広告代理店と理想的なパートナーシップを築くには?元広告代理店出身の広告主経験者が語る本音と実践方法

 広告代理店と理想的なパートナーシップを築くには?元広告代理店出身の広告主経験者が語る本音と実践方法

「広告代理店に依頼すべきか」「今の代理店を変えるべきか」そんな悩みを抱える広告主は少なくありません。広告主と代理店の間には常に情報の非対称性が存在し、互いの期待値のすれ違いが生じやすい。では、どうすれば理想的な関係を構築できるのでしょうか。

今回インタビューに応じてくれたのは、広告代理店のアナグラムからキャリアをスタートし、その後複数の事業会社でマーケティング責任者を務めた秋山さん。現在はSOIL株式会社を設立し、企業のマーケティングコンサルティングを行っている。広告代理店と広告主、双方の視点を持つ存在です。

秋山 侑太朗(あきやま ゆうたろう)
SOIL株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、新卒でアナグラム株式会社に入社。運用型広告のコンサルティング・マネジメント・人事に携わる。その後、事業会社でのマーケティング責任者を経てSOIL株式を創業。マーケティング総合支援・広告運用代行・採用支援を展開中。

https://soilmkt.jp/

聞き手:アナグラム株式会社 代表取締役社長 小山 純弥


「事業会社では、広告主がどこで悩んでいるのか、どういう姿勢を求めているのか、どういう質問をしないと事業主側も気づきを得られないのか。そういった点がクリアになりました」と語ります。

本インタビューでは、広告主側の立場を経験したことで、代理店在籍時には見えなかった視点を持てたという秋山さんの経験を通じて、広告主が代理店と最大限の成果を生み出すためのアプローチを探っていきます。適切な広告代理店選びの基準から、効果的なブリーフィング方法、情報共有のあり方まで、実践的なアドバイスをお話しいただきました。

秋山さん
秋山さん

よろしくお願いします。学生インターンからアナグラムで、そのまま新卒入社させていただき5年間勤めました。その後、2社の事業会社を経験したのち、3社目の事業会社ではマーケティング責任者を務めました。

現在は起業してマーケティング支援事業を行っています。広告代理店と事業会社の両方の視点から、この業界を見てきた経験をお話しできればと思います。クライアント企業のマーケティング担当として広告代理店のディレクションのような役割も経験しているため、第三者目線でのお話もできると思います。

よろしくお願いします。広告代理店からキャリアをスタートしたわけですが、事業主側を経験した前後で何か変化はありましたか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

考え方などで大きく変わったところは実はありません。マーケティングに関してアナグラム時代に学んだ考え方が間違っていなかったというのは事業主側を経て再認識しました。

ただ、どういうところで広告主が悩んでいたり、どういう姿勢を求められているかだったりは事業会社を経てよりクリアになったと感じています。

広告主と代理店の役割分担と相互理解

広告主と代理店が上手く連携するための基本的な考え方について教えてください。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

基本的なフレームワークで言うと、who-whatとhowの役割分担ですね。広告代理店は本質的にはhowを磨いている専門家です。一方で広告主側は、誰に何を届けるのかというwho-whatまで考える必要があります。でも多くの場合、who-whatが明確になっていないんです。

たしかに、役割分担が曖昧だと問題が起きやすいように思います。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

そうです。広告主側は戦略を明確にすることが重要だと思います。何を達成したいのか、そのためにどのような人にどんなメッセージを届けるべきなのかを具体化することが成功への第一歩です。

代理店もパートナーも、そして社内の各層でも、戦略というのは階層構造を持っています。経営層から見れば戦術的な事柄も、事業部レベルでは戦略になるといった具合です。この認識を共有することが大切です。

時々、戦略の策定を完全に代理店に委ねてしまうケースがありますが、これは双方にとって理想的とは言えません。

それだと代理店側も適切な提案がしづらそうですね。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

はい。代理店は専門知識に基づいた提案をしますが、広告主側の明確な方向性がないと、その提案を評価する基準も曖昧になってしまいます。

理想的なのは、広告主側が『どんな顧客に、どんな価値を届けたいのか』という核心部分を明確にした上で、その実現方法やチャネル選定などの専門領域を代理店と協働することです。

この基本があれば、代理店からの提案に対しても『それは当社の顧客層にはこういう理由でやや合わないかもしれません』といった、建設的なフィードバックができるようになります。これがパートナーシップの基盤になりますね。

とくに広告主側が準備しておくべきことはありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

簡単ではありませんが、広告主側がちゃんと事業と顧客のことを理解している、これに尽きると思いますね。誰にどんな価値を提供したいのか、そのために代理店に何を依頼したいのかを明確にすることです。

僕らも広告主さまのビジネスや組織、そのお客さまの理解がもっとも重要だと考えて取り組んでいます。年初の記事でも触れている部分です。

次に、代理店側のアプローチで効果的な方法を教えていただけますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

基本は仮説ベースでのコミュニケーションを心掛けたいです。『普通はこうじゃないですか?』とか『御社のサービスってこう見えますけど、なぜこうしないんですか?』という聞き方は避けたほうがいいですね。代わりに『私はこう考えたんですけど、これについてどう思われますか?』とか『こういう理解で合っていますか?』と確認する形で質問すると、相手は答えやすくなります。

一般的にはこうしたほうが良いと思っても、広告主が"あえてそうしていない理由"ってありますよね。このようなコミュニケーション方法は成果にも影響しますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

影響します。広告主は自分の事業について誰よりも考えている自負があるケースが多いので、それを否定されたと感じると心を閉ざしてしまうと思います。逆に、『あなたの事業のことをもっと理解したい』という姿勢で質問すると、情報をより多く共有してくれるようになります。そうすれば代理店側も適切な提案ができるようになり、結果として成果も上がりやすくなるんです。

広告代理店側からすると、広告主のビジネスをどこまで踏み込んで理解すべきでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

広告運用だけでなく、事業全体を見る視点が大切です。売上が右肩上がりでも社長が不安や怒りを感じているケースがあります。なぜかというと、利益率が下がっている、キャッシュフローが悪化している、昨対比では落ちた、新規顧客の割合が下がったなどが背景にありますね。そういった視点も持っていないと、本当の意味で広告主の課題解決はできないんです。

広告主と代理店の関係を最大化するには、互いの役割を理解し尊重することが欠かせません。広告主はwho-whatを明確にし、代理店はhowの専門家として最適な提案をする。そして双方が仮説ベースのコミュニケーションを通じて、相互理解を深めていくことが成功への近道です。

情報開示のジレンマとその解決法

広告主と代理店の間で、情報共有はどこまですべきだと思いますか? 以前、「情報の非対称性を下げる」ことについて書かれていたと思います。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

広告主の立場から考えると、情報共有は協業の基盤だと思います。もちろんNDAを締結し、機密保持を前提とした上での話ですが。

PLやBSといった財務情報全体を共有する必要はないですが、マーケティング活動に直結する情報は積極的に開示した方が効果的です。例えば顧客アンケートの結果や、リード獲得から成約までの転換率など、こういったデータを共有することで代理店からより的確な提案が受けられます。

代理店側も「どこまで聞いて良いのかな?」と遠慮していることも多いですよね。ただ、事業会社としても「どのような情報を提供すればいいの?」と迷ってしまうと思うので、代理店側からのリクエストを積極的に行うべきだと考えています。

秋山さんは事業主側として、なぜ情報開示に積極的だったんですか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

数値だけでなく、その背景にある考え方や意図を理解してもらうことが重要だと考えていました。社内での検討過程や戦略的な方向性は内部で整理されているものですが、その要点を代理店と共有することで、より本質的な提案が得られると思います。

最大のメリットは、広告施策と実際のビジネス成果を紐づけて評価できることです。管理画面上でのCPA最適化が、必ずしも実質的な売上向上につながらないケースも少なくありません。特定のプラットフォームでは数値が良く見える場合でも、実際のビジネスインパクトは限定的なこともあります。正確なデータ共有があれば、そうした齟齬を防げます。

とても同意できる一方で、競合に情報が漏れることを心配する広告主も多いのではないかなと思います。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

確かにその懸念は理解できます。ただ現実的に考えると、例えば『LINEでの施策が好調』という情報が競合に伝わったとしても、その施策を真似するだけで同じ効果が出るわけではありません。背景にある戦略や実行力が重要ですので、基本データの共有によるリスクよりも、代理店との協業で得られるメリットの方が大きいと考えています。

逆に代理店側として、情報をもらえずに困ったことはなんでしょう?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

私は両方の立場を経験していますが、特に近年は広告管理画面だけでは把握できる情報が限られてきています。広告管理画面の数値と実際のビジネス成果にはずれが生じることも少なくありません。そのギャップを埋めるためにも、実数データの共有は重要です。

例えば顧客アンケートも、代理店が一から実施するのは時間も手間もかかります。すでに取得しているデータを個人情報部分を除いて共有するだけで、より効果的な施策立案ができるようになります。

情報開示で広告主が気をつけるべき部分はありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

事業運営において守るべき核心部分はあります。例えば調達先や仕入れ先の情報、価格交渉力の源泉となる特別な取引条件などは慎重に扱うべきでしょう。ただ、こういった情報は通常のマーケティング活動において代理店が必要とするものではないので、共有の必要もないと思います。こうした一部の例外を除けば、基本的に開示的な姿勢で臨む方が良好な関係構築につながります。

情報開示することで代理店側のモチベーションも上がりますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

上がると思います。 自分が代理店側でご支援させていただく場合も上がりますね。人は意義を感じられる仕事に対してモチベーションが高まります。共通の目標に向かって一緒に取り組んでいるという実感が大切です。

財務的な面でも、例えば『マーケティング予算を一緒に増やしていきましょう』という方向性を共有すれば、代理店側にも売上メリットがあり、双方にとって良い関係が築けます。また『この課題解決のために一緒に取り組んでいる』という意識共有も重要です。情報開示はこうした信頼関係を築く基盤になります。

広告代理店を選ぶ際、いちばん大事なのは「コミットメント」

広告代理店を選ぶ時、どんなポイントを重視していましたか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

一番大事なのは「コミットメント」の度合いだと思います。要は、どれだけ本気で自社の成長に付き合ってくれるかってことですね。単に「長期契約でしっかりご支援します」みたいな形式的なものじゃなくて、本当に自社のビジネスを理解しようとする姿勢が大切なんです。

すぐに取り入れられる姿勢としては、実際に広告主の商品・サービスを利用してみることですね。例えば、化粧品会社の案件をやるなら、実際に製品を使い始めるのがおすすめです。お客さんの気持ちを本当に理解しようとするなら、実際にお客さんになってみるのは有効な手ですよね。広告主も自社の商品・サービスを使ってもらえるなんて嬉しいはずですし、生の感想も参考になるはずです。

クライアントのビジネスに深く入り込む姿勢が大切なんですね。他にはどんなポイントがありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

コミュニケーションも重要です。特に、成果が出ない時や問題が起きた時の対応力はしっかりチェックした方がいいですね。「言い訳ばっかりする代理店は絶対NG!」ぐらいに思っておいた方がいいです。

個人的には成果が悪化するたびに「自動入札の学習が~」のような言い訳をする広告運用者は信用してません(笑)小山さんもよく仰っていましたが「先に言えば説明、後から言えば言い訳」ですよね。こういう小さな言動も積み重なれば、最終的には信頼関係が崩れる要因になり得ます。

信頼関係は崩れるときは一瞬ですよね。逆に小さな信用を積み重ねていくことでしか築けない。他にはどんな点を見るべきでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

透明性も確認したいです。料金体系や契約内容、日々の広告成果をきちんと説明してくれる代理店を選びましょう。

毎月の報告書に詳細な内訳を記載してくれて、「この施策にこれだけのコストをかけて、こういう結果が出ました」っていうのが一目でわかる代理店もあれば、「今月の広告費はこれだけです」って感じの簡素な報告しかしない代理店もあります。どっちがいいか、一目瞭然ですよね。

最後に、代理店選びで他に注意すべき点はありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

最後に挙げるとすれば、自社の企業文化との相性です。価値観が全然合わない代理店とは、長く付き合っていくのは難しいですからね。

代理店を選ぶときは、単に能力や実績だけじゃなくて、その代理店の価値観や文化も確認することが大切です。長期的なパートナーシップを築くには、こういった部分の相性も重要になってきますよ。

広告代理店との良好な関係を築くコツ

実際に代理店選びの際にどんなところを気にされているのかよく理解できました。では、選んだ後はどうすれば良好な関係を築けるんでしょうか?何かコツはありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

はい、いくつかあります。まず大事なのは、広告代理店を「ただの外注先」じゃなくて、「ビジネスパートナー」として見ることです。対等な立場で協力し合う、そんな関係を目指すのが良いですね。

具体的には、例えば代理店のアイデアを一方的に却下するんじゃなくて、「ここはこういう理由でうちの方針と合わないんだけど、こういう方向性ではどうかな?」みたいに、一緒に考えていく姿勢が大切です。

代理店を対等なパートナーとして扱うということですね。僕たちも、不必要に自ら下に回るようなコミュニケーションにならないようには気を付けています。

他にはどんなコツがありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

自社の状況や課題は包み隠さず共有しましょう。そうすれば、代理店からもより適切な提案やサポートが得られるはずです。

リードが増えても営業のリソースが逼迫してて対応し切れないとか、最近ユーザーの質が変化したとか、代理店にちゃんと伝えなければ適切な提案はもらえません。 

広告管理画面から見えない情報の共有はどんな小さなものでも非常にありがたいです。KPIや目標の設定についてはどうでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

KPIや目標も明確に設定して、共有することが重要です。こうすれば、お互いの方向性がズレにくくなります。定期的に成果や課題を振り返って、一緒に改善点を考える機会も設けた方がいいですよ。

例えば、四半期ごとにレビューミーティングを設定して、その期間の成果を振り返り、次の期間の目標を一緒に設定するのは効果的です。「前四半期はこの施策がうまくいったから、次はこれをもっと強化しよう」とか「ここはうまくいかなかったから、こう改善しよう」みたいな具合ですね。

ビジネスの環境も組織の状況もどんどん変わるので、定期的な振り返りと改善のサイクルは大切ですよね。他にも何かコツはありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

お互いに学び合う姿勢も大切です。代理店からマーケティングのノウハウを学びつつ、自社の業界知識を代理店に共有する。そんな「ギブアンドテイク」の関係を築いていけば、どんどん良くなっていくはずです。

実際にあった話なんですが、代理店が報告としてMeta広告の類似ターゲティングの説明をしたところ、広告主が「うちの業界なら〇〇(ターゲット群)のメールアドレス情報も実は持っているので、リストアップしたら役に立つ?」と提案してくれたんです。それまでは広告主の既存顧客リストのみで類似配信をしていましたが、既存顧客以外のリストも使えるようになって成果が伸びましたね。 

素晴らしい事例ですね。お互いの強みを活かし合える関係が理想的だと感じました。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

そうなんです。それから、市場環境の変化に応じて、柔軟に戦略や施策を変更できる関係性を保つことも忘れずに。そして、良い結果が出たときは、その成功を代理店と一緒に喜び、きちんと評価することも大切ですよ。

例えば、あるキャンペーンで予想以上の成果が出たときに、「おかげで売上が○○%アップしました!ありがとうございます」って代理店に伝えたら、担当者がすごく喜んでくれて、次のキャンペーンではさらに力を入れてくれたんです。こういう小さな感謝の積み重ねが、長期的な良好な関係につながります。

広告代理店との関係で注意すべき点

うれしいですよね。他にも、広告主の担当者さんが社内で評価されたのを伺えたときは、まるで自分のことのように誇らしく感じます。

逆に、こういうのは要注意!みたいな点や、失敗例なんかってありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

そうですね、まず絶対にNGなのが「丸投げ」です。「全部任せたから、あとはよろしく~」なんて態度は百害あって一利なしです。どんなに優秀な代理店でも、広告主側の協力なしじゃ、最大限の効果は絶対に出せません

実際にあった話ですが、ある企業が新規事業のプロモーションを代理店に丸投げして失敗したケースを見かけたことがあります。代理店側は「こういう部分の詳細情報が欲しい」とか「こういう判断をしてほしい」と要望を投げてはいたのですが広告主側の担当者が忙しくて全然対応できなくて...…結局、プロモーションは思うように進まず、お互いに不満が残る結果になっちゃったんです。

担当領域が広い方も多いので、広告代理店側としても忙しい担当者さんにどうしたら負荷をかけずに必要な情報を得たり、物事を動かせるかを考えたりは大切な業務だと考えたいですね。

他にはどんな注意点がありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

過度の値引き要求も良くないですね。コスト削減は大事ですが、やりすぎると代理店のモチベーションが下がり、結局サービスの質が低下し、広告効果も落ちてしまいます。これでは値引きした分以上の損失が出てしまいますね。

短期的なコスト削減が長期的には逆効果になる可能性があるということですね。他にも注意すべき点はありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

部分的な成果にこだわりすぎるのも危険です。広告でリードがたくさん獲れているからといって、それが事業の売上利益に繋がっているとは限りません。

例えば、BtoB企業なら、商談に繋がらない・受注に繋がらないリードばかり広告で獲ってしまっているケースはあるあるですよね。代理店側が短期的な成果を求めた結果の時もあれば、広告主側が質の高いリードの定義をフィードバックできていない時もありますが、いずれにせよ広告周りのことしか見ていない状態で売上利益を伸ばすのは難しいでしょう。

部分的な数字だけを追いかけるのは危険ですよね。広告管理画面の数字はよくともビジネスの成果に繋がっていない……となってはなんの意味もありません。これは広告代理店側も十分に注意して、実際の売上や利益へのインパクトをフィードバックしてもらえるような働きかけや、仕組みの構築が重要ですね。

他にはどんな点に気をつければいいでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

成果指標を設定せずにダラダラと運用を続けるのも問題です。「とりあえず広告出してりゃいいでしょ」みたいな姿勢じゃ、効果的なマーケティングなんてできっこないですよね。

大切なのは、明確な目標を設定し、定期的に効果を測定し、必要に応じて戦略を修正していくこと。これを代理店と一緒に行っていくことが重要です。

他に失敗例などはありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

そうですね、代理店の担当者の経験やスキルをしっかり確認しないまま契約してしまうケースもよくあります。

例えば、ある企業が大手代理店と契約したんです。提案時は経験豊富な社員が対応してくれて、すごく期待したんですが、実際の運用は経験の浅い若手社員に任されちゃったんです。結果、初歩的なミスが続いて、最終的には契約解除。散々な結果になっちゃいました。

こういう失敗を防ぐには、契約前に実際の運用担当者とも面談して、その経験や能力をしっかり確認することが重要です。代理店側の体制が変更される場合も、事前に報告を受けて、新しい担当者のスキルをチェックする。そこまでやっておくと安心ですね。

デジタルマーケティングの進化と広告代理店の役割の変化

ありがとうございます。とても参考になります。ところで最近、AI活用をはじめとしてデジタルマーケティングの技術がどんどん進化していますよね。これって広告代理店の役割や、クライアントとの関係性に何か影響を与えているんでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

与えていると思います。

まず、広告主側がますます「スピード」を求めるようになっていると感じます。デジタルマーケティングはリアルタイムに効果の確認~改善が行えるので、大前提としてスピード感のあるPDCAが効果を生みやすいですよね。デジタルマーケティングの進歩でリアルタイム性は加速していますし、加えて最近はユーザーが接触するメディアも分散しているので、どのメディアに販促費や工数を割くかの差配も短期間で最適化していく必要性があります。このあたりのスピード感は、どうしても外部に任せるより内部でやったほうが早いので、インハウス化を目指す広告主も増えていますね。

おっしゃる通り、広告主側で「スピード」がより重視されているのは私たちも日々実感しています。インハウス化を目指す広告主さまも、社内状況や組織体制に応じて"外部をうまく活用"しながら、ハイブリッド型で取り組んでいるケースも増えていますね。

広告代理店側にも何か変化はありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

広告代理店の役割は「実務の代行屋さん」から「戦略的パートナー」にシフトしてきている流れはあると思います。テクノロジーの進化で、昔は人手でやっていた作業の多くが自動化されつつありますよね。例えば、入札管理や広告文の最適化なんかは、今じゃAIを使ったツールでサクッとできてしまいます。

こういった変化の中で、クライアントも、ただ広告を出すだけじゃなく、ビジネス全体を見渡した戦略的なアドバイスを求めるようになってきていますね。

同じ広告運用でも広告代理店の役割が大きく変わってきていますよね。他にもどのような変化がありますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

デジタル広告が複雑化してきたため、インハウス化を目指す広告主でも最新の知識やノウハウをキャッチアップし続けるのが難しくなっていると感じます。だから、常に複数の広告主・デジタルマーケティングの手法に触れている広告代理店には「先生」としての役割も期待されるようになっていますね。

例えば、マーケティング部門の社員全員に対してデジタルマーケティングの基礎知識を学ぶ研修を広告代理店に依頼している企業もあります。研修でなくても、日々のコミュニケーションの中で広告主から「〇〇について詳しいですか?」「〇〇を教えてほしい」といった質問をいただくことが増えました。こういった形で、代理店がクライアントの教育も担うようになってきているんです。

一方で、マーケティングオートメーションツールが普及して、中小企業でも自前で広告運用ができるようになってきました。代理店は「うちならではの付加価値」をはっきり示さないといけなくなってきていますね。

代理店と広告主の関係性が、より対等で協力的なものに変わってきているんですね。この変化に対して、代理店はどのように対応していくべきだと思いますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

そうですね、代理店側としては、次のような対応が必要になってくると思います。

  • 敏捷性の向上:1人あたりの担当案件数の制限、チーム体制の強化、AIによる業務効率化などで広告主に対して素早くサービス提供を行える環境を用意する。
  • 最新テクノロジーへの投資:AIやマーケティングオートメーションツールなど、最新のテクノロジーを積極的に導入し、活用する。
  • コンサルティング力の強化:単なる広告運用だけでなく、広告主のビジネス全体を理解し、戦略的なアドバイスができる人材を育成する。
  • 広告主への専門知識・ノウハウの移植:広告主に対して、デジタルマーケティングの専門知識・ノウハウを提供できるように、研修プログラムを開発したり人材を育成する。
  • 独自の付加価値の創出:自社ならではの強みや独自のサービスを開発し、差別化を図る。
秋山さん
秋山さん

これらの点に注力することで、変化する市場環境に適応し、クライアントにとって真に価値のあるパートナーになれると思います。

これから広告代理店と組む企業へのアドバイス

業界の変化が双方の立場からよくわかりました。これから広告代理店と組もうと考えている企業や、今の関係をもっと良くしたいと思っている企業に向けて、何かアドバイスをいただけますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

まず何より大切なのは、自社の目標をハッキリさせることです。「何を達成したいのか」「どんな課題があるのか」をきちんと整理して、それに基づいた具体的なマーケティング目標を立てましょう。そうすれば、代理店とも方向性を合わせやすくなりますよ。

例えば、「売上を増やしたい」という漠然とした目標ではなく、「半年以内に新規顧客を20%増やし、既存顧客の継続率を5%上げる」といった具体的な目標を設定するんです。これにより、代理店側も明確なゴールに向けて戦略を立てやすくなります。

秋山さん
秋山さん

それから、オープンなコミュニケーションを心がけてください。自社の課題や心配事は隠さずに共有しちゃいましょう。代理店は広告主の情報を元に最適な提案をしてくれます。情報が足りないと、効果的な戦略を立てるのは難しくなってしまいますよね。

例えば、定期的なミーティングを設けて、その中で単に数字の報告だけでなく、社内の状況や市場の変化、競合の動きなども共有するといいでしょう。代理店を「外部の人間」と考えるのではなく、「チームの一員」として扱うことが大切です。

目標設定とコミュニケーションで同じ方向を向いて伴走できることが重要だと僕も実感しています。他にも何かアドバイスはありますか?

小山
小山

小山:

秋山さん
秋山さん

はい、代理店選びは慎重に行ってくださいね。単に価格だけで決めるんじゃなくて、自社の事業や課題をしっかり理解してくれて、長く付き合えそうな代理店を選びましょう。過去の実績や、似たような業界での経験なんかも、重要な判断材料になりますよ。

これまでお話いただいてきたコミュニケーションの積み重ねの観点からも、長く付き合えることの価値は非常に大きいと思います。一方で"慣れ"は時としてデメリットになりかねないため、アナグラムでもグロースハックなど仕組みでの改善を図っています。

他にはどんなアドバイスがありますか?

小山
小山

小山:

秋山さん
秋山さん

全部を代理店に丸投げするんじゃなくて、自社でもマーケティングのスキルを磨くことが大切です。代理店と協力しながら進められる体制を作ることで、より効果的な施策が実行できるんです。

例えば、従業員にデジタルマーケティングの研修を受けさせたり、新しくマーケティング経験があるメンバーを採用したりするのが最初の一歩ですね。もちろん、そのような初期投資が難しいから広告代理店に依頼している背景はあると思いますが、それでもいつまでも広告代理店に丸投げでは成果を出し続けるのは難しいでしょう。

広告代理店側から見ても、クライアント側に一定のマーケティング理解や判断力があることは、施策の精度やスピードに直結します。計測周りなど技術的な要件も増えており、より一層その傾向が出てきていますね。弊社からも必要に応じて勉強会をさせていただいたり、できる限り分かりやすい説明を心がけています。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

あとは、定期的な見直しも忘れずに。市場環境や自社の状況って常に変化しているものです。定期的に戦略や施策を見直して、必要なら軌道修正をしていきましょう。

例えば、四半期ごとに大きな振り返りの機会を設けて、その期間の成果を細かく分析し、次の四半期の計画を立てる。そこに代理店も参加してもらって、一緒に考えるんです。

ある企業では、四半期ごとの振り返りミーティングで、マーケティング施策の効果だけでなく、代理店との関係性も振り返っていました。「代理店からの提案は役立っているか」「コミュニケーションは円滑か」といった点をチェックして、必要であれば改善策を講じていたんです。

こうした見直しがあってこそ、対等で前向きな関係性が築けますよね。アナグラムでも定期的に顧客満足度調査をさせていただき、率直な声を伺いサービスの品質向上に努めています。

データの活用についてはどうでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

データの活用も重要ですね。代理店から提供されるデータや分析結果を積極的に活用して、自社の意思決定に役立ててください。ただし、データだけじゃなく、お客さんの生の声や市場の動向なんかも総合的に判断することが大切です。代理店から提供されるデータや分析結果は、広告管理画面上の数値に基づくことがほとんどなので、実際のビジネス状況とズレていることは少なくありません。

だから、代理店のデータは大いに活用しつつ、自社ならではの情報源も大切にする。そのバランスが重要です。

数字の“先”を見るためにこそ、現場のリアルな声って本当に貴重ですよね。新しい技術への対応についてはどうでしょうか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

AIやマーケティングオートメーションなど、新しい技術の導入にも積極的に取り組んだほうがいいですよね。代理店と協力して、これらの技術を効果的に活用する方法を探っていくのがおすすめです。

ただし、新しい技術を導入する際は、自社のビジネスにどう役立つのか、しっかり検討することが大切です。「流行りだから」という理由だけで導入しても、効果は期待できません。

例えば、ある小売業者が代理店の勧めでAIを活用した顧客分析ツールを導入した事例では、そもそも自社のデータの質や量が不十分で、有効な分析ができませんでした。結局、まずはデータ収集の仕組みを整備することから始めることになったんです。

だから、新しい技術を導入する際は、自社の状況をよく見極めて、段階的に進めていくことが大切です。

技術の導入って、“やるか・やらないか”ではなく、“どうやるか・いつやるか”の方がずっと難しいですよね。そこは、代理店としても一緒に判断を支える立場でありたいと思っています。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

新しい施策や技術の導入には必ずリスクが伴います。小規模な実験から始めて、失敗からも学ぶ姿勢を大切にしてください。

失敗を恐れずに新しいことにチャレンジし、そこから学び、改善していく。そんなサイクルを代理店と一緒に回していけると、どんどん成長できるはずです。

まとめ:実践のためのチェックリスト

本当に参考になるアドバイスをありがとうございます。最後に、広告代理店との関係づくりについて、まとめていただけますか?

小山
小山
秋山さん
秋山さん

一番大事なのは、お互いが単なる発注者と受託者の関係ではなく、ビジネスパートナーだという意識を持つことです。広告主はwho-whatを明確にし、代理店にはhowの部分で力を発揮してもらう。そのためには、適切な情報共有と明確なコミュニケーションが不可欠です。正社員採用と同じ気持ちで代理店を選び、長期的なパートナーシップを意識することで、最大限の成果が生まれると思います」

まず、代理店選びについては以下を意識できるといいと思います。

  • コミットメントの期待値を重視する
  • 単純な実績やコストだけでなく、人柄や相性も重視する
  • 最低6ヶ月は継続する覚悟を持つ(覚悟を持てるような代理店を選ぶ)
秋山さん
秋山さん

次に、日々の運用ではパートナーとして動いてもらえるように適切な情報開示を行っていきましょう。

  • 曖昧な指示出しを避け、具体的に伝える
  • 必要な情報は積極的に共有する(PLやBSなど一部を除く)
  • 目的やビジョンを明確に伝え、モチベーションを高める
  • 目標設定と優先順位(CPAとCV数どちらを重視するかなど)を明確にする
  • 定期的な振り返りと改善サイクルを回す
秋山さん
秋山さん

そして信頼関係構築のために、次の点に注意したコミュニケーションが大切です。

  • 仮説ベースでコミュニケーションを取る
  • 代理店をエスパーだと思わず、必要なことは明確に伝える
  • 成功も失敗も一緒に振り返り、次のアクションを決める
  • 短期的な数字だけでなく、長期的な事業成長を共に目指す姿勢を持つ
秋山さん
秋山さん

これらを意識することで、代理店との関係は大きく変わると思います。

秋山さん、非常に具体的で実践的なアドバイスをありがとうございます。今回のインタビューを通じて、広告代理店との付き合い方について多くの示唆をいただきました。特に、代理店を単なる外注先ではなく戦略的パートナーとして捉え、オープンなコミュニケーションを心がけることの重要性がよくわかりました。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

こちらこそ、貴重な機会をいただきありがとうございました。広告代理店との関係は、ビジネスの成功に大きな影響を与える重要な要素です。しかし、完璧な関係性を一朝一夕に築くことは難しいでしょう。大切なのは、お互いを理解し、信頼関係を築こうとする姿勢です。広告代理店との関係づくりに完璧なマニュアルはありません。でも、お互いを尊重し、オープンなコミュニケーションを心がければ、きっと良い関係は築けるはずです。

本当に素晴らしいアドバイスをありがとうございました。秋山さんのお話を聞いていると、広告代理店との関係づくりって、ただのビジネス以上の何かがある気がしてきました。

読者の皆さんも、この記事を読んで、自分たちの広告代理店との関係を見直すきっかけになればいいなと思います。もしかしたら、今まで気づかなかった課題が見えてくるかもしれません。あるいは、新しい可能性が開けるかもしれません。

秋山さん、今日は本当にありがとうございました。

小山
小山
秋山さん
秋山さん

こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました!

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