ビジネス上で課題解決を行うにあたり、「質問」はあらゆるシーンで登場する重要な手段です。
- 上司に分からないことを確認したい
- クライアントの悩みを聞き出すためにヒアリングをしたい
- セミナーで有益な情報を引き出したい
- 部下や後輩に気付きを与えたい
筆者もアナグラムに入社し運用型広告に携わる中で、数多くの質問をしてきました。しかし、いざ振り返ってみれば闇雲に無駄な質問をしていたことも多く、「質問にもスキルが必要なんだ...!」と入社当初に知っていれば遥かに早く即戦力化できていたのではないかと考えています。
本記事ではこれらのスキルを「質問力」とし、筆者が運用型広告に携わる中で気が付いた質問力の高め方を紹介していきます。ぜひ、素早い成長を実現する上で欠かせない能力の一つとして、日頃から問題解決を行う全ての方に読んでいただきたいです。
目次
質問力を高めるメリット
質問力を高めるメリットに、下記が挙げられます。
- 少ないやり取りで質の高い情報を引き出すことができる
- 相手に情報を齟齬なく伝えられる習慣が身につく
- 信頼を得やすく、日常的なコミュニケーションにおいて協力を得やすくなる
数多くのメリットに繋がる質問力ですが、最も重要なのは「場数を踏める」ことだと考えています。
筆者は高校・大学時代でストリートダンスを約10年間続けていましたが、「量が質を凌駕する」ということを常々感じてきました。いくら質の高いアウトプットをしようと練習を続けても、結局は自分より舞台を踏んだ数が多い人には勝てないと気付いたからです。成長を促すのは本番でしか経験できない臨場感であり、臨場感を自らの血肉としていく方法は場数を踏み続ける以外に他なりません。
運用型広告の代理店でビジネスの課題解決を行うようになってからは、よりその傾向を顕著に感じています。1回の最高なアカウント分析や、1回の最高な施策を考え抜くことにもそれはそれで価値があるかもしれません。 しかし、スムーズな問題解決が習慣化できると、多くのPDCAを回せることで踏める場数を圧倒的に増やすことができます。
また、他者の信頼を得ることでさらに場数を踏むチャンスが増えるなど、自らを「成長機会に恵まれる良循環」に持ち込むことができます。これは担当できるプロジェクト数という話に限らず、中長期的には出会える人や抜擢のチャンスにも影響を与えます。
重要なのは数をこなすこと、回転数を上げて臨場感を自らの糧とし、素早く成長していくことです。皆さんの会社の中でも圧倒的なスピードで伸びている方を見てみると、すべからく「量」をこなしている方が多いのではないでしょうか。
質問力とは?スムーズな問題解決に繋がる4つのチェックリスト
では、実際に質問力とは何を指すのでしょうか。
筆者は、「スムーズに問題を解決に導けるスキル」だと考えています。
「場数を踏む」とは言っても、闇雲に質問を続けるだけでは無駄も多く、チャンスも生まれにくいですよね。むしろ、解決までに必要以上に時間がかかることで時間のロス、ひいては信頼のロスにより成長機会を自ら奪っていくことに繋がりかねません。
スムーズな問題解決に導くための「質問力の高め方」は、”疑問”が生まれてから”質問”に至るまでのプロセスを見てみるとわかりやすいと考えました。以下の4段階に分けて、整理してみます。
【疑問を持つ】
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①質問をするべきかが判断できる
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②何を聞きたいかが判断できる
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③誰に聞くべきかが判断できる
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④どう聞くべきかが判断できる
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【質問をする】
それぞれ、具体的な質問例と一緒に詳しく見ていきましょう。
①質問をするべきかが判断できる
”質問力の高め方”と聞くと、まず最初に「5W1H」や「相手の関心領域を攻める」などのテクニックをイメージされる方も多いかもしれません。
もちろんこれらも大切なポイントではありますが、何よりも重要なのは「そもそも質問をすべきか否か」の判断軸が自分の中にあることではないでしょうか。
「CPCってどういう意味ですか?」
「キーワードの入稿数は広告ランクに影響を与えますか?」
運用型広告を始めたばかりの方であれば、上記のように専門用語の意味や広告オークションの仕様など、右も左も分からない中でとりあえず上長に質問をする方も多いかもしれません。
しかし、「誰に聞いても同じ答えが出ること」をわざわざ人に聞くのはスマートではありません。聞いてしまった方が早いと言われればその通りですが、誰もが事実として確認できる情報は自身で調べることで「答えの在り処」について見当をつける能力が磨かれ、次回以降のスムーズな問題解決に繋がります。
もちろん、自身で調べ続けた結果わからない状態が続くなら、躊躇せず質問をしましょう。
- これは調べれば分かりそうなことだから、最初の10分はなんとか自分で考えてみよう
- それでも分からなければ上司に質問してみよう
重要なのは、上記のように「質問が適切な手段か」と「どの程度調べてみて、どこまで分からなければ質問すべきか」という明確な判断軸を自分の中に設けることです。
②何を聞きたいかが判断できる
自分が何を知りたいかをわかっていない状態では、そもそも質問をする入口にさえ立つことができません。「何を聞きたいか」を明らかにするにはまず、「何が分かっていないのか」を明らかにする必要があります。
理解度を客観視する上では、Five Orders of Ignorance(無知の5段階)を参考にするとよいでしょう。これは、2000年代に活躍したソフトウェア開発者の一人であるPhillip G. Armour氏が自社のマガジンにて提唱したコンセプトになります。以下、導入部分より一部抜粋します。
So if our job is to acquire knowledge, what can we assert about the knowledge we must gain? For everything we know, we also have a certain amount of ignorance. Ignorance being simply the other side of the knowledge coin. If we view systems development as the acquisition of knowledge, we can also view it as the reduction or elimination of ignorance.
では、我々の仕事が知識を得ることであるならば、それら得るべき知識について考えられることは何だろうか?まずひとつに、私たちは一定量の「無知」を持ち合わせていることを認識しなければならない。無知とは知識というコインの裏側だ。システム開発が知識の獲得であるならば、同時にこれは無知の削減や排除ともいえるだろう。
Five Orders of Ignorance
質問も同じく、知識を得るという行為であると同時に、無知を削減する行為と言うことができるのではないでしょうか。自身の無知度を知ることは、求めている知識に輪郭を与えることに繋がります。
Armour氏は無知レベルを下記5段階に分けて紹介しています。
OI | Orders of Ignorance(無知レベル) |
---|---|
0OI | 全て分かっている。 =質問が必要のない状態 |
1OI | 何が分からないのかを理解している。 =答えを得るための「質問」ができる状態 |
2OI | 分からないことが分からない。 =答えを得るための「質問」ができない状態 |
3OI | 分からないことが分からない状態を解決する方法が分からない。 =「分からないことが分からない」という2OIの状態から抜け出すための手段を持ち合わせていない状態 |
4OI | 無知にレベルがあることを知らない状態 |
※翻訳と解説は筆者による
特に2-3OIの状態では、無暗やたらに質問をしても相手に伝わることはまずありません。そんな時は事実を一つずつ確認していくか、なぜ疑問を抱くに至ったかなどの原点に立ち帰ってみる方が適切です。
「知りたい事(知識)」を正しく把握するには、「分からないこと(無知)」を整理するのが一番の近道です。
③誰に聞くべきかが判断できる
次に、質問に適した相手を選ぶことが重要です。至極当然なことに聞こえるかもしれませんが、「聞きやすさ」を重視するあまり「適切さ」に欠く回答者を選んでしまうことも多いのではないでしょうか。
筆者の経験だと、社内での距離感が近ければ近いほどその人に質問をしてしまうことが増える傾向にあります。適切な回答者を選ぶ上では、回答者が一次情報を持ち合わせているか否かを元に判断するのがおすすめです。
一次情報とは、直接的な体験から得られた考察や調査結果などのオリジナルな情報(=知恵)のことを指します。
たとえば、Facebook広告のベストプラクティスは媒体社に問い合わせることもできますが(知識)、実際にやってみてどうだったか、どんな困難があったのかなどの「オリジナルな情報(=知恵)」は運用をした本人に質問しないと分からないことも多くありますよね。
二次情報は一見すれば効率よく情報を得られますが、一次情報の断片でしか無く、殆どの場合に一般知識の範囲を超えません。
とある施策の成功例について知りたいなら、社内で実際に成果を上げている人にアポイントを取ってみる。商材理解についてであれば自分で実際に使ってみるのが大事ですし、業界のプロフェッショナルであるクライアントに直接伺ってみるのも一つの手段です。
問題解決に近づくための知恵を借りようと思うのであれば、回答者が一次情報を持ち合わせているか否かを踏まえてみてください。
④どう聞くべきかが判断できる
質問力とは「スムーズに問題を解決に導けるスキル」と定義しました。誰に何を聞くかが明確になった上での最後のステップは、回答者が答えやすい質問を用意してあげることです。
答えやすい質問が何かを知る上では、まず「質問」という行為が何を指すのかを考えてみましょう。筆者は、質問とは現状と理想の間に存在するギャップを埋めるための手段だと考えます。
運用型広告というジャンルに限定せず、誰にでも分かりやすい例で見ていくために、「リンゴはなぜ木から落ちるのだろう?」という疑問から見ていきましょう。
「リンゴはなぜ木から落ちるのだろう?」という疑問は、「リンゴが木から地面に落ちる」という事実や前提知識(知っていること)と、「リンゴが落ちる原理を理解したい」という欲求(知りたいこと)で成り立っているといえます。しかし、現状と理想には大きなギャップがあり、これを埋めない限りは答えを得ることはできません。したがって、ギャップを埋める手段として「リンゴと地面の間には何かしらの力学が働いているのではないか?」という仮説を抱くことで、初めて他者に質問という行為をすることができます。
このように、現状と理想を明示した上で仮説を立て、その仮説を回答者に確認することが理想的な質問の届け方です。これを行うだけで、回答者からすれば次のようなメリットがあります。
- 質問者が現状どこまで理解しているのかが分かる
- その上でどの程度の情報を欲しているのかが分かる
- 仮説を持っているのでフィードバックをしやすい
なお、現状や理想が明確でないままに質問をしてしまうと、回答者は隠れた前提に悩まされ質問者もほしい回答が得られずお互いに余計なストレスが発生してしまいます。
「どう聞くべきか」の判断がついていれば、相手に余計なストレスを与えることなく、質問者・回答者共に満足度の高い結果を生むことができます。また、次回以降も好意的に協力してもらいやすくなり、時間をいただきやすいことも大きなメリットのひとつですね。
まとめ
既にお気づきの方もいるかもしれませんが、質問力とは「質問をするまでの総合的な判断力」と言い換えることができます。疑問を抱いてから、質問をするべきかを判断し、誰に何をどのように聞くべきかを判断する。この意思決定が早ければ早いほど質問力が高く、スムーズに問題を解決に導くことができます。
スムーズな問題解決は量に繋がり、量は実績や信頼に繋がります。ぜひ、日ごろから問題解決を行うにあたり質問力を意識し、成長機会に恵まれる良循環を目指してみてください。