広告運用で一定の成果を出すには、Google検索やFacebookをどんな人たちがどんなタイミングで利用しているかといった媒体理解や、検索連動型広告はどんな仕組みで表示されるかなどのプロダクト理解が必要不可欠です。しかし、もしあなたが広告運用で最高の成果を出したかったら、さらに商材やビジネスの理解も深める必要があります。
たとえば、レディースファッションECの広告を男性にばかり配信しても費用対効果は期待できませんよね。これは極端な例ですが、商材・ビジネス理解は広告運用の成果に直結するこということです。
本記事では広告運用で圧倒的な成果を出すために必要不可欠な商材・ビジネス理解のための情報収集の方法をご紹介していきます。
目次
便利な分析フレームワーク
フレームワークは「巨人の肩に乗る」ことができる便利なツールです。やみくもに情報を収集しても迷走して無駄な時間を使ってしまう可能性が高まりますが、フレームワークを使えば効率よく情報を集めることができます。
そこで、まずはクライアントの商材とビジネスを理解するために弊社がよく活用している分析フレームワークを3つご紹介します。
PEST分析
PEST分析とは、政治(Political)・経済(Economic)・社会(Social)・技術(Technological)の4つの視点でマクロ環境を分析するフレームワークです。それぞれの視点の頭文字を取ってPEST分析と呼ばれています。
広告運用におけるPEST分析の目的は、商材を取り巻く世の中の環境を理解し、どこにチャンスやピンチがあるのかヒントを得ることです。たとえば、カジュアルウェアを扱うメンズファッションECサイトを取り巻く外部環境は以下の通りです。
経済の視点を見ると、価格競争が激化し、消費も落ち込んでおり、メンズファッションECサイトにとっては厳しい状況であることがわかります。一方、政治と社会の視点を見ると、ビジネスマンがスーツの代わりにカジュアルウェアを着る機会が増えているのは追い風になりそうですね。技術の視点でも、自社がオンライン上や自宅でユーザーの採寸を完結させるサービスを開発できる可能性があることは、注文のハードルを下げたり顧客満足度を上げたりするチャンスと捉えることができます。
これらを広告運用に活かそうと思うと、価格競争は激化しているので価格訴求は避けて服のサイズが豊富であることを訴求してみたり、ビジネスカジュアル需要を取り込むためにビジネスマン向けのターゲティングを試してみたりといったことが考えられます。
このように、広告運用に影響がありそうな外部要因を把握しておくのがPEST分析の役割になります。
3C分析
3C分析とは、自社(Company)・競合(Competitor)・顧客(Customer)の観点から市場を分析するフレームワークです。それぞれの頭文字である3つのCを取って3C分析と呼ばれています。
広告運用における3C分析の目的は”やらないこと”を明確にするのが一つです。広告運用に限らずですが、広告費も労力も有限な資源なので、あれもこれもと施策や投資を行うのは非効率ですよね。
今度はパソコンを例にしましょう。競合の価格が150,000円なのに対して、自社は200,000円だとしたら、広告文で価格を訴求するのは勝ち目が薄いとわかります。また、ユーザーが探しているのは軽くてバッテリーが長持ちするPCなので、CPUのスペックや処理速度を訴求しても広告の成果はあまり期待できないでしょう。このケースであれば、広告文は価格やCPUのスペックには触れず、バッテリー駆動時間が長いことや重量を訴求した方が成果は上がりそうですよね。
このように、広告運用で”やらないこと”を明確にするのが3C分析の役割になります。
参考:運用型広告で「やらないこと」を明確にする、3C分析のやり方
5F分析
5F分析とは、競合の脅威・代替品の脅威・新規参入業者の脅威・買い手の交渉力・売り手の交渉力という5つの要因から業界全体の収益性を判断するためのフレームワークです。提唱したマイケル・ポーター教授が5つの要因をファイブフォース(Five Forces)と表記したことから5F分析と呼ばれます。
広告運用における5F分析は、収益性の判断というよりは、自社にとっての”競合”を俯瞰的に把握し配信先(プレースメント)や検索キーワードを洗い出すのに活躍すると筆者は考えます。ここでは健康食品を例にしてみましょう。
こうして整理してみると、競合は健康食品に限らず、ジム・ヨガ・美容器具・ランニングやジョギング・野菜ジュースなども考えられることがわかります。
このように、5F分析を活用すれば、これまで競合と認識していなかった商品やサービスも”競合”と意識して広告運用の戦略戦術を考えることができます。
冒頭でも触れましたが、フレームワークは偉大な先人たちが確立した思考をショーカットできる便利なツールの一つです。データや事例と同じで鵜呑みにするのは良くありませんが、守破離よろしく、まずは偉大な先人たちの知恵を活用し、そこから自分が扱う商材やビジネスにより合った情報収集をしていければ最高ですね。
情報収集の方法
分析フレームワークでどんな情報を収集すれば良いのかハッキリしたところで、それらの情報をどのように集めれば良いのかをご紹介していきます。
商品やサービスを体験する
習うより慣れよという言葉もありますが、自らがユーザーになって商品やサービスを体験すれば、商材のことを調べるだけよりずっと理解を深められます。実際に利用してみれば商材が自分ごと化し、関連する情報がスムーズに頭に入ってきやすいですし、商材のここが使いやすいとか、プロモーションされている機能よりこっちの機能の方があって嬉しいなどクライアントも気づいていない発見もあるかもしれません。
たとえば下のような発見は自分で商品を手に取らないとなかなか出てこないですよね。
https://twitter.com/yoriko09/status/932167070963220480
通常であれば自分が体験できない商材(子ども向けの通信教育など)が対象の場合は、クライアントさんにお願いして特別に体験させてもらうなどの対応ができれば良いと思います。
ユーザーの声を集める
ユーザーがどんな趣味嗜好を持っていて、どんな悩みを抱えているのかなどを知ることができれば、ユーザーへの理解が高まり、適切なタイミングやメッセージを広告として届けられる確率が上がります。また、商品のどんなところが気に入ったのか、どんなところに不満を感じたかなどを知ることで、広告文やランディングページを改善するヒントも得られるかもしれません。
ユーザーの声の集め方は、以下のような手法が代表的です。
- 友人や知人で商材を使っている人に話を聞く
- グループインタビュー
- アンケート
- ソーシャルリスニング
コールセンターや店舗などでユーザーと接している人の話を聞く
ユーザーと直接接している人からはお客さんのリアルな情報を聞くことができます。
ユーザーはどんな悩みを抱えて店舗に訪れているのか、何が決め手で購入に至ったのか、何が不満でクレームの電話をしてきたのかなどなど。
購入の決め手になったセールストークはそのまま広告文に使えるかもしれませんし、よくあるクレームの内容を事前に知っておけばそれらを避けた訴求を考えることができます。
店舗に行ったり調査ツールを使ったりしてユーザーの行動を観察する
ユーザーを理解するのに、アンケートやソーシャルリスニングを通してユーザーの声を集める広告運用者は多いかもしれませんが、それだけではユーザーのことを正しく理解できない場合があります。アンケートやソーシャルリスニングだと、ユーザー自身が言いにくい本音を隠しているかもしれません。「人は、見たいように見て、聞きたいように聞く」という言葉もありますが、無意識のうちに自分に都合の良い解釈をして情報を発信している可能性もあるからです。
そこで効果的なのが、ユーザーの声を聞くのではなく、ユーザーの”行動を観察する”ことです。顧客アンケートでは「ヘルシーなメニューを増やしてほしい」という声が多いのに、いざ店舗のユーザーを見渡してみると油っこいメニューを注文する人が多かったり、「糖質制限中なんだ~」と言いながらフルーツを食べている人がいたりと、人は言っていることや実際の行動が矛盾していることが多々あるものです。そういった言動の矛盾からユーザーの不合理な部分を理解したり、隠れたニーズを発見したりできます。
ユーザーの行動観察の方法としては、店舗があるビジネスなら店舗に行けば良いですが、オンライン上で完結するECサイトやアプリゲームなどの場合は、ユーザーがオンライン上でどのようにサービスを使用しているかモニタリングできるユーザーテストツールを利用する方法があります。
広告主のマーケティング担当や専門家など詳しい方に話を聞く
広告主のマーケティング担当や専門家など、対象の商材やビジネスに詳しい方に話を聞くのも、自分たちで調べただけでは理解できなかった点などをわかりやすく教えていただけることもあるのでおすすめです。
特に広告主のマーケティング担当者の話を聞くのは、単に商材やビジネス理解のために限らず、ヒアリングを通して広告運用者が考えている広告運用のプランと広告主が考えているマーケティングや経営の方向性にズレがないか確認する目的もあります。
運用型広告は数あるマーケティング手法の中の一つに過ぎないので、上段のマーケティング戦略や経営について考えている方の話をきちんとヒアリングしておくことは、運用型広告が正解かも含めて、成果を上げるためのプランニングに欠かせません。
統計資料サイトや業界分析ツールを使う
統計資料サイトや業界分析ツールでは、業界全体や国内の経済状況など、より大局的な視点での情報を集めることができます。広告運用といえば、どうしても検索キーワードで競合する会社や管理画面の数値に目が向きがちですが、より大局的な視点を持って取り組むことで、見えない機会損失を減らしたり勝ち目の薄い方向へ施策を展開してしまうリスクを減らしたりできます。
また、統計資料を参照すれば自分の仮説がズレていないかを確かめることもできるので、広告運用のプランニングにおける意思決定の一助にもなります。
参考:Webマーケティング・運用型広告のターゲティングやペルソナの参考になる統計資料サイトまとめ
参考:運用型広告を専門に取り扱うアナグラムがお世話になっているウェブサービス14選
関連書籍やニュースを読む
関連書籍やニュースなどのいわゆる二次情報は比較的少ない費用と労力で多くの情報を収集できる手段です。自分で商材を体験したりユーザの行動を観察したりして得た一次情報と比べて自分ごと化しにくいですが、短期間で商材・ビジネスの概要をおさえるのに役立ちます。ニュースであれば最新の動向が把握できますし、関連書籍であれば対象のビジネスの基本的なビジネスモデルから成功事例、歴史まで学べます。
対象の業界の典型的なビジネスモデルなどを把握しクライアントがどのようして利益を上げているのか理解しておくことで、広告運用でも、検索語句Aと検索語句Bどちらも獲得単価は同じだけどAと比べてBは利益が上がりにくいから入札価格を抑制しようなどの適切なアクションが取れるようになります。
業界のことをざっと把握したいときは『○○業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』シリーズが個人的にはおすすめです。
広告主や競合の決算資料・有価証券報告書を読む
株式を証券取引所に上場している企業に対して公開が義務付けられている決算資料や有価証券報告書を読めば、その企業の財務状況や事業内容を知ることできます。はじめはどこを読めば良いかわかりにくいと思いますので、企業が決算短信をわかりやすくプレゼンテーション資料に作り直している決算説明資料を読むのがおすすめですが、慣れてきたら有価証券報告書をしっかり読み込むのがよりおすすめです。事業の内容やリスク、経営方針や設備投資の状況まで記載されているので、PEST分析や5F分析の情報源として重宝します。
たとえ広告主が上場していなくても、広告主が属する業界で上場している競合企業の決算資料や有価証券報告書を読めば、競合がどんな業績でどんな動きをとっているのか把握できますし、自社がどう戦っていくべきかのヒントにもなります。
商材・ビジネス理解は一次情報で差がつく
広告運用で成果を伸ばすには商材・ビジネス理解が必要不可欠だと頭ではわかっていても、広告主が提供してくれた情報や競合のサイトをざっと読んで十分理解した気にはなっていないでしょうか。
ユーザーの行動を観察したり、決算資料を読んだり、自分にしか手に入れられない一次情報を収集しに行くことで広告主の商材・ビジネスがより自分ごと化し、その後入ってくる情報も理解しやすく、また他の運用者では気づかなったような新しい発見ができるものです。はじめは店舗に足を運んだり、決算資料を読んだりするのは慣れない作業で難しいかもしれませんが、そういった場合は書籍やニュースなどわかりやすく加工された二次情報を頼ってみましょう。誰がその情報を加工して提供しているかに気をつければ正しく最低限必要な理解は得られます。
しかし、やはりウェブサイトやニュース記事など誰もがアクセスできる二次情報ばかり収集していても他の運用者と差はつかず圧倒的な成果は出せません。これまでなかなか一次情報に触れる機会がなかったという方は、まずは広告主に会いに行ってみましょう。今まで自分の中になかった視点が見つかり、広告の成果がずっと良くなるかもしれませんよ。