広告アカウントの肥大化について

広告アカウントの肥大化について

こんにちは。岡田と申します。

かれこれ半年ほど、社内で実施している毎週の勉強会(グロースハックといいます)に特別な理由がないかぎり参加することにしています。

きっかけはマネージャー陣から「参加せよ」との要請があったからなのですが、あれから半年経った今も欠かさず毎週参加しているのは、多様性のある意見の集合にまさる学びはないと改めて理解できたのと、単純に楽しいからです。楽しいと続きますよね。

※グロースハックについてはこちら

上記は2015年に書かれた記事ですが、驚いたことに4年後の現在でも書かれた内容にまったく古さを感じません。いい意味で、幹にあたる部分が変わっていないからだと思います。

グロースハックはアナグラムで最も重要な伝統の1つです。勿論これは今後も絶対的で確実な仕組みではありません。定期的に集まり、素直な話し合いをするだけで自動的に問題点が治ると思うのは間違いです。どんなチームでも一定の信頼関係を築き、心の底から素直に話せるようになるには時間がかかりますし、これから先も微調整が必要になってくることを私たちは理解しています。

手前味噌すぎて恐縮ですが、本当に、このとおりに微調整を繰り返してきた4年間でした。伝統は、改良する意志によって作られていると実感しています。

今回はそのグロースハックへの参加や、これまでの広告運用を通じてさまざまな広告アカウントを見てきた中で、ぼんやりと考えていたことをまとめてみたいと思います。


アカウントの肥大化は忌むべきことなのか

一般に、Google 広告や Yahoo!プロモーション広告のような「運用ができる」広告アカウントは、肥大しやすいものです。

広告運用やコンサルティングのような仕事をしていると、お客さまのアカウントの現状分析や、外部から依頼されてコメントやレビューを求められるなど、とかく広告アカウントに向き合う機会は多くあります。グロースハックは、その機会を構造的に担保する仕組みでもあります。

アカウントにはそれぞれの目標があり、方針があり、制約があります。たとえ似たようなビジネスモデルであっても、それぞれの事情ごとにアカウントはまったく異なる姿を見せるものです。

ある一定の規模にまで「成長」したアカウントは、多かれ少なかれ「肥大化」との境界線が曖昧になっていきます。規模にかかわらず必要に迫られて肥大しているアカウントもありますし、トライ・アンド・エラーを繰り返した結果、意図せず複雑な構成になっているものもあるでしょう。

肥大化したアカウントというのはメンテナンスがしにくく読み解くのが難しいという印象がありますが、反面、歴史あるアカウントの宿命のような気もします。

はたして、アカウントの肥大化は忌むべきこと、避けるべきことなのでしょうか。

新機能はいつも足し算

運用型広告は日進月歩の世界です。特に最近の変化はすさまじいものがあります。

3年前と同じ方法論や構成だったとしたら、そのアカウントは現状維持ではなく、確実に衰退しています(そもそもGoogle 広告であれば3年前のフォーマットは古くて維持できないと思います)。

一方で、新しい機能は、必ずしもその前にあった機能の完全な代替として現れるわけではありません。ときにアップグレード版として出たりはしますが、大抵は互換性のない別のもので、置換ではなく追加する対象として登場します。

かくして、機能は足し算され、ベータ版であれば旧機能(≒大多数にとっての現行機能)とも併用されますので、気づけばキャンペーンや設定項目がどんどん増えていきます。トレンドを捉えてがんばっているアカウントほど、構造的に肥大化しやすいものです。

ちなみに、肥大化する理由はほかにもたくさんありますし、新機能や試行錯誤”以外”の理由でむやみに肥大化しているアカウントも世の中にはたくさんあります。ですが、その要因をここで深く掘り下げていくとまったく別の記事になってしまうので、一旦これ以上は触れずに次に進みます。

とにかく、がんばるアカウントほど、肥大化しやすいのです。

カスタマージャーニーは把握できない

話はかわりますが、少し前に「ビッグデータ」という言葉が流行りました。バズワードとして消費されてしまったため最近はほとんど聞かなくなりましたが、それでもその言葉の定義どおり、この瞬間も世の中にあるデータの総量は加速度的に増大しています。

増大したデータは、たとえば接触面の複雑さと性質の多様さというかたちで我々の仕事に直接的に影響しています。

以下は、Econsultancy と AdRoll が2017年に出したレポート「The State of Marketing Attribution 2017」を抜粋した eMarketer の記事ですが、タイトルが「アトリビューションの最大の障壁は、カスタマージャーニーを定義してしまうこと」という身も蓋もないものでした。



Defining the Customer Journey Is Top Barrier to Effective Marketing Attribution
リンク: Defining the Customer Journey Is Top Barrier to Effective Marketing Attribution – eMarketer


データの増大によって利用可能なタッチポイントは大きく増え、オンライン−オフライン間の移動を捕捉することの難しさを考えると、単純なカスタマージャーニーに固執することが、全体の輪郭を捉える上で有害ですらある、と記事では指摘しています。

この「タッチポイントの増大」や「捕捉の難しさ」は、Google も折に触れて指摘しています。先日(2019年5月)に行われた Googleの広告製品発表会 Google Marketing Live 2019 でも、ユーザーのタッチポイントの多さを例に取った同様の指摘がされていました。



massive-touchpointsリンク:Search behavior has changed the path to purchase – Think with Google



この画像が象徴的なように、データが溢れている現代では、カスタマージャーニーの把握は困難を極めます。タッチポイントが格段に増え(画像左の Wendyさんは1日で120以上のタッチポイント!)、分断とクラッターが究極まで進む世界では、一人ひとりの履歴をまとめ、それをマッピングして施策に落としていく作業は、その意義は認めますが、残念ながらほとんどは幻想に近いものでしょう。

仮にジャーニーマップが作れたとして、暴力的なまでに複雑化した現実のそれを、マニュアル作業で施策に落とし込むのは非常に困難なはずです。

そして、既存の仕組みでなんとかしようともがけばもがくほど、やはりアカウントは増え、中身は肥大化してしまいます。

複雑性保存の法則

コンピューターサイエンティストとして有名な Larry Tesler がゼロックスのパロアルト研究所時代に提唱した標語に「複雑性保存の法則(Law of conservation of complexity)」というものがあります。

私の拙い読解力で説明するのが難しいのですが、Tesler のいう「複雑性」という言葉をもう少しだけ噛み砕いてみると、それは「目的遂行のために入力しなければならない情報量の多寡」だと言い換えてもいいのかなと思います。(間違っていたらすみません)

そして、その複雑性はあらかじめシステムの中に与件として組み込まれており、ある段階からは減らすことはできず移動だけができると、この法則では説明しています。

私は根が運用脳なので、こういった一般化しやすそうな法則は広告にも適用したくなってしまいます。なんとなくですが、対象を「広告アカウント」として類推してみたときに、肥大化の先で何をすべきなのか、そのヒントがあるような気がするのです。

複雑性をどこで受け止めるのか

広告アカウントの外側(≒現実世界)では、データは日々急速に膨張していますので、広告プラットフォームもそれに対応するように、できること(≒入力項目)を増やしてきました。広告運用における複雑性は、現実にキャッチアップするために増大してきたと言っても過言ではないでしょう。

増えつづけた「複雑性」は、ある段階から減らすことができなくなります。膨れ上がった複雑さによって処理すべき入力が爆発し、それを使うユーザー(この場合は広告運用者)はある段階から対応できなくなります。複雑なアカウントほど機能不全になりやすいものです。

減らせなくなった複雑性は移動しかできませんので、ユーザーが抱えられないのであれば、システム(この場合は広告プラットフォーム)へと移動しなくてはいけません。

この「複雑性の移動」を耐えられるようにするための現代的な回答が、おそらく人工知能であり、機械学習なんだろうと思います。複雑性をプラットフォームが吸収することで、もっと複雑な現実に対応しようとしたわけです。

複雑性の移動によって、入力はシンプルに

振り返ってみると、アカウント構造が複雑であることは、ある時期まで(2000年代後半くらいまででしょうか)は現実の複雑性を広告運用とプラットフォームの双方で受け止めるひとつの方法だと理解することもできました。

SKAGs(Single-Keyword-Ad-Groups)と呼ばれる1広告グループ1キーワードのキャンペーン構成が正義だと信じる運用者は今でも世界中に一定数いらっしゃいますが、彼らの運用方針を好意的に解釈すると、「ユーザーがしっかり情報を受容できるように広告アカウント側で複雑さを引き受けている」ともいえ、もしかしたらある時代までは理にかなったものだったかもしれません。(実際はそんなことはないのですが…)

しかしながら、これだけデータが肥大し氾濫している現在では、広告運用側で多少の複雑さを引き受けたところで限界があります。意地の悪い言い方をすれば、その効用は「たかが知れている」のです。

Google 広告でいえば、ここ数年のあいだに登場した新機能、たとえばレスポンシブ(検索/ディスプレイ)広告は、システムが複雑なものを複雑なまま総当たりで処理できるように、広告側の入力方法が今までと大きく変わっています。

これまでの、ヘッドラインからURLまでの一連の表現をひとかたまりの静的なパッケージとして入稿していた広告から、現在は、それぞれの要素(アセット)を分解して入力することで組み合わせによるパターン生成を人間の手では不可能なところまで増やし、大量の総当たりと機械学習によって最適化していくという仕組みに変わっています。

データの増大による複雑さは増しましたが、その複雑さをプラットフォームが機械学習で受け止めて進化した結果、運用者側から見える入力は、以前よりもシンプルになりました。実際、弊社のグロースハックで見ていても、プラットフォームの進化にいち早く対応してきたことで、以前と比べてアカウントがシンプルになってきているように思います。

試行錯誤を、設計に組み込んでいく

機械学習をうまく活用するには、適切な機会の担保が不可欠です。機会を増加させるには、データをたくさん揃えるのはもちろんのこと、失敗を許容できる環境と文化がそれ以上に必要です。

複雑な世界に対応しようとすればするほど、現場での試行錯誤は増えていきます。逆に、試行錯誤が許されない環境で、結果を出しつづけることは困難でしょう。

もちろん、我々のように企業のご予算をお預かりして運用するビジネスでは、致命的なミス、長期的な失敗は許されません。だからこそ、小さな試行錯誤が構造的に組み込まれており、トライを自然にたくさん繰り返すことができる環境を用意することが肝要だと考えています。

数十人が一斉にアカウントを分析し、アイデアやフィードバックが乱れ飛ぶ週に一度の二時間は、アナグラムの伝統です。プラットフォームの中のみならず、我々自身の学習の総量が増えていることを目の当たりにできる時間でもあります。


アカウントの肥大化は努力の結晶であり、決して悪いことではありません。ただ、過度の肥大化はマニュアルでの運用を不可能にし、機械と人間、どちらも試行錯誤する機会が奪われてしまいます。肥大化の行き着いた先に、複雑さに耐えうるシンプルな構造になるようにプラットフォームは進化してきましたし、今後も進化していくでしょう。

個人的には、複雑さの引受け先はプラットフォームだけでなく、運用者自身も加えてよいのではないかと思うときがあります。何かを入力する前に、一歩踏み込んでその先にある複雑さと向き合う知性こそ、これからの運用者にますます求められてくるはずだからです。

この記事のURLをコピーする
Yoshihiro Okada

Yoshihiro Okada

アナグラム株式会社 取締役。検索エンジンマーケティング黎明期から一貫してアカウントマネジメントの現場に居座り、ソフトウェアの開発から広告キャンペーンの運用まで、数多くの業界や様々な企業規模のクライアント・パートナーとのプロジェクトを経験。アナグラムでは主に裏方を担当。LIFT合同会社代表取締役およびアタラ合同会社フェローを兼務。

最近書いた記事

カテゴリ

更新情報をお届けいたします!

メールアドレスを登録していただくだけで、あなたにおすすめの情報や更新情報をお届けいたします。ぜひご登録ください!アナグラムのブログ更新は公式Facebookページ、Twitterでも受け取れます。

  • メールアドレスと登録する
  • Facebookで更新情報を受け取るTwitterで更新情報を受け取る

関連記事