プロスペクト理論とは?心理効果を広告施策に落とし込む方法

プロスペクト理論とは?心理効果を広告施策に落とし込む方法

「成功する家づくり」と「失敗しない家づくり」

もしバナーでこの2つを見かけたら、どちらを思わずクリックするでしょうか。

多くの人は後者を選びやすい。なぜなら、人間は“得をする喜び”よりも“損を避ける安心感”を強く求めるからです。

このような損失回避バイアスをはじめとする心理法則を踏まえてコピーを書けば、効果的な訴求に短時間で辿り着きやすく、再現性の高いクリエイティブ設計も可能になります。

本記事では、人が非合理な選択をしてしまうメカニズムを説明するプロスペクト理論を軸に、広告コピーを設計する具体的な4つのステップをご紹介します。


プロスペクト理論とは?

プロスペクト理論は、「不確実な状況で人は必ずしも合理的に判断せず、しばしば非合理な選択をしてしまう」という行動パターンを説明する理論です。

1979年に心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが論文 “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk” で提唱しました。

典型例としては、次のような行動が挙げられます。

  • 「あと500円で送料無料」と表示されると、必要のない小物をカートに追加してしまう。
  • 「車よりも飛行機のほうが事故が多い」と感じ、統計上は安全な(事故が少ない)飛行機を過度に恐れてしまう。

これらはすべて、人が損失を避けようと過大に反応したり、確率を直感的に誤認したりする心理バイアスの表れです。

プロスペクト理論の基本概念

プロスペクト理論をより理解するために、プロスペクト理論を構成する3つの概念を紹介します。3つの概念を理解することで広告のクリエイティブを考えるときのバリエーションの幅や再現性を持たせることができるようになります。

  • 損失回避バイアス:”利益よりも損失を強く感じる”心理
  • 参照点依存性:絶対的な価値ではなく、ある基準との比較で判断する
  • 確率加重:低確率の大きな報酬を過大評価し、高確率の小さな損失を過少評価する

損失回避バイアス

損失回避バイアスとは、”利益よりも損失を強く感じる”心理傾向です。意思決定の判断を非合理にしているとされています。

  • 日常的な例
    • バイキングや食べ放題に行った際に元を取ろうとして無理して食べる
      • 健康よりも料金払った分損をしたくないという心理が働く
  • 広告の例
    • 本日中だけの特典や残り〇名限定などと訴求する
      • 今申し込まないと逃す、損をすると思う心理が働く

参照点依存性

参照点依存性とは、絶対的な価値ではなく、ある基準との比較で判断する心理傾向です。

  • 日常的な例
    • 旅行に行くときに前に行った旅行と比較して良い(悪い)と判断する
      • 今回の旅行の価値ではなく、過去の旅行(経験)と比較してしまう
  • 広告の例
    • 通常9,800円 → 今だけ2,980円と訴求する
      • 定価と比較することでお得と感じる

確率加重

確率加重とは、低確率の大きな報酬を過大評価し、高確率の小さな損失を過少評価する心理傾向です。

  • 日常的な例(低確率の大きな報酬を過大評価する)
    • 宝くじを購入する
      • 確率が低くても当たるかもしれないと思ってしまう
  • 日常的な例(高確率の小さな損失を過少評価する)
    • 降水確率が80%でも傘を持たずに外出する
      • 雨が降る確率は高いが、軽視してしまう
  • 広告の例(低確率の大きな報酬を過大評価する)
    • 当社モデルハウスが1名さまに当たる
      • 確率は低いが当たると嬉しいと思ってしまう
  • 広告の例(高確率の小さな損失を過少評価する)
    • 1日5分の無駄な作業が1年間だと約30時間に
      • 小さな損失は過少評価してしまうため、大きな損失であると気づかせるように言い換える必要がある

プロスペクト理論は、「損を避けたい」「基準と比較して得したい」「低確率でもチャンスを逃したくない」という人間の非合理な意思決定パターンを説明する理論です。

これら3要素を組み合わせることで、ユーザー心理に深く刺さる広告コピーや訴求設計が可能になります。

プロスペクト理論を活かした広告コピー作成の具体的な4ステップ

ステップ1:サービスや商品のタイプを把握する

プロスペクト理論は、不確実性(リスク)や損失の大きさなどが重要になる理論です。

そこでサービスの分類を高額or少額、高リスクor低リスクの組み合わせで4つに分類しました。

自社のサービスがどのタイプに当てはまるか考えてみましょう。

商材タイプ業種例
高額×高リスク注文住宅、不動産投資、美容整形、基幹システム(ERP)など
高額×低リスク高級家具、ビジネススクール、高級ホテルやクルーズ旅行など
少額×高リスク副作用があるサプリ、家庭用歯ホワイトニング、セキュリティソフトなど
少額×低リスクファストフード、日用品、書籍、プチプラの美容液、ノベルティなど

ステップ2:ターゲットにとっての損失を特定する

プロスペクト理論の3つの概念の中の一つに損失回避バイアスがあります。ターゲットがどんな損失回避バイアスを持っているかを考えることが広告のコピーを考える上で大切になります。

まずは、損失の種類を洗い出してみましょう。

損失の種類概要
金銭的損失費用に対して効果や満足度が見合わなかったと感じること
時間的損失時間が報われなかった、または無駄になったと感じること
機会損失将来得られたはずの利益・経験・成長の機会を逃してしまうこと
社会的損失選択や行動の失敗によって、社会からの評価が下がること

上記以外にも損失の種類はありますが、挙げるとキリがないため割愛します。

大切なのは、自社サービスを利用するターゲットがどの損失の種類を強く感じるかを理解することです。それがわかれば未然に広告のコピーで訴求して防ぐことも可能になります。

ステップ3:適している概念を選択する

プロスペクト理論のどの理論が活用できそうか考えましょう。

ここまで自社の商材タイプ、ターゲットの損失の種類を整理しました。

いよいよ次はプロスペクト理論の3つの基本概念のうちどれを活用できそうかを考えていきます。

商材タイプ損失の種類活用すべき理論
高額×高リスク金銭的損失・機会損失損失回避バイアス
高額×低リスク社会的損失・金銭的損失参照点依存性
少額×高リスク金銭的損失・時間的損失損失回避バイアス+確率加重
少額×低リスク機会損失・金銭的損失参照点依存性+確率加重

商材タイプごとに記載します。

  • 高額×高リスク:
    価格も高く、失敗=大損失となるため「損したくない」気持ちが最も強く働くため、損失回避バイアスが最も効果的です。
  • 高額×低リスク:
    価格が高いため「本当に価値があるのか?」と他商品と比較する心理が強いため、参照点依存性で比較することで納得感を与えられます。
  • 少額×高リスク:
    低価格でも、体への影響・効果の不透明さなどがリスクとして意識されるため、損失回避バイアスが効果的です。一方で高リスクである商材だからこそ、「一部のユーザーが劇的に効果を実感した」などの低確率の大きな報酬(確率加重)も感じやすい。
  • 少額×低リスク:
    少額で低リスクのため、行動の引き金となるコミュニケーションが重要になる。そのため参照点依存性で限定であることを伝える。また少額×低リスクの商品は日用品などのように購入頻度が高いケースも多く高確率で小さな損失をしていることも多く確率加重の活用も効果的です。

ステップ4:広告コピーに落とし込む

いよいよ最終ステップです。ここまでまとめた内容をもとに具体例なコピー例を考えましょう。

まずは、先ほどまとめた表を踏まえて効果的な表現やポイントを考えます。

損失回避バイアスなら、損を避ける心理のため「後悔・失敗・損をしない」といったワードが考えられますね。同様に考えていくことで、効果的な表現やポイントを記載していきます。

さらに、効果的な表現やポイントを踏まえてそれぞれ広告案を考えてみてください。

自社の商材タイプ損失の種類活用すべき理論効果的な表現やポイント広告案
高額×高リスク金銭的損失・機会損失損失回避バイアス後悔・失敗・損しない後悔しない家づくりとは
知らないと損する選び方
高額×低リスク社会的損失・金銭的損失参照点依存性他社比較・満足度・他者からの見られ方“高い”には理由がある
いい宿だったねと言われたい
少額×高リスク金銭的損失・時間的損失損失回避バイアス+確率加重後悔しない・効果・変化試してよかった、の声が続々安心して試せる理由があります
少額×低リスク機会損失・金銭的損失参照点依存性+確率加重今だけ・限定・抽選今だけお得なセット
〇名さまにプレゼント

上記の表にある広告案はあくまでも一例ですが、プロスペクト理論をもとに4つのステップに沿って考えると広告案を作ることができます。

プロスペクト理論を使うときの注意点

プロスペクト理論はユーザーの心理傾向を理解して訴求する手段ではありますが、正しく扱わないと信頼を損ねたり逆効果を招いたりする恐れがあります。

ここでは、そのようなリスクを回避しつつ成果につなげるために押さえておきたい注意点をご紹介します。

過度な表現(煽り)/ウソは禁物

プロスペクト理論では、損失回避バイアスが核となる概念のため、「損する」「後悔する」「危険」などの言葉は効果的ですが、「あなたは確実に損をしています」や「このままでは手遅れになります」といった過度に恐怖や不安を煽ると炎上やブランド毀損につながる恐れがあります。

対応としては、マイルドな表現にできないかを考えましょう。

例えば先ほど挙げたものであれば「気づかないうちに損しているかもしれません」や「今ならまだ間に合う選択があります」などです。

比較は「事実に基づく」or「主観的な印象」で表現

参照点依存性をもとに広告案を考える場合は比較するコピーになる場合があります。

その際に事実に基づかない「業界№1の人気」や「他社と比べて圧倒的に優れている」といった表現はやめましょう。根拠があいまいな場合、景品表示法の法律に違反するリスクがあるだけでなく、誠実さに欠ける行為となります。

参考:消費者庁「No.1表示に関する実態調査」

対応としては事実で示せる根拠がある場合は数値的表現、ない場合は感覚的な比較の表現を行いましょう。

  • 市場シェア№1(事実が示せる客観的なデータの出典を明記する)
  • プロが選ぶアイテム(経験者、上級者が選んでいることを示唆する)

期待値コントロールが重要

確率加重をもとに広告案を考える場合に限定や抽選などといったオファーをする場合があります。「今このページを見た方限定」や「本日中に申し込んだ方限定」などのオファーを毎月出し続けると効果がなくなってしまいます。

当たり前ですが、限定ではないということをユーザーもわかれば今申し込む必要を感じなくなるからです。さらに実際は限定になっていないためウソの表現に該当しブランド毀損につながる恐れがあります。

対応としては、オファーで事実のみをお伝えしましょう。

例えば先ほど挙げたものであれば実態と合うような内容「このページを見ている方限定」や「毎月〇名さま限定」に変更するのが良いでしょう。

まとめ

プロスペクト理論の紹介と広告での活用について紹介しました。

プロスペクト理論を用いると、ユーザーの不安に応えるような広告が再現性をもって考えられるようになります。

このように心理傾向をベースにした考え方をたくさん知ることでターゲットがどうしたらCVしてくれるのかを考えることができるのがマーケティングの面白いところですよね。

ただし、本質はあくまで価値ある商品・サービス体験にあります。体験が伴わなければ、一時的にCVが伸びてもリピートや口コミは続きません。ただし、商品・サービスの体験が良くないと、継続的にビジネスは続いていかないことも少なくありません。商品やサービスとセットでマーケティングや広告のコミュニケーションを考えることが事業者とユーザーにとってWinwinの構造となります。マーケティング施策はプロダクト価値とセットで設計し、双方にプラスとなる状態を目指しましょう。

そのため、訴求や表現には細心の注意を払いながら、商品やサービス 自社の価格帯 状況やリスクレベル 商品特性に合わせてプロスペクト理論を取り入れ、成果向上を目指してみてください。

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