運用型広告の成果を出すためには、多様なクリエイティブを迅速に試し、改善し続けることが欠かせません。
しかし、配信面に合わせた複数サイズのバナー展開、媒体ごとの入稿規定やブランドガイドライン…。これらすべてを考慮しながら、毎回ゼロから作るのは工数がかかります。
かといって外部のデザイナーに依頼するのも、的確な指示を出すための準備やコストも発生します。
私自身もデザイナーとして、「分析や改善案の考案にも時間を使いたいのに、日々の制作業務だけで手一杯になりがち」という悩みを抱えていました。
その悩みを解決してくれたのが、今回ご紹介する「デザインテンプレート」の活用です。
以下のように、デザインの骨格をあらかじめ決めておくことで、誰でも、スピーディーに、質の高いデザインを作ることができます。

デザインテンプレートを活用することで、制作スピードが向上し、より多くのABテストを実施できるようになりました。
本記事では、デザインテンプレートのメリットや実践的な活用方法、導入から運用までの具体的な手順について解説します。
目次
デザインテンプレートを活用する2つのメリット
まずは、デザインテンプレートを活用することで得られる主なメリットを2つ紹介します。
制作スピードが上がる
テンプレートを活用することで、制作時間を大幅に短縮できます。
基本レイアウトがすでに整っているため、画像とテキストを差し替えるだけで新しいクリエイティブを作成可能です。
以前は丸一日かかっていた制作も、テンプレートを使えば最短10分で完了。思いついたアイデアを、その日のうちに形にできるようになりました。
一定のクオリティを担保できる
テンプレートによってロゴの位置、余白の取り方、フォントサイズなどが統一されることで、誰が制作しても一定のクオリティを担保できます。
社内外のデザイナーはもちろん、デザインツールに不慣れな運用担当者でも簡単に編集できます。そのため、作業分担がしやすくなり、チーム全体の制作スピードも向上しました。
実際に私が担当している案件では、
- 軽微な修正や定型的な更新作業は運用担当者が対応
- ゼロからデザインを起こす必要があるものはデザイナーが対応
といった形で役割分担し、クオリティを担保しつつ制作効率を高めることができました。
テンプレート活用が効果的な3つのシーン
実際に私がテンプレートを活用して、便利に感じている3つのシーンを紹介します。
訴求のA/Bテストをしたい時
テンプレート導入前は、訴求軸を変えるたびに一からデザインを作り直す必要があり、制作に時間がかかっていました。
しかし、以下のようなテンプレートを活用することで、同じレイアウトを使いながら訴求の切り口を変えたテストが簡単に行えるように。
従来は月に数回が限界だったA/Bテストを、週単位で実施できるようになりました。

定期的な情報を差し替えたい時
以前は、毎月行われる店舗のキャンペーンバナーを、その都度デザイナーが作成していました。先月分のファイルを探し出す手間や、「情報を更新するだけ」という単純作業に時間を取られ、月末にタスクが集中しがちでした。
デザインテンプレートを使うことで、キャンペーンやセールなど、定期的な制作を効率化できます。
例えば、以下のようにテキストや日付、割引率といった情報を差し替え、背景や色味を調整するだけで、新しいバナーをすぐに用意できます。

このように、テンプレートを活用したことで、更新作業にかかる時間が大幅に短縮されただけでなく、他のチームメンバーでも対応できるようになり、全体の制作効率が向上しました。
ブランドイメージを統一したい時
複数のサービスや店舗を展開していると、担当者や制作のタイミングが異なることで、制作物のデザインにバラつきが生まれやすくなります。
共通のテンプレートを使えば、カラーリングやフォント、ロゴといった重要な要素を統一しやすくなります。
例えば、以下のように同じレイアウトをベースに店舗名や写真だけを変えることで、ブランドの統一感を保ちながら複数店舗の情報を展開できます。

テンプレートを導入したことで、細かなデザインルールを都度確認する必要がなくなり、訴求内容やデザインの設計により集中できるようになりました。
デザインテンプレートの導入から運用までの4ステップ
ここからは、テンプレートを実際に導入し、日々の運用に定着させるための4つのステップを解説していきます。
STEP1:デザインツールの選定
テンプレート運用をうまく進めるためには、まずツール選びが重要です。
ツールによって機能や使い勝手に大きな違いがあるため、チーム体制や目的に合わせて選定しましょう。
以下の5つの視点から検討することで、導入後のミスマッチを防げます。
1. 商用利用の可否
広告クリエイティブは商用利用となるため、必ず商用利用の可否を確認しましょう。
特に無料ツールやフリープランでは商用利用に制限があることも多く、この点を見落とすと大きなリスクにつながります。
そのため、以下のような項目を確認しておくと安心です。
- 利用規約の詳細確認:公式サイトの利用規約ページで商用利用条件を必ず確認
- プラン別の利用条件:無料プランと有料プランで商用利用条件が異なる場合がある
2. チーム編集の機能
複数人で進める場合、ファイルのやり取りや修正指示が煩雑になりがちです。同時編集やコメント機能があるツールを選ぶと、確認・修正のやり取りを減らせます。
以下のような共同編集機能が揃っているかを確認しましょう。
- 同時編集の可否:複数メンバーが同じファイルを同時に編集できるか
- コメント・フィードバック機能:修正指示やレビューを効率的に行える仕組みがあるか
- 権限設定の柔軟性:閲覧・編集・管理など、役割に応じた権限付与が可能か
3. 初期コスト
最初から有料プランを契約して失敗するのは避けたいもの。まずは無料プランでチームに合うかを試し、本格導入を判断するのが失敗しないコツです。
以下の項目を意識して選びましょう。
- プラン体系の確認:無料プラン、個人プラン、ビジネスプランなど、段階的な選択肢があるか
- 基本機能の範囲:無料プランでどこまでの機能が使えるか(出力制限、テンプレート数など)
4. 動作環境
ツールの動作が重いと、テンプレート活用のメリットである「スピード」が損なわれてしまいます。
チームのインターネット環境やPCのスペックに合っているかを事前に確認しましょう。
- クラウド型かデスクトップ型か:インターネット環境に依存するか、オフライン作業も可能か
- 動作の軽さ:一般的なビジネスPCでも快適に動作するか、特別なスペックが必要か
5. 操作の直感性
操作が複雑なツールを選んでしまうと、「結局デザイナーしか使えない…」という事態になってしまいます。
ノンデザイナーでも気軽に使えるよう、以下の点を確認しましょう。
- UI/UXの分かりやすさ:直感的な操作体系で初心者でも迷わないか
- テンプレート豊富さ:すぐに使える多様なテンプレートが用意されているか
単に「価格が安い」「有名だから」ではなく、自社のチーム体制や制作フローに合ったツールを選ぶことが、テンプレートを長期的に運用するために重要です。
主要ツールの比較表
以下の表は、代表的なデザインテンプレートツールを5つの選定ポイントに沿って比較したものです。
| ツール名 | 商用利用 | チーム編集 | 初期コスト | 動作環境 | 操作の直感性 |
|---|---|---|---|---|---|
| Canva | 無料プランでも可能だが、一部素材に利用制限あり。 有料プランで全素材が利用可能。 | リアルタイムの同時編集、コメント、権限設定など基本的な機能が揃う。 | 無料プランあり。 有料プランは月額1,500円〜。 まずは無料で試しやすい。 | クラウド型。 一般的なスペックのPCでも軽快に動作する。 | 非常に高い。 豊富なテンプレートを基に、ノンデザイナーでも直感的に操作可能。 |
| Figma | 無料プランでも可能。 プランによる商用利用の制限はない。 | 同時編集、コメント、詳細な権限設定、バージョン管理など、チームでの厳密な管理機能が充実。 | 無料プランあり。 有料プランは月額2,250円〜。 機能は多いが無料で試せる。 | クラウド型。 ブラウザベースで動作し、複数人での作業もスムーズ。 | やや専門的。 デザイナー向けの機能が多いが、テンプレートが完成すれば編集は容易。 |
| Adobe Express | 無料プランでも可能。 有料プランでAdobeの高品質なフォントやストック素材が全て利用可能。 | コメント機能やライブラリ共有に対応。 複数人での同時編集は限定的。 | 無料プランあり。有料プランは月額1,078円〜。 Creative Cloudの一部プランにも含まれる。 | クラウド型。他のAdobe製品(Photoshopなど)との連携がスムーズ。 | 比較的高い。 Canvaと似た操作感で、ノンデザイナーでも扱いやすい。 |
各ツールの特徴と選び方のポイント
ここでは代表的な3つのツールの特徴と、それぞれどんなチームにおすすめかをご紹介します。
とにかく手軽に始めたいノンデザイナー中心のチームなら【Canva】
- おすすめのケース:
- 広告運用者などのノンデザイナーがクリエイティブ制作を兼任している場合
- ポイント:
- 圧倒的なテンプレート数と、パワーポイントのような直感的な操作性が最大の特徴。デザイン経験がなくても、質の高いクリエイティブを短時間で作成できます。まずは低コストで手軽に始めたい場合に最適です。
Adobe製品との連携や素材の質を重視するなら【Adobe Express】
- おすすめのケース:
- 普段からAdobe製品を利用しており、高品質な素材を使いたい場合
- ポイント
- PhotoshopやIllustratorなどAdobe Creative Cloud製品との連携がスムーズな点が強みです。Adobe Stockの素材やフォントを利用でき、ブランドイメージを保ったクリエイティブ制作に適しています。
デザイナー主導で制作効率を最大化したいなら【Figma】
- おすすめのケース:
- 専任デザイナーを中心に、拡張性の高いテンプレートを活用したい場合
- ポイント:
- CanvaやAdobe Expressのように、デフォルトでテンプレートは準備されていないため、ゼロからデザインテンプレートを作成する必要があります。1画面で複数のデザインを同時編集でき、大量制作と管理がしやすいです。
アナグラムでは、広告運用者がデザインを制作するケースが多いため、ノンデザイナーでも扱いやすいCanvaを利用するケースが多いです。
何を優先するか、どんな目的で導入するのかをはっきりさせることが、最適なツール選びの第一歩です。
STEP2:テンプレートを設計する
テンプレートの設計段階で十分な準備を行うことで、後々の運用をスムーズに進めることができます。以下のポイントを押さえて、効率的かつ柔軟性のあるテンプレートを設計しましょう。
必要なサイズを洗い出す
主要な出稿媒体で必要なバナーサイズをすべてリストアップし、制作の優先順位を決めます。
この作業を省略すると、後から「このサイズも必要だった」「作ったのに使われなかった」といったムダが発生しがちです。
まずは多くの媒体で使いやすいスクエアサイズから作り、成果が良かったデザインは他サイズへ展開するのがおすすめです。
媒体や商材のレギュレーションを確認する
媒体規定や業界ルール、ブランドガイドラインなどは、必ずテンプレート作成前に反映しておきましょう。
たとえば健康食品なら薬機法に基づく表現の制限、金融商品なら必須記載事項のスペース確保などが必要です。
これらを設計段階で組み込んでおかないと、完成後に「この表現はNGだった」と修正や作り直しが発生してしまいます。
汎用性を考慮したレイアウト設計にする
テンプレートは「どんな内容にも柔軟に対応できる構造」にしておくことが重要です。
テキストの増減に対応できる余白や、関連要素をまとめたグループ構成など、編集しやすい設計にしておかないと、少しの変更で全体が崩れ、結局毎回調整が必要になります。
- 余白の確保: テキスト量の変更に対応できる余裕のある設計
- 要素のグループ化: 関連する要素をグループ化し、一括で移動や調整ができるように
- 可変エリアの設定: 商品画像やテキストなど、差し替え頻度の高い要素を明確に区分
STEP3:運用ルールを決める
以下のポイントを事前に整えておくことで、テンプレートを効果的に運用できます。
データの命名規則を統一する
命名ルールを決めておかないと、テンプレートの数が増えた時に探すのが手間になったり、データ共有が煩雑になります。
誰が見ても内容が分かるよう、統一したルールを設定しましょう。
例えば、「タイトル_サイズ_日付」のように、要素を「_」(アンダースコア)で区切るルールを決めておくと、検索時に目的のデータが見つけやすくなります。
役割に応じた権限を設定する
役割に応じた適切な権限設定をしていないと、マスターデータが上書きされてしまい、デザインが崩れてしまう可能性があります。
データを直接編集するユーザー以外は、閲覧やコメントしかできないように設定し、誤操作を防げるようにしましょう。
デザイナーに相談できる体制を作る
テンプレートを使えば一定のクオリティは保てますが、デザイン制作に不慣れなノンデザイナーが活用する場合、
「想定よりテキストが長くなり、余白のバランスがおかしい…」
「差し替えた写真がデザインに馴染まない…」
といった違和感が生じることがあります。
そうしたときに迷わず相談できるよう、「困った時はデザイナーに最終チェックを依頼する」といった簡単なルールや、チャットでの相談フローを決めておくと安心です。
テンプレートの使用基準を明確にする
テンプレートは便利ですが、目的が大きく変わったのに無理に流用すると、広告効果が下がる恐れがあります。
「どのケースで既存テンプレートを使うか」「いつ新しく作るか」を明確にしておきましょう。
以下のような場合は、使用するテンプレートの見直しや新規作成をおすすめします。
- 訴求内容の変更
- ターゲットの変更
STEP4:テンプレートを活用する
設計・運用ルールを決めたテンプレートを、効果的に活用するためのポイントを紹介します。
素材は設計意図に沿ったものを選ぶ
たとえば、信頼感を重視したデザインに派手な色の素材を使ってしまうと、メッセージの一貫性が崩れ、訴求力が下がってしまいます。
そのため、訴求対象やデザインのコンセプトに合った、適切なコピーや画像、色と組み合わせましょう。
コピーはレイアウト前提で調整する
想定以上の文字数を無理に詰め込むと、可読性が低下しデザインも崩れてしまいます。テンプレートごとに最適な文字量を意識しながら、読みやすく配置しましょう。
もし、文字数が多すぎる場合は、表現を簡潔にしたり、改行位置を工夫するのが有効です。
「テンプレート化しない」という判断も重要
すべてのクリエイティブをテンプレート化すれば良い、というわけではありません。
ケースによっては、一からデザインしたほうが効果的な場合もあります。
- 継続性のない一度きりのキャンペーンやイベント
- 例: 創業10周年記念キャンペーン、季節限定の特別企画
- 理由: 一度しか使わない企画のためにテンプレートを作成するのは、かえって工数がかかり非効率。
- クリエイティブの「表現」自体を大きく変えて検証したい場合
- 例: 画像1枚のシンプルなデザインと、複数画像を使用したデザインのどちらが反応を得やすいか検証
- 理由: 全く新しい表現やデザインの方向性を試す場合、かえって発想が制限され、意図したデザインが作れない。
重要なのは、テンプレートを「作ること」自体が目的化しないことです。あくまで「成果を最大化するための仕組み」として、工数対効果を見極めながら活用しましょう。
まとめ
デザインテンプレートは、チームでクリエイティブの改善サイクルを速めるための、心強い味方です。ただ、頼りすぎると表現がマンネリ化するリスクもあるので、「テンプレートも日々改善していく」という意識で、柔軟に使うことが大切になります。
まずは、定期的に発生する制作物から少しずつテンプレート化を進め、効果を検証しながら適用範囲を広げていくのがおすすめです。
テンプレート活用で生まれた時間を、分析や戦略立案、新しいクリエイティブ開発に充てることで、運用型広告全体のパフォーマンスをさらに高めることができるでしょう。



