
日本企業では、会議が意思決定の場として重視されていますが、多くの会議が「結論が出ない」「時間ばかりかかる」といった課題を抱えています。
ある調査によると、企業の70%以上が「会議が非効率的だ」と回答しています。特に、「何を」「どのように決めるのか」が事前に定められていない場合、議論が拡散し、参加者全員が無駄な時間を費やす結果になりがちです。
本記事では、「会議で決め方を決める」ことの重要性について、具体的な方法や実践例を交えながら深掘りします。


目次
「決め方を決めない」と何が問題なの?
「決め方」が不明確な意思決定がもたらす組織への影響について、具体的に見ていきましょう。
- 意思決定の遅延
意思決定の基準が不明確なまま議論を進めると、意見が対立し、結論を出すまでに時間がかかります。例えば、新商品の開発方向を決める会議で、売上重視のA案とブランド価値を優先するB案の選択において、どちらの評価基準も共有されていない場合、議論が長引くだけでなく、次回に持ち越されることもあります。これにより、競合他社に先を越されるリスクが生じます。
- 不公平な結論の発生
「声が大きい人」や「権限を持つ人」が主導する議論では、結論が感情や個人的な偏見に基づき、公平性が欠如する可能性があります。こうした結論は、現場で実行に移される際に抵抗や混乱を生む原因となります。
- 会議の無駄な時間とコスト
1時間の会議に10人が参加した場合、組織全体で10時間分の労働時間が費やされます。この時間を非効率的な議論に浪費するのは、組織全体の生産性に大きな影響を与えます。
- 信頼とエンゲージメントの低下
意思決定のプロセスが曖昧だと、参加者は「意見を言っても意味がない」と感じ、モチベーションが低下します。この結果、組織全体の信頼感やエンゲージメントが損なわれ、会議そのものの価値が薄れてしまいます。
このように、「決め方を決めない」という一見些細に見える問題は、組織の効率性、公平性、生産性、そして最も重要な信頼関係に至るまで、広範な悪影響を及ぼすのです。
「決め方を決める」ことのメリット
逆に、「決め方を決める」ことが組織にもたらす価値について、具体的に説明していきましょう。
まず、最も顕著な効果として、意思決定プロセスの効率化が挙げられます。意思決定の方法や基準が事前に定められていることで、議論は明確な目的に沿って進行します。例えば、新規プロジェクトの採否を決める会議では、「投資対効果」「市場性」「実現可能性」といった評価軸が事前に共有されていれば、それぞれの観点から的確な議論を展開できます。これにより、本質的でない意見や議論の脱線が自然と抑制され、意思決定のスピードが大幅に向上します。
さらに、会議時間の効率化という実務的なメリットも生まれます。議論が構造化され、評価の軸が明確になることで、会議の進行がスムーズになり、結果として所要時間が短縮されます。これにより創出された時間は、より価値の高い業務や創造的な活動に振り向けることができます。例えば、1時間の会議が30分で終われば、その浮いた30分を顧客との対話や新規アイデアの創出に活用できるのです。
最も重要な効果は、組織全体の実行力の向上です。意思決定のプロセスが明確で、かつ全員が納得できる形で結論が導き出されると、その後の実行段階において強固な協力体制が自然と形成されます。例えば、新しい営業戦略を導入する際、その決定プロセスが透明で納得性の高いものであれば、現場のメンバーも積極的に戦略を実践しようという意欲が生まれます。これにより、意思決定が単なる「決定」で終わらず、実際の成果として結実する可能性が大きく高まるのです。
このように、「決め方を決める」という取り組みは、組織の意思決定の質を全体的に向上させ、最終的には組織の生産性と成果の向上につながる重要な施策となります。
「決め方を決める」具体的な方法
でも、一体どうやって決めればいいのか。以下に、「決め方を決める」ための具体的なステップを紹介します。
会議の目的を明確にする
会議の成功は、目的が明確であるかどうかにかかっています。目的が曖昧だと、議論が拡散し、結論を出すまでに時間がかかります。たとえば、「新規プロジェクトの優先順位を決める」という目的であれば、具体的にどの基準で優先順位をつけるのかを事前に考慮する必要があります。
また、目的を共有する手段として、会議招集時にアジェンダを送付するのが有効です。アジェンダには以下の情報を含めると効果的です。
- 会議のゴール(例:次年度のマーケティング戦略の方向性を決定)
- 議論するトピック(例:市場動向の分析、施策案の比較)
- 会議終了後に必要なアウトプット(例:優先施策案の一覧)
このように、全員が同じゴールを意識して会議に臨むことで、議論が焦点を失うことを防ぎます。
決定基準を設定する
議論を円滑に進め、結論を導くためには、客観的で納得感のある基準を設定することが必要です。基準が曖昧なままだと、感情的な意見が交錯し、意思決定が難航します。以下の2つの基準を事前に設定することが有効です。
- 定量的基準:数値で評価できる基準を設定します。たとえば、次のようなものが挙げられます。
- 売上予測
- ROI(投資利益率)
- コスト削減効果
- 定性的基準:数値化が難しいものの、意思決定に重要な要素を考慮します。たとえば、次のようなものが該当します。
- 顧客満足度への影響
- ブランド価値の向上
例として、ある製造業の会議では、「投資額に対する利益率が15%以上」「競合他社との差別化が明確」といった基準を事前に設定しました。その結果、議論が具体的になり、短時間で最適な案を選択することができました。
役割分担を明確にする
会議の効率を高めるためには、参加者の役割を明確にすることが欠かせません。全員が自分の役割を理解していることで、議論がスムーズに進行します。特に以下の3つの役割を設定することを推奨します。
- モデレーター:議論の進行役。話題の逸脱を防ぎ、必要に応じて軌道修正を行います。また、タイムキーパーとして時間配分を管理する役割も担います。
- 記録係:議論内容や決定事項を文書化します。会議終了後に議事録を全員に共有し、フォローアップを支援します。
- 意思決定者:最終的な判断を下す責任者。特に意見が分かれた場合に重要な役割を果たします。
これらの役割を事前に割り当てることで、議論の混乱を防ぎ、結論を導くまでの時間を短縮できます。
プロセスを明文化する
意思決定プロセスを文書化することで、議論が効率的かつ透明性の高いものになります。プロセスが明文化されていると、全員が同じ手順を理解し、議論が迷走した場合でも軌道修正が可能です。
明文化の手順例:
- 会議前に、議論する案をリスト化し、全員に共有する。
- 各案について、メリット・デメリットを比較し、ホワイトボードやデジタルツールで可視化する。
- 定量基準や定性的基準に基づいてスコアリングを行う。
- 最終的に、投票または意思決定者による判断をもとに結論を出す。
たとえば、Google Docsで共有されたプロセスをリアルタイムで更新したり、MiroやNotionを活用して可視化することで、議論の進行状況を全員が把握できる環境を整えられます。
よくある課題や不安
会議においては、さまざまな課題や不安がつきものです。ここでは、よくある疑問に具体的な解決策を提示します。
Q1. 意見が対立して結論が出ない場合、どうすればよいですか?
議論が行き詰まる原因の多くは、感情的な意見や個人的な偏見が議論を支配することにあります。このような場合、以下の方法で解決を図ることができます。
- データや事実に基づいて議論を進める
感覚や経験だけに頼らず、売上予測、顧客満足度の調査結果、コスト試算などのデータを活用して議論を行います。客観的な根拠が示されることで、意見の衝突が和らぎ、合理的な結論に近づきます。 - 決定基準に立ち返る
会議の冒頭で設定した判断基準を全員で再確認します。基準に従えば、主観的な意見に左右されることなく、共通の視点で結論を導けます。 - 責任者が最終判断を行う
意見が完全に一致しない場合は、あらかじめ設定された意思決定者が最終判断を下します。責任者の決定を尊重し、議論を前に進めることが重要です。
Q2. リモート会議で「決め方を決める」を実践するには?
リモート環境では、対面会議以上に意思決定が難しくなる場合がありますが、以下の方法を活用することで効率を高めることができます。
- アジェンダと意思決定基準を事前に共有する
会議の目的や判断基準を事前に共有し、参加者が同じゴールを共有した状態で会議に臨めるようにします。これは、議論の脱線を防ぐだけでなく、議論をスムーズに進めるための基本です。 - オンライン投票ツールを活用する
リモート会議では、全員の意見を迅速に集約するために、SlidoやMentimeterといったオンライン投票ツールを利用します。これにより、意見の偏りを防ぎ、全員が平等に参加できます。 - モデレーターを指名し、時間管理を徹底する
リモート会議では、議論が脱線しやすいため、進行役を設けて時間管理を徹底することが重要です。タイムキーパーも同時に任命し、各議題に対する時間配分を明確にすることで効率的に進行できます。
Q3. 参加者が多すぎる場合、どうすればよいですか?
参加者が多い会議では、議論が収拾しにくくなり、効率が低下します。この場合、以下の対策を講じることが有効です。
- 必要な人のみを参加させる
会議の目的に直接関与する人を厳選します。意思決定に影響を与えない参加者は、議事録や録画を共有するだけでも十分です。たとえば、プロジェクト会議では、リーダーや担当者のみを招集し、それ以外のメンバーには結果を報告します。 - サブ会議を開催して議題を分割する
大人数の会議では、議題ごとにサブグループを作り、事前に詳細な議論を行います。その結果を持ち寄る形で全体会議を進行することで、効率的に意思決定を行うことが可能です。
「決め方を決める」際の注意点
「決め方を決める」ことは会議の効率と成果を向上させるうえで非常に効果的ですが、いくつかの注意点を押さえておかなければ、逆に混乱や停滞を招く恐れがあります。以下に具体的な注意点を挙げます。
1. 判断基準が曖昧にならないようにする
まず、判断基準が曖昧だと、参加者ごとに解釈が異なり、議論が拡散する原因となります。この問題を回避するには、判断基準を具体的かつ測定可能な形で設定することが必要です。たとえば、「売上を増やす」という抽象的な目標ではなく、「売上を10%向上させる」といった具体的な目標を掲げることで、全員が同じ視点を共有できます。
2. 全員の意見を反映しすぎない
次に、全員の意見を無理に取り入れようとすると、議論が複雑化し、結論が出るまでに時間がかかるリスクがあります。この状況を防ぐためには、全員の意見を「満場一致」で採用することを目指すのではなく、あらかじめ設定した基準に従い、合理的に判断することが重要です。少数意見も尊重しながら、最終的にはプロセスに沿った決定を進めることで、全体のバランスを取ることができます。
3. プロセスが複雑になりすぎないように
また、意思決定プロセスが複雑すぎると、準備や議論自体に過剰な時間がかかり、本来の目的を見失う恐れがあります。この問題を解決するには、プロセスをシンプルに保つことが求められます。たとえば、「案のメリット・デメリットを列挙する」「投票を行う」「最終的に決定者が判断する」といった三段階のプロセスに留めることで、効率的な議論が可能となります。
4. 決め方を押し付けない
さらに、意思決定プロセスを参加者に一方的に押し付けると、不満や反発を招く可能性があります。特にトップダウンのアプローチでは、現場の視点が欠落しやすくなるため注意が必要です。この問題を避けるためには、プロセスを設定する段階で参加者の意見を積極的に取り入れることが大切です。議論の初期段階で意見を集める時間を設けることで、全員の納得感を高めることができます。
5. 実行可能性を忘れない
さらに重要なのは、意思決定の結果が現実的に実行可能であるかを考慮することです。現実的でない結論は、実行段階で障害となり、プロセス全体の信頼性を損ないます。この点を克服するためには、結論に対して具体的に「誰が」「何をするのか」を明確にし、フォローアップの計画を立てることが欠かせません。
6. 時間をかけすぎない
最後に、「決め方を決める」ことに時間をかけすぎると、実際の意思決定や実行に必要な時間が不足するという問題が生じます。この場合、小さな会議やサブグループで意思決定プロセスを事前に決めておくと、大人数の会議ではプロセスに沿って効率的に進行することが可能になります。
「決め方を決める」は会議の効率を上げる有効な手法ですが、過剰な配慮や複雑化は逆効果になる場合があります。判断基準を明確に設定し、シンプルで納得感のあるプロセスを構築することが成功のポイントです。また、参加者の意見を尊重しつつも、最終的な判断に向けたスピード感を大切にしましょう。
決め方を決めないほうが良いケース
「決め方を決める」ことは多くの会議や意思決定において有効ですが、すべてのケースで適用すべきとは限りません。以下のような状況では、あえて厳密なプロセスを設けないほうが良い場合もあります。
1. 創造的なアイデア出しが求められる場合
ブレインストーミングのような場では、最初から意思決定のルールを厳格に決めると、参加者の発想が制限され、柔軟なアイデアが生まれにくくなります。例えば、新規事業のアイデア出しの会議で「必ずROIを基準に評価する」と決めてしまうと、大胆で革新的な発想が抑えられる可能性があります。このような場合は、まず自由に意見を出し合い、その後で意思決定の基準を整理するほうが効果的です。
2. 状況が流動的で柔軟な対応が必要な場合
市場や競争環境が急激に変化する状況では、事前に決めたルールに縛られることが逆効果になることがあります。例えば、スタートアップ企業が新しいビジネスチャンスを探る際、細かい決定プロセスを事前に定めると、素早い意思決定ができず、競争に遅れを取る可能性があります。こうしたケースでは、迅速な意思決定を優先し、必要に応じてプロセスをその場で調整する柔軟性が求められます。
3. 少人数で意思決定できる場合
関係者が少なく、意見の一致が容易に得られる場面では、あえて決定プロセスを複雑にしないほうが良い場合もあります。例えば、スタートアップの創業メンバー間の会議や、少人数のチームでのプロジェクト進行では、形式的な決定プロセスを設けるよりも、シンプルな話し合いで決めたほうがスピーディーかつ効果的です。
4. 参加者の自主性を重視する場合
意思決定プロセスを細かく設定すると、参加者がルールに従うことを優先し、自主的な判断や責任感が薄れるリスクがあります。例えば、社内のボトムアップ型プロジェクトで、現場の担当者に裁量を持たせたい場合は、厳密な決定プロセスを事前に決めるよりも、最低限のガイドラインだけを示して自由に進めてもらうほうが成果につながることがあります。
このように、「決め方を決める」ことは効果的な意思決定のための有力な手法ですが、すべてのケースで適用すべきではありません。状況に応じて柔軟に運用し、必要な場面ではあえて決め方を決めない選択肢も視野に入れることが重要です。
ものごとを前に進めるために
会議は、ものごとを前に進めるための重要な場です。そのためには、単に意見を出し合うだけでなく、「何を」「どのように決めるのか」を事前に明確にし、効率的かつ公平な意思決定ができる環境を整えることが必要です。
会議の目的を共有し、判断基準を設定し、役割を分担し、プロセスを文書化することで、議論を無駄なく進められます。このような準備が整えば、議論の焦点が明確になり、納得感のある結論を短時間で導き出すことが可能になります。
次回の会議では、「決め方を決める」取り組みを導入してみてください。それが、会議を単なる話し合いの場から、実行力を伴った行動に変える場へと進化させ、ものごとを確実に前進させる第一歩となるはずです。
