生成AIクリエイティブのリスクについて、マーケターが知っておきたいこと

生成AIクリエイティブのリスクについて、マーケターが知っておきたいこと

生成AIの性能は日進月歩で向上しており、AIを利用して制作されたクリエイティブを目にする機会も増えてきました。

それのみならず、Metaの「Advantage +クリエイティブ」やGoogleの「Product Studio」は商品の背景画像を自動で生成する機能などを提供しており、広告プラットフォームがAIを用いたクリエイティブ制作を促進する動きも見られています。

一方、生成AIには著作権などの他者の権利を侵害してしまうリスクも指摘されています。生成AIが学習する大量のテキストや画像には、許諾を得ていないものが多く含まれていると考えられるからです。このような学習データをもとに出力された生成物には、別の著作物などの権利を侵害してしまうリスクがあります。特に画像の生成においては、何かのキャラクターに似てしまうといった著作権侵害リスクや、有名人に似た画像が生成されてしまうといった肖像権・パブリシティ権侵害リスクに注意する必要があります。

これらの背景のもと、文化庁をはじめとした各省庁は、既存の法的枠組みを前提に、生成AIの利用ガイドラインの整備を進めています。広告主や広告代理店は、こうしたガイドラインや著作権関連法、その他の判例を踏まえて、他者の権利侵害に配慮しながら、各自の判断と責任においてAIを活用していく必要があります。

リスクが指摘されながらも、やはり生成AIは重要な技術です。特に、マーケティングの領域においては、生成AIを活用することで、撮影に必要な工数を削減したり、バナー制作本数を増やすといった業務効率化への好影響が指摘されています。

マーケターには、このような生成AIを取り巻く環境のなかで、「リスク」を適切に把握・評価し、適切な対策を講じたうえで、新しい技術を取り入れていくことが求められています。

この記事では、画像生成にフォーカスして、マーケターが知っておきたいリスクや、考えられる対策について取り上げます。


AIを用いたクリエイティブのリスク

AIを用いたクリエイティブ制作において、マーケターが注意したい主要なリスクは以下の4点です。

  • 別の著作物の著作権を侵害してしまうリスク
  • 他社の商標や意匠を侵害してしまうリスク
  • 肖像権・パブリシティ権を侵害してしまうリスク
  • 偏見を助長してしまうリスク

それぞれについて、解説していきます。

著作権を侵害してしまうリスク

著作権法では、著作者に対して、著作物に関する種々の独占的な権利を認めています。代表的な権利としては、著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利である「複製権」や、自己の著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利である「翻訳権・翻案権」といった権利があります。

マーケティングの分野では、例えば、何らかの漫画のキャラクターを勝手に販促活動に利用するという行為は許されません。広告を目的として著作物を複製することになりますので、著作者に独占的に認められた権利です。

某キャラクターの画像をネットで拾ってきて、そっくりそのまま広告クリエイティブに使用してしまう……ということが著作権違反になるのは言うまでもありませんが、AIによる画像生成を利用する場合においては、キャラクターなどの著作物に「ちょっと違うんだけど、よく似ている」画像が生成されてしまうということは考えられます。

ある作品が、いわゆる「パクリ」であり、別の著作権の権利を侵害しているか否かについて、これまでは次の2つの観点から判断されてきました。

①類似性…ある著作物が別の著作物に類似しているか。(他人の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」とされた判例「江差追分事件(最判平成13年6月28日)」が有名です)

②依拠性…ある著作物が、別の著作物に基づいて制作されているか。既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること。

これを踏まえ、AIによる画像生成を利用する場合においては、著作権侵害の有無について、次のように検討されると考えられます。

①類似性が認められている

②AIの学習データに当該の著作物が含まれていた場合には、利用者が当該の著作物を知っていたかを問わず、依拠性が認められる

注目すべき点は、生成AIの利用者が当該の作品を知らずとも、依拠性が認められるという点です。

人の手による制作であれば、制作者が当該の著作物を知っており、それに似せて制作したのかが論点になります。一方で、生成AIを利用した画像生成においては、制作者(AIの利用者)が当該の作品を知らなくても、AIの学習データに当該の著作物が含まれていれば(あるいは含まれていることを否定できなければ)、著作権の侵害が認められると考えられます。

加えて言えば、制作者本人が当該の著作物について知らないからこそ、著作権を侵害していることに気づかず、広告などとして世に出してしまうかもしれません。

このようにして別の著作物の著作権を侵害してしまった場合には、広告主や広告代理店に対して著作者の申し立てによる差止請求(予防措置の請求なども含む)や、損害賠償請求が行われる可能性があるほか、SNSでの炎上や企業イメージの低下に繋がる恐れがあります。

※故意による侵害と認められる場合には、刑事罰が課される可能性もあります

商標や意匠権を侵害してしまうリスク

企業のロゴなどの「商標」や、ある商品のデザインなどの「意匠」も、意匠法や商標法において権利が保護され、権利の所持者に対して独占的な利用を認めています。

また、商標権や意匠権に関しては、商品やサービスの種別とセットで登録することで、指定した業種の範囲において、(仮に偶然の一致だったとしても)その名称やデザインを使う権利を独占することが認められています。

著作権と同様に、生成AIを利用する場合には「利用者が知らないデザインも出力することができてしまう」という特徴があります。

仮に利用者が自覚的でなかったとしても近い業種の製品やロゴに類似した生成物を利用してしまうと、他社の商標権や意匠権を侵害するリスクがあります。このような場合には、広告主や広告代理店に対して差止や損害賠償が請求される恐れがあります。

※こちらも故意による侵害と認められる場合には、刑事罰が課される可能性もあります

上図はある生成AIツールで「リンゴが胸に描かれたTシャツを着た少女の、日本の漫画タッチのイラスト」を生成した例です。某有名PC・スマートフォンメーカーのロゴが出力されており、仮に広告配信に利用する際には、商標権の侵害が懸念されます(当該箇所にはモザイク処理を施しました。イラストはGoogleの画像検索を行い、類似した著作物の有無を確認しています)。

肖像権・パブリシティ権を侵害してしまうリスク

肖像権については、法律上の明文化された規定は存在しないものの、これまでの判例では、「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画について、これをみだりに公表されない人格的利益を有する」「当該人格的利益が侵害され、当該侵害の程度が社会生活上受任の限度を超える場合には、肖像権の侵害にあたるとしている」などとされています。

このことから、AIによって生成した画像に人物画を含んでおり、それを広告配信で用いる場合には、実在する特定の人物と同一視できてしまうほどに酷似した容貌で描写されていると、当該の人物から肖像権の侵害に基づいて損害賠償を求められる可能性があると解釈できます。さらに、当該人物が(存在すると仮定して)不快に感じる表現(容貌を揶揄する内容や、成人向け商材での利用など)には、「当該侵害の程度が社会生活上受任の限度を超える場合」と判断される可能性があるため、特に注意が必要です。

また、肖像権と似た概念として「パブリシティ権」という権利も存在します。パブリシティ権についても、判例により「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」とされています。

そのため、著名人を想起させる人物画をAIによって生成し、その人物の顧客に対する訴求力を利用したと言える場合には、広告主や広告代理店が差止や損害賠償を求められる恐れがあります。

偏見を助長してしまうリスク

画像生成AIは、大まかに言えば、入力されたテキストをもとに、学習済みの大量の画像データから一致する特徴を探し出して、それらを組み合わせて画像を描写する仕組みです。すなわち、学習した画像データの偏りに影響を受けます。

例えば、特に性別を指定せずに「夕食の準備をする人」というテキストで画像生成を試みた場合に、女性の姿で画像が描写されやすい、ということを筆者は生成AIを利用するなかで感じています。また、特に人種や国・地域の名称を含めないと、白人系の人物が描写されやすいとも感じています。これはおそらく、画像データの偏りに影響を受けているのではないでしょうか。

偏見を助長するような表現は、SNS上の炎上リスクや企業イメージの低下に繋がる恐れがあります。

生成AIを利用するか否かに関わらず、すべて人の手で制作を行う場合にも考慮する必要があることですが、「偏見を助長してしまうアウトプットではないか」「現代の価値観に合っているか」という視点でチェックする必要があります。

リスクを避けて利用するためにできること

ここまでは、AIによる画像生成の主要なリスクについて取り上げてきました。

一方で、リスクについて理解し、対策を適切に講じていれば、生成AIはマーケティングの領域においても大きなポテンシャルを秘めた技術であることは間違いありません。それでは、考えられる対策についても、ご紹介いたします。

プロンプトの工夫

  • 具体的に指示する
  • 人名、サービス名、作品名などを含めない

生成AIは学習したデータの偏りに影響を受けることは先に紹介しました。そのため、出力したいシーンに関しては、可能な限り具体的に指定することが望ましいです。

例えば「○○をする人」の粒度ではなく、性別であったり、場合によっては国籍・人種についても指定した方が、意図に合った画像が生成されやすいです。

ただし、人名やサービス名、作品名などを入力してしまうと、何かの作品や人物、商標などに酷似し、権利の侵害が疑われる生成物が出力されてしまう可能性があります。

そのため、地域名・国名などであれば問題ありませんが、「固有名詞」をプロンプトに含める際には、それが他者の権利を侵害しうるものではないか注意を払いましょう。

権利面の安全性が高い生成AIを使う

画像生成ができるAIモデル・AIサービスの中には、ライセンスを所有しているか、権利フリーになっている素材のみを学習したモデルもあります。AdobeのFireflyなどが該当します。

こうした生成AIモデルを利用すると、学習データに著作権の効力が存続する著作物、許可のない肖像、商標などが含まれないため、生成物が意図せずに何かに似てしまう可能性が低くなります。また、著作権侵害の論点においては、「依拠性」を否定しやすくなります。その点においても、より安全に生成AIを活用することができます。

上図は、インターネット上の多種多様な画像を学習していると見られる生成AIモデルAと、ストックフォトなどと提携し、権利関係をクリアした画像のみを学習した生成AIモデルBに、あえて著名人の名前を含めた同じプロンプトを入力し、生成結果を比較したものです。

モデルAでは、明らかに当該の著名人の特徴を捉えた画像が出力されてしまいました(有名サッカー選手を想起させるため、モザイク処理を施しています)。その一方、モデルBは著名人と紐づけられない画像が出力されています。

権利面の安全性が低い(モデルA)生成AIモデルほど、学習量が多く、様々な画像を満遍なく学習できている点で、写実性の高さといった機能面でリードしています。一方で権利面の安全性が高い(モデルB)生成AIモデルでは、写実性などの点で劣後するものの、権利侵害のリスクを大きく低減できるのは大きなメリットです。

利用規約を必ず読む

利用を検討している生成AIモデルやサービス、機能の利用規約は、面倒くさがらずに必ず読みましょう。利用規約には、生成物に対して利用者が主張できる権利や、生成物の用途に対する規定が盛り込まれています。

また、利用規約において、利用者側が入力した画像(※)に対する、生成AIサービス提供者側の権利を定めている場合もあります。例えば、利用者が入力した画像を、生成AIサービス提供者が学習データとして利用できる内容の規約であった場合、自社やクライアントの商品の画像が、当該AIサービスの学習データとして利用される可能性が排除できません。このように、当該のAIサービスに特有のリスクが無いかも、確認する必要があります。

※商品画像の背景のみを生成する機能を利用する場合などでは、生成AIの利用者が画像を入力することがあります

生成画像に対するチェック体制

生成画像が各種権利を侵害していないか、偏見を助長する内容ではないか、といった観点で、2人以上の視点で生成画像を見ることが望ましいです。

Google等の画像検索機能を用いて、生成画像によく似た画像が無いか確認することも、著作物、肖像、意匠・商標が無いかを確認する手段として有用と考えられます。

AIを利用した表現であることを明示する

「※生成AIを利用した広告です」などの但し書きを添え、生成画像であることを明示するのも一手です。

これにより、生成画像における人物と実在の個人を結びつけられてしまう可能性を、引き下げることができると考えられます。

ルールづくりが重要

生成AIに関しては、ルールを定めることが特に重要だと考えます。

ルールが無ければ、無秩序に社員や取引先がAIによる画像生成を利用し、権利侵害やSNS上の炎上が引き起こされるかもしれません。または、ルールが無いからこそ、AIの利用がまったく進まなくなり、画像生成を使っていれば安価に実施できた施策や訴求を試すことができず、機会損失が生まれる可能性もあります。

そして、このようなルールづくりにおいては、マーケターに中心的な役割が期待されるのではないでしょうか。なぜならば、マーケターは生成AIを活用することで施策の幅がどれだけ広がるか、想像しやすい役割だからです。マーケターには、生成AIのリスクや対策について調べ、取引先やレポートラインの上役、そして法務部や顧問弁護士といった専門家などの様々なステークホルダーと協力しながら、自社やプロジェクトに合ったルールづくりを主導していくことが求められていくでしょう。

なお、アナグラムでは、著作権に配慮しつつ、生成AIの可能性を損ねない独自の社内ガイドラインを策定しています。必要に応じてクライアントに共有することも可能ですし、このガイドラインを叩き台にして、各クライアント固有の事情を踏まえたガイドライン作成のお手伝いもしていきたいと考えています。

参考資料

この記事の執筆にあたっては、以下のガイドラインを参考にしています。

文化庁著作権課「令和5年度 著作権セミナー AIと著作権」令和5年6月

文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」令和6年3月15日

経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」令和6年7月5日

文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」令和6年7月31日

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