広告運用者こそIR資料を読もう!押さえておきたい5つのポイントと注意点

広告運用者こそIR資料を読もう!押さえておきたい5つのポイントと注意点

運用型広告の代行という仕事で高いパフォーマンスを出すためには、クライアント以上にクライアントのビジネスに詳しくなることが必要とも言われます。

しかしながら、Web上に落ちている情報だけでは把握が難しいビジネスは山ほどありますし、中には「何から調べたらいいか分からない」という方も少なくないでしょう。また、多岐にわたる情報をしらみつぶしに調べるのは時間も手間もかかり現実的ではないでしょう。

そのような限られた時間でビジネスの概要を掴むためにおすすめな方法のひとつが、企業が出しているIR資料を読むことです。

※IRとは、Invester relationsの略で、企業が株主や投資家向けに、経営状態や財務状況を知らせるための活動を言います。

「IR資料を読めるようになりたい」と思いつつも「直接業務に関係がないし、なんだか難しそうだから……」という方も多くいらっしゃると思います。

本記事では、広告運用者としてIR資料を読むなら、まずは押さえておきたいポイントと注意するべきポイントについて実際のIR資料も引用しながらご紹介していきます。

IR資料の種類

IR資料は、大きく分けると次の3つに分類できます。

  • 決算短信
  • 有価証券報告書
  • 決算説明資料

これらは企業のコーポレートサイトに掲載されており、企業によって掲載方法は多少の違いがありますが、基本的には「投資家の皆様へ」「株主・投資家情報」「IRについて」などといった名称のページにまとめられています。

「(企業名) IR」等と調べれば、検索結果の上位に出るケースがほとんどだと思いますので、迷うことはないでしょう。

一点注意が必要なのは、IRの法的な開示義務があるのは上場企業のみです。一切上場企業が存在しないビジネスの場合、今回の方法で直接分析することはできません。例えば、規模の小さい市場に特化した、ニッチな単一事業を手掛けている会社等がこれにあたります。

しかし、広告運用者が現場で出会うビジネス=広告投資フェーズに入っているビジネスであるため、ある程度の規模の市場が既に発見されており、類似ビジネスの上場企業が存在するケースが多いです。

また、新しい市場を開拓中の未上場スタートアップでも、投資家からの投資を得やすくするためにIRを開示していることがよくあります。

では、それぞれどんな目的で何が書いてある資料なのか、概要を見ていきましょう。

決算短信

企業が決算日を迎えてから45日以内に開示しなければならない「決算速報」だと考えてください。速報なので数値は最終確定前のものになりますが、要点がまとまっており、全社同じフォーマットで作成されているので内容の比較がしやすいです。

1年を通した「通期決算短信」と「四半期決算短信(3か月に一度発表)」がありますが、投資家でもない限り細かく四半期ごとの業績を確認する必要はないので、通期の決算短信だけを読めば十分です。

なお、本記事内で「決算短信」と記述している場合、通期の決算短信を指しているものとお考えください。「通期決算短信」および「四半期決算短信」は「サマリー」と「添付資料」の2部構成になっています。

記載事項は主に次のとおりです。

  • 期間中の経営成績や財政状態、キャッシュ・フロー
  • 株式の配当状況や配当予想
  • 今後の業績予想 など

有価証券報告書

決算短信を、より厳密な最終確定版の数値にした上で、より詳細が記載されている資料です。省略して「有報」などと呼ばれます。

有価証券報告書は、各事業年度終了後3カ月以内の提出が法律により義務付けられています。45日以内の開示義務がある決算短信と比較し、発表までに時間がかかる分、事業活動に関わるあらゆる情報が網羅的に記載されています。決算短信の内容に追加して、「設備投資の状況」「役員報酬」「研究開発費用」「従業員の平均給与」などが記載されている場合もあります。

決算短信を読んで気になったことや掘り下げたい内容がある場合は、有価証券報告書に記載が無いか調べてみるといった使い方がおすすめです。

決算説明資料

投資家向けの説明会で使われる資料で、有価証券報告書の内容をわかりやすくまとめた「プレゼン資料」と考えてください。

形式が決められている①、②と違い、こちらは企業ごとに自由なので、ここぞとばかりに個性をアピールする企業も多く存在します。

決算説明資料については、定量的な分析のためというより、その会社の持つ世界観や経営方針を掘り下げる目的で読むと、「何を重視して今後どこに力を入れていくのか」といったイメージが湧きやすいと思います。

広告運用者がチェックすべき5つのポイント

競合分析を複数社行うことや、短時間で概要を把握することを目的とする場合、IR資料の中でも特にフォーマットが統一していて発表が早い「決算短信」を読むことをおすすめします。

ただ、決算短信を上から順に全て読んでしまうと、短信という名称の割にはボリュームが多いため、1時間程度はかかってしまいます。

広告運用者が特にチェックしておきたいのは、以下の5点です。

  1. 「売上額」からビジネスの規模感を掴む
  2. 「営業利益」から営業利益率を算出し、収益性を測る
  3. 「経営成績の概況」から市況感や取り組みの概要を確認する
  4. 「今後の見通し」から事業のネクストアクションを読み取る
  5. 「広告宣伝費」の記載がないか確認する

この5点に絞って概要を把握するだけなら、慣れれば10分程で読み通せるでしょう。それぞれの項目の見方について解説していきます。

※今回はアナグラムがグループジョインしている、フィードフォースグループ株式会社の実際の決算短信を使って説明します。

①「売上額」からビジネスの規模感を掴む

まずは、決算短信の表紙に書かれている「売上高」からビジネスの規模感を掴みます。

売上とは、商品の販売やサービス提供の対価として得た「収入」を合計したものです。同じ市場に参入している一企業あたりの売上額が大きいほど、市場規模も大きいことが推測できます。

画像引用元:フィードフォースグループ株式会社 2023年5月期決算短信

数値は基本的に百万円単位なので、この表記に慣れておくといいでしょう。(規模感によっては千円単位で作成されたものもあります)

上記のケースでは、直近年度である2023年5月期の売上額は約40億円だということがわかります。また、売上のトレンドが上向きなのか下向きなのかを確認するために、2022年5月期の売上についても確認しましょう。2022年の数値は約30億円となっており、一年間で約30%成長の強い上昇トレンドにあることがわかりました。

②「営業利益」から営業利益率を算出し、収益性を測る

次に、事業の収益性を確認するために「営業利益」と「営業利益率」を確認します。

営業利益とは、会社のメインとなる事業で得た利益のことです。①で分析した「売上」から、商品の仕入れや製造などにかかった費用である「売上原価」、商品の販売に必要な「販売費(営業部門の人件費や広告宣伝費など)」、会社を維持するための「一般管理費(人件費やオフィス家賃など)」を差し引いて算出されます。

画像引用元:フィードフォースグループ株式会社 2023年5月期決算短信

上記の例では、営業利益が10億2900万円あるということが確認できますね。ここから「営業利益率」を算出することで、本業となるビジネスにどれだけ収益性があるかを測ることができます。

営業利益率が高い企業は、「付加価値が高く、価格が高くても売れるサービスを提供している場合」か「経営努力によってサービスにかかるコストを抑えている場合」が多いです。

したがって、営業利益率を見ると、ビジネスモデルの競争力を測ることができます。

また、営業利益率をチェックするもう1つの理由として、「経常利益率」や「当期純利益率」の数値には、本業のビジネス以外の要素が大きく影響してしまうという理由もあります。例えば、「経常利益率」の視点で分析した場合、「会社で所有している不動産からの賃料収入」や「有価証券の売却益」なども含んだ数値となってしまい、本業のビジネス自体を分析することができません。

営業利益率(%)の計算式は、「営業利益 ÷ 売上高 × 100」となるので、お手元の電卓でぱぱっと計算してしまいましょう。

営業利益率を見る際の注意点

営業利益率を見る際には単純に数字の高い低いだけでは、事業の状況を把握できない点には注意が必要です。

例を挙げます。上記画像のフィードフォースグループ株式会社のケースでは、直近年度の2023年5月期の営業利益率が約25%となっていますが、2022年5月期の営業利益率は約30%となっており、5ポイント減少していることがわかります。

この数字だけを見て、「ダウントレンドだから良くない」と判断するのは拙速と言えます。

①で分析したように、売上が30%成長していることを考慮すると、積極採用で社員数を増やし、社員への教育投資も手厚くなっているような状況が背景にあることも考えられますよね。こういった投資は中長期では会社の収益力向上に繋がるため、営業利益率の減少は一過性のものである可能性も低くないでしょう。そのため、今後の営業利益率はさらに改善していく可能性も考えられます。

数字をただの数字としてみるのではなく、数値の変化などから背景にどういった状況があるのかを読み解いていくのが大切です

営業利益率の数字だけでは分からない事業の内側の情報を読み解くヒントとして、これ以降の情報もチェックしてみましょう。

③「経営成績等の概況」>「経営成績の概況」を確認

①と②で重要な数値を掴んだ後、「経営成績の概況」で定性的な情報を確認します。

画像引用元:フィードフォースグループ株式会社 2023年5月期決算短信

目次を見ると、どの決算短信にも「経営成績等の概況」という項目が最初の方にあるので、その中の「経営成績の概況」という小項目を確認しましょう。

①と②の数値に至った要因が、事業セグメントごとに記載されているかと思います。目を通すだけで事業の置かれている状況の大枠が把握できるはずです。

企業ごとに異なりますが、冒頭は世界経済や日本経済の情勢といったマクロ視点から始まり、その会社を取り巻く市場環境に触れた上で自社がどのような取り組みを行ったかを説明する……という流れが多くなっています。

上記の例では、主要な事業領域である国内インターネット広告の市場規模が前年比で14.3%と急成長していることに加え、広告費全体に占めるインターネット広告の構成比が43.5%にまで達していることに言及しています。オフライン広告を抑えてインターネット広告の市場が伸びている背景が読み取れますね。

もし企業全体ではなく、複数事業をやっている企業の特定セグメントの事業だけを分析したい場合、ここに掲載されている数値で、①、②の分析をしてください。

どんなに端的に書く傾向のある企業でも、以下のように事業ごとの売上と営業利益はここに記載がある場合がほとんどです。

数値だけでなく、それぞれの事業についての定性的な状況についてサマリーの記載がある場合が多いため、目を通しておきましょう。

④「経営成績等の概況」>「今後の見通し」を確認

「経営成績等の概況」の項目の最後には、「今後の見通し」もしくは「次期の業績見通し」といった表記の項目があると思います。ここから、事業のネクストアクションとして、どのような打ち手を考えているかを読み取ることができます。

今後の売上目標や、増益・減益の見通しについて、中長期目線による解説がされています。

上記の例からは、好調である既存サービスの拡大を目指していることに加え、新サービス開発へ投資していくフェーズであることが伺えます。

また、売上の多くを占める主力事業である「プロフェッショナルサービス事業」において、生成AI活用や人材への投資を進めていくために「増収減益」を見込んで経営していることがわかります。

②で営業利益率が5ポイント減少していると記載しましたが、「今後の見通し」を見ることで、事業の採算性が悪化したわけではなく「積極的な投資を進めているから」ということが明確になりました。

⑤「広告宣伝費」についての記載が無いかを確認

最後に、広告運用の仕事をしている以上、分析している企業の広告宣伝費の増減は気になりますよね。競合分析などの目的であれば、特に気になる箇所だと思います。

しかし、残念ながら企業のIR資料を分析して、広告宣伝費を確実に把握する方法というものはありません。

広告宣伝費は、損益計算書の中の「販売費及び一般管理費」の中に計上されるのですが、「販売費及び一般管理費」の10%以上を占める項目しか開示義務がありません。そのため、多額の広告宣伝費を費やしていても、10%に満たない場合は金額を公表していないこともあります。

また、数値が公表されている場合でも、「広告宣伝費」と「販売促進費(自社のノベルティグッズや商品カタログ作成費用など)」が合算で計上されていて、純粋な広告投資の額がわからないケースもあります。

上記のような理由で、広告宣伝費のみを調べることは難しいのですが、決算短信の中で、「広告宣伝費」について特別の言及がなされていないか、一応調べておきましょう。

決算短信はPDF形式で公開されているため、ドキュメント内検索を実行し、「広告宣伝費」と入力するだけですぐに調べられます。

イメージが付くよう、実例をご紹介したいと思います。以下は株式会社 北の達人コーポレーションの2024年2月期の決算短信にて、「広告宣伝費」についての言及がある箇所になります。

画像引用元:北の達人コーポレーション2024年2月期 第1四半期決算短信

同社の主力ブランドである「北の快適工房」について、非常に具体的な広告宣伝費の投資状況が開示されています。前年同期比で、投資効率を維持しながら、広告投資を4倍以上に拡大することに成功していることが読み取れます。

「投資効率を維持」という内容についても、具体的な記載が「自社広告による獲得の投資効率」という項目にあるようなので、そちらも見にいきます。

ここでは簡単な紹介にとどめますが、広告投資に対して1年間でどれだけの売上を見込んでいるかの予測値を「1年後ROAS」という指標に落とし込み、投資効率を分析したデータが載っていました。

2022年期の変動の大きさは、新商品を複数投入したことにより、検証のために採算の合わない広告投資が増加したことによるものだそうです(注釈7の内容より)。

その後、2023年期以降では一定の数値に落ち着いており、広告投資効率を意図的にコントロールできている様子が伺えます。

ここまで詳しく載せている企業は多くありませんが、決算短信にて非常に解像度の高い広告投資状況を開示している企業もあるという実例のご紹介でした。

まとめ

食わず嫌いされがちなIR資料ですが、実際に決算短信に目を通してみると、アウトラインを把握するだけなら全く難しい内容ではありません。

少しでも興味を持った方は、本記事を参考に、あなたのクライアント企業や競合企業、はたまた、何となく気になるあのベンチャーの決算短信に目を通してみるのもおすすめです。

ただし、表面的な数字だけでは企業の状況を十分に理解するのは難しいのも現実です。運用型広告でも同様ですが「クリック率が下がった」「コンバージョン率が上がった」という数値が重要なのではなく、その数字から何を読み取るのかが、広告運用のパフォーマンスを上げていくことに繋がります。そう思うと、数字ばかりのIR資料も魅力的なデータに見えてきませんか?

これまで見たことがなかった、という方もぜひ一度IR資料を読んで、そこから何が読み取れるかを考えてみるのがおすすめです。

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