ソニー創業者の1人、井深大氏や東芝の社長と会長を歴任した土光敏夫氏は、ビジネスにおいて「仕事の報酬は報酬や地位でもなく、仕事」と言います。ビジネスシーンでも「仕事の報酬は仕事」という言葉を1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
仕事で成果を出し続ける人には、社内外から「仕事」が集まる傾向があります。かくいう私の上司も「仕事の報酬は仕事」を体現したような人で、クライアントから常に新しい仕事の相談を受けています。
社内外問わず、普段一緒に仕事をしている相手からの仕事の紹介は何事にも代えがたい「信頼」のカタチだと筆者は考えています。そこで、今回は筆者が上司から学んだ、社内外問わず信頼関係を築くためのポイントを紹介したいと思います。
対面ではなく、横に座れ
アナグラムの運用型広告コンサルタントは、お客様の最も身近な相談役としてビジネスを伸ばしていくことが求められます。そのため、ときには運用型広告だけにとどまらず、その他マーケティング領域、経営領域にまで業務が及びます。これはアナグラムの特長の1つでもある「ビジネスにつなげる伴走者」という考え方が根底にあり、筆者も運用型広告コンサルタントとして新しいサービスの広告運用のご相談から、広告代理店移管のコンペ依頼まで日々、様々な相談を頂きます。
そして、これらすべての相談には「達成したいKPIを相談者が持っている」という共通点が前提になっています。だからこそ上司は「クライアントから対面で相談されるのではなく、横に座れ」と言います。
「相談を受ける時は対面ではなく、横に座れ」というのは具体的にどのような意味なのでしょうか。
これは、物理的に座席に座る位置を対面ではなく、横に座れば良いというわけではありません。「横に座る」というのは達成したいKPI(ゴール)を一緒に解決してくれるポジションを示すことと理解しています。
つまり、相談相手から与えられた前提条件をまとめて、解決策と合わせて上司にプレゼンするぐらいのポジションを取ることで、同じチームとして共に目標に向かって取り組む姿勢を相手に示すことにつながるのではないでしょうか。そして、この話の本質は、広告代理店とクライアントの立場だけではなく社内プロジェクトでも同様だと考えます。
与件は貰うのではなく、一緒に作れ
与件とは、相談相手から与えられた前提条件です。前章では、相談相手から与えられた前提条件をまとめて、解決策と合わせて考えるということを学びました。ここからは、実際にどのように相談相手から与えられた与件を一緒に作っていくのかについて例を交えて紹介します。
某クライアントさんから「新しいサービスの会員数を広告予算100万円で最大化するための広告出稿プランを出してもらえませんか?」と相談を頂いたとしましょう。一見、具体的な与件に思えますよね。
一方で、上司がクライアントから相談される場面をよく目にするのですが「新しいサービスが出るんだけどWEB広告での集客はどうしたらいいですかね?」くらいの粒度で相談がきます。
両者の違いはなんでしょう。
それは、「与件を一緒に作れるポジションにいるか」です。
例えば、「SNSでフォロワー獲得を目的に広告をしたい」という与件があったとします。しかし与件の詳細を聞くと、SNSでフォロワー獲得をすることが目的ではなく、購入に繋がる認知を獲得したいことが目的と判明しました。その時、上司は共有された与件よりもより良い解決策として、「フォロワー獲得に広告予算を投資するよりも、Instagram広告やX広告などSNS広告経由でサイト流入を目的に広告配信することで目的を叶える可能性が高まる」と提案をしていました。
これは、共有された与件を信じていないというわけではなく、お客さんの本来のお困りごとを言語化することで一緒に与件を作っています。このように与件を1つ1つ作り続けることで、最初の具体的な与件のような「広告のKPIを達成してくれる立場」から「お困りごとを一緒に解決してくれる伴走者」としてのポジションを得ていました。
1年後の顧客の姿をイメージしろ
いきなりですが、質問です。
「あなたは1年後のクライアントの姿をイメージができていますか?」
もし質問に明確に答えることが出来なければ、短期的な仮説検証や広告管理画面の入札調整など「戦術」という目標を達成するためのアクションに視野が狭まり、「戦略」を描くことが出来ていないかもしれません。
クライアントとのコミュニケーションにおいても「戦略」と「戦術」のバランスは非常に重要です。広告運用は戦略に基づく戦術の1つです。そのため、クライアントとの信頼関係を築く上で、KPIを達成してくれる「戦術」だけではなく、お困りごとを解決するために「戦術」を描いてくれる伴走者を目指すことが大切です。
そして、描いたロードマップも作って満足するのではなく適宜、相手に進捗や結果を共有することで同じチームとして共に目標に向かって取り組む、意思疎通を忘れずに行いましょう。
もちろん、このブログを読んでくれている全ての方が携わる案件やプロジェクトで「戦略」を描けるわけではないかも知れません。しかし、任せているのが「戦術」部分だったとしても「戦略」を描けないわけではありません。
なぜなら、「戦略」が間違っていた場合に気づくことができるのは「戦術」を担っている人だからです。つまり、日々の仕事で「戦略」という未来図を意識しているかどうかで仕事のやり方も大きく変わります。
顧客の「楽」な存在になれ
上司の前職では、社長直下で様々な仕事を任されていたのですが、その社長は合計7回も変わったそうです。社長が変われば、仕事の内容も毎度変わる状況でも、「会社を良くする」という目標は共通で変わらなかったという。つまり、すべての社長の見ている景色や、その景色にたどり着く手段が異なっていただけということを学んだと上司は語ります。
一見すると理不尽な相談だったとしても、その背景には独自の文化やルールなど様々な事情があります。その背景のすべてを相談相手が伝えてくれるとは限りませんよね。だからこそ、相手の立場と背景を理解してくれる人との仕事は「楽」なんです。
ビジネスにおける「楽」は仕事を押し進める上で大きなアドバンテージになり得ます。
たとえば、同じメールでも連絡をもらってすぐに返信をする相手と、返信を寝かせてしまう相手はいませんか?
これは決して好き嫌いの話ではなく、「〇〇しておいて」と1を伝えて10を理解してくれる人と、全ての仕事内容を1から10までを説明しないと行けない人では返信のスピードに雲泥の差が生まれます。
このように、すぐに返信をしてくれる人とそうではない人を例にとっても無意識的な「なんとなく」の「楽」さを相手に感じてもらうかで、仕事や信頼構築のスピードは大きく変わるのです。
では、いかに相手の「楽」な存在になれるか。まずは、人の数だけ仕事があることを理解しましょう。その上で、相手がどのように接点を持つと喜ぶかなど徹底した相手の立場に立つことを意識していくことで少しずつ相手からの心象も変わってくることでしょう。
人としての興味やリスペクトを
これまでの章では、心構えの内容が多かったですが最後に、上司が信頼関係を築く上で実際に行っている「徹底した相手の理解」についてお伝えします。
相手の理解ができることで、上司は常に先回りのコミュニケーションで相手の課題を解決していました。
先回りのコミュニケーションとは、「相手が求めていることを事前に察して、解決策と共に伝える」と言い換えることもできます。
たとえば、プロジェクトを進めるにあたって、事前に関係者に説明を行うことで当日の進行を滞りなくすすめる根回しや、当事者の周りの人からのヒアリングなど相手を理解する方法は1つではありません。時には、相手と仲良くなるための飲みニケーションも方法の1つになり得ます。とある上司は、担当者の職場での席順と周囲に誰が座っているかまで把握していました。
もちろん、世の中にはそのようなことをせずとも天才的なアイディアを生み出すことができる人がいます。しかし、そのようなすごい人と同じことをしていては勝てないと上司は教えてくれました。ランチェスター戦略『弱者の戦略』のように、自分なりに相手の理解を深める方法を模索してみてください。
なにより、仕事としての付き合いだけではなく、人としての興味やリスペクトが根底にあると上司は言います。どちらにしろ、相手のことを知れば知るほど、より相手の背景や社内事情の理解が深まり、相手の求めることや課題の解像度も上がります。それを知っていると知らないとでは出てくるアウトプットのカタチも全く違うものになるのではないでしょうか。
まとめ
上司と一緒に仕事する中で、自分の中で勝手にできる事を制限していると感じました。
「クライアント理解」とはよくいいますが、上司の仕事ぶりをみていると真の意味でクライアントを理解できていたかと言われると、まだできることはあったと過去を振り返えると感じます。
これらのことは一朝一夕でできるものではありません。だからこそ、「上流の仕事がしたい」「今の仕事をワンランクアップさせたい」と悩んでいる方は日々の仕事の意識を変えるきっかけになったら嬉しいです。