
気が付けば、恒例の「年末商戦」が始まるまでそれほど長くありませんね。
当然ながら、リテール分野の小売業者や広告主にとっては勝負の時期です。年末に向けた激動の時期を乗り切り、競合に対して決定的な優位に立つために、2024年のホリデー・ショッピングに関する、主要トレンドをご紹介します。


リテール業界は前年比で緩やかな成長か
小売業界における今年シーズンの売上予測を見てみると、意見が完全に一致しているわけではないにせよ、概ねはポジティブな傾向にある模様です。
たとえばCRMプラットフォームのセールスフォースの予測では、前年比2%程度の成長しか予測していない、という慎重な値になっています。
コンサルティング会社のデロイトは、やや強めとはいえ概ねセールスフォースと同様の傾向をみており、2.3%から3.3%の上昇を予測している結果でした。
参考:Deloitte: Holiday Retail Sales Expected to Increase 2.3% to 3.3%

一方、デジタルマーケティングを専門とする市場調査会社eMarketerは、11月と12月の小売部門の前年同期間の比較で成長率を4.8%と予測しており、前述2社よりもポジティブな傾向を見せています。特にEコマース部門に関しては、9.5%と比較的高い成長率が目立ちました。
上記を踏まえて、多少の意見の相違はあるものの、今年は一桁台前半の成長が現実的と言えます。
※いずれも米国を対象とした数値です
購買意欲の裏に潜む「慎重さ」
さらに注目すべきは、市場調査会社GWIの調査(eMarketer経由で発表)によると、米国の買い物客も今年のクリスマス商戦に向けて比較的高い購買意欲を示していることです。

調査対象者の半数以上(56%)が、昨年とほぼ同額を支出する予定であり、3分の1以上(36%)はさらに高い予算を予定していると回答しています。
一見すると、楽観的な市況感と解釈できそうですが、顧客は非常に慎重に資金を投入しており、年末ショッピングの資金を工面するために他の分野での出費を削減している可能性もあります。
例えば、クラウドベースの請求処理サービスのインボイス・ホーム社の調査によると、回答者の64%がインフレや生活費の上昇を購買決定に影響する要因と考えていることが分かりました。この傾向が続けば、買い物客は、例えば、旅行をしない(25%)や今年のギフト購入の完全な見送り(24%)などを検討している、というデータもありました。
参考:REPORT: Delayed Holidays? 1 in 10 Americans Are Planning to Celebrate in 2025 Due to Cost
したがって、確かに全体的な購買意欲は低くはありませんが、購買決定は非常に慎重に行われる可能性が高いため、ブランドは潜在的な購買者のニーズに耳を傾けることがより重要になってくると考えられます。
この点で、例えばファーストパーティデータを活用して顧客の詳細なインサイトをすでに収集しているブランドは、大きな競争優位性を持っている可能性が高いでしょう。
年末の買い物が普段より早い傾向に
もうひとつ戦略的に重要なポイントは、初期段階で(見込み)顧客に素早くコミュニケーションをとることだと言えます。なぜなら、今年は顧客が年末に向けて買い物を始める時期が昨年よりも早くなっているようだからです。

eMarketerが今年6月に発表した「ホリデーシーズンの買い物開始時期」に関する調査によると、回答者の16%がすでに開始しており、34%がサンクスギビング(11月28日)前に開始する予定であることが明らかになりました。日本国内に関してはそこまで馴染みがないかもしれない「サンクスギビング前」を言い換えると、ほぼ「ブラックフライデー(11月29日)前に始める」という風にも読めます。
全体では、早期に買物を始めるグループが50%を占めています。(昨年は44%)
商品体験管理サービスのSalsify社の調査でも同様な傾向が確認されており(こちらは53%)、その上にクリスマス商戦の開始時期が早まっているにもかかわらず、ブラックフライデーやサイバーマンデーといった大型ショッピングイベントへの注目度は依然として高いことがデータから分かりました。
参考:Holiday Shopping Season: When Will Shoppers Start Spending? | Salsify
そのため、このように需要が短い時間枠に限定されないのであれば、ブランドにとって、主要なセールイベントの最中だけではなく、それよりも前からにコミュニケーションやオファーを集中させることは、非常に有利になる可能性があります。
検索におけるジェネレーション・ギャップに注意
適切なギフトアイデアを見つける手段となると、やはりインターネット検索が強力な原動力となっています。しかし、どの検索エンジンを好むかについては、世代によって大きな違いが明らかになりつつあります。
例えば、フォーブスの調査によると、X世代(1965年〜1980年生まれ)とZ世代(1997年〜2012年生まれ)では特にその違いが大きいようです。

X世代の86%がプレゼントのアイデアを探す際に、グーグルを利用しているのに対し、Z世代ではその割合は28%に低下しています。

しかし、他の検索手段を見てみると、Z世代の回答者の40%がギフトのアイデアを探すためにTikTokを利用していることがわかりました。
フォーブスの調査自体は春に行われたものですが、年末シーズンはギフト需要に大きく左右されるため、上記の違いはもはや無視できない影響を及ぼす可能性がありそうです。
どうやって世代間の嗜好に沿ったコミュニケーションをとるべきかは、ブランドや広告主にとって今年のクリスマス商戦の決め手の一つになるかもしれません。
また、日本国内のロールアウトはまだですが、Z世代へのアプローチに関して先日発表されたTikTok Search Adsのローンチも、クリスマスシーズンには非常に興味深いトピックになりそうでしょう。
参考:TikTok Search Ads Campaign launch in U.S.
短期的にはセール、長期的にはロイヤリティ形成こそ重要
小売企業にとって、クリスマス商戦で高い売上を達成するチャンスは一般的に見れば良好ですが、継続的な経済面の圧迫とインフレにより、潜在的な購買層は「何を」「いつ」「どこで」買うかについて非常に慎重になっているのも事実です。
昨年と同様、インフレの進行は顧客の価格への意識を高める可能性があります。このような状況下、今年はセールや割引に戦略的に注力することに加え、SHEINやTemuのような格安ECプラットフォームへのプル効果が高まることが予想されそうです。そのため、価格面での競争率がいっそう上がることもあり得るでしょう。
価格とは別に、買い物客に選ばれる要因として、ブランドでの顧客体験がより大きな役割を果たすことが考えられます。
配送条件はどうなっているのか? オンラインとオフラインの購買体験は?ショップの返品対応はどうなっているか?
などのように様々な分野において、顧客の満足やロイヤルティに影響を与える可能性を秘めています。しかし、これらの要素を短期的に最適化するのはそう簡単ではないのも事実で、(見込み)顧客をよく知ることも、良い関係を築くことにもそれなりに時間がかかるケースが多いでしょう。
「試合の後は、試合前」という、元サッカードイツ代表監督ゼップ・ヘルベルガー氏の有名な言葉があります。一つの出来事が終わっても、それは次の準備が始まる時であり、終わりではないということです。
同様に、今年のクリスマス商戦を終えた後にこそ、来年の年末に向けた準備が始まります。今年の経験を活かし、先を見据えることが、次の成功につながる糧となるでしょう。
