
あなたは、昨日見た広告を覚えていますか?
インターネットでは、SNS、YouTube、検索エンジンなどで、多くの広告が流れているのにもかかわらず、印象に残っている広告は少ないのではないでしょうか。
このように情報過多の現代で、印象に残る広告を届けるのは容易ではありません。
では、どうすれば広告がターゲットに「見てもらえる」ようになるのか?
その答えのひとつが、脳が自分に関連する情報に注意が惹かれることを表した心理特性「カクテルパーティー効果」の活用です。


目次
カクテルパーティー効果とは?
「選択的注意」で必要な情報を厳選する習性
賑やかなカフェで、会話を楽しんでいる最中、誰かが自分の名前を呼ぶと、突然その声がクリアに聞こえることがありますよね?
これは、人間の脳が「自分に関係がある情報」を優先的に処理し、それ以外の情報を遮断する性質を持っているために起こる現象です。
この選択的な注意の仕組みが、カクテルパーティのような場で多くみられることから、「カクテルパーティー効果」と呼ばれています。
認知心理学者のコリン・チェリーが1953年に行った研究では、次のような結果が示されています。
- 片方の耳に流れる音声に意識を集中するよう指示された被験者は、もう片方の耳から流れるほとんどの情報を聞き取れなかった
- その無意識の耳から「被験者の名前」が流れると、一瞬で注意がそちらに移った
つまり、人間は日常的に大量の情報に囲まれていても、自分に関連する情報だけを選び取る機能を持っているのです。
聴覚だけでなく、視覚にも応用可能
カクテルパーティー効果は聴覚だけでなく、視覚にも応用できることが、1994年の京都大学の研究によって示唆されています。多くの視覚情報が飛び交う状況下でも、特定の要素に注目しやすいという点で、同様のメカニズムが働いていると考えられます。
引用:科学研究費助成事業データベース - 課題番号 06851009
このことから、Webサイトや広告など、多くの情報が溢れる環境においても、カクテルパーティー効果を応用することで、ユーザーの注意を引きつけ、重要な情報を効果的に伝えることができると考えられます。
なぜ広告でカクテルパーティー効果が有効なのか?
カクテルパーティー効果とは、人間の脳が「自分に関係のある情報」を無意識に選び取る特性を持っていることを示しています。
では、この特性が広告にどのように関係し、なぜ重要なのでしょうか?
情報過多の時代、広告は埋もれやすい
Forbes誌の調査では、人が1日に目にする広告の数は約1万件に及ぶと報告されています。
参考:単に見られているかより、どのように見られているか。デジタル広告の成否を決めるアテンションの測定と指標
このように、現代のインターネットはまるでカクテルパーティー会場のように、多種多様な情報で溢れかえっている状態です。
広告もこの情報の波に埋もれてしまい、ターゲットの目に留まることなくスルーされる可能性が非常に高くなっています。
だからこそ、ターゲットが「自分ごと」として認識しやすい広告を作ることが、広告運用の成功につながるのです。
ただ目立つだけの広告は逆効果
広告が埋もれることを防ぐために、目立つデザインや強いメッセージを活用するケースもあります。しかし、こうした対策が逆効果になることも少なくありません。
株式会社リチカの調査によると、75.5%の調査対象者がインターネット広告に対して「鬱陶しい、邪魔、目障り」といったネガティブな印象を持っていることが明らかになっています。
参考:世の中のCM・広告は「見たくない」、見たいという人の3倍近く。どんな広告なら許せる?【リチカ調べ】
特に、広告が嫌われる理由の第1位は、「自分には興味のない情報だから」(74.1%)という結果が出ています。
つまり、広告が目立つこと自体が問題なのではなく、「目立った結果、関係のない人の目にも入ってしまい、興味のない情報を押し付けられる不快感を与えている」ことが、広告が嫌われる最大の原因になっているのです。
「自分に関係のある情報だ」と思ってもらおう
では、どうすれば広告が「見られない」問題を解決しながらも、「嫌われる」ことを避けることができるのか?
その答えのひとつが、「カクテルパーティー効果」を活用したアプローチです。
ターゲットが「これは自分に関係のある情報だ」と認識すれば、広告はスルーされにくくなるだけでなく、嫌悪感を抱かれるリスクも低減します。
カクテルパーティー効果を活用した広告の作り方
カクテルパーティー効果を活かした広告を作るためには、以下の3つのステップが重要です。
1. 広告のターゲットを明確にする
広告がターゲットに届き、心に響くためには、「誰に向けた広告なのか?」を明確にすることが最も重要です。
ターゲットが異なれば、伝えるべきメッセージも変わる
例えば、パーソナルジムの広告を考えた場合、次のようにターゲットが異なれば伝えるメッセージも変わりますよね。
- 運動習慣のある20代男性:「筋肉をつけて理想の体型を手に入れたい」
- 運動を始めたい50代女性:「膝の痛みを和らげ、健康的に運動を続けたい」
したがって、今回の広告で最も効果的な訴求ができるターゲット顧客層を絞り込んで考えることが、成功への第一歩となります。
2. ターゲットが自分ごとと感じる言葉を洗い出す
ターゲットを明確にできたら、次はそのターゲットにまつわる言葉を洗い出します。
その際は下記から考えるとよいです。
- 属性情報: 名前(ニックネーム)、居住地、性別、年齢、職業、家族構成など
- 特徴: 性格、価値観、ライフスタイル、興味関心、趣味嗜好など
- 所属コミュニティ: 参加している団体、SNSグループ、オンラインフォーラムなど
- 好きなこと: よく利用するサービス、よく読む雑誌、よく見るテレビ番組など
- 悩み: 現在抱えている問題、不満、願望、不安、コンプレックスなど
- 理想の姿: 達成したい目標、憧れのライフスタイル、克服したい課題など
ターゲットが「膝の痛みを和らげながら運動を続けたい50代女性」であれば、以下のように整理できます。
- 属性:○○(地域名)にお住まいの50代の女性の方
- 悩み:歩くと膝が痛く、その痛みを解消したい
- 理想の姿:楽しく運動を続け、健康な体つくりをしたい
ターゲットにとって「自分ごと」と感じる言葉を見つけることで、広告がより響くものになります。
これらのキーワードを洗い出す方法としては、以下のようなアプローチが有効です。
- 既存顧客や見込み顧客への調査: 実際にターゲット顧客層にインタビューやアンケート調査を行ったり、CRMのデータを分析することで、リアルな声やデータを収集する。
- ネット上の調査の活用:ネット上の調査レポート、口コミの活用や、ソーシャルリスニングを行う。
- 生成AIの活用: ChatGPTやGeminiなど生成AIツールを用いて、ターゲット顧客層に関する様々なアイデアやキーワードを生成する。
3. シンプルなコピーにまとめる
上記で洗い出したキーワードを基に、シンプルかつターゲット顧客の心に響く広告コピーを作成します。なぜなら、人間の脳は1度に多くの情報を処理できないため、シンプルなコピーの方が認知負荷を軽減し、記憶に残りやすいからです。
例えば、
- 「○○にお住まいの50代の女性で、運動習慣が続かなくて、楽しく運動を続けたいあなたへ」
- 「歩くと膝が痛いあなたへ」
という2つのコピーを比較した場合、後者の方がよりシンプルで、ターゲット顧客の注意を引きやすいと考えられます。
伝えたい情報が多くなりがちですが、カクテルパーティー効果を最大限に発揮させるためには、注意を惹くキャッチコピーはできる限り1つのキーワードに絞り込むことが重要です。
広告クリエイティブの具体例
ここからは実際に広告クリエイティブに反映する際のイメージを、分類ごとに紹介します。
属性情報や特徴を絞り込む
年齢、性別、地域、職業、特徴、好きなことなどで呼びかけることで、自分事化してもらいやすくなります。
テキストに直接記載するほか、属性のあった人物の写真やイラストを用いるなども重要です。
ターゲットが抱えている悩みや理想を具体的に示す
顧客が感じている悩みや、理想の姿をクリエイティブに表現することで、自分事化してもらいやすくなります。
心理描写なので、テキストや写真、イラストからも感情を呼び起こす具体的なシーンを表現することも重要です。下記の例では、1つ目のクリエイティブではイラストで、2つ目のクリエイティブでは、テキストでシーンを表現しています。
このようにカクテルパーティー効果を用いた広告では、冒頭に「自分事化できるコピー」を伝え、注意を惹いたうえで、具体的な訴求を行うのがポイントです。
今回はバナー広告での事例になりましたが、動画広告やリスティング広告でも同様に、冒頭で「あなたに向けた広告」であることを伝えることは重要です。
カクテルパーティー効果を活用する際の注意点
カクテルパーティー効果は広告効果を高める強力な手段ですが、活用する際にはいくつかの注意点があります。
過度に個人情報を用いたパーソナライズは避ける
自分事化するために、情報を収集したことで、顧客情報を用いた
例えば、「〇〇銀行の住宅ローンをご利用中ですね。借り換えで金利を下げませんか?」や「検索エンジンで〇〇(キーワード)と検索されましたね。お探しの情報はこちらにあります。」といった表現は、一見顧客の注意を惹くように見えます。しかし、過度に個人情報に踏み込んだ表現は、プライバシーへの侵害を感じさせ、「監視されている」という不快感や不安感を与える可能性があります。
特に近年、個人情報保護への意識が高まっているため、企業が顧客情報をどこまで把握しているのか、どのように活用しているのかについて、顧客は敏感になっています。過剰なパーソナライズは、信頼関係を損ない、逆効果になることを意識しましょう。
強すぎる不安や恐怖の訴求は避ける
強すぎる不安や恐怖を訴求するコピーにも注意が必要です。
人間の脳は生存本能から、危険や脅威に関する情報に強く反応し、注意を向けやすい傾向があります。しかし、過度な不安や恐怖を煽るような表現は、一時的な注目を集める効果があるかもしれませんが、長期的にはブランドイメージを損なうリスクがあります。
例えば、「外食が多い方、健康リスクが高いです」「貯金がない方、将来こんな生活が待っています」といった脅迫的な表現を用いることは、顧客に強いストレスを与え、不快感を抱かせます。
このようなネガティブな訴求は、一時的に商品の購買に繋がるかもしれませんが、顧客はブランドに対して不信感を抱き、長期的な関係性を築くことが難しくなります。カクテルパーティー効果を活かすためには、不安や恐怖を煽るのではなく、顧客の課題やニーズに寄り添い、解決策や希望を提供するポジティブなメッセージを心がけましょう。
商品・サービスの特性や広告の目的によって使い分ける
カクテルパーティー効果は非常に有効な手法ですが、全ての商品の広告で効果を発揮するとは限りません。例えば、下記のような場合は、カクテルパーティー効果が得づらいでしょう。
明確なターゲットが存在しない商品
一般的な日用品など、商品のターゲットが広すぎる場合は、自分事化しずらくなります。誰もが使うティッシュを、「若者向けのティッシュ」と伝えても、誰にでも当てはまってしまうメッセージのため、埋没してしまうでしょう。
一方で、幼少期の子どもを持つ親向けの教育玩具や、広告運用者専門の転職サイトなど、ターゲット層が明確な商品の場合は、カクテルパーティー効果は有効です。
分かりやすい独自の強みを持つ商品
商品が分かりやすい独自の強みを持つ場合は、敢えてカクテルパーティー効果を用いなくても、顧客の注意を惹くことができます。
例えば商品が「1日に必要な栄養全部入りのご飯」の場合は、あえて「健康になりたい人」と言わなくても、健康になりたい人の注意を惹くことができるでしょう。
同様にブランド力のある商品の場合も、ブランド名を伝えた方が分かりやすい場合もあります。「安くて高品質の服を着たい人!」と伝えるより、「ユニクロが開発した新商品」と伝えた方が、注意を惹けるでしょう。
このようにカクテルパーティー効果は商品によって、効果が出やすい場合とそうでない場合があるため、商品の特性、ターゲット層、広告の目的などを総合的に考慮した上で、最適なアプローチを選択することが重要です。
まとめ
情報過多な社会で広告に目を留めてもらうには、カクテルパーティー効果を活用し、顧客に広告を自分事化してもらうことは非常に重要です。
そのためにもまずは、ターゲットを明確にし、ターゲットに響く言葉を選び、顧客が自分事化できるコピーを考えてみるとよいでしょう。
本記事で説明した手順やクリエイティブ事例を参考にすれば、速やかにカクテルパーティー効果を活用した広告を作成できると思うので、ぜひ活用してみてください。
