「インフルエンサー施策」と聞くと、多くの人が「PR投稿で商品を宣伝してもらうもの」というイメージを持つのではないでしょうか。
そのイメージで実際にインフルエンサー施策を行った事業者からは、以下のような意見を伺うことが多いです。
「リーチできる層が限られ、思ったとおりに配信が伸びない」
「PR投稿がどれだけ売上に貢献したのか分かりづらい」
「話題にはなったが、効果を数字で示せず次につながらない」
このように、“成果が見えにくい”ことを理由に施策全体が見直されるケースも少なくありません。しかし、その判断は非常にもったいないです。
筆者が担当する案件では、PR施策単体では費用対効果の評価が難しかったものの、広告運用と組み合わせることで成果が可視化しやすくなり、継続に至った事例が数多くあります。
本記事では、筆者の実体験をもとに、インフルエンサー施策をさらに効果的に活かすための方法を解説します。
目次
インフルエンサー施策をPR投稿だけで終わらせてしまうのはもったいない理由
インフルエンサー施策は、本人によるPR投稿だけで完結させてしまうことが少なくありません。しかし、それだけでは、本来のポテンシャルを十分に活かしきれない場合があります。
その理由は、主に次の2点です。
リーチできる範囲が限られやすい
PR投稿は基本的に、そのインフルエンサーのフォロワーへのリーチが中心です。投稿が拡散されたり、エンゲージメントを多く獲得することでフォロワー以外にも届くこともありますが、投稿のタイミングや媒体のアルゴリズムなどにも影響されるため、常に再現するのは難しい部分もあります。
また、フォロワー分布が媒体ごとに偏っているケースもあります。
たとえば、Instagramではフォロワーが多い一方で、TikTokではフォロワーが少ないなど、媒体によってリーチできる層の広さが異なる場合もあります。
このようにリーチできる母数が限られていると、どれだけ魅力的な投稿でも、ポテンシャルを活かしきれないまま、時間とともに埋もれてしまいます。
正確な施策評価がしづらい
インフルエンサー施策では、「認知拡大」「好感度の向上」「購買促進」など、複数の効果が同時に生じるため、どの要素がどの成果につながったのかを明確に切り分けて評価するのは簡単ではありません。
たとえば、PR投稿を見たユーザーがキャプションのリンクから購入しなかったとしても、その投稿をきっかけにブランドへの好感度が高まり、後日別の経路から購入するケースもあります。
このように、短期的な売上だけでは効果が測りきれないため、単一の指標だけで成果を判断してしまうと、施策の本来の効果を見誤るリスクがあります。
インフルエンサー施策と広告運用を組み合わせるメリット
ここまでで、PR投稿単体で実施した場合に生じやすい課題や限界について整理しました。
ここからは、PR投稿をより効果的に活かすために、広告運用を組み合わせることで得られるメリットを紹介します。
反応の良い投稿を狙いたい層に広く届けられる
PR投稿は、基本的にフォロワーを中心にリーチが広がり、時間の経過とともに表示回数も減少していきます。
一方で、広告配信を組み合わせることで、反応の良かった投稿をインフルエンサーが持つ世界観やトーンを損なわずに、より多くのユーザーへ自然に届けることができます。
広告では年齢・性別・興味関心などを細かく指定できるため、インフルエンサーのフォロワー属性とは異なる、自社のターゲット層にもリーチを広げることが可能です。
成果の要因をデータで可視化しやすい
PR投稿だけでは、プラットフォームごとに提供される分析データが限られており、投稿が「どの層に刺さったのか」「なぜ成果に差が出たのか」を細かく把握するのが難しいです。
一方、広告配信を行うことで、次のようなデータをもとに効果の要因を可視化できます。
- 配信オーディエンス:年齢、性別、地域、興味関心など
- パフォーマンス指標:クリック率、視聴完了率、CV率 など
これらを組み合わせて分析することで、「どんな投稿が、どんな層に刺さったのか」「なぜ反応に差が出たのか」を具体的に把握し、次の施策設計に活かしやすくなります。
インフルエンサー施策の効果を高めるための4つのポイント
ここからは、インフルエンサー施策をより効果的に運用し、成果を最大化するために意識しておきたい4つのポイントを具体的に解説します。
1. 評価指標を設計する
まずは、インフルエンサー施策の目的を明確にし、それぞれに適した評価指標(KPI)を設定しましょう。
目的が曖昧なままだと効果検証が不十分になり、施策を継続すべきかの判断や、改善策を考えるのが難しくなります。
たとえば、以下のように目的ごとに評価軸を整理することで、成果を把握しやすくなります。
- 「認知」目的の場合
- KPI例:投稿のリーチ数、エンゲージメント(いいね・保存・コメント)、指名検索数の変化など
- 「購買促進」目的の場合
- KPI例:キャプション内のリンク経由のCV数、クーポン利用率など
さらに、PR投稿を広告配信にも活用する場合は、CPA・CTR・ROASなどの定量的な指標もあわせてモニタリングすると、施策全体での投資対効果をより正確に把握できます。
ただし、インフルエンサー施策の成果を評価する際は、数値だけにとらわれすぎないことも大切です。
たとえば、コメント欄で商品の使用感に共感する声が多く寄せられたり、おすすめの使い方を共有するなど、インフルエンサーやファンの間で会話が生まれたりするケースがあります。
こうした“ブランドへの好意や共感”といった定性的な反応は、短期的な売上にはつながらなかったとしても、長期的な成果につながる重要な要素です。
そのため、ブランドへの信頼やファンとの関係性の深まりといった定性的な側面も含めて総合的に判断することが理想です。
2.広告での活用も視野に入れて依頼・相談する
インフルエンサーにPR投稿を依頼する際は、投稿を広告として活用する可能性について、あらかじめ相談しておきましょう。
依頼時に確認・交渉すべき主な項目は以下のとおりです。
第三者配信の許諾
PR投稿を広告として利用する際は、「第三者配信(例:TikTokのSpark Ads、Instagramのブランドコンテンツ広告など)」を活用する必要があります。
そのため、依頼時には必ず、どのような形式で広告に表示されるのか、どの程度インフルエンサー側に操作や設定が必要なのかなど、仕様や影響を丁寧に説明し、十分に理解を得たうえで打診しましょう。
第三者配信の仕様については、以下の記事で詳しく解説しています。
フォーマット・投稿媒体
PR投稿を依頼する際は、どの媒体・どのフォーマットで投稿してもらうかを事前にすり合わせておくことが重要です。
媒体やフォーマットによってユーザー層や視聴環境が異なるため、投稿内容の見せ方や反応率にも大きな差が出ます。
また、PR投稿の報酬は媒体や投稿数ごとに設定されていることが多いため、複数媒体での投稿を希望する場合は、費用や条件面をあらかじめ確認しておくとスムーズです。
投稿媒体・アカウント
インフルエンサーによっては、Instagramではフォロワー数が多い一方で、TikTokでは投稿頻度が少なく、フォロワー層も異なるケースがあります。
また媒体によって、視聴者の年齢層や興味関心、反応しやすいコンテンツ形式が大きく異なることもあります。
そのため、外から見えるフォロワー数や投稿内容以外にも、可能であれば各アカウントのフォロワー属性を共有してもらい、PRの目的やターゲットに最も合った媒体・アカウントで投稿してもらえないか相談しましょう。
インフルエンサーがビジネスアカウントを利用している場合、InstagramやTikTokなど各SNSの管理画面で、フォロワーの年齢層・性別・地域・アクティブ時間帯などの詳細データを確認できます。
投稿フォーマット
基本的には、インフルエンサーの普段の発信スタイルや、各媒体のアルゴリズムや特性に合わせた形式で依頼した方が、フォロワーやその媒体のユーザーからエンゲージメントを得やすくなります。
ただし、「使用感をリアルに伝えたい」場合は動画形式、「複数の商品の特徴をわかりやすく整理して見せたい」場合は静止画の複数枚投稿など、目的や伝えたい情報に応じた形式を検討・相談するのが効果的です。
投稿利用の期間
PR投稿を活用する際は、その投稿の世界観や発信者のトーンが自然に活きるかを意識することが大切です。
インフルエンサーのコンテンツは、商品そのものだけでなく、その人らしい語り口や日常の文脈に支えられています。そうした背景を大切にすることで、投稿本来の魅力を損なわずに活用できます。
一方で、インフルエンサー自身の発信スタイルや、活動テーマが時間とともに変化することもあります。
そのため、活用期間を検討する際は、投稿の内容やトーンが現在の発信スタイルに合っているかを考慮し、双方が納得できる形で柔軟に設計することが理想です。
3. 投稿内容に関する与件は縛りすぎない
インフルエンサー施策の魅力は、独自の目線で自然に商品の魅力を伝えられることにあります。
そのため、広告主側が構成やセリフ、演出を過度に指示してしまうと、インフルエンサーならではの表現や生活文脈での訴求力が損なわれてしまいます。
伝えたい「方向性」や「商品特徴」など最低限の情報共有にとどめ、実際の見せ方や表現はインフルエンサーの裁量に委ねましょう。
一方で、トラブルや炎上のリスクを防ぐために、以下のような点は、事前に共有・確認しておくことが重要です。
- 誤解を与える可能性のある表現がないか
- 誇張・不正確な情報が含まれていないか
- 薬機法・景表法などに抵触するおそれのある内容がないか
- 広告表記は入っているか
4. 複数のインフルエンサーを起用する
インフルエンサー施策で成果を高めるには、さまざまなユーザー層にリーチし、どの層がどんな反応を示すかを検証することが重要です。
そのため、フォロワー数や属性にとらわれず、「異なる視点やファン層」を持つ、複数のインフルエンサーに依頼することをおすすめします。
たとえば30代男性向けのガジェットをPRしたい場合、自社が想定するペルソナに近い属性のインフルエンサーを中心に起用するのが一般的です。
しかしそれだけでは、フォロワー層やコンテンツの切り口が似通い、リーチできるユーザー層が限られてしまうこともあります。
そこで、メインターゲット層に加えて、少し異なる視点やファン層を持つインフルエンサーにも依頼することで、以下のように新しい層への接点を生み出せる可能性があります。
- ファッション系インフルエンサーによる「ノマドツール」としての紹介
- 共働きママの「頼れる時短アイテム」としての紹介
- 大学生の「キャンパスライフ必須アイテム」としての紹介
ポイントは、「紹介する文脈に納得感があるかどうか」。これまでのターゲット像にぴったり合っていなくても、使い方の提案に説得力があれば、効果の高い投稿になり得ます。
次の章では、この考え方を実際に施策へ落とし込み、インフルエンサー施策と広告運用を組み合わせて大きな成果を生んだ事例を紹介します。
インフルエンサー施策×広告運用での成功事例
インフルエンサー施策と広告運用を掛け合わせて成果を最大化した事例を一つ紹介します。
ある案件で、以下のような施策を実施しました。
実施内容
- 起用人数:インフルエンサー50名
- 施策設計:各インフルエンサーにPR投稿を依頼し、反応が良かった投稿を第三者配信でフォロワー以外のユーザーへリーチを拡大
この結果、ある2本の投稿が特に高いパフォーマンスを発揮。最終的には広告費全体の約45%をこの2本に集中させ、目標CPAを達成しながら広告配信を拡大することに成功しました。
注目すべきは、成果を出した2本の投稿を制作したインフルエンサーが、「商材との親和性」という基準では依頼できなかったタイプだったことです。
商材が女性をターゲットとした家庭用の生活用品だったため、主婦層のインフルエンサーを中心にPR施策を依頼していました。
一定の成果は得られたものの、フォロワー属性の重複や、似たような切り口の投稿が増えたことで、徐々に反応が鈍化していきました。
そこで、新たな層へのアプローチを狙い、あえてメインターゲットとは異なる「男性のライフスタイル系インフルエンサー」に依頼。
コンテンツの切り口は従来の投稿でもあった「家事の時短」でしたが、紹介の文脈が「一人暮らしの家事効率化」に変わったことで、これまでリーチできていなかった層から反応を得ることができました。
このように、視点やフォロワー層が異なるインフルエンサーを複数起用し、反応の高い投稿を広告として活用することで、PR投稿単体で完結していた場合よりも、より広い層へのアプローチと成果の最大化を実現できました。
まとめ
本記事でご紹介したように、インフルエンサー施策をPR投稿だけで終わらせてしまうのは、インフルエンサーの発信力やコンテンツのポテンシャルを活かしきれていない可能性があります。
広告運用と組み合わせることで、反応の良かった投稿をより多くの狙ったユーザーに届けたり、細かいデータをもとに改善を重ねたりと、施策全体の精度を高めることができます。
インフルエンサー施策の投資対効果を最大化するために、PR投稿の「その先」を見据えた活用を、ぜひ検討してみてください。



