機械学習やAIの活用、BIツールなど便利な機能やツールが数多く導入される広告運用ですが、さまざまな媒体の膨大な量のデータを扱うという特性上、レポーティングや入稿作業、競合調査など、まだまだ多くの人の手による定型的な業務が発生しています。
これらの作業を人力だけで行うことは、時間と労力の面で非効率であるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも伴います。
こうした課題を解決し、広告運用業務を効率化するために注目を集めているのが、RPA(Robotic Process Automation)です。
目次
RPAとは?
RPAとは、指定したルールをもとに定型作業をソフトウェアロボットが代行・自動化する技術を指します。RPAは、人間が行う定型的な作業を忠実に再現し、24時間365日休みなく高速かつ正確に作業を遂行できます。
RPAの主な特徴として、以下の点が挙げられます。
- 既存のシステムやアプリケーションの操作を模倣できる
- プログラミングスキルが不要で、シンプルな設定で導入できる
- 大量のデータ処理を高速かつ正確に行える
- 人間の作業時間を大幅に削減できる
- 導入コストが人件費と比べて安価である
こうしたRPAの特性は、広告運用業務の自動化と効率化に適しています。RPAを活用することで、広告運用担当者は単純作業から解放され、より戦略的で創造的な業務に注力できるようになります。
広告運用業務におけるRPAの適用範囲
広告運用の現場では、以下のような業務領域でRPAの活用が期待されています。
レポート作成
広告媒体の管理画面からパフォーマンスデータをダウンロードし、レポーティング用の資料に加工する一連の作業を自動化できます。具体的には、CSVデータのダウンロード、Excelやスプレッドシートへのデータ貼り付け、グラフの作成、月次や週次での集計作業などが対象となります。
競合調査
競合他社の広告出稿状況や広告クリエイティブをチェックする作業を自動化できます。RPAを用いてWebサイトやソーシャルメディア上の情報を収集・分析することで、競合動向の把握を効率化できます。
入稿作業
広告プラットフォームへの広告の入稿や、入札するキーワードのリスト作成などの作業を自動化できます。広告原稿の自動生成や、URLの自動生成なども可能です。
データ連携
複数の広告媒体や分析ツールの間でデータを連携する作業を自動化できます。APIやWebサービスを活用し、異なるシステム間でのデータの受け渡しを円滑に行えます。
このように、RPAは広告運用のさまざまな場面で活用できます。定型的な作業を自動化することで、広告運用担当者は、より戦略的な判断やクリエイティブな施策立案に注力できるようになります。
RPAを活用したプロセス自動化のメリット
さらに、広告運用業務にRPAを導入することで、以下のようなメリットも期待できます。
人的ミスの削減
RPAは設定されたルールに従って正確に作業を遂行するため、手作業によるミスを大幅に減らすことができます。入力ミスや集計ミスなどのヒューマンエラーを防ぐことで、業務の品質向上につながります。
大幅な作業時間の短縮
RPAは人間よりも圧倒的に高速で作業を処理できます。弊社の事例では、レポート作成業務においてアシスタント1人あたり毎朝30分、6名全体で180分相当の作業時間を削減できました。作業時間の短縮は、生産性の向上と併せて、従業員の働き方改革にも寄与します。
コストの削減
作業時間の短縮は、直接的に人件費の削減につながります。加えて、RPAツールの導入コストは、人件費と比べて一般的に安価であるため、中長期的なコスト削減効果が見込めます。
リソースの最適化
定型作業から解放された人的リソースを、より付加価値の高い業務に振り向けることができます。弊社の事例では、RPAの活用により捻出した時間を、クライアントへの価値提供の向上に充てられるようになりました。戦略立案やクリエイティブ制作など、人間にしかできない高度な業務にリソースをシフトすることで、競争力の強化にもつながることが期待できます。
スケーラビリティの向上
RPAは、業務量の増大に対して柔軟に対応できます。ソフトウェアロボットを追加することで、スケールメリットを活かせます。一方、人的リソースは育成に時間を要するため、即座に業務量の増大への対応が難しい場合があります。
業務の標準化
RPAの導入を機に、業務プロセスを見直し、標準化・文書化する必要があります。これにより、属人化していた業務ノウハウを組織知として共有できるようになります。業務の可視化は、さらなる改善や効率化のきっかけにもなるため、隠れたメリットといえるのではないでしょうか。
RPA導入における課題と対策
RPAは多くのメリットをもたらす一方で、導入における課題にも留意が必要です。
システム連携
RPAを既存のシステムやツールと連携させる際には、APIやWebサービスなどを活用し、データの受け渡しを自動化する必要があります。連携先のシステムの仕様変更には柔軟に対応できる設計が求められます。また、利用したいツールとの連携に適したツールを選定するのも大切です。
セキュリティ対策
RPAが扱うデータには、機密情報や個人情報が含まれる可能性があります。そのため、RPAツールへのアクセス制御、データの暗号化、ログ管理など、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。
ガバナンスの確立
RPAを業務プロセスに組み込む際には、ロボットの管理・監視、変更管理、障害対応などのガバナンスを確立する必要があります。ロボットの設定ミスや暴走を防ぐためのモニタリング体制や、問題発生時の対応手順の整備が重要です。
運用体制の構築
RPAの導入効果を最大限に引き出すには、単にツールを導入するだけでなく、運用・保守を適切に行う体制を構築する必要があります。定期的なロボットのメンテナンスや、業務プロセスの変更に合わせたロボットの設定変更など、継続的な改善活動が求められます。
従業員への教育
RPAの導入により、業務プロセスや働き方が変化します。従業員にRPAの目的や効果を正しく理解してもらい、前向きに受け入れてもらうことが重要です。RPA導入のビジョンを明確に示し、従業員の不安を払拭するためのコミュニケーションや教育が必要です。
スモールスタートと段階的拡大
RPAは、すべての業務プロセスに一度に導入する必要はありません。まずは効果の見込める一部の業務から始め、徐々に適用範囲を拡大していくことが賢明です。スモールスタートにより、導入リスクを最小限に抑えつつ、ノウハウを蓄積していくことができます。
まとめ
広告運用業務へのRPAの活用は、業務効率の飛躍的な向上と品質の向上をもたらします。レポート作成や入稿作業、競合調査などの定型作業を自動化することで、人的ミスを防止し、大幅な作業時間の短縮を実現できます。さらに、従来手作業に費やしていた時間を、より付加価値の高い業務に振り向けることで、広告運用の高度化と競争力の強化につなげられます。
今後、デジタル広告市場のさらなる拡大と、広告運用の高度化・複雑化が予想される中、RPA活用の重要性はますます高まっていくでしょう。
ただし、RPAの導入には、システム連携やセキュリティ対策、ガバナンスの確立など、克服すべき課題も存在します。これらの課題に適切に対処しつつ、従業員の理解と協力を得ながら、段階的にRPAの適用範囲を拡大していくことが肝要です。
RPAを単なる業務の自動化ツールとしてではなく、ビジネス変革の推進力として位置づけ、全社的な取り組みとして推進していく必要もあるのではないでしょうか。