顧客インサイトだけでは足りない?3C分析を使った戦略的な広告クリエイティブの設計方法

顧客インサイトだけでは足りない?3C分析を使った戦略的な広告クリエイティブの設計方法
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突然ですが広告クリエイティブで大切なことは、なんだと思いますか?

それは顧客自身も自覚していない購買欲求(顧客インサイト)を見つけることだと言われます。たしかに顧客インサイトはとても大事です。

しかし、いかに鋭く顧客インサイトを伝えても、マーケティングとしては失敗することがあります。例えば、「浸透力」に強みのある美容液のプロモーションにおいて、あまり関連の無い「香り」を訴求したとしましょう。仮に、購入に至ったとしても「香り」に惹かれた顧客にとって「浸透力」に強みのある美容液が最善の選択肢になる可能性は低いですよね。その結果、顧客は再びその美容液を買ってくれるでしょうか?想像してみてください。

おそらく、多くの方が再び購入を検討することはないと考えるでしょう。(リピなしというやつですね)再購入を検討しないだけであればまだ良いです。もし、その顧客が美容液を使用した時の体験が好ましくなければ、そのブランドを嫌いになるばかりか、悪い口コミとして拡散してしまうリスクも十分に考えられます。つまり、どれほど顧客インサイトを深堀った広告クリエイティブを作っても目の前のファンだけでなく、未来の顧客まで失うリスクが考えられます。

このようなマーケティングの失敗はなぜ起こるのでしょうか。

今回は、顧客目線だけで広告クリエイティブの落とし穴にはまってしまう理由と、私も実践する3C分析を使った戦略的な広告クリエイティブの設計方法を説明します。


顧客目線だけで広告クリエイティブを作る落とし穴

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顧客目線だけで広告クリエイティブを作った際に陥りがちなのは、上記の美容液の例のように他社製品の劣化コピーにしかならない領域で戦ってしまうことです。

そのため、顧客インサイトを見つけたとしても、課題解決において自社の製品/サービスが最善の選択肢になる、もしくはそうあり続けるために工夫や努力を続けないと、中長期的な競合優位を維持・強化できません

理由は2つあります。

理由1.顧客を維持できないから

他社製品の劣化コピーでも仮に新規顧客を増やせたとしても、顧客の満足度は上がりにくく、解約や低評価、クレームも増えるでしょう。その結果、継続利用してもらえずビジネスとしては失速してしまうリスクが高いです。

またネット上の悪い口コミは半永久的に消すことができずに蓄積されていきます。その結果、検討中の顧客の目に留まり続け、商売を蝕みます。そういった意味でも風呂敷を広げすぎず顧客満足を確実にすることは重要です。

広告クリエイティブのみの話であれば「とりあえず出稿してみてダメだったら止めればいい」と考えることもできます。特に運用型広告における出稿の手軽さのメリットは、その思考を加速させてしまうこともあるでしょう。

しかし顧客の継続率や悪い口コミはその限りではありません。顧客の継続率を企業が把握するには数週間から数ヶ月程度かかり、広告費のみならず事業全体のリソース配分や士気にも関わってきます。また悪い口コミを取り消せずに事業の売上に影響が出てきたころにはすでに手遅れなのです。

こうした中長期的な時間軸、広告管理画面の指標では見えにくい要素こそ、出稿前によく考えた方がいいと考えます。

理由2.模倣リスクが高いから

広告クリエイティブそのものは、競合に対し公開情報なうえ即日で同じものを作れ、最も模倣されやすいビジネスプロセスです。

もし広告クリエイティブの内容が、他社が真似するだけで自社と同じ成果を出せるなら、短期的にしか効きにくい施策です。むしろ競合がそれ以上の成果を出せてしまうとすれば、敵に塩を送り自らの首を締めているとすら言えます。

以上の理由から、広告クリエイティブを中長期で成果をもたらす戦略的に意味のある施策にするためには、広告クリエイティブだけで完結させず他のビジネスプロセスと関連させる必要があります

例えば工場のスケールメリットでコスト削減できる製品であれば「業界最安値」訴求は、他社にとっては安易に真似することのできない中長期的な競合優位性となるのです。

マーケターに事業目線を欠けさせる罠

画像提供:ピクスタ

これまで例に上げた戦略性のないマーケティングは、顧客インサイトに集中するあまり、自社の製品/サービスの特性を忘れ、整合性の無いプロモーションを展開してしまうことで起こります。つまりマーケターが自社の事業目線を忘れてしまっている可能性が高いです。

このような状況は広告代理店だけではなく、事業会社側でも同様に起こりうる可能性をはらみます。どうしてでしょうか。3つの理由が挙げられます。

理由1.新規顧客獲得の施策がネタ切れになる

マーケターは多くの予算と経営陣の期待を背負っていることが多いです。そのため目標にコミットしながら新規顧客獲得に対し不断に打ち手を提示し続ける必要があります。

そんな中、数字が鈍りネタが尽きてきたタイミングで、本来の戦略上意図されたターゲティング範囲を外れターゲットを「広げる」アプローチに頼ってしまいます。

自社商品やサービスのターゲティング範囲を一歩出ると、広告のROI(投資利益率)は極端に悪くなります。なぜならそこはすでに別の競合が全力で商売しているテリトリーだからです。そうして数字のプレッシャーと、様々な意見が飛び交う混沌の中で迷子になっていきます。

もちろん新たなターゲットを模索するのは大切です。しかし競合の牙城を崩すために「新規事業を始める」ぐらいの工夫や相応のリソースが必要なところ、「バナーを作ったら売れるんじゃないか?」ぐらいの気持ちでリソースを割いても、コストばかりがかさみ、成果は出にくいです。

理由2.マーケターがやりたい企画、好きなデザインを先行させてしまう

マーケターはそれぞれ得意な手法・好みの企画があり、少なからずそれを推進したいと思っています。SEOが得意、SNSは語れる、広告で成功体験がある、インフルエンサーは任せておけ、コミュニティを作りたい…。

ときには、なすべきことよりも、好きなこと得意な手法が先行してしまい、適していない・優先度の低い施策を推進してしまうことがあります。

例えば、広告クリエイティブにおいても、顧客のほとんどが40-50代以上なのに、「20代に拡大するのが重要」など理由を付けて、担当者好みの20代向けのデザインやキャスティングを実施してしまう、などです。

このように「それをやるなら、別の商品でやるべきじゃないか」と突っ込みたくなる場合は要注意です。

理由3.KPIが新規顧客獲得数に偏り、中長期的なROIが盲点になっている

マーケティングにおいて新規顧客獲得は最重要です。しかし、そこに最適化しすぎると、低評価やクレームにつながり、成果を損ねることがあります。

もちろん、顧客自身も自覚していない購買欲求(顧客インサイト)を伝えれば新規顧客獲得を増やすことができます。一方で、それが他社製品の劣化コピーであったり、自社製品/サービスで答えられない範囲まで期待を煽ってしまうと、顧客の満足度を下げることにもつながります。

3C分析で自社のポジショニングを明確化する

成果につながる広告クリエイティブの設計には、3C分析の視点で「顧客」だけでなく、「自社」「競合」の視点も踏まえるといいです。

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「顧客」:特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩はなにか?

さまざまな考え方がありますが、私は顧客を「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」から考えています。

『イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセン教授は、これを「ジョブ」と呼びます。

イノベーションで大切な問いは「どんな〝ジョブ(用事、仕事)〟を片づけたくて、あなたはそのプロダクトを〝雇用〟するのか?」である。ほとんどの顧客のデータは購入に対して相関関係はあれど因果関係はなく、直接的な購買理由「なぜ買うのか?」を明らかにしない。「ジョブが何か?」にこそイノベーションのヒントがある。

参考:ジョブ理論イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

顧客は性別/年齢などデモグラフィック情報からは考えない

顧客を考えるとき、「新卒採用」「受験」など明確に年齢が購入意向に対して因果関係のある場合もありますが、ほとんどの商材では性別/年齢などデモグラフィック情報から考えず、ジョブを起点に考えることが重要です。

例えば結婚式場の広告を出すときに、ターゲットは結婚の多い20-30代の人…ではありません。20-30代の人のうち99%(※)は結婚式場を検討していません。

経済産業省の統計によると平成30年の挙式・披露宴の年間取扱件数127,128件です。

また、ゼクシィが発表する結婚トレンド調査(2022年度版)によると会場の検討開始時期が平均12.3ヶ月前、決定時期が10.5ヶ月前なので約2ヶ月程度検討に充てると考えられます。するとこの瞬間会場を検討しているのが21,188組。人数だと42,376人です。

日本の20-30代の人口は約2,600万人なので、単純計算で0.16%の割合です。21,188組のうち20-30代じゃない方も含まれているので、割合は0.16%以下となります。よって20-30代の99%は結婚式場を検討していないと考えられます。

またターゲットは「結婚に憧れている人」や「結婚式場を決めて打ち合わせしている人」ではありません。ウエディングプランナーに紹介して成約する新規リードは、あくまで婚約中のごく2ヶ月程度の「結婚式場を検討している人」のみになります。

自社の製品/サービスが最善の選択肢になるように状況を絞り込む

ジョブが「結婚式場を検討している」だけだと条件が不足しています。ここからさらに数ある結婚式場の中から自社が最善の選択肢になる状況を見つける、あるいは作り出すことが重要です。

例えば、大勢の親戚を集めるなら利便性が高い、広々とした披露宴会場のあるホテルウエディング。一方で、かしこまりすぎずにゲストに美味しい料理を振る舞いたいならレストランウエディング。自分らしく実現したいウエディングイメージが明確にあるのであればゲストハウスウエディング。というように、各会場、ポジショニングがあり、売れるウエディングプランナーはそれをよく心得ています。

もう一つ「ダイエット」を例に考えます。一口に「ダイエットしたい」と言ってもさまざまな状況が考えられます。

「楽して」「お金をかけず」「健康的にリバウンドせず」「夏までに」「部分痩せ」「我慢せずに」「食事制限と併用」「トレーニングと併用」「病気になってしまって」「健康診断に引っかかって」など

状況に応じて最適な製品/サービスは変わります。

「脂肪吸引」「パーソナルジム」「自重トレーニング」「置き換えダイエット」「サプリメント」「食事管理アプリ」など

自社製品/サービスが最善になる文脈を見つける、あるいは作り出す必要があります。

このように、顧客を適切なジョブから捉えないと、顧客インサイトに辿りつきにくくなります。その結果、実際の顧客に対して広すぎたり、狭めすぎて漏れる顧客が出てきたり、適切な媒体選定・ターゲティングも設定にも影響を及ぼします。そのため、ジョブから顧客を捉えることをおすすめします。

「自社」:自社の強みと関連しているか?

ジョブは、自社の強みに関連している必要があります。関連していないと、顧客が他の選択肢と比べた時に抜きん出て役に立つことはできません

例えば、大手企業には真似できないニッチな業界に特化したサービスであるにもかかわらず、サービス領域を広げてしまうと、そのサービスの魅力は薄まってしまいます。

他社よりもコストダウンできる仕組み(スケールメリット等)があるわけではないのに値下げしてしまうと、ジリ貧になってしまいます。一方で、特許技術を利用した独自製法で素晴らしい顧客体験を実現しているのに、関係の薄いベネフィットだけを強調してもジョブと自社の強みが嚙み合いません。

また、自社の強みを活かすべく、他のチームと一貫した動きを取れるとよいです。なぜならマーケティングは、広告だけで完結することはなく、営業、製品、アフターサポートなどが一貫して対応する必要があるからです。

広告だけが営業とも製品とも一貫性のない動きを取ると、事業全体が機能不全に陥ってしまいます。

「競合」:競合する選択を差し置いてベストな選択肢になるか?

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顧客はジョブに対して、常にさまざまな態度を取ることができ、複数の選択肢があります。そのため、自社製品/サービス以外の全ての選択肢、例えば「何もしない」「自力でなんとかする」「別の製品カテゴリ」まで含め、広い意味で「競合」と捉えることをおすすめします。

競合に関連して突破するべき要素は以下が考えられます。

  • 「そもそも顧客がジョブに気づいていない」
  • 「ジョブに気づいているが何もしない」
  • 「自力で何とかしようとする」
  • 「異なる製品カテゴリを第一想起する」
  • 「自社の製品カテゴリ内の競合製品を第一想起する」

上記全ての要素に関して顧客の理解が得られると、自社製品/サービスが最善の選択肢と理解され、購入が促されます。

もちろん、そのために顧客に対して全ての理解を促す必要はありません。特に、多くの人が正しく知っていることは伝えなくていいです。例えば、日本におけるナイキの広告で「裸足で歩くと感染症の危険があります」とわざわざ伝える必要はないですよね。そのため、多くの人が知らない、誤解している要素に集中して伝えられるといいでしょう。

伝え方については下記方法が考えられます。

「そもそもジョブに気づいていない」

まずは前提となる知識や世界観を伝えましょう。

(例)過払い金請求「過去にこのクレカを使っていたら過払い金が戻ってくるかも。5分で無料診断。今すぐ○○法律事務所に電話。」

「気づいているが何もしない」

今すぐ行動を起こす必要性を伝えましょう。

(例)テレビショッピング「今から30分以内のお電話でもう一個ついてくる」

「自力で何とかしようとする」

自力でやるのが困難なこと、あるいは併用を提案するのも良いと思います。

(例)BtoBサービスだと、自前でGoogleスプレッドシートやちょっとした開発では代替されない高度な機能が備わっていることを伝える必要がある。

「異なる製品カテゴリを第一想起する」

製品カテゴリの認知が無い場合は、まずは製品カテゴリのセールスができると良いと思います。共存可能な競合であれば併用を提案しても良いです。

(例)家事に手が回らない子育て世帯に「時短料理」「作り置き」「ミールキット」ではなく「仕事している間に料理をしてくれて熱々を食べられるホットクック」を伝える

「自社の製品カテゴリ内の競合製品を第一想起する」

製品カテゴリ内での自社のポジショニングを伝えられると良いでしょう。

(例)「当式場はレストランウエディングなので、料理に自信があります。他の専門式場とは違い、毎年の記念日に末永く利用いただくことを前提に、同額のお食事予算でも他の会場よりも料理の原価率が高く、良い食材を提供しています。ゲストに美味しい料理を振る舞いたいならまず間違い無いです。」

広告クリエイティブにどこまで盛り込むか?

画像提供:ピクスタ

そもそも販促のストーリー・広告クリエイティブは、シンプルに1つから多くとも2つのフレーズでなければ顧客に伝わりにくいです。しかし、考えていくと顧客に伝えたいことは数多く出てきます。広告クリエイティブの限られた情報量では、顧客に製品/サービスのことを十分に伝えられないことは往々にして発生します。また優先度付けに迷うこともあります。

そのようなとき、どのように情報を伝えればいいのでしょうか?

まとまった情報の伝わる広告フォーマットに頼る

動画やカルーセル広告などまとまった情報を一度に伝えることのできる広告フォーマットの広告媒体に取り組むことは有効な施策の1つです。

Forrester ResearchのMcQuivey博士の2008年の研究によると、1枚の写真は1,000語、1分間の動画は180万語に相当する価値があるそうです。

参考:A Video Is Worth 1.8 Million Words

広告クリエイティブ以外のプロセスで伝える

広告クリエイティブ以降のランディングページや、営業、同梱物など様々な顧客接点があり、そこでしか伝えられない形があります。また広報/PR、SNS発信、セミナー、書籍などを通じての発信も検討できます。

特にこれまでにない新規性の高い製品、あまり知られない社会課題に取り組むサービスは、広告だと伝えるべき情報が多すぎて未認知層から費用対効果を合わせて販促するのが困難です。そのため、まずはコストを掛けずに認知を取る広報活動が必要なケースも少なくありません。

このように、広告クリエイティブだけで全てを伝えきる必要は必ずしもありません。しかし、全体設計は必要であり、全体のコミュニケーションで何を伝えるべきか、そこに広告クリエイティブをどのように位置づけるかを整理できるとより良いです。

伝える内容の優先度をつける

どのような順番で伝えるかの優先度付けに迷ったら、内容ごとに「当てはまる人数」×「顧客にとっての重要度」×「自社が介在する必然性」の3つの観点の掛け算で優先度を付けることをおすすめします。多くの人が、切実に困っていて、しかもそれを自社しか解決できないなら、それは優先度の高いトピックになるでしょう。

まとめ

3C分析で強調されるコンセプトは差別化です。差別化とは、他社と違うことをやり、それが顧客の役に立つということ。各社が違うことをやろうとすれば、様々なサービスが生まれます。その結果、付加価値の総量が増し、社会の選択肢が増えることで豊かな社会になるはずです。

逆に差別化なき効率化の行く先は価格競争でしかありません。付加価値の総量は目減りし、関わる人も疲弊していく悪循環にもなりかねません。ぜひ広告クリエイティブを作るときは3C分析的な視点を持つことをおすすめします。

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