Notionでタレントマネジメントシステムを作ってみた話

Notionでタレントマネジメントシステムを作ってみた話

「人的資本経営」という言葉をよく聞くようになりました。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

引用元:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

「ヒト・モノ・カネ」と言われてきたことからも分かるように、会社において「人」が果たす役割は昔から大きかったと想定されますが、近年の産業構造や個人のキャリア観の変化(デジタル化が進んだことや、人生100年時代になったこと)、イノベーションの必要性といった背景から、経営戦略と密接に関わるものとして「人材戦略」がより重視されてきているように感じます。

実際に、人的資本の開示が義務化されたりリスキリングのための補助金が導入されたりと、さまざまな動きが出てきていますが、何事においても手段が目的化してしまったら意味がないように「開示したからよい」「リスキリングの制度を導入したからよい」というわけではないのは自明です。

本質的には「会社が持続的に価値を高めていけるように、経営戦略と人材戦略をしっかり紐づけて全体像を描き、多様な個人が主体的かつ意欲的に働いて成果を出せるように、具体的な行動にうつしてね」ということである以上、まず取り組むべきは「全体像を描くこと」です。

今回は、その人材戦略の全体像を描くうえで必要になる、現状の従業員の情報の把握という点において、120人規模の会社が実践していることをご紹介します。

アナグラムにおける課題

まずは、アナグラムという会社について簡単にご紹介します。

  • 運用型広告を主に取り扱う、マーケティング支援会社
  • 従業員120名ほど(2024年6月時点)、うち60%以上は運用型広告エキスパートという職種につく
  • 中途採用がメインで、未経験者も多く採用しているため多様なバックグラウンドを持つ人が集う
  • 従業員数は右肩あがりで、ここ2,3年で50人ほど増えている

もともと運用型広告という変化の激しい業界で、コンサルティングを主とする「人」が重要になる事業を行ってきたこともあり、「人的資本」が取り沙汰される前から、採用や教育、人事的な仕組み作りは経営戦略と密接にかかわるものでした。

2020年に書かれた記事においても「アナグラムのプロダクトは”人”」であると明言されている通り、採用の改善、教育やマネジメントへの投資、多様なメンバーが存分に力を発揮するための仕組み作りなどは、惜しみなく実施してきた会社といえると思います。

一方で、50人規模で全員が同じオフィスに集っていた時代から、数年で120人規模・リモートワーク可という体制に移行したことで、「人事がなんとなく、全員の得意なことやこれまでの経歴、各種データを把握している」という状態を維持するのは困難になってきていました。

採用ツールの導入により、採用時のデータの一元管理は行えるようになったものの、その他の定量・定性的な情報の蓄積とそれに基づく分析の実施は、どう行っていくべきか試行錯誤を繰り返しています。

Notionで定量・定性データの管理することになった経緯

もともとは、スプレッドシートで人事情報を管理していました。性別や年齢などのデモグラフィックデータ、人事評価など、さまざまな情報をスプレッドシートの表にまとめており、集計や管理という面においては問題なく機能していました。

一方で、スプレッドシートというツールが表計算ツールであるという都合上、定性的なデータを紐づけるという点やビジュアライズに関しては、ややストレスを感じる仕様でした。

運用型広告エキスパートという職種が6割以上を占めるアナグラムにおいては、配置や採用において重要になってくる情報が「どういう資格を持っているか」「どういう経歴か」というものよりも、もっと定性的なものであることも多かったため、定性的な情報をストレスなく取り込み、見やすい形で活用できるツールがベターであるように感じました。

いわゆるタレントマネジメントシステムはそういった機能を兼ね備えているものも多いですが、自社の体制や仕組みに応じて柔軟にカスタムできるという点も重視したかったため、Notionを使って自分たちで作れるのではないか?と動き出すことになりました。

Notionが優れている点

Notionはしばしば「オールインワンワークスペース」と言われるように、さまざまな機能を一括で行うことができるツールです。

  • データベースの管理や表計算
  • 文章の作成やWiki機能
  • データベースをもとにしたビジュアライズ機能(TODO管理などができる)
  • AIによる文章作成や自動化

アナグラムでは、社内のマニュアルや知見をNotion上にまとめたり、ブログの進捗管理を行ったりとさまざまな場面で活用しています。

社内のマニュアルや知見
ブログ執筆の進捗管理

活用してみると、ExcelやWord、その他メモアプリやタスク管理アプリを併用するのではなく、すべてをNotionで完結できる便利さと、直観的に利用できるUIがとても優れていると感じます。

今回のタレントマネジメントシステムの構築にあたっては、データベースの機能でこれまでスプレッドシートで行ってきたことをまかなえることに加え、データベースに定性的な情報(メモなど)を組み込みやすい点、複数データベースの繋ぎこみができる点、ビジュアライズや操作性に優れている点が魅力でした。

たとえば、この画像のように各種情報を表としてデータベース化することもできますし、データベースの各行がそれぞれ1つのページとなっているため、ページ内に定性的な情報を書き込んだり、他のデータベースを繋ぎこむこともできます。

スプレッドシートであればimportrange関数で別シートのデータを繋ぎこむことができますが、Notionではそれよりも圧倒的に簡単に他のデータベースを繋ぎこむことができます。

また、長文のメモを残したいと思っても、Excelやスプレッドシートだと見にくくなってしまったりしますよね。そういったストレスからも解放されます。

加えて、NotionEasyFormというツールを使えば、Notionのデータベースに回答を蓄積できるフォームを作成することができます。社内からの意見をフォームで募って、そのデータベースをタレントマネジメントシステム上に繋ぎこむ、といった使い方も便利です。

また、1つデータベースを作ってしまえば、フィルタリングやレイアウトを駆使して得たい情報を得るためのダッシュボードを作ることも可能です。

職種別、役職別などにメンバーを確認することもできますし、たとえば経験者・未経験者で成長速度に差があるか?といった分析も簡単に行うことができます。

選考時のデータも紐づけてあるため、応募からの一連の流れとしても分析可能です。採用活動と社内の育成はツールが異なると分断してしまいがちですが、一元管理することでスムーズに振り返ることができるようになったと感じます。

導入にあたってのデメリットや注意点

ここまで、Notion活用によるメリットをお伝えしてきましたが、同時にデメリットや注意点もあります。

最初の構築に時間がかかる

自分たちで作るので当然ですが、社員数が多い会社であればなおのこと最初の構築には時間がかかります。

Notionは自由度が高い分、全体の構造をある程度描き切ることが重要です。最初から全員分のデータベースを構築するのではなく、まずは大枠の構造が問題なく機能することを確かめてから細かな情報を入れていくことをおすすめします。

また、Notionの機能や関数をイチからすべて学んでいくのは時間がかかるので、実際にいじってみつつ、「これできるかな?」と思うことがあればNotion AIに質問してみるのもよいでしょう。関数の組み方など、Excelとは勝手が違う部分もあるので、AIに任せるとスムーズです。

情報の公開・非公開を細かく分けるのがむずかしい

人事情報をマネジメントなどに活かしていくにあたって、情報を適切な範囲に公開することは重要です。タレントマネジメントシステムによっては、項目ごとに情報の公開・非公開を設定できるものもあるかもしれません。

しかし、Notionはページ単位での権限付与となるため、ページ内の項目(プロパティ)ごとに権限を分けるということはできません。よって、権限をどうしても分けたい場合は、ページを分ける・データベースを分けるといった対応が必要となります。

情報を蓄積し、最新に保つ仕組みとともに導入する

せっかくシステムを構築しても、情報が溜まっていかなかったり、最新に保たれていなければ意味がありません。

入社や配属の手続きのフローにしっかり組み込んだり、各所からの情報をフォームなどで簡単に収集できるようにするなど、仕組みとともに整えることが大切です。

まとめ

今回は、アナグラムがNotionでタレントマネジメントシステムを作成した話をご紹介しました。

情報を記憶するのがむずかしくなってくる100人前後の会社であれば、初期の構築コストもそこまでかけずに実践できるのではないかと思います。

メンバーの強みや特徴を把握して配属に活かしたり、今後の採用戦略を考えたりと、あらゆることに活かせる情報の一元管理をNotionで始めてみませんか?

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