで、いろんな人や会社のレポートを見てきました。ときには「よくない考察」に遭遇することもあります。たとえば「悪化の要因は、CVRが下がっていることです。入札を最適化し改善します。」のような。これだと具体的なアクションに繋がらないため、あまり意味がありません。
今回は、「よくない考察」について深堀りし、6つの失敗パターンにまとめてみました。


目次
そもそもいい考察とは?
いい考察とは、「ボトルネック改善に実行可能なアクション」を示唆するものと考えます。
ボトルネック改善がなぜ重要かは、以下記事を参考にしてください。
記事内に以下記載があります。
ひとつなぎの鎖があります。この鎖の強度を決めるのは一体何だと思いますか?答えは素材でしょうか?原子でしょうか?
正解は“一番弱い鎖”です。 一番弱い鎖が切れた時、ひとつなぎの鎖はそれでなくなるのです。
何を言いたいのかと言えば、ボトルネックを素早く見つけ、改善することが出来れば、問題点を限りなく最小化できるのです。鎖の例で言えば、ひとつなぎの鎖はその形状をより長く保つことが出来るようになるのです。
引用元:全てのリスティング広告プレイヤーは因数分解思考を手に入れよう
もちろん、アクションが示唆されずとも、「知って考えを深める」そのものは素晴らしいことです。経済的な利益が無くとも、いい考察たりえるでしょう。
しかし本記事では、あくまで企業組織でROI最大化のため使われる、運用型広告のレポートでの「考察」を想定します。
逆に、「ボトルネックを絞れていない」「実行できないアクション」だと、「よくない考察」ということになります。
それでは、「よくない考察」6つの失敗パターンを見ていきましょう。
- 抽象的な説明に逃げる
- 広告管理画面の外に注意が向いていない
- ボトルネックを絞れていない
- 調べて分かることを感覚に頼る
- 「手に負えない問題」に思考のリソースを割きすぎる
- 現実的に実行できないアクション
失敗パターン 1:抽象的な説明に逃げる
なにか悪い指標変化を見つけてしまったとき、核心にたどりつけないまま、行き詰まってしまい、つい調べる手を止めて現実逃避してしまうことがあります。
このとき説明を求められると、「よく分からないけど、何とかします」とは言えないので、「入札を最適化します」など、抽象的な説明になってしまいます。
もちろん、入札の最適化がボトルネックのケースはあります。しかし、入札の最適化がとりあえずの「言い訳」として使われがちなのは事実です。入札は設定が簡単ですし、ボトルネックじゃないにせよ、成果に作用可能だからです。
悪い指標変化は、現実逃避せず、具体的なアクションまで落とし込むことが大切です。
具体例をいくつか上げていきます。
(×) 「悪化の要因は、CVRが下降したこと。」
これは、単なる指標の変化を述べているだけで、要因を深堀りできていないうえ、次のアクションへの示唆もありません。
たとえば以下のように書くと、指標の奥にある要因を指摘し、次のアクションに繋げられているように感じます。
(○)「悪化の要因は、クーポン訴求以外の広告クリエイティブのテストを実施し、CVRが下降したこと。すでにクーポン訴求に戻したためCVRは回復。」
(×) 「CVRが下降しているため、LP改善が必要」
これは、具体的な仮説も合わせて説明が必要です。以下のように、LPのどの部分がボトルネックか、具体的に指摘できるといいと思います。
(○)「他社と比べ、申し込みフォームの入力項目が3つ多く、必要性も薄く見える。CVR上昇が見込めるため削りたい。」
(×) 「入札を最適化します」
たしかに入札の最適化は大切なのですが、もう少し、具体性が必要かなと思います。なぜ今、最適化されていないのか?どう最適化するのか?そういった視点が大切です。
(○)「4/1(木) - 4/7(水)期間のCPA高騰は一時的なもの。4月の予算増額により自動入札が”学習中”ステータスに変更になったため。学習期間終了後は、過去配信データからも、CPAが見合う水準で配信できる見込み。ひとまず配信を継続し、週明け今後のアクションを判断したい。」
失敗パターン 2:広告管理画面の外に注意が向いていない
視野が狭いせいで、問題の核心に届かないこともあります。
表面上の指標だけでなく、立体的にものごとを見るのが重要
私たちは、レポート指標だけについつい集中しがちです。レポートで見えないことは、まるで存在しないような錯覚を覚えます。しかし、本来見るべきは、レポート指標そのものではなく、それが指し示す現実の世界や現実の顧客ではないでしょうか。
現実のあまりの巨大さ・複雑さ・解像度の高さに対し、広告管理画面上の指標はごくごく一部分でしかありません。まさに「氷山の一角」。表面だけ見ていても本質を見失うのです。

広告の指標に現れる問題が、広告以外の工程に起因していることも少なくありません。
たとえば、広告のCPA高騰の原因は、指名検索(ここでは「自社ブランド名での検索連動型広告」とします)の獲得が減っていることだとします。これに対して「指名検索の入札を上げる」は無意味です。なぜならすでに1位掲載なので、掲載位置・表示頻度の問題ではありません。
ここでは、自社ブランド名でのそもそもの検索数が問題になります。なぜ検索ボリュームが減っているのか、世の中的なトレンドなのか、SNS運用に改善余地が無いか、PR施策で出せそうなものが無いか……、少なくとも広告管理画面の数値だけ見ていても答えはありません。
また、広告で獲得したリードがなかなか成約しないとすると、広告だけの問題ではなく、コンバージョン後の顧客フォローに問題があるかもしれません。
逆に、ウェブサイト上で「本気の方だけ来てください」というメッセージを強く打ち出し、コンバージョン率が下降、コンバージョン数も減少で広告管理画面上は成果が悪くなったとします。しかし、顧客に覚悟を求めたことで、上位プランへの引き上げ率が上昇すれば、ビジネス全体としては改善していることもありえます。
スマートフォン実機を片手に分析する
広告管理画面の外に注意を向けるには、スマートフォン実機を片手に顧客の気持ちになって、各項目に違和感・大きな変化が無いか、見返していくことも有効です。実際に広告を見て、ランディングページをスワイプして、フォームに入力してみる。これではじめて分かることもたくさんあります。たとえば、「住所入力欄が全角数字がエラーになってめちゃくちゃ使いづらい」「自分の端末だとフォームがエラーで表示されない」……こういった致命的なボトルネックが見つかることもあります。
季節性を把握する
季節性が強い商材だと、それを加味して数値を分析する必要があります。過去の出荷数やGoogleトレンドなど通じ、季節性を把握しましょう。たとえば、BtoB商材であれば、5月連休明けに需要が高まり(異動の引き継ぎが落ち着くので)、8月は閑散期になる(お盆なので)などです。
また、たとえば、直近ですと、2020年~2021年は、新型コロナウイルスの緊急事態宣言により大幅に成果が変わるビジネスも少なくありません。新型コロナウイルスの人数推移、緊急事態宣言がいつ検討され、いつ発令するのか?こういった情報は要チェックです。
他施策を把握する
広告運用以外のマーケティング施策が広告の成果に影響を与えることがあります。施策の時期・起きうる変化は把握しておきましょう。
- 広告クリエイティブの変更、進行中の施策
- LPのテスト内容、申込みフォームの変更
- 他マーケティング施策の進行状況(テレビCM、テレビ番組に取り上げられる等)
LP改善と広告運用との連携ができていないと、要因を探すのに時間が掛かることも。分析で要因を間違えるのもリスクですし、たとえば以下のような事故も起こりえます。
- いつのまにかウェブサイトのURLが変更されており、リンク切れ状態で出稿されてしまっていた
- 人気テレビ番組で取り上げられ指名検索の費用が通常時の100倍伸びて月予算を一気に使い切ってしまった
見えないものを見ようとする姿勢も重要
ブランドや好感度、モラル、そういったものは広告管理画面上では見えません。正確に指標化も難しいでしょう。
「ブランディング」が広告代理店の成果が出ない言い訳に使われる単語なのは事実だとしても、ブランドが存在しないわけではありません。むしろ、ブランディング関連だけで巨大な市場が成立するほど、我々の情報空間上には歴然と「存在」するものです。数値に見えずKPIにも関わらないとしても、見ようとする意志は持つべきではないでしょうか。
表面上の数値を世界そのものと勘違いし、見えないものを見ようとする意志を失うと、マーケティングの全体感を見失い、モラルも欠如していきます。表面上の数値だけにとらわれず、その裏側にある現実に切り込んだ、良い考察ができるといいですね。
失敗パターン 3:ボトルネックを絞れていない
成果悪化の要因は、さまざまに考えられます。しかし、「複合的な要因」ということはほとんどありません。多くの場合、ボトルネックはたった一つです。ボトルネックを掴みそこねると、その後のアクションの意図や狙いも食い違い、成果がますます悪化していきます。
ボトルネックを特定するにはどうすればいいのか?
まずは、考えられる仮説を洗い出し、因数分解することが大切です。そして、各要因を、期間比較など用いて分析し、どの要因がボトルネックかを検証します。
たとえば、2020年12月の広告成果が悪化しているとして、その要因を探りたい。要因は以下が考えられるとします。
- 年末年始による需要減少
- 12月15日に実施したウェブサイトのリニューアル
- 新型コロナウイルスによる需要減少
これも、それぞれ期間比較をするとはっきりします。
年末年始による需要減少
- 2020年12月26日を境に成果が落ちているか?
→ No。12月10日ごろからじわじわ悪い。 - 昨年の年末年始も成果が落ちているか?
→ No。年末年始も普通に動いてた。
つまり、「年末年始による需要減少」は棄却されます。
12月15日に実施したウェブサイトのリニューアル
- 12月15日前後数日の成果を比較する
→ No。数日だけ切り出すとむしろ少し良くなっていた。
こちらも棄却されます。
新型コロナウイルスによる需要減少
- コロナ患者罹患数と、コンバージョン率の相関関係を調べる。
→ Yes。相関あり。 - コロナ報道と、コンバージョン率の関連性を調べる。
→ Yes。コロナが話題になって「緊急事態宣言再開を検討」の報道後に一気に成果が落ちていた。
・・・
すると、おそらく「新型コロナウイルスによる需要減少」が真の要因と特定できます。
だからといって、新型コロナウイルスに対し立ち向かうアクションを、すぐすぐに取れるかは分かりません。しかし、誤った仮説を棄却する意味でも、ボトルネックを解きほぐすことはとても大切です。
たとえば、誤って「ウェブサイトのリニューアルが悪かったかも?」と誤った結論を導いたとします。すると、成果が良くなっているのに、以前のデザインに戻したり、修正したり……、工数を掛けて「改悪」していくアクションになってしまう可能性すらあります。
失敗パターン 4:調べて分かることを感覚に頼る
前提として、感覚は非常に大切です。特にプロの直感は、高い精度で当たります。また、一流のマーケターは一流の消費者である、とも言いますが、なぜこれを買ったのか?このブランドのファンなのか?感覚を深堀りし言語化するのは大切なことです。
しかし、顧客動向・市場環境の把握にあたり、感覚に頼りすぎず、一度調べてみるのも非常に大切です。なぜなら、自分自身の感覚と、世間一般の感覚・人数分布とでは、必ず乖離があるからです。「感覚で分かる」と思っても、調べて答え合わせぐらいはしておきたいところです。
お金や時間を掛けずとも、かなり色々なことが調べられます。家族や友達に聞いてみる、スマホでTwitterやLINEのオープンチャットで顧客の率直な声を見てみる、など。ズバリ答えを聞けることも少なくありません。
他にも、様々な調べ方があります。
- コールセンターや店舗などでユーザーと接している人の話を聞く
- 店舗に行ったり調査ツールを使ったりしてユーザーの行動を観察する
- 広告主のマーケティング担当や専門家など詳しい方に話を聞く
- 統計資料サイトや業界分析ツールを使う
- 関連書籍やニュースを読む
- 広告主や競合の決算資料・有価証券報告書を読む
想像力はもちろん大事。しかし、調べて分かることを想像だけに頼るのはもったいないです。
また、大枠の数値や背景知識は、何かトラブルが起こってから調べるのでは無く、事前に頭に入れておくといいでしょう。
失敗パターン 5:「手に負えない問題」に思考のリソースを割きすぎる
何事も、粘って小一時間は考えてみる価値があるのではと思います。複雑で構造的な問題、答えのでない難問を考えるのは、得難い経験です。
しかし、小一時間考えて目処すら立たないのであれば、「手に負えない問題」と考えて差し支えないのではないでしょうか。考えているようで立ち止まっていることも多いように思います。何も思いつかず、かといって諦める決断もできないまま、何か思考が降ってくることを期待してぼーっとしているのです。まだ手持ちの考え方・知識だと太刀打ちができないと考え、一旦、そっと置いておくのも大切な心構えではないでしょうか。
手に負えない問題とは、自分の力では及ばない、大いなる力の働く問題です。天変地異だったり、根深い構造的な問題だったり、人間の根本的な習性に根付くものだったりします。
たとえば「法律」「行政」など、逆らってもいいことはありません。「薬機法違反の表現でFacebook広告の審査に通すには?」は、ある意味「手に負えない問題」に片足を突っ込んでいるように思えます。「薬機法を守りつつ魅力を伝えるには?」という問いの方が建設的ではないでしょうか。
広告運用でたとえると、BtoBの集客でリードの「年商20億円以上の法人割合を増やしたい」というお題があるとします。しかし、広告クリエイティブや申込みフォームの工夫で、個人事業主からの問い合わせを防ぐことは多少できるかもしれませんが、法人の具体的な規模まではなかなかコントロールできません。ターゲティングや広告クリエイティブでは「手に負えない問題」であり、あまり思いつめて悩んでも有効な施策は出てこないでしょう。コンバージョン後の顧客フォローの優先度を変えるなど、広告の後工程で解決すべき問題に思えます。
失敗パターン 6:現実的に実行できないアクション
理想を語ることも大切ですが、目の前の人的リソースや費用対効果を無視して、物事を進めることはできません。
たとえば以下2つの施策だと工数・費用が全く異なります。
- ランディングページに商品購入を促すテキストを足す
- 求人サイトの検索条件を増やす
この1と2とで、成果へのインパクトが同じだとしたら、1は今すぐ実施すべきですが、2はそうはならないのです。なぜなら、成果が同じなら工数が少ない方の優先度が高いからです。
「1. ランディングページに商品購入を促すテキストを足す」は、5分あればできます。工数がほとんどかかりません。 しかし、「2. 求人サイトの検索条件を増やす」は、システム的にも大掛かりな修正が必要、すべての求人に対し検索のタグ付けが必要で営業さんも総動員で顧客確認が必要だったり、とにかく非常に面倒くさい。工数がかかります。
これまで私は「人的リソースが潤沢なマーケティングチーム」というのにお目にかかったことがありません。「忙しいなかで結果を出す」がどの組織でも求められているのではないでしょうか。
そうなると「重箱の隅」を気にしすぎるのは、むしろ害にすらなりえます。細々と時間をかけるわりに成果が出ないからです。
もちろん、本当にやるべき施策は、時間や手間を掛けてでもやるべきと思います。しかし、手持ちのカードはごく限られていて、それはボトルネックに対して切られるべきなのです。時間と手間に想像力を働かせ、いま本当にやるべきことを明確にしましょう。
「小さく始めてテストする」も有効
大きな理想を叶えるには、小さな勝利を重ねて権限・予算を拡大していくことも大切です。リスクが高いもののぜひやってみたい施策があるなら、まずは「小さく始めてテストする」も有効です。
たとえばいきなり全国テレビCMに1億円投資はできずとも、地方のCMを数百万円から始め、成果が出てきてから全国に展開するのは有効です。
運用型広告であれば、さらにスモールに。YouTube広告は絞ろうと思えば数万円からでも始められます。動画やランディングページを試行錯誤しながら少額投資を繰り返し、手応えを掴んだ時点で一気に予算を増やすのも有効だと思います。
まとめ
以上、「いい考察」ができない6つの理由をまとめてみました。
- 抽象的な説明に逃げる
- 広告管理画面の外に注意が向いていない
- ボトルネックを絞れていない
- 調べて分かることを感覚に頼る
- 「手に負えない問題」に思考のリソースを割きすぎる
- 現実的に実行できないアクション
「いい考察」を作るには、6つとも逆に行動することです。
- 「具体的で手触り感のあるアクション」まで落とし込む
- 広告管理画面の外に注意を向ける
- ボトルネックを絞る
- 調べて分かることを感覚に頼らない
- 「手に負えない問題」に思考のリソースを割きすぎない
- 現実的に実行できるアクションにする
誰かがボトルネックを特定し、打ち手を考えなければなりません。そして、それが出来るのは、最前線で数値を把握している広告運用者に他なりません。
また、大きな指標変化は、重大な経営課題を示唆していることも少なくありません。多少時間を掛けてでもボトルネックを特定する価値はあるのではないでしょうか。
もろもろ丁寧に見ていくことが大切です。初心者はもちろん、経験を積んでいるベテランこそ丁寧に見るべきだと思います。
ベテランはボトルネックをひと目で見抜け、今後の動きも的確に見通せるのですが、それはあくまで過去悪戦苦闘しボトルネックを探り出す経験を何度も積んだからです。しかし、ウェブ広告は動きが早いので、「5年前の勝ちパターン」をもとに手癖で判断を続けていると、やがて現場感覚からズレていきます。丁寧に見て調べ引き出しを増やすのは、価値の源泉です。ベテランこそ、マメに丁寧にやっていかないとなと思います。