代替に抗う:広告運用者の未来を考える

代替に抗う:広告運用者の未来を考える

はじめまして。岡田と申します。

普段はアタラのフェローとして、はたまた野良コンサルタントとして、広告や集客の現場に出入りしています。

実は縁あってアナグラムの取締役もこっそり務めさせていただいておりますが、これまでアナグラマーとしては表立った活動を特に何もしていなかったせいか、代表の阿部さんから「今度何か書いて下さい(意訳:そろそろ仕事して下さい)」と言われてしまったため、慌てて筆をとった次第です。というわけで、少しの間だけ駄文にお付き合いいただけますと幸いです。

人工知能(AI)にまつわる漠然とした不安

ここ数年、人材は売り手市場と言われています。成長産業ではどの企業も積極的な採用活動を展開していますよね。アナグラムもその例外ではありません。

その一方で、「人工知能(AI)が仕事を奪う」という言説も根強く残っています。仕事が AI に奪われるのであれば論理的には雇用は減るはずですが、実際には増えています。もちろん、減っている業種や職種がないわけではないのですが、「AI が奪う以上に、AI によって新たな雇用が増える」と言われているように、総体としては雇用はどんどん活発になっています。

それでも、どんなに目の前で求人が増えていたとしても、どんなに失業率が下がっていたとしても、「AIに自分の仕事が奪われる」という想像や、漠然とした不安がどうしてもぬぐえない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

おそらくですが、この種の不安は「仮に奪われる仕事より創出される仕事の方が多かったとしても、それはマクロの話であって自分には関係ない。新たに創出される仕事に必要な能力がなければ、自分の現在のキャリアは未来で毀損されてしまうだろう」といった、ご自身にとって悪いシナリオを想像してしまうことが根底にあるのではないかと思います。

個人的には、この種の不安を覚える感性と危機意識は、とても真っ当だと思います。ボーッとしている人の方が逆に不安です。

でも、漠然とした不安は適度に必要ですが、ずっと抱え込んでいては精神衛生上よくありません。不安を乗り越えて、少しでも自分のキャリアを信じ、目の前の仕事が未来につながっていると信じられるようにしたいものです。

すでに何かに代替された仕事の上に我々は立っている

少し話が飛びますが、昨今のアドテクノロジー分野では、「メディアの収益」という文脈で、「PMP(プライベートマーケットプレイス)」や「ヘッダービディング」といった比較的新しい手法が議論されることが多くなっています。すごくざっくり言うと、広告の単価が下がっているので、それを仕組みで何とかしようという話です。

このような議論は、プログラマティック広告(狭義の DSP を支える仕組み)が登場する前まではあまり俎上に載ることはありませんでした。むしろ、プログラマティック広告(あるいはそれより前のアドネットワーク)は、広告枠が売れない中堅メディアや下層ページの広告枠を合理的にマネタイズするための救世主として登場を嘱望されていたものです。

プログラマティック以前は、メディアの広告枠は営業が手売りしていました。日本ではメディアレップが広告枠を持つメディアを束ねた卸業者のような役割を担っており、広告代理店に向けてカタログ販売を行い、広告代理店はそこから広告を仕入れて広告主に販売していました。こういった販売方式をプログラマティック広告に対して「予約型広告」などといいますが、実際に電話やメール等で広告枠を「予約」し、パッケージ化されたインプレッションのかたまりをあらかじめ押さえるような形態で広告は販売されていました。(今でもあります)

このような構造が支配的な状況では、(メディアそのものの力を除けば)営業の総合力が広告枠の販売力に直結します。実際、いい枠は仕入れの強い(≒売る能力のある)大手広告代理店があらかじめ押さえていましたし、広告を売りたいメディア側も、純広告を売る営業担当が企業や代理店に向けて日々営業を行っていました。

ところが、Google のコンテンツネットワーク(現在のディスプレイネットワーク)や DSP に代表されるプログラマティック広告が普及し、広告主側がリアルタイムに広告枠にアクセスできる環境が整うと、1つの広告枠に既存の卸業者経由と、システムを経由した直販との2つの流通経路が発生することになりました。すべての広告枠を手売りはできないので、広告の販売は手売りとシステム売りの2つを組み合わせて対応することになります。

時代を経るにしたがって、一部の超優良枠を除き、ゆっくりと確実にシステム売りの比率は高まっていきました。その結果、以前は広告枠を売る営業職はメディアの花形でしたが、現在はそういった職種の方にお会いする機会はずいぶんと減っています。(代わりに技術に長けたメディア側の広告担当の方と会う機会は増えています)

そう考えると、運用型広告という仕事は、手売りの営業という、既にシステムにかなりの割合を代替された職業の上に成り立っているとも言えます。AI を恐れている運用者の方も、少し前の世代からすれば今の AI みたいなものだったのです。

インプレッションの価値はどんどん薄まっている

プログラマティック広告は、広告枠という市場にオープン化をもたらしましたが、同時にインプレッション単価の下落ももたらしました。

プログラマティック広告が表示されるかどうかは、基本的に市場でのオークションによって決定されます。オークションというのは原理的に参加者が増えれば増えるほど約定単価が高くなるはずですが、実際には逆の動きになりました。

それは、広告を出したいデマンドサイド(広告主)の増加よりも、はるかに早いペースでサプライサイド(メディアの広告在庫)が肥大化したため、買い手であるデマンドサイドの交渉力が強くなったからです。売り手であるサプライサイドの交渉力が弱くなったと言い換えることもできます。

プログラマティック広告は広告在庫の販売機会の創出に多大な貢献をしましたが、この瞬間も大きくなり続けるインターネットという宇宙は、理論上無限に広告枠を提供し続けます。マイケル・ポーターのファイブフォース分析の1つ「Buyer Power」を引くまでもなく、需要に比して供給が増えれば価格は下落します。インターネット広告の市場規模は右肩上がりが続いていますが、これはインプレッション単価がゆっくりと確実に下がっていても、インターネットの広がりによって約定件数がそれ以上に増えていった結果なのです。

そう考えると、先ほど挙げた PMP のような、取引に参加するプレイヤーをあらかじめ限定するという考え方が出てきているのは、プログラマティック広告がもたらした広告枠のオープン化へのアンチテーゼだと捉えることができるかもしれません。

もちろん、本来は供給先を限定させる行為は「ターゲティング」であり、それを支える技術が「インプレッションごとの品質計算」であるはずです。ただ、それよりももっと直接的にメディアという供給をプレミアム枠に限定し、その取引に参加する広告主も許可制にすることで、Buyer Power と Supplier Power とを拮抗させて価格の下落を防ごうとする試みが PMP なのでしょう。ソーシャルメディアのタイムラインも、同じアナロジーで理解できます。

一方、指値がそのまま約定単価となるヘッダービディングは、プログラマティック広告で広く普及しているセカンドプライスオークション(※)という仕組みへのアンチテーゼだと捉えることができるでしょう。

※順位の一番目が、二番目に高い値の価格(あるいはそれを僅かに上回る価格)で購入するモデル

インプレッション価格の下落がオークションという仕組みの問題ではなく需給バランスの結果だとすれば、PMP とヘッダービディング、どちらの方に論理的整合性があるのでしょうか。その答えは時間の経過が教えてくれると思います。

価値の下落に抗う

ちょっと話が逸れてしまいました。

いずれにせよ、動画などの一部のフォーマットを除き、インプレッションの価格は構造的に下がる傾向にあります。それは、少々大袈裟に表現すれば「限りなく価値が薄まっていく状況において、参加者はどういった行動を選択するべきか」という問いが、プレイヤー全員へ与えられている状況と言い換えてもいいかもしれません。

WIREDの創刊編集長であるケヴィン・ケリーの名著『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』には、以下のような一説があります。

コピーが無料になると、コピーできないモノを売らなくてはならない。では、コピーできないモノとは何なのか?  例えば信用がそうだ。信用は大量に再生産はできない。信用を卸しで買うこともできない。信用をダウンロードしてデータベースに蓄えたり、倉庫に備蓄したりということもできない。なにより単純に、誰か他人の信用を複製することなどできない。信用は時間をかけて得るものなのだ。それを偽ることはできない。もしくは模造することもできない(少なくとも長期間にわたっては)。われわれは信用できる相手と付き合おうとするので、その恩恵を得るためなら追加の金額を払う。それを「ブランディング」と呼ぶ。ブランド力のある会社は、そうでない会社と同じような製品やサービスにより高い値段を付けることができるが、それは彼らが約束するものが信用されているからだ。信用が手に触れられないものである限り、コピーで飽和したこの世界では価値を増すのだ。

引用元:〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則 | ケヴィン・ケリー

昨今のプログラマティック広告の議論では、メディア側の収益に「プライバシー」や「透明性」といった単語が必ず付帯しますが、これはケヴィン・ケリーの言う「信用」がまさに議論の核になっているということの示唆なのだと思います。インプレッション価値の希薄化は、供給が増えたことによる影響だけでなく、その質そのものに疑問符が付いているからでもあるということです。

そう考えると、この「価値の希薄化」と「信用」の関係は、AI によって価値が薄まってしまう特定の仕事においても同様の類推が可能なのではないか、と筆者は考えます。(少々強引ですが!)

AI によって、旧来の単純作業とそれを担っていた従事者の価値は急激に下落します。これはもう仕方のないことです。運用型広告でいえば、機械学習によって手動の入札は(一定の条件下では)自動化に刃が立ちません。恒常的なディスプレイキャンペーンであれば、初期の設定だけであとはすべてシステムがいい感じでやってくれるSDP(スマートディスプレイキャンペーン)なるものも登場してきています。単なるコピーどころかそれより質の高い運用が可能であれば、単純作業に従事している運用者の価値が下落するのは避けられないでしょう。

少し気の利いたシステムであれば、見える見えざるにかかわらず、既に AI は機能の一部として実装されてきています。機能は争うものではなくて使うものです。AI と人間の二項対立を恐れるのではなく、仕事を通じて「信用」を得るための努力を重ねることが、自分の価値を大きく下落させないための重要な方法の一つであると言えるのではないでしょうか。

運用型広告という「方法」

じゃあ「信用ってどう得ればいいんだ」という疑問が浮かびますよね。わかります。

一般論になりますが、その答えは仕事術系のビジネス書を読めばどこにもだいたい似たようなことが書いてあります。それは「相手の期待を越え続ける」ことです。(言うのはかんたんで、実際はしんどいですが…)

このブログを読んでいる方は運用型広告に従事していらっしゃる方が多いと思います。そこで一つ質問ですが、運用者の仕事とは、一体何でしょうか。

「入札すること」でしょうか。「広告文を作ること」でしょうか。はたまた「レポートや提案書を作ること」でしょうか。

どれも仕事の一つだというのは間違いないですが、それはおそらく手段の一つであって、それそのものが目的ではないはずです。本当は「クライアントの売上を上げる」とか「予算内で費用対効果を最大化する」だったりするのではないでしょうか。

その本当の目的を達成するために、たまたま手許にあった手段が運用型広告なんだと思います。運用型広告だと範囲が広いので、「Google アドワーズ」や「Yahoo! プロモーション広告」「Facebook広告」でもいいです。なぜその方法を選んだかは、自分の意思もあると思いますが、実際は「状況による」という方が多いと思います。広告代理店だから、顧客が望んだから、それが一番いい手段だと思ったから…

筆者は、仕事はすなわち「方法」だと考えています。料理人で例えるなら「包丁の使い方」です。それをマスターすれば、和洋中、どんな料理にも使えます。

和食だけ学ぼうとすると、「Yahoo! ディスプレイアドネットワーク」には詳しいけれど、「Facebook広告」が分からない人になります。先に学ぶべきは和食のレシピではなく包丁の使い方です。専門を決めるのは包丁の使い方をマスターしてからでも遅くはありません。

包丁の使い方は「身につけるもの」です。「よい師」に倣いながら、自分で長い時間「反復」することが上達のための近道だと思います。「顧客の売上を上げる」という「方法」を、先達の知恵を借りながら繰り返し経験することです。そうすれば、いつか相手の期待を越えることができ、その精度や頻度も上がってくるはずです。

ちなみに筆者はもうオッサンですが、幸いにもこれまで多くの師に恵まれました。これからも恵まれると思います。AI には教師データが必要ですが、いわんや人間をや、です。

お互い、相手の期待を越え、「信用」されるいい仕事をしていきたいですね。運用型広告は、それを実践するのに最適な場所の一つだと信じています。

Yoshihiro Okada

Yoshihiro Okada

アナグラム株式会社 取締役。検索エンジンマーケティング黎明期から一貫してアカウントマネジメントの現場に居座り、ソフトウェアの開発から広告キャンペーンの運用まで、数多くの業界や様々な企業規模のクライアント・パートナーとのプロジェクトを経験。アナグラムでは主に裏方を担当。LIFT合同会社代表取締役およびアタラ合同会社フェローを兼務。

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