「粋な商売人を輩出したい」アナグラムが考える人材育成のビジョンとは?
前回の阿部のインタビューでは、「運用型広告の”これまで”と”これから”」をテーマに、「商売を伸ばす」という視点に切り替えることの重要さ、広告運用という仕事を通してその機会を多く得られることをお伝えさせていただきました。そしていま、アナグラムが持つ裏テーマは「粋な商売人を輩出する」こと。そのためにアナグラムでは実際に何をしているのか、さらに深堀してみました。

前回の記事:今だからこそ従事者に伝えたい、運用型広告の”これまで”と”これから”

「マーケターより、商売人を輩出したい」という言葉の真意

ーーー本日はよろしくお願いします。阿部さんは最近よく「マーケターよりも商売人を輩出したい」とおっしゃっていますよね。なぜマーケターではなく「商売人」なのでしょうか?

先に言っておきますが、別に「マーケター」という言葉を否定したいわけでは決してありません。ただ、「マーケターという言葉が一人歩きしているな」と感じることが多かったので、間違った解釈が生まれないように「商売人」と言い始めただけです。

至極当然の事を言いますが、マーケターというのはビジネスサイドのことも理解していなければいけません。

ただ最近はマーケターというと、フレームワークに詳しい人や、ファクトをベースにテクニック論を振りかざす人、といったイメージを持たれることもあるように感じます。もちろん偉大な先人の知恵であるフレームワークにはめ、成功確率をあげるような巨人の肩に乗ることも非常に大事ですし、テクニックも大事です。

ただ、ビジネスのグロースってフレームワークとテクニックだけでは限界が来るんですよね。その限界を突破するには、その商売がどう成り立っているのか?誰がお金を払っているのか?といったビジネスサイドのことも分かってないといけません。

僕がアナグラムという会社から輩出したいのは、マーケティングの知識で理論武装した人やデータがないと動けない人ではなくて、純粋にビジネスをグロースさせられる人。商売に関する全方位の知識をもち、ファクトがない状況においても自分で考えて動いていける、かっこいい人、粋な人。このイメージを伝えるには「商売人」という言葉が適切なのかな、と思って使っています。

ーーー「商売人」を輩出するために、具体的にはどのような工夫をしているのでしょうか?

2つありますね。

1つ目は分業をしないことです。広告代理店は、営業担当や運用担当が分かれている場合も多いですが、アナグラムでは一気通貫で担当しています。

「運用担当」だとどうしても「目の前の管理画面のCPAを下げるにはどうしたらよいか?」という狭い視野に陥ってしまいますよね。でも実際にクライアントはCPAを下げてほしいなんて思っていない、なんてことは往々にして起こりえます。そんなフェーズでCPAを下げる提案をしてしまう、みたいな人はビジネスそのものを理解していないと言えます。こういった議論が出来る人材、それってすごく貴重だと思いませんか?

ディスプレイ上の数字ではなく、「いま目の前に困っているクライアントがいる。この状況をどう改善するべきか?」と責任感をもって考えることができる人はマーケターというよりはもう商売人ですよね。

2つ目は従業員の思考を邪魔しないことですかね。まずベースとして、アナグラムでは創業当時から変わらず「自分自身の頭でしっかりと考えて判断できる人」を採用しています。なので彼らなりにしっかりと考えて判断したことに対して細かく口出しせず、基本的には信じて任せるようにしています。

ただ、まだまだお客様の商売にまで入り込めていないな、と感じることは正直多いです。広告運用を任されているだけになっている場合もあるので、そこはこれからの課題ですね。アナグラムで働くからには、単に広告運用を任される代理店という立ち位置ではなく、一番信頼される商売のパートナーになってほしい。そのためには、広告の知識だけではなく、ファイナンスや物流といった商売に関わる様々な知識を得ることが必要です。

そういった部分の知識がなかったり、視野が狭いことで機会損失をしているな、と感じる場合に「ちょっと視野が狭くなってるんじゃない?」と言うことはありますね。

適切に批判してくれる「鏡」となる人を見つけること

ーーー自分で考えて進んでいく部分と、上司から視座を高めてもらう部分、双方あって「商売人」としてもスキルが磨かれていくのですね。

そうですね。上司に限らず、「適切な批判をしてくれる人」が近くにいるというのは、自分の視野を広げてくれますよね。

中国の『貞観政要』という本に「三鏡」という逸話があります。そこには「耳が痛いようなことを言ったり、間違いを指摘してくれる人をそばに置き、鏡とすべきだ」ということが述べられています。

この本は、唐の時代の第2代皇帝・李世民の言行録なんですが、実際に、彼もそのような「鏡」となる人物である魏徴(ぎちょう)を近くに置いていたからこそ、「貞観の治」と呼ばれるような安定期をもたらす名君だったと言われているんです。

僕にも「鏡」と呼べるような存在の人がいます。彼はスターウォーズでいうマスターヨーダのような存在で、私が間違った方向に行こうとするといつも正してくれるんです。「お山の大将にならないように」というと経営者など上に立つ人間だけに当てはまることのように聞こえるかもしれませんが、これは上に立つ人間に限ったことではありません。どんな人でも、信頼関係のもとに、自分のことを適切に批判してくれる「味方」を作れるかどうかは、非常に大事だと思います。

例えば自信満々で作ったコンテンツを公開したのに、思うように伸びないケースがあったとします。その時に「ここの部分、よく伝わらなかったよ」と言ってくれるような人はいますか?なんなら「面白くなかったよ」と言ってくれるような人の方がいいですけどね。みんな忙しいので、大抵の人はおもしろくないコンテンツはスルーして終わりです。その中でちゃんと内容を見て、おもしろくなかったことを率直に指摘してくれる人は絶対大切にすべきですね。

指摘する、というのはエネルギーの要ることです。ましてや、コロナ禍で直接会えないとなれば、尚更です。社内でそういう人が見つかればいいですが、社外でもいい。そんな存在を見つけられれば、「商売人」としてもどんどん磨かれていくでしょうね。

「商売人」のその先にあるもの

ーーー「商売人」としての力を付けていくイメージが湧きました。

「商売人」としての力がつくということは、会社に頼らずとも1人で生きていけるくらいの力が身につく、ということです。そのレベルになれば、会社を飛び出ても広告運用限らず、様々なチャレンジが出来ると思います。

ただアナグラムは、1人で生きていける力を持った商売人たちが、それでもあえて残りたいと言ってくれるような組織を目指しています。そういう人たちがアナグラムにいながら新規事業にチャレンジしてもらうのもウェルカムですしね。

例えば「何かしらの新規事業を始めたいが、個人の資金だと到底どうにもならない」みたいなものがあったとき、アナグラムの中でならチャレンジ出来るような事業もたくさんあると思います。社内で、そういったチャレンジをする人が今後どんどん出てくると嬉しいですね。今はその準備を急ピッチで進めています。

豊かな働き方とは、自分で選択できる事

ーーー自分次第で、会社にいながら様々なことにチャレンジできるのは、ワクワクします!新規事業へのチャレンジという選択肢もそうですが、アナグラムでは決められた働き方というよりも、様々な選択肢の中から自分で選びとっていく働き方が出来ますよね。

そうですね。これは僕自身、「豊かさとは選択肢があること」と考えているからです。「豊かな働き方とは何か」という議論もありますが、僕は残業時間が少ないとか、そういう話ではないと思っています。

どんな仕事をするか、何時間仕事をするのか、家族との時間をどのくらい大切にするのか、リモートワークなのか出社なのか。人によって事情は様々ですから、あらゆる選択肢がある中で自分で選び取れるのが、僕の考える「豊かな働き方」です。

ただ、アナグラムが多くの選択肢を提示できるのは、先に言ったように原則として自分で考えられる人しか採用していないからです。それで言うと、これからの組織選びというのは自分の思想に合った組織を選ぶのがいいですね。皆が皆、選択肢があったほうが豊かというわけではないですし、選択肢があることで不幸になってしまう人もいるのは事実です。

「自分は何が好きで何が苦手なのか?」「何が自分にとって大事なのか?」「将来的にどうありたいのか?」そういった内省をしつつ、それを最短で叶えることができる仕組みをもった最適な組織はどこなのか?といった基準で組織選びをするのがいいんじゃないでしょうか。

うちの場合は、マーケティングや運用型広告が好きというのはある程度大前提で、商売が好きな人やそれを支える事が好きな人、そういうのを沢山見て、そのうち、自分で商売をはじめたい人、という人とはめちゃくちゃ相性がいい組織じゃないですかね。