2020年に気にしておきたい、運用型広告の周辺領域で起きそうな3つのこと

2020年に気にしておきたい、運用型広告の周辺領域で起きそうな3つのこと

あけましておめでとうございます。本年もアナグラム及びにアナグラムブログをよろしくお願いいたします。

年初の記事は田中が書くというのが恒例となっておりまして、2020年最初のブログ記事も田中がお送りいたします。

年初の記事として、その年に何が起こるかを占うという、よくありがちな内容をここ数年続けてきているのですが、意外に年初に予期していたことがその年に起きたり盛り上がったりしておりまして、2020年についてもよしなに…ということで、今年におきましても例外なく、2020年に何が起きそうか?ということを占ってみたいと思います。


2019年の振り返り

2020年を占う前に、2019年はどのような事をお話したのかを振り返ってみますと、2019年の年初には下記5つのことをトピックとして紹介をしておりました。

参考:運用型広告の運用者なら押さえるべき、2019年に注目したい5つのトピックス

  1. 広告運用者の価値は広告運用以外に比重が移る
  2. アセットデータの送信はプッシュ型からプル型へ
  3. インターネット広告によるコミュニケーションに限界が見え始めてくる
  4. 法改正などは引き続き注視が必要:消費税増税・軽減税率など
  5. ブランドセーフティ問題は継続。信頼性に乏しいメディアや法的にグレーゾーンなメディアに表示される広告も注視される

ここで、それぞれのトピックについても振り返ってみます。

1. 広告運用者の価値は広告運用以外に比重が移る

2019年に限ったことではないですが、どのようにデータを取得し、まとめ、次に活かすかという話をする機会がすごく増えた年でした。レポートデータの接続とビジュアライズ、構造化データの活用、タグのマネジメントやカスタマイズなどなど、周辺領域まで広くカバーすることが一気に増えた年であったと感じています。

2. アセットデータの送信はプッシュ型からプル型へ

Google しごと検索の実装、Google Merchant Centerの無料プログラムSurfaces across Googleの開始など、Googleが各Webサイトの構造化データをプルして検索のリッチリザルトが多様化するなど、トピックは多かった部分なのかなと思います。

3. インターネット広告によるコミュニケーションに限界が見え始めてくる

なんと言ってもGoogle マップ(Google マイビジネス)の台頭でしょう。良くも悪くも頻繁に話題に登った感じはします。コミュニケーションという点では広告に限らず、SEOの領域でもゼロクリックサーチという言葉が聞かれるようになったように、特定のチャネルに依存することのない仕組みを構築しておくことが重要になってきました。

4. 法改正などは引き続き注視が必要:消費税増税・軽減税率など

消費税率の改正については2019年の10月より変更というのが既定路線だったので、予測も何もあったわけではありませんが、前払い広告費の消費税はどう扱うか、軽減税率については商品によっては8%か10%か問題は、大きく取り上げられたトピックでした。

5. ブランドセーフティ問題は継続。信頼性に乏しいメディアや法的にグレーゾーンなメディアに表示される広告も注視される

業界的に大きく取り上げられなかった気はしますが、特定のジャンルでここは事前に除外しておいたほうが良さそうというケースがあり、予防線を張るために定期的にディスプレイ広告の配信先除外をすることは多かった気がします。

以上、2019年を振り返ってみました。個人的には、おおむね予測した内容から外れることはない年だったかなと思います。

2020年は何が起こりそう?

ここからは2020年に何が起こりそうか?何に注目するべきかをご紹介していきます。

1. eコマース2020年問題

1つ目はeコマース2020年問題です。これは2020年以降に歴史ある一定規模以上のeコマースが直面するであろう問題のことを指しておりまして、これを社内では「eコマース2020年問題」と呼んでいます(業界的に生まれた用語ではないことご容赦ください)。

テクノロジーの進歩によって、オフラインデータの統合、外部決済システムの導入、ダイナミック広告の対応(データフィードの活用)、構造化データの実装、タグマネジメント、接客ツールの導入など、eコマースの運営でできることは、この数年でぐっと増えました。

その他にも、Googleのモバイルファーストインデックスに対応するために、これまでデスクトップとモバイルで分けていたページを1つにまとめ、Webページのレスポンシブウェブデザイン(RWD)化を進めるなどは、やらなくてはならないリストの上位に位置していたでしょう。

さて、これらのテクノロジーをWebサイトに導入することを考えたときに、規模の大小はあれどWebサイトのリニューアルが伴うケースが多いでしょう。このときにeコマース2020年問題は発生します。

具体的にどのような問題が起きるかといいますと、複数のデータを1つのシステムに統合する際に、システム開発に大幅に見積もりを超えるほどの時間を要したり、サイトの移行作業に際して長期間のサイト停止を余儀なくされたり、サイトリニューアル後に原因不明の不具合が発生してしまい、Webサイトが不安定になってしまうといったものです。一言で言ってしまえば、システム上になんらかの穴が予期せず空いてしまうということです。

オムニチャネルにせよ、データフィード広告への対応にせよ、決済機能の実装にせよ、eコマースにこれらの機能を導入するためには、事業主が独自の形式で保持していた各種データベースを、導入するシステムの仕様に合わせてデータを整えたりインターフェイスの開発をしたりしないとなりません。連携するシステムが増えれば増えるほどその難易度は指数関数的に上がっていきます。

ですので、どうしてもこういった新機能の実装を伴うサイトリニューアルでは、何らかの問題が発生してしまう確率も高くなってしまいます。加えて、前述のとおり、その難易度や複雑さは、やりたいことの数に応じて指数関数的に上がっていきますので、何らかの問題が発生したときに、問題の発生源を特定することも非常に困難になるでしょう。

この問題の根底にある原因を考えてみると、これらのプロジェクトを取りまとめられるスキルを持つディレクターが存在しないからではないかと考えます。

これら最新システムの導入は特に最近になって実装されるようになってきたため、事業主側のマーケターやシステム開発側も経験に乏しいケースが多く、利用するマーケティングデータなどの要件の定義が事業主側で詰めきれていなかったり、システム開発担当側もその要件が正しいかどうか判断ができず、そのまま実装に動くといったケースが発生すると想定されます。そして、その過程で生まれてしまった不具合は見過ごされてしまう恐れも。

参考:〈UA、アダストリア〉 システム移行で問題発生/旧システムに戻し、損失最小限に | 通販 | 日本流通産業新聞 | 日流ウェブ

この問題を回避するためには、プロジェクトを取りまとめるディレクターの存在が重要となることは間違いありません。

では、どのようなスキルセットを持っていればディレクターとして立ち回れるのでしょうか。筆者が考えるのはエンジニアリングの知見があるマーケターもしくは、そのビジネスに対する理解が深いエンジニアだと考えます。

つまり、テクノロジーを使ってマーケティングデータを橋渡しすることができる人材です。とはいえ、マーケティングとテクノロジーの両方を深く知る必要はなく、どちらか一方を深く知っていれば他方は基本的な知識を持っていれば良いと考えています。なぜなら基礎をおさえておけば、何か通常とは異なる状況に直面したときも”何かがおかしい”と勘所を働かせることができるからです。

最初に「この問題は歴史ある一定規模以上のeコマースが直面する」とお話いたしましたが、実はASPカートを利用したeコマースであれば、ASPカート側から様々な機能が提供されるケースもあり、このeコマース2020年問題に直面する可能性は低くなります。

しかしながら、提供される機能はASPカートによって異なりますから、「あれをやりたい」や「これもやりたい」といったものが出てきたときに、ASPカート側でそれを実現できる機能の提供ができていないために、やりたいことが実現できないというケースも想定できますので、ASPカートを使っていれば万事安泰とは限りません。

ゆえに、これからeコマースを立ち上げる予定があるのであれば、ある程度の拡張性を見込んでASPカートを選ぶことをおすすめします。例えば最初に小規模向けのASPカートを導入したものの、ビジネスがある一定規模まで成長したときに、eコマースが拡張できないとなってしまうとビジネスの成長も鈍化してしまいかねません。

既にASPカートを利用しているのであれば、さらなる機能充実を求めて、ASPカートの乗り換えという選択肢が出てくるかもしれません。しかし、そうなった場合は、顧客データや商品データなどをどのようにしてスムーズに移行するか?という課題が立ちはだかり、eコマース2020年問題に直面する可能性が出てくることは覚えておきましょう。

2. タッチポイントの拡大とWalled Gardenの強化

このトピック自体は2019年以前より囁かれていたものではありますが、この2020年も引き続き話題にあがってくると考えています。

まず、タッチポイント(≒ユーザーとの接点)の拡大についてですが、各広告プラットフォームともに新しい機能を提供、または新たな広告枠を増やしてきている傾向を強く感じます。

Googleでは、Google Merchant Centerを無料開放して広告以外の検索結果に商品情報を表示させるSurfaces across Google、Discover、Google マップといった自社プロダクトへの広告枠が追加されるなど、これまで以上にGoogleの利用者とタッチポイントを持てる機会が増えました。

同じくして、Amazon広告ではこれまで一部の広告主しか利用できなかったスポンサーディスプレイ広告の利用条件を緩和したり、LINE Ads Platformがセルフサーブで利用できるようになるなど、各広告プラットフォームでできるとことがぐっと増えた印象です。2020年も広告プラットフォームの機能改善や新機能の開放は進み、より多くのチャネル、多くのタッチポイントを持つことができるようになるでしょう。

一方で、GoogleやAmazonといったサービスドメインでのWalled Gardenが更に進む事も考えられます(Walled Gardenとは「壁に囲まれた庭」という意味で、できるだけGoogleやAmazonなどのサービスドメイン内ですべてが完結できるように、サービスを提供することを指します)。

タッチポイントの増加とWalled Gardenの進行は、一見して直接的な関係はないように思えますが、安定的な収益を確保するためのものだと筆者は考えています。

例えばGoogleやYahoo!、FacebookやLINEが広告収入をよりあげるためにはどのような施策が考えられるでしょうか?ざっくりですが次のようなことが実現できれば広告収入の額を大きく伸ばせそうです。

①自社サービスドメイン(Walled Garden)の中に多くのユーザーを呼び込む
②広告枠を増やしてタッチポイントを増やす
③広告主を増やしてオークションを活性化させる(クリック単価の上昇)

①では多種多様なサービスを提供することで利用者の体験を向上させ、Walled Gardenにとどまってもらうようにするというという手法です。GoogleやYahoo!が検索以外にもマップやGmailなどを提供することで、そのサービスドメインの中で完結=滞在時間を伸ばすという事を行っています。滞在時間が伸びれば広告に接触する機会が増えますので、広告収入の増加につながりそうです。

②は前述のタッチポイント拡大のお話です。これまでに広告枠がなかった場所(GoogleならDiscoverやYouTubeの検索結果など)に広告が表示されるようになれば、広告に接触する機会が増えますので、こちらも広告収入の増加につながりそうです。

③はLINE Ads Platformがセルフサーブで利用できるようになったことがこれに当たりますが、多くの広告主が参入し、様々な広告主の広告が表示されるようになることで、(特定の広告主ばかり表示される機会が減ることで)広告のクリック率の改善につながるでしょうし、オークションに参加する広告主が増えることで広告収益の改善にもつながる可能性もあります。

収益は主に①×②×③で決まってきます。①~③のそれぞれ自体に目新しさはありませんが、①のWalled Gardenの強化という面では、Googleが広告以外のオーガニック面に対してGoogle Merchant Centerのデータや構造化データなどを利用した検索結果を返すようになってきたことは大きな動きでした。

Amazonの場合はあくまでも商品を売り上げるために広告サービスを提供するという立ち位置ですので、広告事業が収益の柱となっているわけではありません。Amazon広告によって、いかに購買を促せるかということになります。

もちろん、Amazonの考えるAmazon広告の目的は購買を促すことですが、Amazon内でより多く商品を買ってもらうという点に着目してみれば、より多くの新規顧客をWalled Gardenに呼び入れたいところです。

多くの新規顧客をAmazonというWalled Gardenに呼び込もうとした場合、Amazonの外からAmazon内に顧客を誘導できるAmazon DSPというプロダクトがありますが、Amazon DSPを利用するためのハードルが非常に高いため、一部の広告主しか利用することができません。とすれば、呼び込める新規顧客の数もいずれ頭打ちになるでしょう。

そこでAmazonは、Amazon DSPよりも利用しやすいスポンサーディスプレイ広告という新たなプロダクトを提供することで、多くの新規顧客を獲得したいのだと考えます。

参考:Sponsored Display beta launches in new countries | Amazon Advertising

Facebookは個人情報流出の問題もあり、直近で大きな動きはないように見受けられますが、暗号通貨Libraの提供が2020年に開始が予定されています。これが予定通り提供が開始されると、Facebook上でもオンラインで通貨が流通することになりますから、利便性が上がることでFacebook上での滞在時間は増え、広告収入もアップする事が想定されます。これもWalled Gardenの強化の一策と言えますね。

広告分野ではありませんが、AppleがiPhoneの廉価版を2020年に出すのでは?と囁かれています。これも廉価版iPhoneをフックにAppleのWalled Garden(Appple MusicやApp Storeからの収益を確保するため)に顧客を誘導するための手段の1つと言えるでしょう(廉価版の端末が本当に出るかはわかりませんが…)。

我々は運用型広告の運用に従事しています。なので、それぞれのプラットフォームがどのように収益を上げていて、次の一歩はどう出るのだろうか?と考えると次はどんなトレンドが来るのだろうか?という部分が見えてきて大変面白いですよ。

参考:媒体理解ってなんだろう|広告運用者としてできること

3. データのフラグメンテーションは止まらない

Apple社のブラウザSafariに初めてITPが実装された2017年以降、OSのバージョンアップに併せてITPも進化を続け、現在ではトラッカーと判定されたサイトからパラメータ付きで計測対象サイトにランディングすると、Cookieの有効期限が最短で1日となりました。たった2年ほどの短期間に驚くほど機能が改善されたということになります。

また、Safariだけではなく、Firefoxもまたバージョン69からデフォルトでトラッキング防止機能がオンになるなど、Safari以外のブラウザでもこの流れを追従してきています。

参考:「Firefox 69」公開、トラッキング防止をデフォルトで有効に - ZDNet Japan

ここで、Cookieという視点でもう少し話を深堀りしてみます。Cookieの利用に関してはEUで施行されているGDPRが記憶に新しいですが、国内でもCookieの利用に制限を行う旨の動きが出てきています。

参考:個人情報保護委、Cookie利用の規制案を検討中 12月中に発表へ “リクナビ問題”の再発防ぐ - ITmedia NEWS

どのような制限となるかついてはまだ検討段階のようですが、GDPRと同等レベルの対応が求められた場合、国内のサイトでもCookieのオプトインに関する確認が必要になってきますので、これに同意されなかった場合は、やはりCookieを用いたデータの収集はできないケースが出てくるということになります。

また、計測だけではなく、オプトインに関する同意を得るためのボタンなどを実装する必要が出てくる可能性もありますので、Webサイト側で技術的な対応も必要になってくるでしょう。

このプライバシー保護については、世界的な潮流を見ても緩和される見通しはもはや無く、規制が厳しくなる予測しかできませんので、法的な面でもCookieを利用した計測の未来は明るくありません。

繰り返しになりますが、デバイス面と法的面で個人情報の保護が進む流れは逆行しないので、穴を突いて計測をできるようにすることを考えるのではなく、時代の流れに寄り添い、断片化されたデータをどのように扱うのかを検討する事が健全なのではないでしょうか。

データは計測できたものしか可視化できません。データがすべてを物語っているとは限らないということを頭に置いておくと良い気がいたします。

2020年も流れは目まぐるしく

2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され、経済的に転換期を迎え、そういった意味では運用型広告の領域も色々な波が起こりそうです。

これらの波をうまく捉え、溺れないために、運用型広告の運用者としてどのように構えればよいか?については、これまでも口を酸っぱくお伝えしてきましたが、運用型広告+αの価値をもつことです。ぜひ+αとなる周辺領域を見つけ、興味をもち、磨きましょう!磨き方によっては+αではなく×αにできるかも…。

最後になりますが、この記事を執筆しながら、それを踏まえてもう少し身近なトピックで2020年を考えてみるほうが面白いのかな?という思いもありました。が、幹を見て大局をおさえたうえで、枝葉について考えてみるほうがより深い思考ができるかなと思い、このような予測をしてみました。

みなさまは2020年何が起こると予想しますか?

(思った以上にタイピングに熱が入ってしまいこの分量となりました…。最後までお読みいただきありがとうございました)

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