総務省は2022年1月14日(金)、電気通信事業ガバナンス検討会(座長:大橋弘 東京大学公共政策大学院院長)において取りまとめられた報告書(案)について公開し、同年1月15日(土)から2月4日(金)まで意見募集を開始したことも合わせて公表されました。
参考:総務省|報道資料|電気通信事業ガバナンス検討会 報告書(案)に対する意見募集
この報告書(案)の中では、主要メディアでも報じられているとおり「ターゲティング広告」に関する規制についても触れられています(後述しますが、ターゲティング広告のみを制限するという趣旨ではなさそうです)。
報じられている内容については下記を一読ください。
参考:「ターゲティング広告」規制導入へ ネット利用者を保護 総務省 | IT・ネット | NHKニュース
本記事では、前述の報告書(案)で述べられている内容、法整備のタイムライン、検討するべき対応などについて概要をお伝えいたします。
目次
規制が検討されるのは「ターゲティング広告」に限らない
前述のNHKによる報道では「ターゲティング広告」規制導入と報じられていますが、実際の報告書(案)を読み進めてみると、「ターゲティング広告」を名指しして制限を課すといった趣旨ではなさそうです。
恐らく、報告書(案)P.54~P.55の「3.2.1.3 利用者に関する情報の外部送信の際に講じるべき措置」の項を指してターゲティング広告の規制と報じているものと考えられます。
報告書(案)では、Webサイト上で取得する情報と外部に送信する情報について、Webサイトの利用者以外の者に外部送信を行う場合は、原則として通知や公表を利用者へ行うか、同意の取得やオプトアウト措置の機会を利用者へ提供をするなどを事業者に求める事で検討が進んでいます。
つまり、報告書(案)記述を読み解くと、「ターゲティング広告」を実施するために訪問履歴などを広告プラットフォームへ送信するということのみに限らず、アクセス解析やマーケティングオートメーション(MA)ツールの利用などで外部にデータを蓄積する場合もこれに当てはまるのではないかとの解釈もできます。
オプトアウトに関してはプライバシーポリシーなどにてその方法が事後告知されているケースがほとんどかと思いますが、その通知や公表を事前かつ能動的に行うべきかなども論点に含まれてくるのではないかと考えられます。
加えて利用者情報の外部送信手段としてCookieが名指しされている訳でもなく、「外部送信を指示する事」として記述されていることから、Cookieに限定されていないと言う点も興味深い内容です。Cookieに限らず利用者情報の外部送信に関して制限が課されるとなれば、なかなか大きな措置が事業者側に求められることになりそうです。
今後パブリックコメントを受けてとりまとめられる報告書(案)の内容よっては、利用者情報の利用内容や送信先の明示、利用者への同意を得るため、Webサイト訪問者の同意を管理できる同意プラットフォーム(CMP:Consent Management Platform)の導入や利用者意向に沿ったタグ管理システムの実装を検討する必要がありそうです。
広告のターゲティングのために同意プラットフォームの実装が必要となれば、これから広告を始める企業、これまで広告を行ってきた企業のどちらにとってもターゲティング広告実施の障壁となるでしょう。
これらの内容は2022年1月時点で報告書(案)であり、パブリックコメントの募集を受けて内容が変わる可能性は大いにありますが、現時点ではターゲティング広告に限定されるものではないので、これらの動向は引き続き注視しておきたいですね。
個人情報保護法とは別の法律での規制検討が進む
今回の報告書(案)で検討されている措置は、2022年4月施行の改正個人情報保護法で求められている措置とは異なり、電気通信事業法に基づいて事業者に求められるものになりそうです。
よって、本件は個人情報保護法とは分けて対応を進める必要があること、Webサイトを利用してビジネスを営む事業者の多くが対象になりそうであることがポイントとなります。
日本における法制度とターゲティング広告への影響
日本における法律のうち、運用型広告のターゲティングや計測に関係してくるものを、下記表にまとめてみました。
改正個人情報保護法下において運用型広告に影響を与えるのは、個人情報の取得と利用に関する事項であり、個人情報としてではなく匿名情報として扱う場合はターゲティングや計測に関して影響を及ぼす法律とはなっておりません。
一方、今回検討が始まる電気通信事業法は、利用者に関する情報を外部送信する場合に適用される方針(現時点)のため、広告のターゲティングや計測を行う目的でアクセス履歴や訪問者属性などの情報を外部に送信する場合は、それが個人か匿名かは問われないものと考えられます。
法令 | 影響 |
個人情報保護法(現行法) | •ターゲティング広告の配信のため、匿名情報として扱う場合は対象外•Google 広告のカスタマーマッチ、Facebook広告の詳細マッチングなど、個人情報を利用して広告を行う場合は個人情報保護法の遵守が必要 |
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改正個人情報保護法(2022年4月施行) | •CookieがCRMなど顧客情報と紐付く場合は個人情報保護法の遵守が必要 |
電気通信事業法(今後検討) | •利用者に関する情報の外部送信を行う場合に、通知・公表を行い、もしくは利用者の同意を取得あるいはオプトアウト措置を提供する |
ターゲティング広告自体は悪ではない
法律でターゲティング広告が規制される=ターゲティング広告そのものが消費者にとって悪である、だから規制が必要なのだ。という風潮が少なからず発生するのかなと私は考えますが、広告のターゲティングという仕組み自体に罪はありません。
一方で、訪問履歴や購買情報などが利用者の知らないうちに取得され、広告のターゲティングに利用されるという透明度が低いフローで処理されてしまっているのも事実です。
その結果、ある種の気持ち悪さやウザさを醸成したり、ギリギリ一線を越えるようなクリエイティブに絶えず追従されるというケースを発生させてしまっていることは否めません。
プライバシー保護強化の潮流の中、ターゲティング広告運用の現状と、これまで法令であまりルール化されてこなかった点を鑑みると、今回のような検討が進むことは避けられなかっただろうなと私は考えます。
広告のターゲティングから外れることは幸せを生むか?
話の本筋からそれますが、広告のターゲティングから外れれば、目や耳を覆いたくなるような不快な広告に追われ続けなくて済む世界線になるのか?と時々考えることがあります。
これに関して個人的な考えは NO です。
特定の広告主のターゲティングから外れていけば、自身とマッチングしていない広告(≒ターゲットの幅が広い広告)に遭遇する機会が増えます。
一般的にターゲティングは狭めれば狭めるほど単位あたりの効果は高くなりやすいため、広告主は高いCPCやCPMを設定して配信しています。つまり、そのターゲティングから外れるということは、CPCやCPMを安く設定している広告主の広告が表示される機会が増えることも意味します。
残念ながら、ターゲットから外れれば気持ちの悪さは多少軽減されるかもしれませんが、安いCPCやCPMの広告が不快ではないという保証はどこにもありません。場合によっては、クリエイティブが扇情的だったりコンプレックスを謳うなど、ポリシーや各種法律で定められた表現のラインをギリギリ超えて訴求されているものも出てくるでしょう。
つまり、ターゲティング広告が制限されることで、ターゲティングしないそれらの広告に接触する機会が増える可能性もあり、今回の報告書(案)で指摘されている問題とは別の問題が顕在化する可能性もあります。これだけを抜き出してハッピーになれるとは言えない。
広告を取り巻く課題は山ほどありますが、ターゲティング広告の制限だけではなく、今後はクリエイティブにおける表現に対してどこまでメスが入っていくかというのも追っていく必要があります。
年始の記事でもありましたが、2022年に開始されると言われているPinterest広告ではポリシーとして明確にコンプレックス助長する広告の掲載を禁じているなど、法律だけではなくプラットフォームの責任下でも適正な審査や運用も進んでゆくのだろうなと考えています。
参考:
国内ではpopIn株式会社の「popIn Discovery」にて誇大広告・差別的広告に対する審査プロセスの強化が図られたことは記憶にも新しいです。
参考:ネットワークネットの誇大広告・差別的広告配信停止へ 広告審査プロセス強化 - popIn
もちろんそれだけではなく、現行の薬機法や特商法に抵触する広告の取り締まりも厳しくなってゆく流れなのかなと思っていますし、そうなって欲しいなとも思っています。
今後の検討内容にも注視が必要
繰り返しなりますが、本報告書(案)はパブリックコメントの手続きを経た上で第208回の通常国会にて議論されることになりますが、昨今のプライバシー保護に対する流れを鑑みると、パブリックコメントの内容によって多少の変更はありつつも、何らかの制限措置が科される可能性は高いと考えられます。
今後もこの動きを注視し、今後の動向に動きがあれば引き続きお伝えしていきたいと思います。
パブリックコメントは2022年2月4日(金)まで募集がされるので、意見がある方はぜひ下記の意見公募要領(PDF)を一読の上で送ってみてください。
参考:意見公募要領