ここ数年、BtoCマーケティングで注目が高まっている「SNS運用」は、多くの公式アカウントの登場とともに、さまざまな成功事例が生まれています。
一方で、BtoBマーケティングにおいてはどうでしょうか?成果が見えづらく、また明確なノウハウも少ないため、運用の難しさを感じている方も多いかもしれません。
そこで今回、法人向けマーケティング支援を行う株式会社unnameさまとの共催セミナー「BtoBマーケでXは有効? “中の人”が語る 運用の裏側と成果につなげるポイント」を開催しました。
セミナーでは、Xの企業公式アカウントや個人アカウントを運用している4名が、Xの運用に関する本音と工夫を語りました。その内容をレポートとしてお届けします。
登壇者(順不同)
株式会社unname
代表取締役
宮脇 啓輔
2014年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業本部にてネット広告運用に従事。3年勤務後、2017年5月に誰でも無料でネットショップを作れる「BASE」を運営するBASE株式会社に入社。APP・WEBと幅広くマーケティングを担当する。2018年4月に友人の紹介にて株式会社ペイミーにCMOとして参画。BtoBマーケの立ち上げから、ビジネスチーム全体のマネジメントまで行う。2019年4月1日、株式会社unname創業し同社代表取締役に就任。累計で約30社のマーケティング支援を行う。
株式会社unname
コンサルタント / PR
澤山 大輔
1978年12月生まれ、広島県出身。関西学院大学社会学部卒業。2004年より編集者としてキャリアを開始、2016年よりマーケターに転身。大小100社以上のコンテンツマーケティングを担当、複業でマーケ戦略の策定に関わる。SNS支援会社のオウンドメディア編集長、BtoBマーケ担当を経て、2024年7月より現職。
アナグラム株式会社
運用型広告事業部 マネージャー
二平 燎平
BtoB中心に数十社以上の広告運用やコンサルティングを経験。前職にて中小企業向けERPのセールスやCS、マーケティングなどTheModelの全工程に従事した経験と運用型広告の知見を合わせた売上を伸ばすBtoBマーケティングコンサルティングに定評がある。アナグラム社では主にBtoB向けの支援や情報発信を担当。2024年3月に新刊「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88 (できるMarketing Bible)」を出版
アナグラム株式会社
コンサルタント
砂川 恵里佳
沖縄生まれのマーケター。大学時代は学生だけで飲食店を経営する団体の代表を務め、人材会社を経てfreeeでインハウスの広告運用などに従事。アナグラムではクライアントの広告運用支援に加え、マーケチームで自社SNSアカウントの運用、オウンドメディアの執筆・編集などを担当している。個人Xのアカウント名は「すなえり(@suna_book)」
BtoBマーケティングにおいて、Xの運用は有効?
まずはじめに、砂川さんによるBtoBにおけるXアカウントの3タイプを紹介します。同じBtoBという括りでも、その運用方法はさまざまですね。
多くのBtoB企業がXの活用をしていますが、どの方法が良い悪いというのはなく、自社の考え方や体制にあった方法を各社が選んで運用している様子が伺えます。
これからXの運用に取り組むBtoB企業の担当者は、自社にはどの運用スタイルがあっているのか、各社のXアカウントを見て情報収集からはじめるのがよさそうです。
注目を集めるX投稿の共通点とは?
4名の方に、X(Twitter)の企業アカウントや個人アカウントで反響のあった投稿についてお話を伺いました。
これらの投稿を詳しく掘り下げ、共通点を探ることで、注目を集める投稿に共通する傾向が見えてきました。
2023年の投稿ですが、海外のニュースサイトから引用した生成AIやChatGPTに関する投稿が大きな反響を呼びました。
2023年当時、生成AIやChatGPTに関する話題は今以上に注目を集めていました。基本的な使い方のTIPSなどは広まっていたものの、具体的な仕組みや生成AIそのものの環境負荷などはあまり紹介されていない状況でした。そこで海外のニュースサイトから情報を探し、出典を明示して、引用ルールを守りながら投稿しました。
広告運用に関するTips系の投稿の反響が大きいですね。広告運用者はこうした実践的な情報を好む方が多く、ご自身も「自分が見て嬉しい」と感じる内容を意識して投稿されています。
さらに、画像やセミナー資料を用いた視覚的にわかりやすい投稿も、フォロワーからの反応が良い傾向にあります。ビジュアルで情報を伝えることで内容の理解が深まり、より多くのエンゲージメントが得られているようです。
上の投稿は、会社のカルチャーブックに基づき、価値観や行動指針に自分なりの言葉を加えた投稿です。
情報量は多いものの、ブックマークされることが多く、そのおかげで投稿が広がりやすくなっていますね。ブックマークによってアルゴリズム上でも優先表示されやすく、さらなるリーチが期待できるのがポイントです。
また、下のように過去の反響があったツイートを掘り起こし、内容を充実させて再投稿すると、想像以上の反響を得られました。
企業アカウントとして、上は採用目的で社内のマネジメント研修からスライドを抜粋して投稿した内容です。
下の投稿は広告運用者向けのコンテンツですが、X運用の主な目的は案件リードの獲得であるため、ターゲットである広告主に届きづらいのでは?と思うかもしれません。でも、この投稿には「私たちはこういう会社です」という価値観や信念を広告主にも伝えたいという意図があります。
アナグラムのX公式アカウントでは大きく分けて、以下2つの内容を発信しています。
①ブログ公開やセミナー登壇などのお知らせ
②広告運用やマーケ全般の業務に使えるお役立ち情報
アナグラムを知らない方に注目していただきやすいのは、②のお役立ち情報です。先ほどお見せした2つの投稿も②に該当します。ただ、単発の投稿で注目を集めることを目指すのではなく、いつか広告運用が必要になったときにアナグラムを想起してもらえるよう、継続してコミュニケーションを取ることを心がけています。
Xに限らず、アナグラムを既に知っている方から、まだ認知のない方まで、さまざまな情報発信がどのような状態の方に響いているかをカスタマージャーニーのような図で共有しています。
接点が多様に存在するため、まずは厳密に作り込まず、柔軟に取り組む形での作成がおすすめです。
4名の投稿には共通点が見つかりました。それは、単に情報を発信するのではなく、読者やフォロワーが本当に求めている情報を独自の視点で提供している点です。
反響の大きかった投稿には、フォロワーのニーズを捉え、具体的で実践的な内容をスライドや画像で分かりやすく伝える工夫がされていました。こうした独自性のあるコンテンツが多くの人に役立ち、共有されて注目を集める投稿となっているようです。
どう防いでる?炎上を防ぐために意識しているポイント
現在は誰でも気軽に情報発信できる時代ですが、その一方で予期せぬ形で炎上し、信用を失ってしまうケースも少なくありません。そこで、そうしたリスクを回避するためにどのような注意を払っているか、また炎上を防ぐための具体的な対策についてお話を伺いました。
テンションが下がっているときや感情が揺さぶられているときは、投稿をしないマイルールを持っています。平常心を保てているときだけ投稿するように心がけています。
失敗してしまうケースには、テンションが低いときや逆に高まりすぎているときが多いように思います。気持ちが高揚すると、普段は抑えているネガティブな感情まで吐き出してしまい、それが炎上につながることがあると感じています。
まず、写真は基本的に投稿しません。特に、意図せず情報を提供してしまうような広い画角の写真は避けるようにしています。
テキストについても、言い切りや断言は避け、特定の誰かを連想させるような投稿もしないよう注意しています。
「人のふり見て我がふり直せ」という考えを大切にしており、炎上した事例は社内で共有するようにしていますね。
自分だけでなく、社内の誰かが炎上しても会社全体に影響が及ぶため、炎上の原因を分析し、全員で注意点を学ぶようにしています。
投稿方法や感情のコントロールに基づいたルール作り、そして事例を反面教師にするなど、対策は人それぞれ異なりますが、もはや炎上対策はSNS運用を行う上で当然の作法といえるかもしれません。
Xでの発信を成功させるためのヒント
最後に、これからXでの発信を始める、または再開する方々に向けて、登壇者4名が投稿内容を決める際のポイントや継続の重要性について語られました。
私の性格上、「毎日投稿をがんばる」だと正直しんどく感じるので、ある程度ポジティブな反響を狙った投稿を目指すのが自分に合っていると思っています。
冒頭で紹介したような海外の情報もそうですが、自分の職務に関わる範囲で、かつX上でまだ話題になっていないネタを探すのはおすすめです。手間はかかりますが、専門分野かつ自分が知らない知見なら誰かの学びになるはず。そうした投稿が読まれる可能性は、比較的高いです。
上記のような考え方でネタを探し、まずは「読まれた」という成功体験を積むことが大切だと思っています。そうすれば投稿が楽しくなり、自然と日常的な発信も続けられるようになると思います。
参考とする「ロールポスト」を見つけることが重要ですね。
うまくいっている人や投稿を手本にして、「自分でも続けられそうか」を考え、いろいろな人をフォローして「この人のここなら真似できそう」と思えるポイントを増やしていくと良いでしょう。見つけたらその日のうちに、不完全でも試してみることが大切です。
とにかく投稿を続けることが大切です。投稿しなければ誰の目にも触れないので、Xを使う目的があるなら、まずは何でもいいので発信し、反応を見ながらPDCAを回していくのが良いでしょう。
私はマーケターを取材するオウンドメディアの編集をしていますが、フォロワー500人未満の方のアカウントも取材候補リストに多数入っています。タイムラインに一度流れてきた投稿やリツイートされた投稿でも、面白ければすぐリストに追加し、いつか取材をお願いしようと考えていますね。
「フォロワーが数千人以上いないとターゲットに届かない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、確実に見ている人はいるので、やはり投稿を続けることが大事だと思います。
やはりテーマを決めて続けることが重要ですね。
私の場合、広告運用やBtoBを軸に投稿を続けてきました。続けているうちにその分野が好きになったので、継続できるジャンルやテーマを選ぶことがポイントだと思います。
特定の領域で認知を得られれば良いので、ずっと考え続けられるほど本当に好きなテーマを見つければ、自然に続けられるでしょう。また、頑張らずに続けられる仕組みを作ることも大切だと思います。
毎日の投稿に追われ、成果が見えずに悩んでいたXの運用担当者にとって、このアドバイスはホッとする内容だったのではないでしょうか?
特に、「まずは成功体験を積むことが大切」という点は自分にはなかった視点でした。これまで投稿の量に重点を置いていた方も、反響を得られる質の高い投稿から始めるのも良さそうです。
また、自分の興味や得意分野にフォーカスするというアドバイスも活かしたいですね。会社の方針だけでなく、自分の強みを活かした投稿スタイルを見つけることで、Xの運用が楽しくなるかもしれません。
反応を気にして投稿に迷いが生まれることもあると思いますが、「完璧を求めすぎず、まずは投稿してみる」という姿勢は、X運用において大切な一歩だと思います。少しずつ効果的な運用を目指し、チャレンジを続けられると良さそうです。
最後に
今回のセミナーでは、BtoBマーケティングにおけるXの可能性について、多くの気づきが得られました。BtoBでも、フォロワーが本当に求めている情報を独自の視点で発信し続けることで、しっかりと成果が期待できることがわかります。
また、登壇者の皆さんが強調していた「自分に合ったスタイルで続けること」も、成功への大きなポイントといえるでしょう。
「BtoBのX運用はこうあるべき」と考えるのではなく、担当者自身が運用方針に納得して、まずは気軽に試してみる姿勢が成果への第一歩となるはずです。