ビジュアル検索とは、一般的な検索キーワードを入力する方法とは異なり、画像データをもとに検索を行う技術を指していることばで、インターネットで見つけた画像または、スマートフォンのカメラで直接撮影した画像をサイトコンテンツとマッチングすることによって検索することが可能です。
厳密に言えば、コンセプト自体はそれほど新しいものではありませんが、AIをはじめとするさまざまな技術革新によって精度が上がり、新たな勢いを得ているため、今後、インターネット上で商品やアイデアの見つけ方を変える可能性を持つ技術として、中期的に定着することが予想できます。
このような背景のもと、現在の動きを詳しく見ていきたいと思います。
ビジュアル検索の魅力とは?
人間は視覚で物事を認識することが多いというのは、日常でよく実感できることでしょう。例えば画像を見る際、複雑な情報であっても一瞬で直感的に把握することは比較的簡単な一方で、逆に同じ情報を正確に言語化するとなると、もっと時間がかかるのは想像しやすいですね。
この違いは基本的にビジュアル検索の大きな強みの一つで、ユーザーが特に初めて見るものや、まだ言葉で正確に言い表せないものに対して直感的に検索することができそうです。多少理想論ではありますが、eコマースの分野に当てはめれば、ビジュアル検索を使うことで、気になった画像からの検索、ECサイトの発見を経て、購入までの道のりを短縮することが期待できると言えます。
例えば、とあるユーザーがバスケットボール選手の画像を見て、その選手が履いている靴に興味を持ったシチュエーションを想像してみましょう。ビジュアル検索では、追加情報なしに靴のモデルそのものを特定することができるだけでなく、その情報をウェブショップの商品画像とマッチングさせ、その場で同じ靴を購入することも可能です。
もし、代わりにテキストで検索していたのなら、「バスケシューズ + ブランド + 色」または「選手名 + バスケシューズ」などのキーワードを手がかりに探してみることになるので、場合によっては求めたものをすぐに見つけられないことがあります。
eコマースの分野で大きな可能性を秘める
現在、ビジュアル検索の技術的な状況を見ると、主なプレイヤーとしてはITの大手が名を連ねています。Googleが提供する 「Google Lens 」をはじめ、Pinterestの 「Lens」機能、Microsoftの 「Bing Visual Search」機能、Amazonの 「StyleSnap」、あるいはShopifyに対応している各種ビジュアル検索アプリも同様の方向性で、ソリューションへの需要が非常に高いことを明確に示しています。
現在のeコマース分野での活用については、欧州の靴販売会社CCC社がGoogleとの協力で提供した事例が示唆的です。ここでは、ユーザーがアップロードした写真やインターネットで見つけた画像と自社の製品ラインアップとマッチングし、見込み顧客に適したモデルを提案することができました。同社コマースキャンペーン兼モバイルアプリ担当のミハエル・パチニック氏によると、「ビジュアル検索を利用したユーザーは、テキストで検索していたユーザーよりも、何かを購入したりショッピングカートに入れたりする確率が高かった」そうです。
参考:How visual search makes shopping smarter - Think with Google CEE
ユーザーのアクセシビリティが容易
ビジュアル検索はまだ開発中の部分が多い技術であることは確かですが、すでにインターネットユーザーに広く受け入れられていることも事実です。こちらもGoogle関連の最近の事例ですが、ChromeブラウザにGoogle Lensが統合されて以来(デスクトップPCユーザーも対象)、Google Lens経由のトラフィックが4倍に増加した事例がGoogle Analyticsに確認されています。
参考:Googleレンズからのトラフィックが激増、400%⬆ – 海外SEO情報ブログ
また、Pinterestのビジュアル検索の利用者データも興味深いです。「ピナー」(画像やコンテンツに定期的にピンを付けるユーザー)の80%にとって、ビジュアル検索がショッピングプロセスの出発点であることが、2019年の調査で明らかになっています。さらに、61%のユーザーが、実店舗内で行ったビジュアル検索について、非常にポジティブなユーザー体験をしたと回答しています。このようにビジュアル検索は、オフラインとオンラインをつなぐ有効な橋渡しとしても機能するかもしれません。
参考:Upgrading Lens for more online to offline inspiration | Pinterest Newsroom
上記の事例から分かるのは、ビジュアル検索機能自体が簡単に利用可能になった時点で、ユーザーが積極的に使おうとする姿勢を見せていることです。そして、ビジュアル検索がさらに精度を上げるとますますユーザーの日常に浸透していくことが大いにあり得ます。
従来の検索とのシナジーも
もちろん、ビジュアル検索が台頭しているからといって、従来のテキストベースの検索に取って代わるということは考えにくいです。それぞれ使う場面と役割があるので、むしろ互いに補完し合っているようになるのではないかと思われます。なぜなら、いくら画像の情報密度が高くても、検索したユーザーの意図が画像単体でわかりにくいケースがあるので適切な文脈を与える必要が場合によって発生すると考えられるからです。
この問題を解決する提案の一つとして、Googleが最近紹介した「マルチサーチ」という機能があります。ビジュアル検索の対象に選んだ画像にテキストベースのキーワードを加えることによって、検索意図を補ったり、テーマを絞り込んだりすることが可能です。
例えば、オレンジ色のワンピースの画像を元に検索する際、「緑色」という単語を追加すると、対応する緑色のバリエーションが検索結果に表示されるようになります。
カスタマージャーニーにカメラが登場
すでに人がみんなカメラで買い物をするような世の中にはなっているわけではありませんが、少なくとも、スマートフォンのカメラが今後のカスタマージャーニーにおいてますます重要な役割を果たすことは予想できるかと思います。前述のビジュアル検索にも当てはまりますが、モバイルユーザーのコンテンツとの接し方という広い文脈で想像してみると、なおさらそう感じます。
例えば、今後、購買行動の中でAR機能がどんどん活用されていくことも予想できます。今年のGoogle Marketing Live 2022では、AR技術を使ってアームチェアの3Dモデルを自分の部屋でカメラ越しのバーチャル空間に置くという事例が特に印象的でした。
参考:Google Marketing Live 2022 - Building the future of marketing together
このような使用例が示すように、スマートフォンのカメラの使い方がより複雑化し、カスタマージャーニーの一部としても無視できなくなると言えます。