Googleデマンドジェネレーションの「見えざる効果」をDID法(差分の差分法)で分析してみた

Googleデマンドジェネレーションの「見えざる効果」をDID法(差分の差分法)で分析してみた

Googleのデマンドジェネレーションキャンペーンは、YouTube・Gmail・Discoverに加え、2025年4月以降はGoogleディスプレイネットワーク(GDN)にも広告を配信できる広告プロダクトです。チャネルコントロール機能により、配信先を選択することも可能になっています。

これらの良質な配信先がデマンドジェネレーションの魅力ですが、「ラストクリックでなかなか良い評価ができない」という声も少なくないと感じています。

「デマンド(需要)」を「ジェネレート(作り出す)」するという名前の通り、ファネルの上部へのアプローチが念頭に置かれたキャンペーンであるため、ラストクリックで評価しづらいケースがあることは仕方がないのかもしれません。

評価を難しくしているもう一つの要因が、主要な配信先に含まれる「YouTube」です。

特にインストリーム広告では、ユーザーは「いざコンテンツを観よう」と構えているタイミングで広告に接触します。たとえ広告が記憶に残ったとしても、その場でクリックせずコンテンツの視聴に進むことも多いのではないでしょうか。

こうしたデマンドジェネレーションが評価されにくい状況を踏まえてのことなのか、Googleはビュースルーコンバージョンも含めた「(同等プラットフォームと同様の)コンバージョン」列を通じ、Meta広告などの他媒体と同条件の比較ができる指標を追加しています。また、一部の条件を満たした広告アカウントに対しては「コンバージョンリフト測定」を実施しています。

ただ、いずれにしても「売上の純増にどれほど繋がるのか」という広告主の疑問には、なかなか応えられていないのが現状です。

そのため、デマンドジェネレーションを配信するにあたっては、各々で効果を推定する方法を用意して取り組まなければ、効果を過小に評価したり、あるいは過大に評価してしまうことに繋がります。

この記事では、効果推定のロジックの一つ 例として「DID法(差分の差分法)」を活用した事例を共有します。読み終える頃には、DID法の基本概念、Google広告とGA4での具体的な設定方法、そして分析結果の解釈の仕方が分かるようになるはずです。


「DID法」とは何か

「DID法」を端的に説明すると次の通りです。

対象を介入群と統制群に分け、介入群にのみ施策を実施(=介入)する。

施策を実施しなかった統制群のデータを参考に、介入群に、介入しなかった場合の予測値(反実仮想)」を設定する。

介入によって観測されたデータと、反実仮想の差分を介入によって得られた効果とする。

この概念を図解したものが以下の図です。

マーケティングに当てはめると、以下のような検証に活かすことができます。

  • ある広告を配信した地域だけに見られる売上の増分を確認する
  • 地域別にメディアの予算配分を分け、どの分け方が売上を最もリフトできるか比較する

間接貢献の推定に、DID法を採用した理由

運用型広告でよく採用されるクリックベースのコンバージョン計測では、広告の「視聴」による売上貢献を可視化できません。

一方、管理画面で提供されているビュースルーコンバージョンはどうでしょうか。こちらは「購入をすでに決めている人に広告が表示されたケース」も多く含まれがちで、効果を過大に評価しやすいという課題があります。

DID法であれば、これらの問題を回避できます。

DID法は施策を実施した地域での数値の増分を測る方法なので、クリックによるトラッキングに依存しません。また、GA4のコンバージョン数をベースに分析すれば、実際のCV数から乖離することなく施策の効果を推定できます。

これらがデマンドジェネレーションキャンペーンの間接効果の推定に、DID法を採用した理由です。

ちなみに、クリックスルーで貢献が可視化できる施策であっても、「その広告が売上の"純増"に本当に貢献しているのか?」という疑問が持たれることがあります。たとえば「見かけ上CPAが良いリターゲティング」や「指名検索」は、こうした議論の俎上に挙がりがちです。

このような検証においても、DID法の考え方を転用することは可能でしょう。

DID法のメリットとデメリット・注意点

DID法の考え方をマーケティングで活かすことには、以下のメリットがあります。

メリット①:概念がシンプル

DID法は「対照実験」と根本的な考え方を共有しており、理解しやすい手法です。専門的な統計知識がなくても、基本的なロジックを把握できます。

メリット②:季節性などの外部要因を排除しやすい

単なる前後比較では、気温の変化やセール時期といった外部要因がノイズになります。DID法では介入群と統制群に共通する要因が除算されるため、介入群にのみ起こった変化を可視化しやすくなります。

一方で、デメリットや注意点もあります。

デメリット①:介入群と非介入群を区別できない施策では使えない

たとえば「PR投稿施策」は、投稿が表示されるユーザーと表示されないユーザーをコントロールできないため、DID法には不向きです。

デメリット②:介入群と非介入群の条件が揃っていないと使えない

検証対象の施策以外に地域限定の施策を行っていると、比較が難しくなります。

デメリット③:機会損失が生まれる

DID法では「施策を実施しない対象」を定める必要があります。本当に効果があるのであれば、施策を実施しない地域をつくること自体が機会損失になりかねません。

また、DID法には本質的な限界があることも理解しておきましょう。

反実仮想(統制群のデータをもとにした「介入群に介入しなかった場合」の予測値)は、現実には存在しない数値です。この数値が正しいかどうかを検証することは非常に困難なため、DID法の結果も「一つの判断材料」として捉えておくのが良いでしょう。

DID法の実践:配信設計から分析まで

様々な理由が重なり、ECサイトで取り扱うあるアイテムを対象に、デマンドジェネレーションキャンペーンでDID法を実施する機会が得られました。

今回はこのケースを具体例として、DID法を行う手順と考察を紹介します。

Google広告|配信地域の設定

今回の検証を行うには、一部の地域にのみデマンドジェネレーションキャンペーンを配信し、その他の地域には配信をしないようにする必要があります。

Google広告の管理画面で、検証対象のデマンドジェネレーションキャンペーンを開き、「オーディエンス、キーワード、コンテンツ」タブから「地域」を開きます。

ペンのマークのボタンをクリックすると、地域の登録に進むことができます。

デフォルトだと「日本」が選択されていることが多いので、これを削除したうえで、配信対象にしたい都道府県名を入力します。

地域ターゲティングの設定に注意

また、デフォルトでは、「所在地またはインタレスト」が選択されており、配信対象の地域に関心を持っているだけのユーザーにも広告が配信されてしまいます。

2025年12月のアップデートにより、デマンドジェネレーションキャンペーンでも「所在地のみ」を選択できるようになりました、DID法で正確な検証を行うためには、必ず「所在地」を選択するようにしましょう。

参考:Google adds location targeting controls to Demand Gen campaigns - Search Engine Land

GA4の下準備

次に、分析の下準備に入ります。

GA4の探索レポートを活用して、事前に地域別のレポートを作っておくと便利です。
地域別のレポートは、GA4の探索レポートより以下の流れで作ることができます。

  1. ディメンション: 「地域」を選択。広告で取り上げた商品だけを分析対象にしたいので、「アイテム名」も選択。
  2. 指標: 「アイテムの購入数」を選択
  3. 「行」「地域」をドロップし、「値」「アイテムの購入数」を選択
  4. フィルタ: 対象の商品名を含むものに限定。
  5. 除外設定: デマンドジェネレーション経由のラストクリックCVは別途把握するため、セッションのキャンペーンからデマンドジェネレーションを除外しておく

計算の流れ

それでは、配信が終了した後の工程に移りましょう。

DID法を行うにあたり、「配信地域(介入群)」「非配信地域(統制群)」「配信前」「配信中」の四象限にデータを分けることが最初の一歩になります

配信前配信中
配信地域
非配信地域

GA4で事前に用意しておいた地域別のレポートを使い、この四象限の表を埋めましょう。

ここでは例として、仮の数字を入れてみます。

配信前配信中
配信地域480640
非配信地域400440

次に、「非配信地域」の変化量を算出します。

配信前の期間配信中の期間
配信地域480640
非配信地域400440
 変化率110%

広告を配信していない地域では、広告の配信前の期間から配信中の期間で400→440件にコンバージョンが増えています。この広告を配信していない地域で発生した変化量を、「広告を配信していない場合の変化量」として解釈するのがDID法です。

次に、この変化量を用いて、「配信地域で、広告をもし配信していなかった場合の数値」を算出します。

この「配信地域で、広告をもし配信していなかった場合の数値」を「反実仮想(Counterfactual)」と呼びます。

まず、反実仮想の配信前の期間は、配信地域の配信前の期間の数値と同じものを入れます。

配信前の期間配信中の期間
配信地域480640
反実仮想480

次に、非配信地域のデータから得られた変化量「110%」を、反実仮想の配信中の期間に当てはめます。

配信前の期間配信中の期間
配信地域480640
反実仮想480=480×110%

そして、この配信地域の数値から、反実仮想の数値を引いた差分を施策による介入効果とします。

配信前の期間配信中の期間
配信地域480640
反実仮想480528
介入効果=640-528=112

これをグラフで表すと、以下のようになります。

広告の配信後も残る効果も測るには、それぞれの期間の長さが同じになるように、列を追加していけば同様に計算できます。

配信前の期間配信中の期間配信後の期間①配信後の期間②
配信地域480640540500
非配信地域400440420400
変化率110%105%100%
反実仮想480528504480
介入効果1123620

※数値は実測値ではなく、本記事のための仮のデータです

「DID法」を行った結果わかったこと

広告の配信終了から約2か月までの差の差を分析した結果、次の示唆が得られました。

発見①:ラストクリックの約4倍のコンバージョン増分

DID法によって見られたコンバージョン数の増分は、ラストクリックコンバージョンとして計測できた件数の約4倍に達しました。ラストクリックだけでは、デマンドジェネレーションの貢献を大幅に過小評価していた可能性があります。

発見②:配信終了後も約2か月間、効果が持続

デマンドジェネレーション広告の配信地域では、配信終了後もCV数の増分が継続して見られました。反実仮想との差は徐々に縮まり、約2か月後に誤差レベルまで収束しています。

この分析結果はあくまでも一つの判断材料のではありますが、コンバージョン数の増分がこれだけあるとすれば、施策のCPAに対する評価はかなり変わってくるのではないでしょうか。

自分たちの尺度を持とう

今回の検証結果を別の視点で解釈すると、デマンドジェネレーションキャンペーンを停止することにも、機会損失のリスクが潜んでいるということでもあります。

今回の事例のように、デマンドジェネレーションキャンペーンがラストクリックで評価できないものの間接的にCV増をもたらしていた場合、これを停止することで他のチャネルの獲得をジワジワと減少させてしまう可能性があります。

ラストクリックの評価を見て、デマンドジェネレーションの配信を撤退する、あるいはYouTube面を除外する。そうした意思決定をする現場も少なくないかもしれません。しかしその前に「本当に貢献していないのか」を自分たちで検証しなければ、思わぬ機会損失を生むことにも繋がりかねません。

このような事態を防ぐためには、何となく他の媒体と横並びで評価するのをやめて、自分たちなりの尺度を持つ必要があります。

今回取り上げた「DID法」は、その尺度の持ち方の一つの例です。

DID法には限界もありますが、ラストクリックやビュースルーコンバージョンだけでは見えない「施策の純増効果」を推定する手段として、検討の価値はあるでしょう。

これを参考の一つとして、自分たちの尺度のあり方を考えるきっかけにしていただけると嬉しいです。

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