”A new era of AI. A new era of Ads.”(日本語:AIの新時代。広告の新時代。)という標語でグーグルは、毎年恒例のイベント「Google Marketing Live」の開催を宣言した。このことばが示しているとおり、AIは前回に引き続き中心のテーマであり、発表された新機能やプロダクトの中でAIを利用しているものが多かったです。今回のキーノートでは30を超える新機能が発表されましたが、その中からいくつかの興味深い内容をここで紹介していきます。
参考:Google Marketing Live Keynote 2024
検索広告
キーノートの冒頭に紹介されたトピックは検索に関するアップデートでした。
「AI Overview」内の広告
Googleの検索結果ページにAIが生成したコンテンツを提供する機能「AI Overview」(旧SGE)では今後、検索やショッピング、P-MAXキャンペーンなどの広告表示ができるようになりました。
検索入力の内容や文脈に加えて、AIが生成した回答の内容自体も広告表示のトリガーとなる模様です。
非常に興味深い機能なのは間違いないのですが、こうしてAIが生成した回答の精度に関して、最近やや懐疑的な意見が世界中で目立っています。そのため、このプロダクトが(広告の配信を含めて)本来のポテンシャルを発揮できるまでは、ある程度の調整が必要だと想定されます。
参考: Google、AI Overviewが生成する誤情報で炎上
ビジュアル検索における広告表示
今回のキーノートにおいて、ビジュアル検索も注目度が高まっているトピックでした。今後はGoogleレンズとCircle to Search(囲って検索)の機能も広告表示の対象になると発表されました。
例えば、Googleレンズで画像内の一部の要素からビジュアル検索を行うと、ショッピング広告が表示される仕組みが紹介されました。キーノートでは、「Googleレンズを使った検索の4分1は購買意向がある」と述べられており、この統計から考えるとユーザーと広告主にとってもWin-Winのアップデートだと言えます。
P-MAX
前回のキーノートと同様にP-MAXの新機能も多く紹介されました。
今後はもっと分かりやすく、コントロールしやすい仕様に
今後P-MAXキャンペーンの確認可能なデータと、運用調整が可能なレバーが少し増えたことは多くの広告運用者にとって嬉しいニュースだったのではないでしょうか。
詳しく言えば、アセットレベルでのコンバージョンデータの提供に加え、P-MAXの広告が掲載されたYouTubeのプレースメントが確認できるようになりました。また、YouTubeプレースメントに関しては除外も可能になり、自動化が特徴のP-MAXの動きがより分かりやすく、コントロールしやすくなると予想できます。
アセット作成と編集における生成AIの活用
アセット作成の新しい機能も非常に印象的でした。
今後数ヶ月のうちに、広告主のビジネス情報やグーグル内のデータに基づいて、生成AIを使ったアセット作成ができるようになると発表されました。
そして、画像編集の面も進化をしている模様です。
画像アセットに対してAIによって生成された要素を追加したり(上記の絵画を挿入する事例のように)、または画像内の要素を削除したりすることができます。
また、Canva、Smartly、Pencilといったサードパーティの画像作成ツールとの統合も予定されており、作成したアセットを直接Google 広告にインポートしてP-Maxキャンペーンでの使用も可能になるようです。
ブランドのガイドライン設定
また、AIが作成したアセットでもブランドのイメージや理念に沿ったデザインになるように、ブランドのガイドラインがあらかじめ設定できる新機能も紹介されました。
色やテキストフォントの指定から、ブランドの参考画像のアップロードなどまで、基本的なデザインルールが設定でき、自動作成でもブランドイメージを守ったコミュニケーションを可能にすることを目的としている機能が豊富にそろっています。加えて、「Generate more like this」(日本語:このようなアセットをもっと生成する)機能により、新しいアセットをすでに実績のあるものと同じスタイルで作成できるようになります。
特にAIが広告(またはアセット)を生成する時代においては、ブランドイメージのコントロールが失われることが広告主にとって大きな懸念になりうるからこそ、重要な機能だと言えます。
「利益」での最適化が可能に
スマート自動入札の新しい最適化目標も登場しました。P-Maxキャンペーン(およびスタンダード・ショッピングキャンペーン)では今後、カート内の情報とGoogleマーチャントセンターからの売上データを使用して「利益」で最適化できるようになります。
ショッピング
Googleショッピングに関しても興味深いアップデートがありました。
Product StudioでAIを活用した動画作成
Google Product Studioで今後、生成AIを利用し商品画像から動画を作成することが可能になるというのは、非常に印象的でした。
この機能は今年の後半から展開される予定です。
ブランドプロフィールの表示
今後数ヶ月のうちに、Googleマーチャントセンターのデータ(ショッピンググラフも含む)に基づいて、商品関連の検索に対するブランドプロフィールも利用できるようになり、ブランドに関する情報に加えて、オファーやレビューが視覚的に表示されるようになる予定です。
グーグルの社内調査によると、ショッピングクエリの40%以上にブランドや小売業者の名前が含まれていることを加味すると、ユーザーにもブランド自体にもありがたい機能ですね。また、同じ検索結果ページに広告を掲載することも可能なようです。
デマンドジェネレーション
昨年発表されたデマンドジェネレーションのキャンペーンタイプについてもいくつかのアップデートがありました。
小売り向けのアニメーション画像広告
デマンドジェネレーションキャンペーンとGoogleマーチャントセンターの商品データフィードをリンクしている場合、商品画像から自動的にアニメーションを生成し、YouTube ショート広告として表示できるようになります。
類似セグメントのユーザーリストの最小サイズがより小さく
特に中小企業にとって嬉しいのは、類似セグメントの作成に使用するユーザーリストの最小サイズが縮小されたことでしょう。当初は1,000人のユーザーが必要でしたが、100人に引き下げられました。これにより、現在はデマンドジェネレーション専用になっている類似ターゲティングの利用が容易になりました。
Google Marketing Platformへの展開
デマンドジェネレーションキャンペーンは他のプラットフォームでも利用できるようになる予定です。今回は、Display & Video 360とSearch Ads 360の両方でこのタイプのキャンペーンの実施が可能になると発表されました。
YouTube広告
ビデオ広告に関するアップデートをいくつかご紹介します。
YouTubeショート広告のアップデートが複数
YouTubeショート広告は今後、商品フィード、アプリストアの情報や、広告キャンペーンなどの既存の要素からクリック可能なステッカーを作成し、ショート広告内に表示できるようになる予定です。
さらに、ショート広告の視聴体験を改善するために、YouTube自体を離れることなく、左スワイプでランディングページに遷移できる仕様も発表されました。
YouTubeショッピングのアフィリエイトプログラムを拡大へ
現段階では米国市場でのみ展開予定ですが、YouTubeにおけるショッピング・アフィリエイト・プログラムの拡大により、YouTubeはますますショッピングチャネルになりつつあると言えます。
当プログラムに承認されたYouTubeクリエイターは、動画やライブ配信の中で商品タグ付けでき、視聴者は動画を見ながら商品を購入することができます。他にも、商品とYouTubeの同期や、商品別・コンテンツクリエイター別のレポートなど、様々な機能がShopify Plusや他のプロバイダーを介して追加される予定です。
データや計測
“Good AI requires good Data” (日本語:良いAIには良いデータが必要。)とキーノートの中で語られていたように、データと計測の分野も注目されました。
Googleデータマネージャーがすべての人に利用可能に
Googleデータマネージャーの全面的な展開が発表され、ファーストパーティデータの統合をより容易にすることを意図しているとみられます。特に2025年からChromeブラウザのサードパーティCookieが廃止されることを考えると、顧客データはますます重要な資産となるので、重要な発表でした。
SalesForce、Shopify、Google Cloud Storageなどとの簡単に連携でき、例えばカスタマーマッチからより最適な計測など大幅に活用できそうです。
計測の診断
Google広告やキャンペーンマネージャー360で計測設定を素早く確認し、必要に応じてその場でトラブルシューティングを行うことができる新しい計測診断も興味深いイノベーションでした。こういった機能が広告管理画面で完結する形になることは広告運用者にとってありがたいニュースです。
AI中心のアップデートに賛否両論の声も
昨年と同様、今回のGoogle Marketing Live 2024においてもAIのトピックに重きが置かれていることは予想通りでした。事前に行われたGoogle I/O 2024でもAIに大きく焦点が当てられ、Google WorkspaceとGeminiの統合や、新しい「Project Astra」などAIに関するアップデートも数多く発表されたことが話題を呼び、 グーグル社もAI技術の先駆者である姿を見せる目的が垣間見えてきました。(加えて、今年5月13日にOpenAIのGPT-4oがリリースされたことにも影響されていると思われます。)
参考:グーグルが「Google I/O 2024」で発表した7つのこと | WIRED.jp
しかし、世界中のWEBマーケターの意見に耳を傾けると、Google Marketing Live 2024で発表された機能に対する反応はまちまちであったことが、Searchenginelandの調査で明らかになりました。
AIを活用した新機能やビジュアルなソリューションが非常に有望だと答える人がいる一方で、コンテンツが前回のイベントから飛躍的な進歩を見せておらず、BtoB領域に関する発表がほとんどなかったなどと批判する声も目立ちました。
参考:Advertisers react to 'underwhelming' Google Marketing Live 2024
とにかく、AI分野のイノベーターであり続けると同時に、広告主やユーザーに明らかな付加価値を提供するプロダクトの開発、という2つの両立がGoogleにとって今後も大きな課題になるのではないでしょうか。