ChatGPTに広告が来る。OpenAIの広告テスト開始が意味すること

ChatGPTに広告が来る。OpenAIの広告テスト開始が意味すること

2026年2月、OpenAIがChatGPTにおける広告表示のテストを正式に開始しました。対象は米国のFree・Goプランを利用するログイン済みの成人ユーザーです。

画像引用元:広告と ChatGPT へのアクセス拡大に対する OpenAI の取り組み | OpenAI

検索連動型広告が登場してからおよそ20年。ユーザーの「意思決定の場」が検索エンジンからAIチャットボットへ移りつつある中で、その新しい場所にも広告が入ってくることになった。しかも広告だけではありません。OpenAIは2025年9月から「Instant Checkout」というチャット内購入機能をすでに展開しており、ChatGPTを「調べる場所」から「買う場所」へ変えようとしています。


OpenAIが発表した広告の概要

表示対象と非表示対象

まず事実の確認から。ChatGPT広告が表示されるのは、米国在住でFreeプランまたはGoプランを利用するログイン済みの成人ユーザーです。有料プランの上位契約者には表示されません。18歳未満のアカウントも除外されます。

プラン月額広告表示
Free無料あり(オプトアウト可・機能制限あり)
Go8ドルあり
Plus20ドルなし
Pro200ドルなし
Business / Enterprise / Education法人向けなし

健康・メンタルヘルス・政治といったセンシティブなトピックの会話中にも広告は出ないよう制御されている、とOpenAIのヘルプページで説明されています。

Freeプランのユーザーには広告非表示のオプションも用意されていますが、その場合は1日あたりのメッセージ数や画像生成などの機能に制限がかかる仕組みです。

広告の表示形式

画像引用元:広告と ChatGPT へのアクセス拡大に対する OpenAI の取り組み | OpenAI

広告はChatGPTの回答の下部に表示され、「Sponsored」のラベルが付きます。回答本文とは視覚的に分離されている。OpenAIが繰り返し強調しているのは「広告がChatGPTの回答内容に影響を与えることはない」という点です。

広告の選定は、現在の会話トピック、過去のチャット履歴、過去の広告インタラクションに基づいて行われます。レシピについて調べている最中にはミールキットや食料品配達の広告が表示される可能性がある、というイメージですね。

プライバシーについて

OpenAIの広告に関するアプローチの説明によれば、会話データは広告主に共有されず、ユーザーデータの販売も行わないとのこと。

画像引用元:ChatGPT での広告のテスト | OpenAI

広告主が受け取れるのはインプレッション数やクリック数などの集計データのみで、ユーザーは広告のパーソナライゼーションをオフにしたり、広告関連データを削除したりすることも可能です。

この説明を額面通りに受け取るかどうかはそれぞれの判断になりますが、少なくとも初期の段階でここまで明示的にポリシーを打ち出しているのは、過去のプラットフォームと比べると慎重な姿勢だと言えるかもしれません。

CPM 60ドル、最低出稿額20万ドルの意味

価格水準の位置づけ

The Informationの報道によると、ChatGPT広告のCPM(1,000インプレッションあたりの費用)は約60ドル。Adweekは最低出稿額が20万ドル(約3,000万円)と報じており、一部の広告主には25万ドルでの提案も行われているようです。

この数字を他のプラットフォームと並べてみると、位置づけがよく分かります。

プラットフォームCPM目安
Google ディスプレイ ネットワーク2〜10ドル
Meta(Facebook / Instagram)10〜20ドル
Google 検索広告約38ドル
ChatGPT約60ドル
NFL中継(プレミアムTV在庫)約63ドル

MetaのCPMの約3倍、Google検索広告の約1.5倍。NFL中継に匹敵する水準です。

計測環境の未整備

ただし、ここで注意したいのは、価格がプレミアムでありながら計測データは「インプレッション数」と「クリック数」程度にとどまっているという点です。コンバージョントラッキングの仕組みは現時点では提供されていません。

つまり、NFL並みのCPMを支払いながら、計測の粒度はテレビCMに近い状態。パフォーマンスマーケティングの文脈でROIを検証するのは、正直に言って現時点ではかなり難しいでしょう。

セルフサーブの仕組みもまだなく、出稿は手動処理。OpenAIは大手ブランドやエージェンシーを中心に初期パートナーを募っている段階です。Googleが2000年代前半にAdWordsのセルフサーブを整備してSMBの広告需要を一気に取り込んだ歴史を思い返すと、この部分がいつ整備されるかはひとつの大きな分岐点になりそうです。

広告だけではない、Instant Checkoutとエージェント型コマース

ChatGPTのマネタイズを語るうえで、広告だけを見ていると全体像を見誤ります。OpenAIは広告テストに先立つ2025年9月に、Instant Checkoutという決済機能をすでにリリースしています。

Instant Checkoutの仕組み

Instant Checkoutは、ChatGPTの会話内で商品を見つけて、そのまま購入まで完結できる機能です。「100ドル以下のランニングシューズ」「陶芸好きへのギフト」といったショッピング意図のある質問をすると、ChatGPTがウェブ全体から関連商品を表示する。気に入った商品があれば「Buy」をタップし、配送先や決済情報を確認して、チャットから離れることなく購入できる仕組みです。

現時点では米国のEtsy出品者の商品が対象で、Shopifyの100万以上のマーチャント(Glossier、SKIMS、Spanx、Vuoriなど)も順次対応予定。PayPalも2025年10月にAgentic Commerce Protocolへの対応を表明しています。

広告との決定的な違い:収益モデル

ここで重要なのは、Instant Checkoutの収益構造が広告とはまったく異なる点です。

OpenAIは「商品の検索結果はオーガニックであり、スポンサーされておらず、ユーザーとの関連性のみでランキングされる(Product results are organic and unsponsored, ranked purely on relevance to the user)」と明言しています。Instant Checkout対応商品が検索結果で優遇されることもないとのこと。

マーチャントが支払うのは、購入が成立した場合の手数料のみ。The Informationの報道によると、Shopifyマーチャントの場合はOpenAIに対して売上の約4%を支払う形です。返品時には手数料も返金される。商品の掲載自体は無料で、広告費を払って上位に表示させる仕組みではありません。

つまり、広告モデル(表示課金 / CPM 60ドル)とコマースモデル(成果課金 / 売上の約4%)という二つの収益源が並走している状態です。

Agentic Commerce Protocol:オープン標準の意味

技術面で見逃せないのが、Agentic Commerce Protocol(ACP)です。OpenAIとStripeが共同開発し、Apache 2.0ライセンスでオープンソース公開されています。

ACPは、AIエージェントとEC事業者の間で注文・決済・配送のやりとりを行うための標準仕様です。OpenAIはmerchant of record(販売主体)にはならず、あくまで「ユーザーのAIエージェント」として事業者と購入者を仲介するだけ。注文処理、決済、配送、カスタマーサポートはすべてマーチャント側の既存システムで行われます。

マーチャントは商品フィード(CSV / JSON形式)をOpenAIに送信し、最短15分間隔で価格や在庫情報を更新できます。これはGoogle Merchant Centerと構造的に近いですが、フィードの更新頻度(Googleは通常24時間ごと、OpenAIは最短15分)やレビュー・FAQ・動画といったリッチデータの統合という点で差があります。

Google Shoppingに慣れているEC事業者にとって、このフィード仕様はある程度馴染みのある形でしょう。既存のGoogle Shopping用フィードからの変換も比較的容易だと言われています。

Shopping Research:ショッピング専用の調査体験

2025年11月には、Shopping Researchというさらに踏み込んだ機能も追加されました。ショッピング用に強化学習でチューニングされたGPT-5 miniが搭載されており、「静かなコードレス掃除機を探して」「この3台の自転車を比較して」といったリクエストに対し、ウェブ全体から価格・在庫・レビュー・スペックを調査して、パーソナライズされたバイヤーズガイドを数分で生成します。

ユーザーは「興味なし」「もっとこういうの」とフィードバックを返しながらリサーチを絞り込んでいける。Google検索のキーワードマッチングとは根本的に異なるアプローチです。

EC事業者にとっての意味

ここまでの情報を整理すると、ChatGPTのコマース戦略はかなり包括的です。

レイヤー機能マーチャントのコスト影響
商品発見ChatGPT検索のショッピング結果無料(オーガニック表示)従来のSEOに加え、商品フィードの最適化が必要
商品調査Shopping Research無料AIがバイヤーズガイドを生成、比較検討の場がChatGPTに
購入Instant Checkout売上の約4%(成果課金)チャット内で購入完結、サイトへの遷移不要
広告回答下部の広告表示CPM 60ドル〜ブランド認知向け、コンバージョン計測は未整備

EC事業者にとって特に重要なのは、ChatGPTのヘルプページで明示されている「商品結果は広告ではなく、OpenAIのパートナーシップによる影響も受けない」という原則です。同一商品を複数のマーチャントが扱っている場合、在庫状況、価格、品質、主要販売者かどうか、Instant Checkout対応かどうかなどの要素でランキングが決まる。

Instant Checkout対応が「検索結果で優遇されない」と言いつつ、マーチャントのランキング要素には含まれている。この微妙なニュアンスは注視すべきだと思います。

AI検索と広告、各社の動向

ChatGPTの広告テスト開始は、AI×広告という大きな流れの中のひとつのピースです。他のプレイヤーの動きも押さえておいたほうがいいと思います。

Perplexity AI

Perplexityは2024年11月に広告テストを開始した、AI検索における広告の先駆者です。

Perplexity のテスト的な広告フォーマットの1つ。
参考:Perplexityがプラットフォームに広告を導入 | TechCrunch

「Sponsored Questions」という形式で、回答の横にスポンサー付きのフォローアップ質問を表示する仕組み。初期パートナーにはIndeed、Whole Foods、Universal McCannなどが参加しました。

ただし、月間アクティブユーザー数は約2,200万人にとどまります。ChatGPTの週間8億人、Google AI Overviewsの月間15億人と比較すると規模の差は明白で、2025年10月時点では新規広告主の受け入れを一時停止しています。広告プラットフォームとしてスケールさせる難しさを感じさせる状況です。

追記:段階的に廃止へ向かっているとのこと

Perplexityが2024年に導入した広告を2025年末から段階的に廃止、AIへの信頼を損なうため今後も展開予定はなし - GIGAZINE

Google AI Overviews

Googleは2025年5月からAI Overviews内に検索広告とショッピング広告の表示を米国で開始しました。月間15億ユーザーという圧倒的なリーチに加え、Google Adsの既存の計測・最適化インフラがそのまま使える。広告主にとって新しい学習コストがほぼ発生しないという点で、もっとも参入障壁の低いAI広告と言えます。

既存のインフラの上に新しい配信面を足していくアプローチは、Googleが過去20年やってきたことの延長線上にあります。この点で、OpenAIがゼロから広告エコシステムを構築しようとしているのとは状況がだいぶ異なります。

Microsoft Copilot

Microsoftは一時期、BingのAIチャット応答内にスポンサードリンクを表示するテストを行っていましたが、数週間で撤退しています。会話型AIと広告の相性を早い段階で試し、引いた格好です。

Anthropic(Claude)

Anthropicは2026年2月のスーパーボウルで「Ads are coming to AI. But not to Claude.」というキャンペーンを展開しました。Claude内に広告を表示しないことを明確に宣言した形です。

これに対してOpenAI CEOのSam Altmanは「面白いが明らかに不誠実だ」と反発し、「Anthropicは裕福な人々に高価な製品を提供している」「我々はサブスクリプションを払えない数十億人にもAIを届ける必要がある」と述べています。

この応酬は業界の外側から見ると少し滑稽に映るかもしれませんが、中にいる人間からすると「無料で提供するために広告を入れるのか、広告を入れないために課金するのか」というのはビジネスモデルの根幹に関わる問いです。どちらが正しいかは簡単には断じられないと思います。

各社の比較まとめ

プレイヤー広告開始時期形式ユーザー規模計測基盤日本での広告
Perplexity AI2024年11月Sponsored QuestionsMAU約2,200万限定的未開始(展開予定を表明)
Google AI Overviews2025年5月検索広告・ショッピング広告月間15億Google広告連携済未開始(AIO自体は提供中)
Microsoft Copilotテスト後撤退スポンサードリンク非公開--
ChatGPT2026年2月回答下部バナーWAU 8億imp/clickのみ未開始(米国限定テスト中)
Anthropic Claude広告なしを宣言-非公開--

運用型広告の現場から見た所感

ここからは、運用型広告の現場にいる立場としての所感です。

「会話」という文脈の価値について

ChatGPT広告がCPM 60ドルを打ち出せる根拠として語られているのは、ユーザーの「意図の深さ」です。Google検索の平均クエリ長が約3.4語であるのに対し、ChatGPTのプロンプトは平均約60語。単なるキーワード検索ではなく、具体的な悩みや比較検討のプロセスそのものがAIに委ねられている。

この「高インテント×長文コンテキスト」は、広告のターゲティング精度という面では確かに魅力的です。ある調査では、AIプラットフォームからの訪問者は通常のオーガニック検索と比べてウェブサイトの滞在時間が68%長いという報告もあります。

参考:AI Traffic in 2025: Comparing ChatGPT, Perplexity & Other Top Platforms

ただ、気になるのは、このコンテキストの豊かさが「広告をクリックしたくなる体験」に変換されるかどうかという点です。

検索広告は、ユーザーが何かを探している最中に関連性の高いリンクを提示する仕組みだからクリックされる。一方、ChatGPTで深い相談をしているユーザーが、回答の下に表示されたバナーをクリックするかどうかは、まだ誰にもわかりません。

ブランド広告としての評価

現状のChatGPT広告をパフォーマンスマーケティングのチャネルとして評価するのは時期尚早だと考えています。理由はシンプルで、コンバージョン計測の仕組みがないからです。ピクセルもCAPI(Conversions API)もなく、広告接触から購買までのアトリビューションを追跡する手段が存在しない。

CPM 60ドルをパフォーマンス広告の指標で評価するなら、MetaでCPM 15ドル × 4倍のリーチを取ってコンバージョン最適化をかけたほうが合理的でしょう。現時点でChatGPT広告に投資する意義があるとすれば、それはブランド認知やブランドリフトを目的とした「プレミアム枠への先行投資」としてです。

最低出稿額20万ドルという設定もこの文脈で読むべきで、これは明確に大手ブランド・大手エージェンシーに向けたシグナルです。OpenAIが広告テストの初期段階でブランドセーフティを担保するために信頼性の高い広告主を選別しているという判断は、合理的だと思います。低品質な広告が混入してユーザー体験を損なえば、ChatGPTそのものへの信頼に関わるリスクがあるわけですからね。

「回答に影響しない広告」という約束

個人的にもっとも注目しているのは、「広告がChatGPTの回答に影響を与えない」というOpenAIの約束がどこまで維持されるかです。

Sam Altmanは2024年10月、ハーバード大学でのファイアサイドチャットで「広告とAIの融合は個人的にとても不安だ(ads-plus-AI is sort of uniquely unsettling to me)」と述べ、広告は「最後の手段(last resort)」のビジネスモデルだと語っていました(Tubefilter)。ChatGPTがユーザーにどの製品を買うべきか指示するディストピア的な未来にも警戒を示していました。現時点では回答と広告は別のシステムで動いており、広告主がChatGPTの応答を操作する手段はないとのこと。

しかし、ここで思い出すのはGoogleの検索広告の歴史です。初期のGoogleは「オーガニック検索結果と広告は完全に分離されている」と強調していました。それが年を追うごとに広告がSERPの上位を占めるようになり、オーガニック結果がファーストビューから押し出されていく。広告収益が組織にとって不可欠なものになると、この分離を維持するのはどうしても難しくなっていきます。

OpenAIが同じ道をたどるかどうかは分かりません。分からないですが、広告収益への依存度が高まるにつれてその圧力は確実に強くなる、ということは過去の事例が教えてくれます。

日本市場の話

今回のテストは米国限定ですが、日本への展開が議論されるのは時間の問題でしょう。日本固有の論点としては、iPhone比率の高さに伴うSafariのサードパーティcookie制限がありますが、ChatGPTがファーストパーティデータに基づく文脈ターゲティングを軸とする以上、この影響は比較的小さいかもしれません。

一方で、日本の広告市場はCPA(獲得単価)で評価する文化が根強いため、計測環境が整備されないまま日本展開が始まった場合、CPM 60ドルの広告枠を積極的に活用する広告主は限られるのではないかと思います。

おわりに

ChatGPTへの広告導入は、AI時代のデジタル広告がどうあるべきかという問いを投げかけています。

「会話」という高インテント文脈でのリーチ、プライバシーへの配慮設計、回答と広告の分離。OpenAIが打ち出しているこれらの設計思想は、少なくとも出発点としては悪くないと思います。一方で、計測インフラの未成熟、プレミアムすぎる価格体系、そして長期的に「回答の独立性」を維持できるかどうかという懸念は残ります。

特に注視しているのは、OpenAIがコンバージョン計測の仕組み(ピクセルやCAPIなど)をいつ、どこまで実装するか。これが整備された段階で、ChatGPT広告はブランド広告からパフォーマンス広告へと性質が変わる可能性があります。

ユーザーが何かを調べて、比較して、決める。その場所が検索エンジンからAIチャットボットに移っていくなら、広告もそこに付いていくのは自然な流れです。良い悪いの話ではなく、そうなる可能性が高い。

だからこそ、仕様や価格、計測環境がどう整備されていくのかを一つずつ確認していくしかないと思っています。

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