EC事業者の多くが直面する課題の一つが、新規顧客の獲得はできても継続率(リピート率)が上がらない、低いということです。広告やランディングページ(LP)へうまく集客できても、初回購入後に離脱してしまうケースが後を絶ちません。
そこで本記事では、お客様の「弱み」と受け取られがちな商品特性を、むしろ「強み」に転換させる「5Sアプローチ」をご紹介します。この手法を取り入れることで、新規獲得力を維持しつつ継続率の向上も期待できます。
目次
5Sアプローチとは
広告やランディングページのコピーを考えるときに、「弱み」を率直に伝えるのに加え、コアな強みを補強する役割を与え、あわよくば強みに転換することで、誤解を防ぎ、強みやシナジーに変えるフレームワークです。
5Sアプローチ
- Straight:率直に伝える
- Strengh:強みとして伝える
- Sacrifice:強みの代償として伝える
- Story:物語の一部として伝える
- Solution:便利な使い方として
「弱みを率直に伝える」メリット
社会問題にもなっていますが、解約率という表面的な数字を下げようとするあまり、解約導線を分かりにくくすることなどは本末転倒なの、読者のみなさんであれば理解されていることでしょう。
継続いただくためにメルマガやDM、クーポンの配布、顧客インタビューなどさまざまな方法が考えられ、それぞれ重要なのですが、わたしが今回おすすめしたいのは「弱みを率直に伝える」ことです。
ひとつ例を挙げます。この商品は、とても健康に良い食品だけど、味にややクセがあります。次のような2つの売り方では、継続有無はどのように変わるでしょうか?
①食べやすくて美味しい、健康にいい食品です。
②成分を凝縮してるからこそクセがあります。美味しく続けるコツは○○な食べ方です。
①のコピーに惹かれて購入した方は、実際に食べてみて「クセが強くて食べづらい…」と感じるでしょう。これでは継続は望めません。②であれば、クセがあるのを納得して買っていただけているため、継続していただきやすくなりますよね。
しかし実際は①の売り方をしていることが多いのではないでしょうか?
弱みを伝えると購入率が下がるのでは?
弱みを伝えてしまうと継続率は上がったとしてもコンバージョン率(購入率)は下がってしまうのでは?と思った方も多いかと思います。
下がってしまうこともあるかもしれませんが、一概にそうとは言えず、むしろ改善することもあります。理由は2つあります。
理由の1つ目は、得られる効果を補強しているからです。
「味にややクセがある」というネガティブ情報を、「成分を凝縮させているので…」のように「強みの代償」として理解いただければ、むしろ「効果がある証拠」となります。そうすると、仮に口に合わなくても「良薬口に苦し」と好意的に続けていただけるかもしれません。
理由の2つ目は、語り手のニュートラルな立場を表明でき、信頼性を高めるからです。
一見ネガティブな情報も正直に話すことで、ポジショントークではなくニュートラルな立場で話している印象になります。「誠実で正直な語り手」という印象も持ってもらえると、主張を受け入れてもらいやすくなります。
結果としてコンバージョン率が一概に下がるとは言い切れず改善することも狙えます。
【事例】広告やLPを変えただけで解約率が変わった
広告やLPを変えただけで解約率が変わるのか?と思われたかもしれませんが、実はかなり変わります。クリエイティブの訴求によって2回目の購入率が20-30pt変わることもあります。
実際、私たちでご支援した桃屋さまでは、広告やLPを見直した結果、詳しい数字まではお伝えできませんが、「初回購入後の継続率がグッと上がりました。コミュニケーションの取り方でここまで継続率が変わるんだと驚きましたね。」との口コミをいただいています。
広告やLPを変えただけでも継続率は改善するのです。
「5Sアプローチ」の活用方法
それでは、「5Sアプローチ」の詳細について、例を交えながらご紹介します。
① Straight:率直に伝える
誤解されがちな、期待に答えられない顧客ニーズや状況があれば、先に伝えておけるといいでしょう。
正直に伝えると一石二鳥です。
まず、本当にお役に立てる顧客にとっては正直な話し手・誠実な印象になり、メインの主張を受け入れやすくなります。加えて、十分にお役に立てない方にとっては事前に誤解されずに済みます。
(例1)味にクセのある食品
✕:「美味しい」
○:「クセがある」「●●食材が苦手な人は要注意」
(例2)設定がややこしいサービス
✕:「簡単に設定できる」
○:「技術に自信のない方はサポート可」
サポートに頼る前提で集客した方がオンボーディングがスムーズかもしれません。
② Strengh:強みとして伝える
弱みと思っていることも、顧客・状況・解釈次第で強みになります。
(例)
✕:「いやいやうちなんて、小さい会社だし、古いし、田舎だし、値段も安いわけじゃないし、いいことないですよ」
○:「創業70年、昔ながらの伝統的な工法を守り少数精鋭の職人技で生産しています。●●地方の自然が育んだ△△食材を活かした商品は絶品です」
毎日目にしてる何気ない古い設備が、東京の若者たちからすると、信頼や伝統を感じさせたりするものです。
どうせなら「強み」と解釈して伝えましょう。
他にも様々な言い換えがあります。
(例)
✕:「サービスが限られている」
○:「専門性」
✕:「単純で機能が少ない」
○:「分かりやすい、シンプル」
✕:「商品を選べない」
○:「何が届くかワクワク」
✕:「商圏が狭い」
○:「地域密着、地域の伝統を纏う」
✕:「サポートが手薄」
○:「ほどよい距離感」
※例えば見守り系のサービス等では「ほどよい距離感」は強みになりえる。
ウソをつくわけではありません。ちょっと言い方を変えるだけで、ほとんどコストもかかりません。何か強みに変えられる「弱み」がないか、一度考えてみてもいいかもしれません。
③ Sacrifice:弱みを「強み」の代償として伝える
すべての商品・サービスは、何らかのトレードオフ(何かを捨てて、何かに集中すること)を抱えていますが、弱みを「強みの代償」として説明すると、弱みを説明しつつ、一番伝えたい強みを補強できます。
(例)
✕:「クセがあります」
○:「成分を凝縮させているのでややクセがあります」
✕:「効果が出るまで時間がかかる」
○:「根本からアプローチするため、効果が出るまで時間がかかる」
✕:「合わない場合がある」
○:「●●の悩みに特化した処方になっているため、体質によっては合わない場合がある」
✕:「シンプルなパッケージ」
○:「環境に配慮し、余計なコストも削減した結果、シンプルなパッケージになりました」
✕:「配達エリアが限られています」
○:「美味しさを大事に冷蔵で当日中にお届けするので、配達エリアが限られています」
冒頭で説明した通り、得られる効果を補強しており、語り手の信頼性も高められるので、コンバージョン率を改善しつつ、解約率も改善できるかもしれません。
④ Story:物語の一部として伝える
ストーリーを提示してそこに共感いただけると、個人的に応援したい気持ちになり、結果として弱みを受け入れてもらいやすくなります。
例えば、弱みとして「すぐに届かない」「値段が高い」「小規模で知られていない会社」という商品があったとして、以下のように伝えるとどうでしょうか。
「従来なかった、軽くて使いやすいピッタリの製品ができました。1,000年続いた伝統の●●焼の窯元と試行錯誤した結果生まれました。職人技を大切に、手仕事を誇りに思っています。小さな窯元だからこそできる品質の高い製法です」
そうすると納品まで期限がかかったり多少値が張ったとしても、気にせずに買っていただきやすいのではないでしょうか。なぜなら、ストーリーを通じて語るため、ブランドに対して共感しやすく応援したい気持ちになるからです。また、世間並みの水準よりも一歩洗練された品質の印象を持ってもらえます。
良いストーリーを作るために大切なのはなんでしょうか。
それは、あえて2つあげるとすると、「理想と現実のギャップ」「魅力的な語り部(キャラクター)」だと考えます。
「理想と現実のギャップ」
ストーリーの面白さは、理想と現実のギャップにあります。現状の社会に対し魅力的なアンチテーゼを提示し変化に挑戦することで、強いストーリーが生まれます。
(例)現状 ⇒ アンチテーゼ の例
- 「グローバリゼーション」⇒「地域活性化」
- 「大企業的な大量生産」⇒「手作業・伝統製法」
- 「都会の忙しい生活」⇒「田舎暮らし」
- 「自然災害」⇒「復興」
- 「学校教育」⇒「オルタナティブ教育」
「魅力的な語り部(キャラクター)」
「漫画の描き方」的な本も多くは「いかに魅力的なキャラクターを作るか?」に紙幅を割きますが、同じように、挑戦する会社や個人は、親しみが持てて、個人的に共感できることも大切です。
親しみやすい文体で、子供の頃の思いや、海外旅行で出会った衝撃など、個人的な原体験を語るのも効果的ではないでしょうか。
クラウドファンディングで成功したプロジェクトは、ストーリーテリングに長けておりコピーライティングの参考になるかもしれません。「理想と現実のギャップ」「魅力的な語り部(キャラクター)」の条件を満たしているものも多いのではないでしょうか。
⑤ Solution:便利な使い方を伝える
一見した「弱み」は、便利な使い方として提案することもできます。「案外役に立つし悪くないかも」と思える用途を提案するのもひとつの手です。
(例)
✕:「缶で捨てるのが大変」
○:「缶だから洗い物が少なくて毎日続けやすい」
✕:「味にクセがある」
○:「牛乳に混ぜるとほんのり甘くて美味しい」
✕:「品質が不安定」
○:「変化を楽しむ」「個性がいとおしい」「使うほどに味が出る」
✕:「値段が高い」
○:「大切な人へのギフトにぴったり、贈って間違いない」
まとめ:部分最適化からシナジーに
そもそも「新規獲得を増やすと継続率が下がる」状況は、販促活動が部分最適化になっていることが多いはずです。なぜなら、本来、浸透率(ある期間に商品を購入した人の割合)と購入頻度(一人の購入回数)には正の相関関係があるからです。(ダブルジョパディの法則)つまり本来、新規顧客に多く買ってもらえるような魅力を作れると、既存顧客をつなぎとめることも容易になるはずです。
しかし現実には、新規獲得と継続率が相反すると考えがちです。これは部分最適に陥る危険をはらみます。数を増やすから質が落ちるのではなく、数を増やすから質も上がる、シナジーを生み出す施策が理想です。
5Sアプローチは、「弱み」を強みに転換したり、あるいはコアな強みを補強する役割を与えられれば、シナジーを作る上で有効な手段となります。新規獲得力と継続率の好循環を生み出せるのです。